建築家との住まいづくりレシピ館from/for 館長ブログ

建築家との家づくりをお考えの方、自分なりの家づくりを求める方、フロムフォー(掛川市)では建築家との橋渡しします。

第3回「ライフスタイル・リノベーション」(ゲスト:建築家 久保剛司さん)

2012年04月07日 | ライフスタイル・リノベーション

■「ライフスタイル・リノベーション」とは
震災以降、一人一人の生き方や暮らし方が問われている今、では日々の暮らしの器である住まいはどうあるべきか。生活を変えようという生活者に対して、設計、デザイン、住宅設備等について、いま専門家たちは何を考え、何を語るのか――。
この「ライフスタイル・リノベーション」では、地域の建築家8名に出演いただき、全8回(1月~8月)にわたり「生活をデザインする」を考えます。

住まいづくりを検討している方、
近隣の建築家を知りたい方、
建築家との住まいづくりはどんな感じだろうと思っている方、
ぜひ足を運んでみてください。
(このブログでも8回にわたりレポートします)
※「ライフスタイル・リノベーション」はフロムフォーとTOTOのコラボレーション企画です。

■3/17(土)第3回目の建築家は久保剛司さん(掛川市在住)
第3回のゲストは、久保剛司建築研究室を主宰する久保剛司さん。久保さんは掛川市建築文化協会顧問で静岡県木造館の初代館長でもあります。「決して高くない建築家住宅―住宅に愛の手(設計力)を―」と題して講演をいただきました。
住宅づくりは、敷地・設計・お金・検査等、難解な連立方程式であり、他人任せにするにはあまりに大きな投資。メーカー任せでない個性と思想を持った住宅づくりが必要であるとともに、建築家の役割と消費者にとってのメリットを具体的に紹介しています。設計士からのお話なのに、非常に生活者よりの、お話を伺ったあとには「建築家との住宅づくりはお得かも」と思える講演となりました。

    

■セミナーの発言から、久保さんの“家づくり”に対する考え方を拾う
○建築家の仕事の現状
わが家は35年前に建てましたが、天井は剥き出しで「清貧の家」を呼んでいます。そのおかげか、三人の子どもたちは忍耐強く育ちました(笑)。六十歳を越えてさすがに寒いので外断熱をしようかと思っているのですが、このご時世でなかなかできないのが現状です。
私は一般の住宅以外も、旧豊岡村の「とれたて元気村」や掛川市の「掛川こども園」「掛川工房つつじ」など公共的福祉的な建築も多く手がけています。古民家再生などのリフォームもありますね。

私が事務所を開設した30年前は、まだまだ設計士という存在が世間に知られていませんでした。20年前くらいになりますと100件に1件くらいは設計士が関わるようになり、現在でも100軒に3件くらいですね。まだまだハウスメーカーと地元の工務店がほとんどを占めているというのが現状です。
私自身が設計した数を数えてみましたら、40年間で100件でした。ほとんど身内か同級生でした(笑)。建築関係者も多いですね。一級建築士の免許を持っていても、ペーパードライバーのような人もいますからね。あと官庁関係、木造館に来たお客様もありました。まったくのフリーで来られた方は3人だけでした。
家を建てるとき「設計事務所という選択肢がある」ことを知っていただければ嬉しいと思いまして、今日はお話をさせていただきます。

       

○実際の「建築家との住まいづくり」の流れ
今、建具を設計しても作れない大工さんが増えています。断る大工さんがいて、今後、技術を持った大工さんがいなくなるのではと心配しています。「人を育てる」「技術を継承する」という意味からも、設計事務所が地元の工務店とタイアップして家づくりをするのがいいと考えています。

私の場合、必ず3社以上の施工業者に見積りを依頼します。3千万円と4千万円というように1千万円以上差が出るときもありますが、では安いと心配かといえば、そんなことはありません。地元の信頼できる施工会社に見積もりを依頼していますし、技術力のある大工さんにお願いします。そして、設計士が施工管理するので大丈夫なのです。大抵いちばん安い業者で決まりますが、30年以上仕事をしてきて今まで一度もクレームはありません。

最初の見積もり合わせのとき、支払い回数などもきちんと書面にします。富士ハウスが破産したとき、一括払いをしたためほとんど返ってこなかったという方がいらっしゃったようですが、大きな買い物をするとき、しかもまだ形の出来ていないものを買うとき、一度に払うのはそもそもおかしいと思います。分割して支払うことに対応できないような施工会社は、2~3千万円の金額を融通できないということで、逆にやめた方がいいと思います。
そういうことも、設計士が設計監理の中で行なっていくわけです。

設計料は基本、総工事費の10%です。設計料が高いとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は見積もり合わせの値段でそのくらいのコストダウンはすぐできます。
設計士は大きな建物しかやらないと思ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、3000平米の大きな公共建築から犬小屋まで何でもやります(笑)。頼みにくいことはありません。

