建築家との住まいづくりレシピ館from/for 館長ブログ

建築家との家づくりをお考えの方、自分なりの家づくりを求める方、フロムフォー(掛川市)では建築家との橋渡しします。

第8回「ライフスタイル・リノベーション」(ゲスト:建築家 小澤義一さん)

2012年09月06日 | ライフスタイル・リノベーション

■「ライフスタイル・リノベーション」とは
震災以降、一人一人の生き方や暮らし方が問われている今、では日々の暮らしの器である住まいはどうあるべきか。生活を変えようという生活者に対して、設計、デザイン、住宅設備等について、いま専門家たちは何を考え、何を語るのか――。
この「ライフスタイル・リノベーション」では、地域の建築家8名に出演いただき、全8回(1月~8月)にわたり「生活をデザインする」を考えます。

住まいづくりを検討している方、
近隣の建築家を知りたい方、
建築家との住まいづくりはどんな感じだろうと思っている方、
ぜひ足を運んでみてください。

※「ライフスタイル・リノベーション」はfrom/for(フロムフォー)とTOTOのコラボレーション企画です。このブログでも、8回にわたりレポートしています。

   

■8/25(土)第8回【最終回】の建築家は小澤義一さん(掛川市在住)
最終回となる第8回目のゲストは、有限会社小澤建築設計事務所 所長の小澤義一さんです。店舗兼自宅を17年前に増築された施主の林さんご夫婦にもご登場いただき、「施主とともに住まいづくりを語る―生活とともにある建築―」をテーマに語っていただきました。司会進行は、株式会社川島組の松浦昭満さんです。

「施主とともに住まいづくりを語る―生活とともにある建築―」

出演者:小澤義一さん(建築家)、林さんご夫妻(施主)、松浦さん(司会、「建築が語る~トーキングアーキテクチャー~」主催者)

●住まい手がその家で暮らす姿をイメージする
松浦 はじめに、林さんのお宅のリノベーション概要について説明をお願いします。

小澤 林さんのお宅は、写真館の店舗とスタジオ兼自宅の建築で、鉄骨2階建て、ペントハウスと屋上のある建物です。スタジオがあり、小さな店舗があり、ご両親と一緒の生活の場もあり、そうした店舗兼自宅の空間を増築したいというお話でした。
私の建築は、住み手がその家に暮らすイメージを高めることから始めます。この二人がその家で暮らしている姿や、その家から出てくる姿をイメージしてデザインしていきます。打ち合わせを重ね、この人たちを知り、どんな生活をしたいか一緒に考えていくことで「家」というものを考えていきます。まあ、時間はかかりますね(笑)。

松浦 設計事務所に頼むというのは「敷居が高い」という印象がありますが、林さんはどういう経緯で小澤さんに設計をお願いしたんですか?

 17年程前というと、同世代の友人たちが次々と家を新築していた時期でした。引越しの手伝いや、新居を見に行ったりする機会が増える中で、1軒だけ他の家と違う「いいなあ」と思える雰囲気の家がありました。それが、小澤さんの設計した家でした。
ちょうど、自宅に自分たちのスペースがほしいなと思っていた頃だったので、小澤さんに頼みたいなと思いました。年回りを見ると「今年しかない」ということで(笑)、すぐにお願いに行きました。

松浦 「いいな」と思ったそのお宅は、小澤さんのハトコの方の家で、そこの奥さんが林さんの奥さんと友だちだったということですね。

小澤 建築は縁ですね。縁でつながっているというのを感じますね。

●建築は時間が経つほどに良くなるもの
松浦 では、実際にどんな建築になったのかご紹介下さい。

小澤 林邸のある場所は、掛川の歴史ある通りで、旧東海道の七曲りといわれるところにあります。まちなかですが、建物の北側の景色がきれいなので、景観や歴史を活かした家を建てたいと思いました。
建物自体は、この奥さんの雰囲気に合っている家ですね(笑)。ちょっと洒落た洋風ですが、木の質感と漆喰が“和の感じ”を出している建築です。

