フットボールレビュー

ヨーロッパのサッカー中心に、戦術的観点から試合をレビューするブログ

クラシコ~フォルツァ・バルサ~

2010-12-02 07:17:40 | 欧州サッカー
戦前の予想は2-1バルサだった。

現在のマドリーは強いとは思わない。
ただ、堅いとは思っていた。
前線は相変わらずのリアクションサッカーだが、粒の大きさが
尋常でないので、バルサ相手でも1点は奪えるかと。
クリスティアーノをプジョルが抑えられることは解っていた。
むしろプジョルが彼を抑えられなかった試合はあまり記憶にない。
先発はイグアインだと思っていた。
イグアインはクラシコでゴールできる選手ではない。
1点はディ・マリアだと思っていた。

バルセロナが強かった。
結局、CL決勝マンU戦の再来のようなパス廻し。
相手のチェイスをあざ笑うかのような深い位置でのポゼッション。
常に数枚の選手が裏を狙う崩し。
ある時プジョルが言った。
「僕らは、絶対に負けてはならない試合は100%勝つ。」
間違いなかった。

しかし冷静に考えると、今回のバルサ快進撃は、マドリーの守備の脆さがそうさせた感じもある。やはりA級戦犯はSラモス。
常に裏をとられてもおかしくないポジショニングで、相手にスペースを提供し続ける上、失点に直結する軽いディフェンス。3点は彼が謙譲したと言っても過言ではない。

あれだけ裏を狙われると解っておきながら、それでもラインが崩れるマドリー。確かに昨日のバルサは久々に異次元だったが、あまりに力ない結果に、「ああ、やっぱり」と予想通りの反応しかさせてくれなかったのは、結局数年前のマドリーから何も成長していない証拠である。サッカーも人生も、個の力ではどうにもならないことばかりだと、改めて知らされるような一戦だった。

南アフリカ大会~大会総括~

2010-07-14 04:31:10 | W杯
先日の決勝戦、スペインの勝利で全64試合が終わり、南アフリカ大会は幕を閉じた。
私なりに今大会を振り返ってみる。



まず何より嬉しいのが、W杯が開催される度に話題になる「ダークホース国」に、わが国日本が名を連ねたこと。
中でも本田は、今大会で最も注目された選手の1人になった。
日本の選手がW杯で活躍し、ヨーロッパ移籍市場をも賑わすとは、数年前まで夢にも思わなかった。
彼の、チームが自分の色に染まったときのパワーは計り知れない。
それがCSKAであれミランであれ、きっと同じように活躍するはずだ。

また遠藤の戦術理解度、試合を読む力も素晴らしかった。
彼も是非ヨーロッパで活躍して欲しい。

日本がこのように注目されることにより、選手が海外で活躍できる可能性は大きく広がった。
これこそが日本が今大会で勝ち得た最高の財産だと思う。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

以下、各国の総評。


・スペイン

W杯は、ブラジルを除いて結局はディフェンシブなチームが優勝すると言われている。
今大会は特に、攻撃の代名詞であるオランダ、ブラジルでさえも守備的なチーム作りをしてきた。
そんな中優勝したスペインは、CLのインテル優勝で守備的なチーム作りが注目を浴びた今シーズンのヨーロッパサッカーの流れを見事ひっくり返した。
最高の結末だったと思う。


・オランダ

醜くても勝てるサッカーを貫いたオランダは確かに負けなかった。
ただやはり決勝では、個の能力で他に勝らないCBを、守備組織でカバーしきれなかった。
幼少から攻撃サッカーを叩き込まれているオラニエに、やはり守備的なフットボールは似合わない。
プレスの位置を下げても、結局相手にどこまで持たせて良いか微妙に判断に迷い、それがラフプレーに繋がった感じも否めない。
今回の決勝はバルサVSインテル、攻撃VS守備の様相があったが、次のEUROでは、この決勝と同じカードで、双方攻撃的な試合が是非観たいと望んでいる。


・ウルグアイ

チーム自体は攻撃的とは言い切れないが、スペクタクルな前線で見る者を魅了したウルグアイは素晴らしかった。
ガーナ戦のあのプレイが無ければ、より世界から賞賛されるチームだっただろう。