よい設計者、相性の合う設計者を探すのは難しいかもしれませんが、お医者さんを探すのと一緒で評判を聞くことが大事です。昔は県の木造館のようなところがあり建築家と生活者をつなぐ役割を果たしてきましたが、今はフロムフォーがその役割を担ってくれています。
建築の場合、表現に必ず出てきますので、気に入った建物があったら誰の設計か聞くといいですね。そして、フロムフォーのようなところに間に入ってもらい、話を聞いてもらって何人かと会って相性を確認しながら進めていくのがいいように思います。「自分の感覚」プラス「設計士の個性を知っている第三者の意見を聞く」、この両方が大切なのだと思います。

○建築家に設計管理を頼むことのメリット
手前味噌になるかもしれませんが、設計士に頼むと安くていいものができます(笑)。「家なんてできればいい」という人は安いところで頼めばいい。しかし、県の住宅相談をしていて一番多いのはそうしたところに頼んだ人たちからのクレームです。表向き安い金額を提示しているハウスメーカーは、びっくりするくらいオプションが多いので本当の金額がわかりにくいという点があるんです。

家づくりは人海戦術です。大工さんはじめ、様々な職人さんとともにチームで家づくりに取り組みます。みんなの気持ちを上げながら、まとめあげ、管理していくのが設計士の仕事です。

障害を持つ方や高齢者の住宅ほど設計士に頼んだ方がいいと思います。それぞれに違う問題を抱える中、細かな要望まで表現できるのは建築家だけだと思います。そうした微妙な調整が必要な人ほど、設計士に頼んだ方がいいと思います。
聴覚障害を持った方の家づくりに携わりましたが、打ち合わせには通訳の方も入れていただいたり、筆談したりしました。時間はかかったけれど、感謝してもらえて建築家冥利につきると思いました。

建築家に頼むのはお金持ちの人だけ、と思っていたという人も多いですね。「希望は多く、でも予算は少ない庶民の私たちにぴったりでした」というお礼の手紙をいただいたこともあります。
変形敷地などはとくにハウスメーカーでは無理ですね。こういうときこそ、建築家を活用して下さい。

繰り返しになりますが、実力のある施工会社へ依頼しますし、支払い条件も提示させます。設計料がもったいないという人もいますが、コストダウンできた分と施工管理をする分を考えれば十分もとは取れると思います。
設計事務所に頼むのはけっこうお得なことが多いんです(笑)。いい設計事務所、相性のいい設計士に出会うことが肝心です。

     

○古民家再生
築150年のお茶農家のリフォームを手がけました。10年以上前から相談を受け、17ヵ月かけて完成しました。土間のキッチンは冬、1℃になります。奥さんは30年以上我慢していました。リフォームの目標は、民家の良さを生かしながら、水周りを良くして、暖かな家にする。もちろん耐震も、です。

見積りは3社にお願いしました。見積もりの差が5百万円~2千7百万円と出て、古民家再生の見積りのしにくさを改めて感じましたね。工事の途中で基礎が腐っていて追加になる場合もあります。このお宅の場合、「自分の山の木を使いたい」「古い建具を使いたい」という希望がありました。古民家再生には新築と同じくらいかかるのを実感しました。
竣工後、お礼の手紙をいただきました。
「建て替えた家に住み始めて、見上げる天井、見上げる梁、りっぱな柱、そして神棚が素晴らしい。これから100年は住めそうです。1864年に建てた家ですが、私たちにとってこれからが本当の家です」

   

○最小の投資で最大のよいものをつくろう
事務所を開設して30年以上経過します。大いなる哲学があって事務所を開いたわけではありませんが、家には設計力というものが必要だと思います。私の場合、プランを10くらい描くとまとまってきますね。設計の特徴は、階高です。無駄な高さは作りません。茶の間は高く、寝室は低く、メリハリをつけることが大切です。ハウスメーカーはどの部屋も2600cmくらいですが、資材の無駄ですね。

25坪の家も設計しました。極限の狭さでした(笑)。階段の壁は普通15cmほどですが、3cmの積層材を使用しました。作れる大工さんも限られていました。ぎりぎりに設計することがいいか悪いかはわかりませんが、そういう事例もあります。

人前でお話するのは全く苦手ですが、「設計事務所もけっこういいかも」「設計事務所も選択の一つに入れてもいいかも」と思っていただければ嬉しいなと思います。
コストパフォーマンスを作るのは設計事務所です。最小の投資で最大の良いものを作る努力をします。
ぜひ、設計事務所の門をたたいてほしいと思います。 

【次回予定】
次回(第4回)「ライフスタイル・リノベーション」は、4月21日(土)13:30~15:30に開催します。ゲストは浜松市在住の建築家長谷守保さん。テーマは「丁寧につくり、美しく住まう―日々が楽しくなる住まいへ―」です。どうぞお楽しみに!

【参加ご希望の方】
「ライフスタイル・リノベーションプロジェクト事務局」までご連絡下さい。
TOTO株式会社 浜松営業所内/担当:山本
kazuhiro.yamamoto@jp.toto.com
053-465-1010