CIRCUS, CIRCUS & CIRCUS

FOR LONELY HEROINES & BROKEN HEROES……目指せ、甲斐バンド全曲解説!

英雄と悪漢/07 かりそめのスウィング

2007-09-28 | album:英雄と悪漢
イントロは、バイオリンとガット・ギター。そしてもう1本のガット・ギターによるカッティングとウッド・ベースがすぐさま入って、曲が始まる。アンサンブルとしては、これ以上なにも足されずに、エンディングまで「スウィング」していく。

驚くのはヒット・シングル「裏切りの街角」の後に、こんなド渋な曲をシングルで出したその神経だ。実際、セールスは芳しくなかったそうだが、そらそうだわなあ。よく言えば渋いけど、要するに地味な曲だ。そもそもシングルのA面で出すタイプの曲じゃない。

090904追記
目指したのは、Django Reinhardtの「Minor Swing」と思われる(細かいことだけれど、エンディングの「Oh Yeah!」の間の手なんて、「The 甲斐バンド」のバージョンとそっくり)。かつて甲斐よしひろは「博多の色街で育ったから『かりそめのスウィング』みたいな曲ができた」といった内容の発言をしていた。子供の頃にはこんな音楽に囲まれていたのだろう。

だが、シングルで出したという事実をさておけば、「かりそめのスウィング」は名曲だと思う。「裏切りの街角」のその後、のような、「ふらりとあいつは舞い戻ってきた」「厚い化粧の下 荒れた肌にも過ぎてきた月日がよくわかるよ だけどそんなことは もうどうでもいい いい人たちの中であいつも僕も変わってしまった」という歌詞は、「裏通りで蠢く男と女」といった、初期甲斐バンドの世界がヒット曲「裏切りの街角」以上に表現されている。そして何より演奏がよろしい。バイオリンは誰によるものか知らないけれど、なにより松藤英男によるカッティングと大森信和のベースが見事に「スウィング」している。これが博多のライブハウスで数年キャリアを積んだ二十代前半の兄ちゃんたちの演奏なのだから、ちょっと驚いてもいいのではないか?

甲斐バンドは高い演奏力を売りにしたバンドではなかったし、実際、上手いバンドじゃなかったゆえに独特の歌の世界をつくりあげることができた側面もあったと思うんだけど、この曲に関していえば、上手いと思う。間奏のギター・ソロなんか、俺は今でもなかなか完璧には弾けないぞ。この演奏が、歌詞には一言も出てこないのにタイトルにつけられた「スウィング」という言葉に、実に説得力を持たせているし、歌詞の内容以上に、本曲を「裏クリスマスソング」にまで仕上げた大きな要素だと思う。エンディング、ブレイク&ベースの単音に続く最終コード、Dm6は、いつ聴いてもかっこいい。でもやっぱり、リアルタイムでシングルレコードを聴いたら、ちょっと途方に暮れたかもしれない。


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