室内はスタジオが一段高いところにあるので、スキップフロアにして、中段層の階段を付けて仕切りました。今、スキップフロアはわりと流行りですが、17年前はまだあまりなかったですね。上下の空間が面白くなったと思いますよ。先日もおじゃましましたが、ますます「いい空間」になっていました。

松浦 経年変化を感じられる家ですね。

小澤 建築は、時間が経つほど良くならなければいけないものだと思っています。

 本当に、小澤さんにお願いしてよかったと思います(笑)。

小澤 この奥さんは料理が上手なので、ときどき私も楽しませてもらっているのですが、ゆったりできる空間ですよ。時間の感覚がなくなり、すぐ午前様になってしまう(笑)。普段、飲めない人が飲んで酔っ払ってしまうくらい、リラックスできる空間です(笑)。

     

●本物、スタンダードを目指す
松浦 今、小澤さんの方から林さんのお宅はまちなかの歴史ある通りだというお話がありましたが、まちなかにおける建築のポイントなどをお話いただけますか?

小澤 ちょうどその頃、掛川市では掛川城天守閣が復元され、同時に「城下町風まちづくり」が行われていました。条例をひいて、まちづくりや景観に合った建築をやろうといったのは、掛川がはじめてじゃないかな。
ただ、建築を条例でしばるのはどうかな、と思います。しかし、景観的にバランスは必要だからやらなきゃいけないんだけど、市がやろうとすると、コンサルが絵をかいてゼネコンがつくるものだから、みんな同じようになってしまう。建築はそのまちの個性、そこに住む人の個性を考えてやるべきで、私もまちなかで二軒、和菓子屋さんと八百屋さんを景観条例の中でやったけれど、今も色あせてないと思います。一つ一つ考えてやっていれば、いつまでも光っているということです。

松浦 建築家の設計は“施工者泣かせ”というイメージがありますが、今日はちょうど林邸を施工した会社の専務さんがいらっしゃってますので、ちょっとお話を伺ってみます。

尾崎 施工者泣かせということに関しては、お客さんのイメージと先生のイメージと予算の兼ね合わせが難しいですね。先生は素材を大切にされる方なので、レベルを下げるのではなく、素材の良さを表現しながら同じレベルを維持し、その上でコストを下げるにはどうしたらいいかを考えました。材料自体は安いけれど、精度を要求されます。手間はかかっているけれど、計算上は安くなるので、お客さんにとっては非常にいい展開ですね(笑)。

松浦 その話を聞いて、林さん、いかがですか?

 はじめて聞いたお話ですが、ありがたいですね(笑)。たしかにうちの天井は、釘を使わない合掌で、米松(べいまつ)のピーラーを使っているのですが、大工さんが何日間もずっと天井を見上げながら作業して下さっていたのを思い出しました。ものすごく大変な作業だったと思います。
でも、大工さんも快くやって下さって、今もものすごくいい感じで過ごしています。

小澤 林邸は、天井は米松、床は檜、壁は漆喰です。時間が経つほどにつやが出て、いい色になっていますね。

松浦 小澤さんの設計されるものは、「完成したときから良くなっていく」というコンセプトがあるように思いますが、いかがですか?

小澤 そうだね。例えば車などは、時代とともにデザインがある程度変わり、劣化していく部分があるけれど、建築の場合、ちゃんとしたスタンダードのものを作れば、絶対に劣化しないと私は思っています。
これまで、和風建築の数寄屋も洋風の建築もやってきたけれど、その根本である「本物」「スタンダード」が何かがわかっていれば、和風だろうと洋風だろう鉄筋コンクリートであろうと、その本質は変わらないと思います。同じ匂いがする。それがスタンダードということであり、私が親方から受け継いだものでもあります。

今のプレハブの建築は、カジュアルの服みたいだなと思います。買ったばかりはいいかもしれないが、時間が経つと劣化していく。「流行り」ではなく「スタンダード」が大事です。一生に一度の一番高い買い物ですから、賢くお金を使ってほしいですね。

    

●ライフスタイルを変えなかったら、どんな建築もただの箱
松浦 小澤さんに設計をお願いした場合、家づくりはどんなふうに進んでいくんですか?

