本と音楽とねこと

チャヴ、エスタブリッシュメント





 若くしてすい星のごとく現れ、またたく間に2冊の本の刊行により、イギリス本国だけでなく、世界の論壇を席巻したオーウェン・ジョーンズ。トマ・ピケティが手堅い実証による理論家であるとすれば、ジョーンズは、イギリス社会にはびこる貧困問題、とくに「チャヴ」と呼ばれるアンダークラス(労働者階級としてさえ認められない最貧困層)のそれについて、地を這うような取材を行い、抑制された怒りを行間にほとばしらせながら、底辺への競争を強いる社会を徹底批判する活動家だ。どストレートな、1970年代風の社会民主主義思想の展開は、復古的であるどころか、斬新でさえある。
 1979年のサッチャー政権の成立は、翌年のアメリカ合衆国におけるレーガン政権、さらにその翌年の日本での中曽根政権とほぼ同時に、なかば必然的に起こった事象であり、高所得層と大企業の税負担の軽減と社会保障の後退、公営事業の民営化、規制緩和、労働組合の解体、これらのことがらは、現在に至るまで、この三か国で同じく生起してきたものである。イギリス社会で、なぜ、生活に窮する人々の怒りが、政治権力とそのスポンサーである富裕層や大企業に向かわず、わずかな数の生活保護受給者に向けられるのか、その驚くほど日本社会の現状と近似した状況について、実に説得力ある緻密な説明を展開している点は、見事というほかない。
 この二部作を読んで、これは、マルクスの思想よりもミルズのそれを継承するものではないか、とも思った。ともあれ、文句なしの傑作であることはまちがいない。

オーウェン・ジョーンズ(依田卓巳訳),2017,チャヴ──弱者を敵視する社会,海と月社.(10.25.2019)

目次
はじめに
1 シャノン・マシューズの奇妙な事件
2 「上から」の階級闘争
3 「政治家」対「チャヴ」
4 さらしものにされた階級
5 「いまやわれわれはみな中流階級」
6 作られた社会
7 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔
8 「移民嫌悪」という反動
結論 「新しい」階級政治へ
親愛なるみなさんへ
ふたたび、親愛なるみなさんへ

これが、新自由主義の悲惨な末路だ!緊縮財政、民営化、規制緩和、自己責任社会…。支配層の欺瞞を暴き、英米とEU各国で絶賛された衝撃の書!


オーウェン・ジョーンズ(依田卓巳訳),2018,エスタブリッシュメント──彼らはこうして富と権力を独占する,海と月社.(10.25.2019)

目次
はじめに エスタブリッシュメントとは何か?
1 「先兵」の出現
2 政界と官庁の結託
3 メディアによる支配
4 警察は誰を守る?
5 国家にたかる者たち
6 租税回避の横行と大物実業家
7 金融界の高笑い
8 「主権在民」という幻想
結論 勝利をわれらに
みなさんの質問に答えつつ、もう一度、呼びかける(2015年版によせて)
解説:絶望しない左派のために(ブレイディみかこ)

国に「たかって」いるのは本当は、誰か?新自由主義・緊縮財政のもと、国民を騙し、困窮させ、分断しその一方で、臆面もなく自らの栄華を誇る人々のリアルな姿。イギリスと同じ不正義が、いま日本でも進行している。『チャヴ』著者、怒りの第2弾!!

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