建築家との住まいづくりレシピ館from/for 館長ブログ

建築家との家づくりをお考えの方、自分なりの家づくりを求める方、フロムフォー(掛川市)では建築家との橋渡しします。

第6回「ライフスタイル・リノベーション」(ゲスト:建築家 藤田昌弘さん)

2012年07月07日 | ライフスタイル・リノベーション

■「ライフスタイル・リノベーション」とは
震災以降、一人一人の生き方や暮らし方が問われている今、では日々の暮らしの器である住まいはどうあるべきか。生活を変えようという生活者に対して、設計、デザイン、住宅設備等について、いま専門家たちは何を考え、何を語るのか――。
この「ライフスタイル・リノベーション」では、地域の建築家8名に出演いただき、全8回(1月~8月)にわたり「生活をデザインする」を考えます。

住まいづくりを検討している方、
近隣の建築家を知りたい方、
建築家との住まいづくりはどんな感じだろうと思っている方、
ぜひ足を運んでみてください。
(このブログでも8回にわたりレポートします)
※「ライフスタイル・リノベーション」はfrom/for(フロムフォー)とTOTOのコラボレーション企画です。

■6/30(土)第6回目の建築家は藤田昌弘さん(浜松市在住)
第6回のゲストは、有限会社住環境研究所を主宰する藤田昌弘さんです。施主であるIさんと共に「思いやる心の家づくり―施主直営・分離発注―」と題した講演(対談)を行っていただきました。
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の書籍を手に取り、「もし普通の主婦がドラッカーの『マネジメント』を読んだ設計士と家を建てたらどうなるのかを、ご紹介します」という藤田さんの言葉から始まった講演。家づくりとマネジメントの接点が非常に興味深い内容となりました。ぜひ、じっくりとお楽しみ下さい。

   

■「家づくり」を「マネジメント」すると…(藤田さん)
今回、「思いやる心の家づくり」と題した講演を行うわけですが、私は口下手なので、3月に竣工したばかりのIさんを助っ人にお願いして、家を建てられたお施主さんの言葉を通じて、私ども住環境研究所との家づくりを実感していただければと思っています。

まず、今回の講演タイトルにもあるように、私たちは「思いやる心の家づくり」を大切にしています。とはいえ、これは非常に抽象的な言葉であり、形として見えるようにするのはなかなか困難です。会話のキャッチボールを大事にし、記録をきちんと取って確認し合うなど、コミュニケーションが大切になりますが、こうした抽象的なことを形に表すため、2012年にISO9001(品質マネジメントの国際規格)を取得しました。
これは、地域都市の小さな設計事務所としてはとても珍しいことのようです。

皆さんの中にも「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読まれた方が多くいらっしゃるかと思いますが、今回は「もし普通の主婦がドラッカーの『マネジメント』を読んだ設計士と家を建てたらどうなるのか」という視点でお話を進めていきたいと思っています(笑)。
ドラッカーの理論でいえば、家づくりの目標は「関わるすべての人と顧客に感動を与えること」です。顧客であるお施主さんが求めるのは感動であり、お施主さんをトップに、職人も設計士もスタッフも、関わる人みんがが感動できる組織でなければなりません。
そんなところを意識しながら、ぜひIさんのお話を聞いて下さい。

 

■藤田さんとの出会い ~最初「建築」ではなく「文章」でした~ (Iさん)
私たち家族が家づくりを考えるようになったのは、夫の転勤で、夫の故郷である浜松に帰ることになったことがきっかけでした。
結婚前、私は建築関係の仕事をしていました。そのとき思ったのは、図面の見方や建築用語など時間をかければわかることと、建物を建てるときの“軸”のような簡単に見つからないようなものがあるということでした。そして、施主と同じ気持ちになって、施主の想いを実現してくれる専門家が身近にいてほしいということも強く意識しました。それは、家づくりには高度な専門知識と複雑な工程を管理する能力が必要であり、また関わる大勢の人に気持ちよく仕事をしてもらうためのマネジメン能力が必要だと感じたからです。とはいえ、チームが同じ方向に向いて仕事をしていのは、本当に難しいとも実感もしました。

