建築家との住まいづくりレシピ館from/for 館長ブログ

建築家との家づくりをお考えの方、自分なりの家づくりを求める方、フロムフォー(掛川市)では建築家との橋渡しします。

第5回「ライフスタイル・リノベーション」(ゲスト:建築家 村松篤さん)

2012年06月04日 | ライフスタイル・リノベーション

■「ライフスタイル・リノベーション」とは
震災以降、一人一人の生き方や暮らし方が問われている今、では日々の暮らしの器である住まいはどうあるべきか。生活を変えようという生活者に対して、設計、デザイン、住宅設備等について、いま専門家たちは何を考え、何を語るのか――。
この「ライフスタイル・リノベーション」では、地域の建築家8名に出演いただき、全8回(1月~8月)にわたり「生活をデザインする」を考えます。

住まいづくりを検討している方、
近隣の建築家を知りたい方、
建築家との住まいづくりはどんな感じだろうと思っている方、
ぜひ足を運んでみてください。
(このブログでも8回にわたりレポートします)
※「ライフスタイル・リノベーション」はフロムフォーとTOTOのコラボレーション企画です。

    

■5/26(土)第5回目の建築家は村松篤さん(浜松市在住)
第5回のゲストは、有限会社村松篤設計事務所を主宰する村松篤さんです。「建主との想いを共有した家づくり―予算を考慮しながら質の高い家を目指す―」と題した講演をいただきました。
村松さんの語る「住むほどに愛着の湧く家」がどのように作られていくのか、そのプロセスが垣間見えるようなお話でした。じっくりとお楽しみ下さい。

■どうして設計の仕事をはじめたのか?
簡単に自己紹介しますと、地元の工務店とOMソーラー協会勤務の後、16年前に独立し、112棟の建築を手がけています。ずっと設計の仕事に携わり、会社員時代も入れると35年で540棟、ほとんどが住宅の設計です。

このセミナーでは、参加者の方から「どうして設計の仕事をはじめたのか?」という質問がありますが、私の場合は浜松工業高校建築課の卒業設計がきっかけだったように思います。浜工では、課題テーマを自分で決めるのですが、私は何となくホテルを選びました。そのとき図書館で借りた「新建築」という雑誌に「ホテルフジタ」のプランがあり、その図面に仰天しました。間取りだけでなく、ソファーやスタンドなどの小物に至るまで様々なものに無駄がなく、「これしかない」というプランだったのです。このとき、設計の面白さとともに奥深さを感じ、「設計で飯を食っていけたらいいな」と思うようになりました。と同時に、ホテルのような高級感あふれる建築よりも、日常に即したものに自分は魅力を感じることも実感しました。

   

■影響を受けた建築家たち
それから社会に出て、様々な本を読み、建築を見ました。私は大学を出ていないので、日常の仕事の中で設計というものに関わってきたし、影響を与えてくれた建築家と出会ってきました。大学の授業で与えられるように出会うのではなく、自分で勉強していく中で出会えたのは幸せなことだと思っています。
順番に影響を受けた建築家を紹介していきますね。

①吉村順三
軽井沢の山荘は、三回訪れました。7.2×7.2の正方形、広さはたった16坪、32畳の建築です。この中に3LDKと水周りが収まっています。せまいのに広く感じます。プランを改めて見て、「魔法じゃないか」と思いました。

②奥村昭雄
星野山荘のポット式石油ストーブを利用した床暖房システムが、そのままOMソーラーへとつながっています。三分の二くらいの熱が逃げていることを計測した奥村は、何とか活かせないかと考案したといいます。今もお付き合いいただいています。

③村松藤吾
数寄屋建築の都ホテル佳水園は、薄い、軽い、細い、それでいて柔らかいという印象です。そして、幾重にも折り重なるような設計になのに、くどくないのが特徴的です。

④F.L.ライト
1936年のカウフマン邸(落水荘)は不思議な建築で、たくさんの要素があるのに破綻がない。自然と溶け込んでいて、流れるような印象です。
実際、この建築を見に行きましたが、建築は写真や模型ではなく、その場で感じることが大事だと改めて実感しました。その場に立って、建築家が何を訴えたかったのか考えること。音、匂い、空気感みたいなものは、行ってみなければわかりません。実際、この建築は音を巧みに建築に盛り込んだと感じました。

⑤ル・コルビュジエ
サヴォア邸は、80年前の建築ですが衝撃的でした。写真だとただの無機質な白い箱のように見えますが、実際に行くと無機質な感じはなく、上へ上へといざなうスロープが素晴らしいと感じました。

