野球小僧

こちら葛飾区亀有公園前派出所 / 秋本治

マンガ界の「連続試合フルイニング出場」とでも言えるでしょう。少年マンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1976年から40年にわたって一度の休載もなく連載を続け、世代を超えて親しまれた「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(こち亀)が今日17日に発売される最新号をもって連載を終えました。
連載初回から読み続けていた私にとっては、「あまちゃん」以来の衝撃です。ただ、個人的には「ゴルゴ13」が終わったときの方がはるかに衝撃が大きそうですが。

長期間の連載ではこち亀よりも前から連載してるマンガはありますが、40年間一度も休載がないということでは、今後もこの記録は破られないでしょう。

40年間、連載を続けられた秘訣は、読者も楽しませてもらったのですが、作者の秋本治さんも楽しんで描いたからではないかと思います。やっぱり、好きなことをやっていて、「辛い」と思ったらダメなのでしょうね。まあ、会社は楽しむところでも何でもないので、休んでしまうのでしょうけど。

何といっても話しのネタが豊富であり、身近な話から社会的な話、遊びや流行などを取り入れていますので、並行して歳を重ねてきた方や中高生などの若い年代であっても、昔の話を読み返しても「懐かしい」「こんな時代だった」というような歴史的な一冊でもあります。例えば、40年前にはなかった、携帯電話・スマートフォンの出だしから、それ以前に流行ったポケベルやパソコン・インターネットの出だしから普及までの変化などもよく判ります。この辺は、連載開始時にはスマホがなかったのに、いつの間にか当たり前のように使っているコナンくんの世界と同じです(何のことか)。何が言いたいかと言えば、40年の歴史が詰まったマンガです。その中でも、このマンガの中で一番の社会的事件と言えば「派出所」が「交番」へと名称を変えたことでしょう。今でも日本のごく一部、例えば鳥取県警管轄内に派出所が残っています。そんな歴史の荒波にも耐えてきたのです。

さて、そんな多くの話のある、こち亀ですが作者の秋本さんは59巻に収録された「おばけ煙突が消えた日」の話が一番のお気に入りだそうです。この話はファンの間でも人気のある話です。

これは主人公・両津勘吉の少年時代が描かれた話で、勘吉少年、悪友の珍吉と豚平、そして臨時教師としてやって来た若い女性教師・佐伯羊子との、ふれあいと別れが描かれています。少年時代の年上の女性に対する淡い恋心と、お別れのメッセージを送ろうとした千住火力発電所のお化け煙突が操業を止めて、消えるようになくなったことを描いた話です。

他にも、勘吉少年の時代の「不忍池の思い出」「飛べ友情の翼」「勝鬨橋ひらけ!」「浅草七ツ星物語」「遠い放課後」などなどはどれも感動的です。

中でも私のイチオシは「霧の中のアリア(194巻)」です。

大人になった勘吉、珍吉と豚平の幼なじみ3人でお酒を飲んでいて、小学生の頃に秘密基地作った話で盛り上がります。
後日、何かを思い出したということで、仲見世通りの人形焼の店先で話し込む3人組。

「アリアって子じゃないか。でも卒業アルバムを探しても載ってない。綺麗な子だったよなぁ」

勘吉はアリアの家に行った記憶を辿って行きます。隅田公園の先の高い塀の中、たくさん物があって長屋のようだ・・・お店の主人が「蟻の町」のことでは?と教えてくれます。
蟻の町は戦後の隅田公園のあたりにあった町。今はその場所に行っても手がかりも何もない。でも、諦めず聞き込みをする勘吉。

蟻の町とは、戦後、生活のために廃品回収をして生活をする人が多かったのだが、買い叩きがひどいため、なかなか貧困から抜け出せない状態だったそうです。そこで正当な報酬を得るために、元製材工場があった場所に廃品業者が集まり共同で事業を行っていたのが蟻の町(正式名称は蟻の会)だと教えてもらう。その中で生活をしていたアリアだったと判ります。

当時、蟻の町に住んでいたおじいさんに話を聞くと、アリアのことをよく覚えており、そこでアリアの正体が判りました。アリアの本当の名前はアリナ。小さい子たちからアリアと呼ばれ、本人もアリアと名乗っていました。勘吉が亡くなったお兄さんにそっくり(これはよくあるパターン)だったというのです。その後、蟻の町は東京都から立ち退き命令が出て、何もない東京都8号埋立地へ移転し、アリアの行方は判らなくなってしまいます。

そして、現在。8号埋立地へ向かう3人組。現在は江東区の潮見。その場所には立ち退き後に移転した蟻の町の教会があるだけでした。

廃品回収は廃品を入手できなくては成り立たない。移転した8号埋立地は人口の多い市街地から遠く、実際の業務には不向きであった。また、やがて高度経済成長の流れの中で他の活計を見出すなど、蟻の町も徐々にその構成人員を減少させていった。

あちこち歩き回った後、目についたご飯屋さんでご飯を食べることに。

「人から物を恵んでもらうのではなく、自立したい人が集まった蟻の町。蟻のように仲良く助けあい、自分たちの力であの場所に共同住宅を建てて住もうとしていた」
「実際に10年計画で頑張っていたのに、東京都の立ち退き命令…。東京オリンピック開催の都合で撤去したかったのかな、腹が立つ」
「わしがもっと蟻の町をしっていれば…力になってあげられなかったのがくやしい!!」

そこへお店のおかみさんから勘吉にビールが置かれます。

「店のサービスです」

と微笑むおかみさん・・・

というようなお話です。いや、書いているだけで涙が・・・

こち亀が終わってしまったことは残念ですが、こち亀に教えられたこと、笑わせてもらったこと、泣かされたこと、これらはいつまでも自分の心の中に残ることでしょう。
私が読んでいるこち亀を息子たちが読み、息子たちが読んでいたこち亀を、いつかその子どもたちが読む。

「あの時は、〇〇だった」とか教えてあげられる日がいつか来ると思うと、またその時が楽しみでもあります。

楽しい作品をありがとうございました。


コメント一覧

まっくろくろすけ
eco坊主さん、こんばんは。
NHKの全国ニュースでも報道されるくらいの出来事なんですね。たかがマンガというか、何と言うか。でも、日本は平和だって言うこともありますね。

女性キャラの使い方が上手く、ある意味寅さんに似通った部分もあったようにも思います。

まだ、最終話は読んでいません。
この最終話を読んでしまうと、私の中でも最終回を迎えそうな気もするので…
eco坊主
おはようございます(*Ü*)ノ"☀

いつくるかいつくるかと心待ちにしていましたよ、このネタ!
私もネットニュースで知ったときは(まっくろくろすけさんほど傾注してはいませんが)ショックを受けたのを覚えています。

最近は読んでないのですが(山止たつひこ時代も勿論知っています)確かに身近な話から社会的な話、遊びや流行などが取り入れていますので面白かったですね。
それに個性豊かな登場人物たち・・
中川圭一・秋本カトリーヌ麗子・大原大次郎・寺井洋一のレギュラー陣に本田速人・日暮熟睡男・ボルボ西郷・爆竜大佐にその娘ジョディーなど不定期登場人物も魅力いっぱいでしたね。多くは書ききれませんが・・(笑)
磯鷲早矢が出てきた時には胸キュンでした。(笑)
朝倉南ちゃんと双璧でした!!!
擬宝珠纏も御堂春も好きだったなぁ~

香取慎吾さんの実写版も賛否あったけど面白かったと思います。
SMAP解散(香取さん芸能界引退か!?)と言われている年の連載終了は・・・なんだかなぁと思ってしまいます。

楽しい作品をありがとうございました。me too!
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