さて、結婚して「どんな家に住みたいか」をよく夫と話をしたのですが、住まいに対する考え方が変わったのはアメリカでの暮らしがあったからでした。南部の片田舎に住んでいたのですが、向こうの人たちは暮らしの意識そのものが違います。改めて、「自分たちはどう暮らしたいのか」を考えさせられました。そのとき、ダイニングルームのスペースが自分たちの気持ちをリフレッシュする大事な空間であり、私たちはこういう場所がほしかったのだと気づきました。

浜松に戻り、どこにどうやって誰にたのめばいいのか、どうすれば私たちの想いが実現できる家づくりができるのかを探し始めました。周囲は「ハウスメーカーに頼めば面倒くさくないし、すぐできるよ」と言いました。でも、私は違和感を覚えました。私たちがこれから子どもを育て、夫婦でずっと暮らしていく大切な場所を、面倒くさいからとあきらめて、ただの“箱”にしてしまっていいのか、それは私たちらしくないのではないかと思ったのです。

そこで私たちはアメリカでの暮らしを思い出し、たくさんの建物を見ることを始めました。「この家はここがいいね」「この家はさっきの家と似ているけれど、何か違和感があるね」といった印象は、そのまま自分たちの価値観や価値基準に気づくプロセスでもありました。感じた違和感を一つ一つ掘り下げることで、自分たちが何を大事にしているのかに気づいた、という感じでした。

そんなとき、藤田さんの言葉に出会ったんです。最初は何か他のことを検索していたのだと思います。藤田さんが日経ビジネスに書かれていた「スローライフの住宅術」という18回シリーズのコラムでした。
その文章に触れたとき、自分が仕事をしていたとき目指していた「みんなが同じ方向に向いて仕事をする」という仕事感を持ち、実際にそれをやっている人がいるんだということに驚きました。同時に勇気をもらったような気持ちになりました。
それですぐに藤田さんにメールを出し、押しかけ女房のように会いに行ったのです(笑)。
……ということで、出会いは「建築」ではなく「文章」だったんです(笑)。

 

◎コラム「スローライフの住宅術」
http://sumai.nikkei.co.jp/style/slowlife/

■たくさんの中から“唯一”のものを見つけていくプロセス(Iさん)
実際に藤田さんに会い、ご自宅を見せてもらって、文章で感じていた印象は間違いなかったと実感しました。藤田さんのおうちは五感が喜ぶ住まいでした。特に聴覚、ものすごく静かで、話をしている会話の音が一番いい音質で聞こえてくるんです。木の匂い、風の匂い、季節の匂いも感じました。
夫は建築のことは専門家ではないけれど、「先生の人柄と、妻である君を信じてやってみよう」と言ってくれました。本当に嬉しかったですね。

こんなふうに同じ価値観を共有できる建築家と出会えて幸せでした。「建築家は遠い存在だ」とか「自分などが頼むのは無理じゃないか」とか思われがちですが、断られてもいいから勇気を出して相談に言ったらいいと思います。自分と合う人にめぐり合える幸せは、何ものにもかえがたいと思います。これから何十年も暮らしていく“わが家”ですから。

設計事務所との家づくりを経験して思ったのは、ハウスメーカーの家づくりは“たくさんのひな形の中から選ぶ”感じだとすると、建築家との家づくりは“たくさんの中から唯一のものを見つけていく”感じです。
予算を考えながら、何を選び、何を削るのか、そうしたことを決めていくプロセスが、自分たちがこれから何を大事にしていきたいかを探すプロセスでもありました。いろいろな話をして、自分たちが思いもよらなかったプランが出てくることもあり、それはとても楽しみでした。「私たちにはこういう一面もあるのか!」とたくさんのことを気づかせてもらいました。ワクワクするような瞬間でした。

■「思いやりの心の家づくり」に家族全員が参加できたこと(Iさん)
家づくりは、日々動いている工程を大勢の人と一緒に進めていくので、小さなトラブルはよくあることでした。誰も悪くない場合だってあり、そんなときは「思いやりの心の家づくり」の気持ちを共有していることが大切だと思いました。みんなが同じベクトルで進んでいれば、ピンチを乗り越えることができるということです。家づくりは生き物なんだな、と実感する瞬間でもありました。
現場には、「この建物は『みんなの心』で造っています」の看板が立てられているのですが、実家の母が来たとき、「いい言葉だよね~」と二人で感動したのを思い出します(笑)。

