建築家との住まいづくりレシピ館from/for 館長ブログ

建築家との家づくりをお考えの方、自分なりの家づくりを求める方、フロムフォー(掛川市)では建築家との橋渡しします。

第2回「ライフスタイル・リノベーション」(ゲスト:建築家 青島明弘さん)

2012年03月13日 | ライフスタイル・リノベーション

■「ライフスタイル・リノベーション」とは
震災以降、一人一人の生き方や暮らし方が問われている今、では日々の暮らしの器である住まいはどうあるべきか。生活を変えようという生活者に対して、設計、デザイン、住宅設備等について、いま専門家たちは何を考え、何を語るのか――。
この「ライフスタイル・リノベーション」では、地域の建築家8名に出演いただき、全8回(1月~8月)にわたり「生活をデザインする」を考えます。

住まいづくりを検討している方、
近隣の建築家を知りたい方、
建築家との住まいづくりはどんな感じだろうと思っている方、
ぜひ足を運んでみてください。
(このブログでも8回にわたりレポートします)
※「ライフスタイル・リノベーション」はフロムフォーとTOTOのコラボレーション企画です。

■2/25(土)第2回目の建築家は青島明弘さん(磐田市在住)
第2回のゲストは、青島工房代表で「森とすまいの会」を共同主宰する青島明弘さん。「住まいづくりを楽しむ~建築家との家づくり~」と題して講演をいただいた。
住まいづくりの担い手に「建築家」が選択肢として入るようになったとはいえ、建築家はまだまだ敷居が高い印象がある。実際のところ、どのように住まいづくりをするのか、建て主さんとの関係をどう築き上げているのか、具体的な事例を紹介していただいた。資金面も含め、かなりつっこんだお話をされています。必見です!

   

■セミナーの発言から、青島さんの“家づくり”に対する考え方を拾う
○なぜ「住まい塾」なのか
住まい塾スタッフとして東京で13年仕事をした後、98年に磐田で独立した。大工さんやハウスメーカーに頼むのが主流の時代、専門知識のない建て主が「お任せする」だけの家づくりに疑問を感じていた。専門家に全てを任せるのではなく、建て主自身も、木のこと、素材のこと、建築のことを勉強する必要があると思った。建て主と建築家は対等な関係で家づくりを進めていくべきとの想いがあるからだ。

○建築家に頼むと何が一番違うのか
建築家と、大工さん、工務店、ハウスメーカーの一番の違いは、「建築家は家を建てない」こと。建築家は図面を書き、設計管理を行う。「建築家が設計します」というキャッチコピーを前面に出している施工会社もあるが、そうした建築家は施工会社に在籍していたり、仕事をもらっている立場であり、独立した建築家とは違う存在だと知ってほしい。
施工会社に在籍する建築家は、どうしても作り手側に立たざるを得ない。しかし、独立した建築家は建て主さんの立場に立ち、図面通りに現場が進んでいるかチェックできる。独立しているからこそ、できることだ。
本来、作り手と住まい手は利害が相反する立場ともいえる。第三者の立場の人間が入ることで、それぞれに満足できる家づくりをチームで進めることができる。それが建築家の役割でもある。

○秩序を生み出すこと、それがデザイン
建築家は、建て主の希望、予算、工期、法的なことなど、様々な条件をクリアしながら図面を書いていく。何もないところに好きなように書けるわけではない。
重要なのはデザイン。デザインとは、要求や条件や想いなどたくさんの要素から秩序を生み出すこと。その中の一つでも外せば簡単なこともある。しかし、それら要素を全部含んで秩序だったものができるかどうか、それが設計力。私自身、それができなければ建築家ではないと思っている。

○これからの価値観、これからの家づくり
高度成長の時代と違い、今はがんばればどうにかなる時代ではない。閉塞感や行き詰まり感がある中で、東日本大震災が起こり、自由主義やグローバルな思想に違和感が出てきた。拡大、競争、消費、そうした仕組みで本当に良いのかとほとんどの人が考えている。これからはローカルが大切だと思う。小さな社会、支え合う社会、匿名ではなく顔の見える社会、消費ではなく循環する社会だ。そんな中で家づくりも、顔の見える関係の中で「この人のために」と気持ちが通じ合えるような家づくりをしたいと思う。

○本物、そして風景
今、日本の建築の寿命は26年と言われている。年間120万戸という建築戸数があって、建築業界は生きてきたわけだが、もうそれでは許されない時代になっている。そんな馬鹿げたことをしていいのか、循環型社会にとってそれは駄目じゃなんじゃないのか、ちゃんとした素材を使って長持ちする家を作るべきじゃないのか、私はそう思う。

毎晩冷凍食品しか食べていなかったら、本物の美味しさはわからないように、いいものの中に暮らさないと自分の中に尺度ができない。だから、本物を見て、本物を使って、本物を感じてもらいたい。思い入れを持てるような建築を作ることが大切だ。

