「育成と勝敗のどちらが大事であるか」という二項対立の図式から考える
スポーツ思想・哲学/
ジュニア年代の指導者が育成を考える上で、どうすれば試合に勝てるのか、何をすれば選手は上手くなるのか、育成の目的は○○大会優勝である、プロサッカー選手の輩出である、というようなことのみに焦点を当てすぎると、目先の結果や効果といった近視眼的な状態に陥りやすくなります。
早ければ早い方がいい、子供は無限の可能性を秘めている、育成は指導者が適切に導くことが大事である、などの過剰な熱意や期待、関心は、過剰な管理、介入、操作に繋がってしまう危険性があります。
勝利至上主義の問題
ジュニアスポーツシーンでは、勝敗への偏重が心身の発達に負の影響を与えるとして、勝利至上主義の問題が声高に叫ばれています。確かに、サッカーの育成現場においても、精神主義的、非科学的な指導を中心に、育成を考える上で好ましくない問題は多々あると言えるのかもしれません。
それに伴い、「結果よりも育成」を支持する指導者は多いように感じますし、「勝ちに拘っている」というような発言をすれば「こいつは育成をわかってない」「自分が勝ちたいだけだ」などというレッテルを張られ、白い目でみられてしまうこともあります。
勝利至上主義とスポーツの本質
ただ、多くの問題が「勝利至上主義」というネーミングで語られているからと言って、「勝敗への拘りは悪」と即断することは、問題解決に向けての視野を狭めることやスポーツの現場、指導を窮屈にし、スポーツの醍醐味自体も奪いかねないような気もします。
研究者によって様々ではありますが、スポーツは「競争性」「遊戯性」「身体活動性(技能性)」の三つの要素が本質をなしていると考えられています。言い換えれば、スポーツは「一定のルールの基に身体技能を駆使し、勝ち負けの競い合いを楽しむこと」であり、勝利の追及なしにスポーツを楽しむことは難しいと言えるのではないでしょうか。実際、我々は「勝敗を競いあう楽しさ」というのがスポーツの醍醐味であることを肌感覚で知っているし、それがないスポーツは味気ないと感じてしまうでしょう。
スポーツにおいて、勝利を追及することは悪いことではありません。選手はもちろんのこと、指導者も同じです。勝利を追及することが悪なのではなく、それしか見えなくなってしまう、そのための手段を誤ってしまう、という指導者の指導観や倫理観に問題があるのです。
育成至上主義の問題
むしろ考えなければならないのは、勝利至上主義を批判するような連中です。
「ジュニア年代では勝ち負けに拘ることはよくない。質に拘ることだ。その後を見据え基礎をしっかりと身に付けることだ」
と、したり顔で育成の重要性を説くのですが、そういう指導者に限って選手にとっての意味や価値を超えた、押し付け・強制・強要とも言えるような指導をしている場合もあります。
ゴールデンエイジ理論に代表されるように、ジュニア期への過剰な期待や関心は「過剰性」に、誰でも指導に関する「表面的な情報」を手に入れられ、情報を得るという正当性は「誇大的」「独善的」な態度や振る舞いに繋がり、指導者主体、注入主義、早期専門化、偏向的指導に繋がりやすくなってしまいます。
心身の発達上の負の影響
という事を考えるのであれば、育成至上主義にも最善の注意を払うべきだと感じます。
指導者による方向づけ
サッカー経験があれば(もしくはなくても)明日からサッカーの指導者になれてしまいますが、その指導が、思い付きレベルやオレ流、自分の狭い経験から行われてはいけないように感じます。なぜなら、サッカーをしていたからサッカーを知っている、大人だから指導や教育ができる、という訳ではありません。サッカーの指導は自動的にパフォーマンス向上に繋がる訳ではないし、スポーツが自動的に教育になる訳ではないのです。むしろ、良かれと思ってやったことが思わぬ方向に進んでしまう「危険性」もあり、指導とはもろ刃の剣で、限界もあるのです。
サッカーの指導やスポーツは、道徳観・倫理観・スポーツ観・サッカー観・身体観・学習観など、深く幅広い視点を持った指導者によって方向づけられる必要があり、だからこそ、我々は学び続けなければならないし、学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならないのです。
育成への注目度の高まりから、「選手の成長は指導者次第」といった観念が広まっていますが、その方向性を見失い、問題の多くが指導者によって引き起こされるのであれば、なんと皮肉な事でしょうか。
※こちらも合わせて読んで頂けると理解が深まります。
