岡山の山登り@FF山岳部

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逆風満帆 登山家 竹内洋岳[上]

2009年10月26日 | 山の情報
[ ローツェには欧州の3人と登った。左からデービッド、ガリンダ、ラルフ=09年5月、竹内さん提供 ]


<当記事は、2009年10月24日 朝日新聞 be on Saturday の記事を転載したものです>


逆風満帆 登山家 竹内洋岳 [上]


8千メートル峰全山制覇に肉薄


 「ゼー」「ハー」
 標高8400メートルを超えると、胸を刺すような痛みが襲ってきた。酸素ボンベはない。足を一歩踏み出すたびに深呼吸を繰り返す。
 ネパール・ヒマラヤの東部にそびえるローツェ(8516メートル)の頂上直下。世界最高峰エベレスト(8848メートル)と峰続きになっている世界第4位の高峰だ。
 現地時間の5月20日午後1時55分、竹内洋岳(38)は山頂に立った。切り立った雪の斜面の一角。晴れていたが、酷寒の風が体を刺す。数分で頂上を後にし、40メートル下の風裏で衛星電話を取り出した。
 「先ほど、登頂に、成功しました。今回は、(高度への)順応が、うまくいかず、苦労しました」。あえぐような息づかいで、東京の事務所に朗報を伝えた。
 8千メートル峰は世界に14座ある。そのすべてに登頂した日本人はゼロ。世界でも18人しかいない(20日現在)。竹内はローツェで12座を制し、日本記録を更新した。
 8千メートルを超す高所は「死の地帯」と呼ばれる。酸素は平地の3分の1。天候次第で烈風や超低温が容赦なく襲う。「14座完登」は、最低でも14回、死の地帯にある頂に立ち、14回生きて還ることを意味する。6千メートル未満の山々を含む「7大陸最高峰制覇」とは、危険度の上で比較にならない。
 「下山すると、いつも「ああもう終わりか」とさびしくなる。それほど山登りが好きなんですよ」
 10月13日夜、東京都内であった竹内は、はにかむような笑顔を見せた。身長180センチ、63キロ。ぜい肉をそぎ落としたマラソンランナーのようなアスリート体形で、屈強なイメージはない。
 竹内は酸素ボンベを持たず、荷揚げのためのシェルパも雇わない。自らテントをかつぎ、速攻で頂上を狙う。先鋭的な登山家たちは今、単に登頂するというだけでなく、より困難な登り方を追及しているのだ。
 「登山は審判のいないスポーツ。自分でルールを課さないと。仕事とはいえ、シェルパを危険な場所に連れてゆくのもいやだ」
 そんな竹内も、当初のマカルー(8463メートル)、エベレスト、K2(8611メートル)では酸素ボンベを使った。いずれも日本隊の一員だった。組織の成果を最優先する日本隊では、無酸素で登るという選択はなかった。4座目に登頂以来、常に国際隊で挑んでいる。
 ローツェには、欧州の登山家3人と登った。盟友のラルフ・トゥイモビッツ(48)と、その妻ガリンダ・カールセンブラウナー(38)、カメラマンのデービッド・ゴードウラー(31)。ラルフと登ったのは7座を数える。互いにファーストネームで呼び合い、全員で頂上を目指すスタイルが気に入っている。「英語は得意ではないけれど、ロープを手渡しただけでお互いの役割を理解し合えるんです」


日本登山界の「呪縛」

 日本人のエベレスト初登頂者の植村直己が、北米最高峰マッキンリー(6194メートル)で遭難してから今年で25年。その間、勇名をはせた日本人登山家もいたが、多くは植村同様、銀嶺に消えていった。14座完登をめぐっては、日本人登山家にはジンクスがあるとさえ言われる。「10座の壁」だ。
 8千メートル峰9座に延べ12回登頂し、「最強のヒマラヤニスト」呼ばれた山田昇は89年冬、マッキンリーで遭難。10座目に挑戦する前に39歳で亡くなった。
 04年には、山田の意思を継ぎ、やはり9座に登頂した名塚秀二(当時49)が、10座目をめざしたアンナプルナ(8091メートル)で雪崩に巻き込まれて逝った。
 山田と名塚を育てた群馬県山岳連名副会長の八木圀明(62)は「14座制覇は日本登山界の呪縛。韓国人が達成して「アジア初」という記録も消えたが、誰かがこの呪縛を解かねばならない。やっと竹内君が10座を超え、手が届くまでになった」と期待している。
 竹内は95年にマカルーを登って以来、順調に記録を伸ばした。
 「7座を登ったとき、「なんだ、これをもう1回やれば完登か」と思った。でも、9座目くらいから、14座を全部登る厳しさをひしひしと感じるようになった」
 そしてやはり、「10座の壁」は待っていた。2年前の夏、「死の淵」をのぞくことになる。
=敬称略(近藤幸夫)


たけうち・ひろたか
71年、東京生まれ。
ICIい強いスポーツ所属。
日本人初となる8千メートル峰14座の全山制覇をめざす。
96年にエベレスト、K2に連続登頂。
今春ローツェに登り、あと2座に迫る。
家族は妻と2男。


<当記事は、2009年10月24日 朝日新聞 be on Saturday の記事を転載したものです>


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「個人的感想文」

この「逆風満帆・・・」は、毎週土曜日に朝日新聞の土曜版(be on Suaturday)に掲載されているもので、各界著名人の生き様(?)を、上・中・下と3週連載で紹介してくれるもの。
時にこのような、個人的趣味ど真ん中の方も出てくることがあり、楽しみにしているコーナーの一つ。

いわゆる高所・超高所と言われる所へ向けての登山は、こと日本においては、なかなかその実績ほどに、知名度や評価が上がっていないのが現状で、今回の竹内氏も、登山の世界ではとても有名な方なのだが、一般社会においてのそれは言わずもがな、というところ。
竹内氏の隊構成が、日本産のものから混成に変わっていったのにも、そのような一面が無関係とも言えないのではないだろうか。
成果を求められ、その為に、本意ではない選択肢へと行動が傾いてしまう。
どの選択肢が正解というのではなく、生と死の境を歩くような場面が求められる時、自分が本当と思うことを忠実に出来なくなってしまう、とても恐いことに感じる。

文中、特に思いを感じるのが「登山は審判のいないスポーツ。自分でルールを課さないと。」という一文。
というのも、私も山に登るものとして(この竹内氏とは比較にならない稚拙なレベルなのだが・・・)同じようなことを考えることがあるから。
以前、山の友人ともこんな内容の話を長々とした覚えがある。
昨今、色々なところで自己責任と言われるが、まさにずばりと当てはまる言葉ではないだろうか。

含みを持たせ、次週への導入となり、次週が待ち遠しい。
また忘れずに更新したいと思います。

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