小澤 最初にお話したように、一週間に一度程度の打ち合わせをします。あと、いろいろな建築を見ることをします。誰が設計した建物かは言わず、まず見てもらう。安藤忠雄というだけで「ほー」となってはいけないということです。有名、無名は関係ありません。いい建築があっても、見る目がなかったらそれはただの箱ですから。
そして、自分のライフスタイルを考えることです。建物はあくまでキャンパス。生活スタイルを変えなかったら、新しく家を建てても器の空間が変わるだけになってしまいます。それでは意味がない。
だから、設計するときは「どんな生活をするのか?」から始めます。そこに時間をかけます。ゴミだらけの家に住んでいる人は、新しい家になってもゴミだらけ。それではいけない。カルチャーをしなくては。
何か必要で、何が要らないか、ということに建築の面白さがあります。

松浦 林さんは、設計によってライフスタイルが変わったと感じるときがありますか?

 変わったかどうかはわからないのですが、初めて家に入ったとき、幸せな感じはしました。それは今でも変わりません。うちが一番いいな、といつも思います。
あと、小澤さんと話をしていると、漠然とした自分たちの想いが「小澤さんの言葉」を通じてどんどん形になっていった感じがします。

小澤 苦労したけれど、自分たちがゼロから試行錯誤して作ってきた家だから、大事にするんですね。気持ちのこもっていない家に住むと、生活もぞんざいになります。大事な家で、大事に暮らしてほしいですね。

 自分の年齢とともに、飽きのこない生活ができそうです(笑)。

小澤 今回のセミナーはフロムフォーとTOTOの企画です。TOTOさんの前だから言うわけじゃないけれど、日本の設備は優秀です。プレハブの家ではもったいないと思います。
とはいえ、オリジナルな住まいづくりには時間がかかります。建築家が10人いたら10人違うので、出会うのも大変です。しかし、いい人とめぐりあえたら幸せです。だからフロムフォーのようなプロデュースしてくれるところが必要なんです。

セミナーのタイトルを「生活とともにある建築」にしましたが、生活が建築であり、建築にその人の人格や品格が表れます。皆さんも、ご自分のライフスタイルと家を振り返ってみて下さい。面白いですよ(笑)。

   

※セミナー会場には、小澤さんが設計された建築で行われた「建築が語る~トーキングアーキテクチャー~」のパンフレットなども展示されました。トーキングアーキテクチャーは、一般的な完成見学会やオープンハウスではなく、もっと無印的に、空間を使ったコンサートやイベントができないかという企画のもと、主催しているイベントです。これまで「VOL14」まで行われており、コンクリートの打ちっぱなしに影絵を映すなど、地元の芸術家とのコラボレーションや施主と建築家との座談会なども行われています。
◎「建築が語る~トーキングアーキテクチャー~」
http://www.kawashimagumi.co.jp/private/report.html


【全8回を終えて】
地域の建築家8名に出演いただいた「ライフスタイル・リノベーション」も、全8回(1月~8月)を無事に修了することができました。ご参加いただいた皆さま、出演してくださった建築家の皆さま、ありがとうございました。このセミナーが「生活をリノベーションする」きっかけになれば、幸いです。

from/for(フロムフォー)館長 鳥居光

 ※「ライフスタイル・リノベーション」はfrom/for(フロムフォー)とTOTOのコラボレーション企画です。全8回のレポートは、この「from/for(フロムフォー)館長ブログ」にて紹介しています。

※「建築家との住まいづくりレシピ館from/for(フロムフォー)」は、静岡県中西部を中心に様々なタイプの建築家を紹介できるシステムです。現在、登録建築家は14名。お客様のお話を伺い、ご希望や相性を考慮した上で、数名の建築家とお引き合わせいたします。(紹介料はいただいておりません)


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