フットボールレビュー

ヨーロッパのサッカー中心に、戦術的観点から試合をレビューするブログ

南アフリカ大会~勝者スペインのメンタリティ~

2010-07-12 17:08:19 | W杯
延長に入った辺り、ふと頭によぎったのは、2年前のバルセロナVSチェルシー、イニエスタのミドル。
先日私がバルセロナの弱者戦法の良くない試合の例としてここに挙げた試合だ。
あの試合、バラックが直後にアビタルのハンドを指摘して主審に詰め寄った。
ロッベンがハワードに詰め寄るシーンを見たとき、何かデジャヴのような感覚に陥った。

スペインが上回っていた。オランダは勝ち急いだ結果、玉際が後手になり、危険なプレーが目立った。
勝たなければいけない気持ちがプレッシャーになり、明らかに裏目に出ていた。
審判のジャッジは正しいものだったか解らないが、それに対する抗議も目立ち、印象もよくなかった。
そんな中イニエスタは冷静にファウルをもらい続け、パスを出し続けた。
最後まで中盤を壊さなかった。

バルセロナというチームは、冷静に相手のメンタルを壊すのが得意である。
彼らと戦う相手は、常に他よりも消耗する。
プレスを掻い潜るパス回しは相手を苛立たせるのに充分だし、ファールのもらい方も上手い。
ジャッジへの接し方、詰め寄り方も決して感情的ではなく、そう振舞う程度で収める。
イニエスタはカンテラ時代、最も鍛えられたのはメンタリティと話した。
バルサの心理術が、スペイン代表にも当然反映されていた。
スペインはヨーロッパで随一、ラテン特有のずる賢さを備えたチームだ。
そういう点で、オランダのほうが若干若かった。
といってもこの状況で冷静になれるチームはスペインぐらいだろう。
前大会のポルトガル戦の様に、試合が壊れるほどにはならなかった。
ただスペインのメンタリティの前に、混乱したのは明らかだった。

そしてやはり、国内リーグの差は確実に出た。リーガのレベルの高さは言わずもがな。
スペイン代表はほぼ全選手がリーガに所属する選手だ。
なるほど、プレミアでプレーするトーレスがフィット出来ないのもわかる。
逆にオランダは前線のチーム、リーグもバラバラな上、支える面子のいるオランダリーグのレベルは決して高いとはいえない。
クライフが指摘していた「国内リーグのレベルが違いすぎる」という点は、間違っていなかった。

スペイン代表は決してフィジカル的に凄いわけではない。
イニエスタなどは日本人となんら変わらない体型。
大型の選手はピケぐらいのもので、2008EUROのイタリア戦では、トーレスがイタリアディフェンダーに頭を撫でられ子ども扱いされていたのは記憶に新しい。
だが、その大会でも勝ったのはスペイン。
お互いをリスペクトしながら近いチームでプレーし続けていれば、ドイツやイタリアのような強者を打ち破ることが出来るという手本を、世界に示してくれた。

私は今大会オランダをサポートし続けていたが、イニエスタの決勝ゴールは今思い出しても涙が出そうになる。
あれが決まった瞬間、完璧に納得させられた感じがした。
シャビは決勝前、先日の私の記事に反論するかのように言った。
「このチームはバルセロナではない、スペイン代表だ。」

何はともあれ、決勝戦らしい緊迫感を持った歴史に残る素晴らしい試合だった。
スペインは今後もこのスタイルをもちろん継続し続け、王者らしいサッカーをして欲しい。
対するオランダ。攻撃サッカーの本家が、新鋭攻撃サッカーに敗れたわけだ。
それも、らしくない勝ちに拘る守備的戦術を用いて・・・。
ただ、今大会のスタイルは決して間違っていなかったと思う。
ここ20年では間違いなく、最も勝利を予感させるチームだった。
さらに磨きをかけて、オランダならではの弱者でも強者でもないフットボールスタイルを築き上げて、またスペインと次元の違うフットボールを展開して欲しい。

2010年W杯南アフリカ大会、最高のチームが決勝を勝った。
EUROから続くこの流れ、さらなる攻撃サッカーの時代の幕開けである。