・アルゼンチン

前線は魅力的だが、中盤の組織力が穴だった。
いくらディフェンスを固めても、前線への供給の物足りなさを拭えなかった。


・イングランド

私は監督を変えるべきだと思った。
カペッロ監督は岡田監督と間逆な監督なんだと思う。
試合を見ると、選手の自主性が完全に排除されているように感じる。
イングランド代表はアジアやアフリカの弱所チームではない。
そのようなチームの監督に必要なのは、チェルシーを優勝に導いたアンチェロッティのような、人間力だけだと思う。
もっと想像力のあるプレーを期待したかった。


・ブラジル

細かな戦術的には当然違うが、チームのスタンスはオランダと近かったと思う。
国内からは批判されていたが、バランスのとれたチームだと感じていた。
ただオランダ戦は決勝のオランダ同様、ロビーニョを筆頭に熱くなりすぎ、90分守ることに耐えられなかった。
スペインが相手だったらどうだったか、見てみたいものである。


・ガーナ

しっかりと組織だったプレーでリーグ戦を勝ち抜いた。
ただ決定力がとにかく不足していた。
それされあれば、ウルグアイ戦も大勝でもおかしくなかった。
もちろんベスト8は決して悪くない結果なので、他のアフリカチームもガーナを参考にチーム作りをしていけば、4年後はまた面白くなると思う。


・ドイツ

持ち味のカウンターサッカーに攻撃面でのコレクティビティを加え、力強いチームだった。
とは言ってもこのチームの完成度はまだ低い。
2年後のEUROで爆発する予感。
スペインやオランダのような、前線からキツいプレスをするチームへの対策が今後の課題か。


・ポルトガル

エース頼みの感が否めない大会だった。
北朝鮮戦の大勝を抜きにすると、彼らの実力からしたら物足りない結果だったと思う。
スペインやオランダと比べたら、焦点の定まっていないチームだった。


・パラグアイ

スペイン戦、オフサイドの判定で取り消されたゴールがあったが、シュートした選手か確実にオフサイドではなかった。
この試合のスペインは、ラグビー選手のような体つきの選手主体のパラグアイに完全に戸惑っていた。
サッカーのスタイルは決して美しいものではなかったが、魂のこもったプレーは素晴らしかった。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

さて大会前、今大会は南米の大会になると言われていた。
優勝候補はブラジル、アルゼンチン。
しかし蓋を開けてみると、完全にヨーロッパの大会。
緻密な戦術無くして、予選突破は不可能な大会となった。
アメリカ大会などでは、アフリカチームのフィジカルサッカーがクローズアップされた。
今大会アフリカで決勝リーグに突破したのは、ボアテングを中心に最も組織立ったサッカーをしていた、上記のガーナ1国のみだ。
組織無しではタレント揃いのフランスでさえ簡単に崩壊。
規律と組織力が勝利の最低条件という風合が前面に出た大会だった。

また、ボールと高地の影響で、細かいパスワーク、見事なフリーキックなどがあまり見られない大会だった。
これに関しては賛否両論もあるが、そんな中でもしっかりコントロールし、ポゼッションを落とさなかったスペインは、やはり優勝に充分に値するチームだった。


何はともあれ、短い間だったが最高に楽しませてもらった。
ただ、上記のボール等の問題以外にも、ミスジャッジ、ピッチコンディション等様々な課題を見つけることが出来た。
今大会を戦った選手全員に感謝するとともに、4年後さらに進化したフットボールが見られるよう、選手や監督だけでなく、FIFAや各国のリーグ、各大陸の組織等が、未来を見据えた環境作りをしていくことを望んでいる。

南アフリカ大会~勝者スペインのメンタリティ~

2010-07-12 17:08:19 | W杯
延長に入った辺り、ふと頭によぎったのは、2年前のバルセロナVSチェルシー、イニエスタのミドル。
先日私がバルセロナの弱者戦法の良くない試合の例としてここに挙げた試合だ。
あの試合、バラックが直後にアビタルのハンドを指摘して主審に詰め寄った。
ロッベンがハワードに詰め寄るシーンを見たとき、何かデジャヴのような感覚に陥った。

