聖なるズー

濱野ちひろ,2019,聖なるズー,集英社.（文庫版有）（11.28.2021）

　本書は、犬等とのセックスを行う、ドイツの動物性愛者たちの記録だ。
　男性でオスの動物を対象とするのがズー・ゲイ、女性でメスの動物を対象とするのがズー・レズビアン。オス、メスを問わない、ズー・バイセクシュアルもいる。
　そして、例えば、発情したオスの動物のペニスを肛門や膣に受け入れるのがパッシブ・パート、自らのペニスを動物の性器に挿入するのがアクティブ・パートだ。
　本書の読みどころは二点あると思う。
　一点目は、過去の性暴力被害の記憶に苦しむ筆者が、「暴力」の対極にある動物性愛のありように次第に共感し、傷ついたこころを癒されていくところだ。
　もう一点は、「ノーマル」なセクシュアリティとはみなされない動物性愛が、当事者たちによって、「愛」と深く結びついた、ロマンティックで、ときにはプラトニックなものとして扱われている点だ。動物性愛者たちは、「ノーマル」な異性愛者以上に、「ノーマル」志向であり、道徳的だ。
　そうとう濃度の高い衝撃的な内容であり、セクシュアリティと「愛」についての固定観念を揺さぶられずにはいられない作品であるように思う。

2019年 第17回 開高健ノンフィクション賞受賞作
犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」。
性暴力に苦しんだ経験を持つ著者は、彼らと寝食をともにしながら、
人間にとって愛とは何か、暴力とは何か、考察を重ねる。
そして、戸惑いつつ、希望のかけらを見出していく──。
・「秘境」ともいうべき動物との性愛を通じて、暴力なきコミュニケーションの可能性を追い求めようとする著者の真摯な熱情には脱帽せざるをえなかった。――姜尚中氏
・この作品を読み始めたとき、私はまず「おぞましさ」で逃げ出したくなる思いだった。しかし読み進めるにしたがって、その反応こそがダイバーシティの対極にある「偏見、差別」であることに気づいた。――田中優子氏
・ドイツの「ズー」=動物性愛者たちに出会い、驚き、惑いながらも、次第に癒やされていく過程を描いたノンフィクションは、衝撃でもあり、また禁忌を破壊するひとつの文学でもある。――藤沢周氏
・人によっては「#Me Too」の「先」の世界の感性があると受け取るのではないか。この作品を世間がどのように受容するのか、楽しみである。――茂木健一郎氏
・多くのファクトに翻弄された。こんな読書体験は久しぶりだ。――森達也氏

目次
プロローグ
第一章 人間と動物のアンモラル
第二章 ズーたちの日々
第三章 動物からの誘い
第四章 禁じられた欲望
第五章 わかち合われる秘密
第六章 ロマンティックなズーたち
エピローグ
あとがき