「ハイ」という 素直な心
「ありがとう」という 感謝の心
「おかげさまで」という 謙虚な心
「させていただきます」という 奉仕の心
「いつも「ニコニコ」 明るい心

   

この「思いやりの心の家づくり」に、家族全員が参加できてことは幸せでした。床のワックスがけなど、夫は自分の仕事だと頑張ってくれましたし、幼稚園の娘も子どもなりに家づくりに加わり、楽しんでいたなと感じます。家の間取り図を絵に描いたり、それがけっこう正確なのでびっくりしました(笑)。今思えば、関係性を築ける時間でもあったのかなと思います。

■新しいのに懐かしい家(Iさん)
引渡しは、3月中旬でした。自分の家ができた喜びよりも、そのときは「ずっと関わってきた家づくりがもう終わってしまったんだな」とさみしい気持ちになりました。
でも、この家にいると、いろいろなことが思い起こされるんです。ここで職人さんたちと話をしたこと、スタッフの皆さんと打ち合わせしたことだけでなく、なぜかこれまで自分が歩んできた人生もここにあるような、そんな感じがしたのです。昔から知っているような、新しい家なのに懐かしい感じ。そのとき思ったのは、この家は私たちがこれまで育ってきた時間までも包み込んでくれる家なのかもしれないということでした。家は、自分自身をも表してしまうものなのかもしれませんね。藤田さんの家に行ったとき、藤田さんの人柄を感じたように。

藤田さんのご自宅で感じた風の匂いは、私たちの家でも感じます。引っ越してから、エアコンはほとんど使ったことがないんですよ。自然の風が吹き抜ける家です。
五感に優しく響く、そして私たちの想いや歴史までも包み込んでくれる空間を創って下さって、本当にありがとうございました。感動できる「幸せな家づくり」ができました。

■常にイノベーション!(藤田さん)
Iさん、ありがとうございました。
企業の目的は顧客の創造です。とかく我々は、企業の都合で家づくりを進めてしまいがちですが、そうではなく、常に「仕事をさせてもらっているのだ」という意識で顧客の創造を大切にしていかなければいけないと思います。
創造には「イノベーション」と「マーケティング」の二つの機能があります。常に「新しいもの」「違ったもの」を創造していく姿勢が大事です。顧客であるお施主様を満足させるだけでなく、関わるすべての人が幸せであるように、建てる途中も楽しく、そのあとの生活も幸せなことが重要です。我々は、お施主さんとは引渡し後も連絡を取り合い、その後の生活はどうなのかをブログで綴ってもらっています。単に建てて終わりではない、ということです。

さて、スタッフタから「ipad」が使えるよと提案されました。自分はついていくのがやっとなんですが(笑)、やってみるとすごいです。例えば、今までは現場にたくさんのカタログを持って行っていたのですが、スタッフが常に新しい情報を入れてくれるので、今は「ipad」ひとつでOKです。

また、最近は、日々の仕事の進み具合をオープンにしてお施主さんと共有しています。徹底的にオープンにしてみようと思ったんです。ですから、TOTOの見積もすぐ載せます(笑)。これが我々の「イノベーション」です。今さら隠してどうするよ、という感じです(笑)。
これからはいろいろなことをオープンにし、共有していく姿勢が大事だと思います。隠しごとをせず、プロとして胸を張って仕事する、顧客の創造のために。これからは、そういう時代です。

   

【次回予定】
次回(第7回)「ライフスタイル・リノベーション」は、7月21日(土)13:30~15:30に開催します。ゲストは掛川市在住の建築家高橋雅志さん。テーマは「施主とともに住まいづくりを語る―小さな住まいで大きなくらし―」です。どうぞお楽しみに!

【参加ご希望の方】
「ライフスタイル・リノベーションプロジェクト事務局」までご連絡下さい。
TOTO株式会社 浜松営業所内/担当:山本
kazuhiro.yamamoto@jp.toto.com
053-465-1010

※「建築家との住まいづくりレシピ館from/for(フロムフォー)」は、静岡県中西部を中心に様々なタイプの建築家を紹介できるシステムです。現在、登録建築家は14名。お客様のお話を伺い、ご希望や相性を考慮した上で、数名の建築家とお引き合わせいたします。(紹介料はいただいておりません)


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