スペインが上回っていた。オランダは勝ち急いだ結果、玉際が後手になり、危険なプレーが目立った。
勝たなければいけない気持ちがプレッシャーになり、明らかに裏目に出ていた。
審判のジャッジは正しいものだったか解らないが、それに対する抗議も目立ち、印象もよくなかった。
そんな中イニエスタは冷静にファウルをもらい続け、パスを出し続けた。
最後まで中盤を壊さなかった。

バルセロナというチームは、冷静に相手のメンタルを壊すのが得意である。
彼らと戦う相手は、常に他よりも消耗する。
プレスを掻い潜るパス回しは相手を苛立たせるのに充分だし、ファールのもらい方も上手い。
ジャッジへの接し方、詰め寄り方も決して感情的ではなく、そう振舞う程度で収める。
イニエスタはカンテラ時代、最も鍛えられたのはメンタリティと話した。
バルサの心理術が、スペイン代表にも当然反映されていた。
スペインはヨーロッパで随一、ラテン特有のずる賢さを備えたチームだ。
そういう点で、オランダのほうが若干若かった。
といってもこの状況で冷静になれるチームはスペインぐらいだろう。
前大会のポルトガル戦の様に、試合が壊れるほどにはならなかった。
ただスペインのメンタリティの前に、混乱したのは明らかだった。

そしてやはり、国内リーグの差は確実に出た。リーガのレベルの高さは言わずもがな。
スペイン代表はほぼ全選手がリーガに所属する選手だ。
なるほど、プレミアでプレーするトーレスがフィット出来ないのもわかる。
逆にオランダは前線のチーム、リーグもバラバラな上、支える面子のいるオランダリーグのレベルは決して高いとはいえない。
クライフが指摘していた「国内リーグのレベルが違いすぎる」という点は、間違っていなかった。

スペイン代表は決してフィジカル的に凄いわけではない。
イニエスタなどは日本人となんら変わらない体型。
大型の選手はピケぐらいのもので、2008EUROのイタリア戦では、トーレスがイタリアディフェンダーに頭を撫でられ子ども扱いされていたのは記憶に新しい。
だが、その大会でも勝ったのはスペイン。
お互いをリスペクトしながら近いチームでプレーし続けていれば、ドイツやイタリアのような強者を打ち破ることが出来るという手本を、世界に示してくれた。

私は今大会オランダをサポートし続けていたが、イニエスタの決勝ゴールは今思い出しても涙が出そうになる。
あれが決まった瞬間、完璧に納得させられた感じがした。
シャビは決勝前、先日の私の記事に反論するかのように言った。
「このチームはバルセロナではない、スペイン代表だ。」

何はともあれ、決勝戦らしい緊迫感を持った歴史に残る素晴らしい試合だった。
スペインは今後もこのスタイルをもちろん継続し続け、王者らしいサッカーをして欲しい。
対するオランダ。攻撃サッカーの本家が、新鋭攻撃サッカーに敗れたわけだ。
それも、らしくない勝ちに拘る守備的戦術を用いて・・・。
ただ、今大会のスタイルは決して間違っていなかったと思う。
ここ20年では間違いなく、最も勝利を予感させるチームだった。
さらに磨きをかけて、オランダならではの弱者でも強者でもないフットボールスタイルを築き上げて、またスペインと次元の違うフットボールを展開して欲しい。

2010年W杯南アフリカ大会、最高のチームが決勝を勝った。
EUROから続くこの流れ、さらなる攻撃サッカーの時代の幕開けである。

南アフリカ大会~歴史が導き出す明日の勝者~

2010-07-11 05:26:00 | W杯
私は今大会、オランダを優勝候補の最右翼にプッシュしていた。
もちろんオランダチームの成熟度が、優勝候補の最たる理由だが、W杯を勝ち抜く長い戦いの中では他の様々な要素が重要になってくる。
私が目をつけたのが、南アフリカとオランダの歴史的背景。
南アフリカを最初の植民地にしたのが、このオランダ。
オランダ系の移民も多く、オランダにとってこの国は少なくともアウェイではないはず。
それが少しだけオランダに有利に働くとは思っていた。
ほんの少しぐらいは・・・。