風景となるような家を作ろう。地域や街並みにあった家を作ろう。どこに行っても同じでは、それは風景とは呼ばない。ここに来てよかった、素敵な風景だなと思えるものは、そこにしかないからだ。時間の積み重ねがあり、そこで人がイキイキ暮らす、そうして美しい風景ができるのだ。

■建築費から、家づくりを考える
○事例から建築費を考える
最近の例でいえば、図面から見積もりを出すとおおよそ2,500万円くらいからスタートし、「あれも欲しい、これも必要」とだんだん増えていくのが普通のパターン。どんな生活をしたいのか、本当に必要なものは何かを話し合いながら進め、折り合いをつけていく。私は施工会社の相見積もりはしない。その建築の特徴によって、信頼できる施工会社を決めている。

この事例の建て主さんの場合、建設会社の最初の見積もりは4,700万円だった。途中、ご主人の病気で1年くらい間があいたのち、「施工はこの人に変更してほしい」とある大工さんの見積もりを持ってきた。その見積りは3,800万円だった。900万円も違うので「これはヤバい大工さんではないのか(笑)」と思ったが、実際にその人に会い、評判も聞き、見積もりの詳細も確認すると、腕のいいきちんとした大工さんだとわかった。

 

○建築費に大きな差が出る理由
では何が違うのか。
項目を整理して比べてみると、900万円の差は木工事の差額480万円と諸経費の差額320万円が大きな要因であることがわかった。
①まず木工事では、材料費が大きく違った。大工さんは独自のルートがあり、天竜材を使うことはできないが安価な国産材を仕入れることができた。
②材料の拾い方も違う。建設会社は「ドアを何枚」というように部材ひとつずつで拾っているが、大工さんは「原材料が何枚」という拾い方。つまり、この大工さんは大きな材料を安く仕入れ、自分のところで加工している。自分の知恵と手間で値段を下げているということだ。とはいえ、建設会社が多く取っているかといえばそうではなく、これが普通。
③あと、造作棚類の見積もりが建築会社は「一式120万円」と高額だった。それは、この建設会社がすでに私の設計で家を建てていて(2軒)、造作棚類の製作に手間がかかることを知っているから。その手間に見合った費用を計上している。
④次が諸経費。この大工さんは個人経営の一人親方なので、会社と違って諸経費が少なくてすむ。人を使う場合も実際の手間賃だけを払えばいいので、会社組織のように給料という大きな経費がかからない。その差が出た。

○最後に、「人を育てること」「木のこと」「山のこと」を私たちはどう考えるべきか
とはいえ、私が思うに、この建設会社は次の世代のことを考え、若い職人にきちんと給料を払って育てようという気持ちがある。「諸経費がかかってダメじゃないか、企業努力が足りないんじゃないか」というのは簡単だが、安いだけでいいのか、という投げかけをしてくれていると思うんです。
今後、木の家を建てられる職人がいなくなってしまうかもしれない。木の家を建てようという建て主さんには、ぜひそうしたことも考えてほしいと思います。

木の話も同様です。
今、木が非常に安く、50年前に1立米(りゅうべい)15,000円だったのが、現在、13,000円です。(1立米は大黒柱が4本くらい。50年前の15,000円は初任給くらい)
山の木をチェーンソーで切って、葉がらしして、4mに刻んで、運んで、それで1立米8,000円の手間賃と2,500円の運賃、県信連に8%を払うから、経費で11,500円かかります。つまり、50年経ってお金の価値は10倍になっているのに、材木の値段は下がっている。経費が9割近くかかったら、補助金なしではやっていけないということです。

木は健全な山を作り、健全な山は治水にも水の問題にも関わっています。家を建てるとき、こうした木の問題、山の問題、環境問題まで頭の片隅に入れてほしいと思います。人が豊かに暮らすとはどういうことなのか、家づくりを通じて、ぜひ考えていただきたいと思います。

人を育てること、木のこと、未来のことまで考えて、家づくりの適正価格というものがあるんじゃないかと私は思うんです。このデフレの時代、建設会社はコストを抑えることだけ考え、建て主は安く建てることばかりを考えたら、この国、この地球は一体どうなってしまうのだろうかと考えてしまうんです。建設会社と建て主のあいだに入り、そうしたことまで含めて「本当の値段」を考えるのが建築家の仕事でもあると私は思うのです。

このようなセミナーでこうしたが言えるのも建築家だからだし(笑)、フロムフォーが主催しているからだと思います(笑)。木の家や自然素材は高価だから建てられないとか、建築家に頼むのは無理だとか、決してそんなことを思わず、ぜひ建築家に相談してください。そして、家づくりを通じて、一緒に未来のことを考えましょう。

   

【次回予定】
次回(第3回)「ライフスタイル・リノベーション」は、3月17日(土)13:30~15:30に開催します。ゲストは掛川市在住の建築家久保剛司さん。テーマは「決して高くない建築家住宅~住宅に愛の手(設計力)を~」です。どうぞお楽しみに!

【参加ご希望の方】
「ライフスタイル・リノベーションプロジェクト事務局」までご連絡下さい。
TOTO株式会社 浜松営業所内/担当:山本
kazuhiro.yamamoto@jp.toto.com
053-465-1010