⑥アルヴァ・アールト
パリ近郊の住宅「Maison Louis Carre」は、「広大な敷地のどこに建てるのか」からスタートしている建築です。大きな家は破綻しやすいのに破綻がない。すごいと思いました。シンプルな屋根と流れるような空間があり、土地の傾斜を利用して、無理なく全体を構成しています。

こうした建築家との出会いが、今の私の設計思想に大きな影響を与えています。

    

■場のポテンシャル(潜在能力)を最大限に活かす
OMソーラーの仕事を通じて全国に行きました。まさか自分が北海道の家を設計するとは思ってもみませんでした。自分がその土地に行き、全国の工務店の方々と接する中で、その土地の気候だけでなく、厳しさ、大らかさ、温かさといった地域性や地域ならではのルールを大事にすることがいかに大事かを実感しました。

例えばそれは、浜松という温暖な土地でも同じことがいえます。浜松は全国的にも日照時間が長いのが特徴ですが、その陽の光をどう活かすのか。降水量が多いときの雨をどう活かすのか。また、遠州のからっ風といわれるように西風が強いのも特徴ですが、冬はその風をどう遮るのか、夏はその風をどう取り込むのか、そういうことを考えるのが必要だということです。

場のポテンシャル(潜在能力)を最大限に活かすことの大切さを、日本各地の建築に携わることで、また地元の工務店の方々と仕事をご一緒することで、改めて感じたように思います。

震災の前後に関わりなく、光を感じ、風の流れを感じ、雨の音に親しむそんな自然と共存した家、そのご家族にとって唯一無二の家を実現したいと考えています。

     

■私の建築手法
01.美しい屋根をつくる
自然に逆らわない形にしたい

02.雨を考え、くぼみをつくる
雨の日でも開けられる窓をつくる

03.暮らしを楽しむ
軒内空間、外でも安心できる空間をつくる

04.光をコントロールする
影を考える

05.周辺環境を読み込んだ風の道をつくる
欄間などの高窓、地窓で工夫する

06.将来の変化にも対応できる可変性のある家、構造体をつくる

07.換気を促すためのチムニーをつくる
風がない日でも風が流れる

08.穏やかな階段をつくる
上と下を隔てない、上下の一体化を考慮する

09.心地よく暮らすためのたまりをつくる
たとえば、リビングのソファーやデッキなど

10.広く見せるためのプランをつくる
大きい家がいい家ではない

■建築家との住まいづくり(セミナーの発言から村松さんの建築に対する言葉を拾います)
○まず敷地を読むこと。敷地を読むとは、周辺環境、生活動線、未来想定、測量、そうした全てが大切です。

○外からどう見えるかより、内からどう見えるかを重視します。

○好みを読むこと。今あるものの何を捨て、何を残すのか、考えていただきます。

○暮らしを読むこと。一日の平均的な生活パターンを記入してもらい、行動をひもときます。

○要望をすべて聞くと破綻するので、何が大事か優先順位を考えていきます。

○お施主さんからのヒアリングをみっちしりますので(笑)、基本設計に3ヶ月はかかります。施工会社の見積りには開きがあることが多いので、きちっとできるところ、なおかつ安いところを選びます。この差で設計報酬が出てしまうことも多いですね。

○スタート時からスタッフが張り付き、様々な点でチェックします。要所要所で施主さんにも確認してもらいます。

   

■建築家と出会う場を見つける
○先ほどから申し上げているように、建築は実際のものを見ることが大切です。気になった家があったら、個人ではなかなか行けなくても、フロムフォーのようなところに相談してぜひ見に行ってください。建築は見ないとわかりません。

○最近の業界情報として「地域型住宅ブランド化事業」というのがあり、120万円の補助金が出る制度があります。地元の材や地元工務店を使うなどいくつか応募要件ありますが、これはいつも我々がやっていることです。そうした補助金があることを、ぜひ頭の片隅に入れておいて下さい。

○要望を形にするだけが、我々の仕事ではありません。そこに付加価値をつけ、新たな魅力を加えてひとつのものとして提案することが建築家です。プロとして恥ずかしくないものをつくっていきたいですね。

○実際に建築家に会うことです。それぞれに特徴もありますし、フィーリングもあります。合った人に頼むのが理想ですし、きっちり噛み合うことが大切です。そのために、フロムフォーのようなところが存在していますからね(笑)。


【次回予定】
次回(第6回)「ライフスタイル・リノベーション」は、6月30日(土)13:30~15:30に開催します。ゲストは浜松市在住の建築家藤田昌弘さん。テーマは「思いやる心の家づくり―施主直営・分離発注―」です。どうぞお楽しみに!

【参加ご希望の方】
「ライフスタイル・リノベーションプロジェクト事務局」までご連絡下さい。
TOTO株式会社 浜松営業所内/担当:山本
kazuhiro.yamamoto@jp.toto.com
053-465-1010