ただ、スペインが決勝の相手と決まった時、その歴史的背景は決勝の結果を導くような、重要なものとなった。

16世紀後半、スペイン支配化からの独立を果たす際、最も肝になったと言えるオランダ東インド会社。
その貿易拠点はケープタウンで、上記にもあるが南アフリカにオランダ移民が非常に多いのはそのためだ。
オランダは喜望峰を中継点として海外貿易をどんどん伸ばしていく。
やがてスペインの衰退とともに、オランダがスペインから独立。
オランダはその後、貿易の主権を握り繁栄の時代が・・・。

この偶然の一言では到底片付けられない運命的な一致。
南アフリカという地で歴史が繰り返されるなら、勝者は既に決まっている。

EURO2008で最高期を迎えたスペイン代表。
主権を奪うのがどこなのかは、歴史の教科書を引っ張り出してきたら、そこに答えが書いてある、と私は考える。

南アフリカ大会~いざ決戦~

2010-07-10 23:53:35 | W杯
試合前日なので、メディアが両チームの様々な情報を取り上げている。
色々見ていて思うのは、今回はオランダチームの気合の入り方が凄いということ。
W杯後の移籍の話を中心に、メディアに色々と気をそらされる中、両チームで少しの違いが出ている。

マンチェスターユナイテッド行きの噂の立っているスナイデル。
前日に所属チームインテルのHPに「私は来年もインテルでプレーする、インテルのサポーター達にはオランダの優勝を望んでいて欲しい」とコメント。
この移籍話に対する大人な対応は、彼がオランダチームの中心選手としてプレー以外でもチームに貢献しているということを表すに充分な対応である。

またファンマルバイク監督は、リバプールのHPに「カイトは真のチームプレーヤー。彼の献身性が他の選手にポジティブな信号を送るんだ」とコメント。
所属チームの監督やサポーターにとって、W杯でそのチームの選手が勝ち進むことは、嬉しい反面、選手の疲労や怪我の心配を考えると不安な要素もある。
バイエルンのファンハール監督は、ドイツ、オランダが勝ち進んでいる今大会中に、「彼らが戻ってこないことが残念」と告白。
おそらくサポーターも同じ想いだ。
ファンマルバイク監督のコメントは、カイトを心配するリバプールのサポーターをフォロー。
それはリバプールサポーターの、オランダチームへのサポートへ繋がっていくと思う。

対するスペイン。
大会中セスクの移籍話が常に囁かれ、前日にもシャビが「彼の心はバルサと共にある」と発言。
彼の所属チームのアーセナルのベンゲル監督やサポーターにとっては、当然嬉しい話ではないし、この点はオランダと正反対。
プジョルも準決勝での得点を「バルサで決めたようなゴールで、動きもバルサ同様だった」とコメント。
スペイン代表はもう、バルセロナと共にあるといって良い。

ただ、それが吉と出るか凶と出るか・・・。

準決勝のペドロのカウンター。見えてる選手がトーレスではなくイニエスタだったら、パスを出したのでは・・・?

私は大会期間中、スペイン国民の民族意識の持つ取り払えない軋轢を何度か指摘してきた。
スペイン代表の発言を見ていると、ここに来てさらに、バルサとそれ以外という部分での何かを感じずにはいられない。
私はトーレス不調の理由も、そこにあるのではないかと思っている。
W杯前にトーレスは「プレミアはリーガより上」とはっきり発言していた。
アトレチコからプレミアムなステージに移ったトーレスが、再びリーガの他チームのフットボールにフィットするのは、心中穏やかじゃないだろう。
さらに言うと、そもそも監督はマドリーに縁の深いデルボスケだ。
彼がカシージャスやラモスにどう諭しているかは解らないが、その少しの気持ちが反映されてしまうのが、W杯だと私は思う。

バルセロナのサッカーを私は好きだが、ナショナルチームとクラブチームは別だと思っている。
サポーターの数で勝利が決まるわけではないが、南アフリカに住む多くのオランダ系アフリカ人や、世界のクラブのサポートを考えると、明日勝たねばならないのはオランダ。
オレンジ一色に塗られた観覧席を持つヨハネスブルグのサッカーシティースタジアム。
これが意味するのは、明日の勝者なのだろうか・・・?