世界で一番高い山は?ときかれたら、だれもがエベレストと答えるだろう。山頂はネパールと中国(チベット自治区)との国境上にあり、チベット語でチョモランマ、ネパール語ではサガルマータという。この山の標高については、これまでネパールは1954年にインドが測量した8,848メートルを公式としてきた。一方で中国は2005年に再測量し、氷雪部分を除き8,844.43メートルと測定している。このためネパール側から登れば、より高い標高に到達したことになり、登山者はネパール側から山頂を目指す傾向があったという。ネパールは2019年、中国は2020年、それぞれ測量のための登山隊を登頂させ、GPS(衛星利用測位システム)も活用するなど、両国は新たな測量に基づいてエベレストの標高を8,848.86メートルとすると共同発表した。これにより世界の最高峰エベレストの標高はさらに86センチ高くなった。これには氷雪部分を含むとしている。
では、宇宙に一番近い山は?ときかれたら、あなたはなんと答えますか。
正解はチンボラソ。 知る人ぞ知る、南米エクアドルにある山の名。この山を名づけて「宇宙に一番近い山」といったのは、あの毛利衞さんである。NASAのスペースシャトル『エンデバー』から見おろした成層火山。赤道直下にありながら山頂部は氷河におおわれ、その壮大で美しい山の姿に感動した宇宙飛行士は、のちにこの山を宇宙に突き出た世界一高い山と表現したのである。
さて、世界の最高峰は先述のようにエベレスト、標高は8,848.86メートル。これに対するチンボラソは6,310メートル、その差2,538メートル。高さランキングでも世界の100位にもはるかおよばない。知る人も少ないこの山がなぜ宇宙に一番近い山となるのか。
ここでいう「標高」とは、平均海面からの高さを表す指標である。海抜高度で見た場合世界一高い山はエベレストであるが、赤道地域の方がエベレストのある場所(北緯27度59分)よりも地球の半径が大きく水面も高い。地球はもともと完全な球形ではない。地球は自転によって赤道近くに強く遠心力が働くからだ。地球の極半径(地球中心と極点を結ぶ距離)は6,356.775キロメートル、赤道半径は6,378.136キロメートル。
地球の自転速度は赤道上で最大となる。そのため、地球は遠心力で赤道周辺が膨れて楕円形となっている。正確に測ると赤道部分の半径はそしてチンボラソは地球の半径が最大となる赤道直下に近い南緯1度28分に位置するため、海抜高度ではなく「地球の中心から測る」と、地球上最も突出した山となるのである。いいかえれば、チンボラソの山頂は、地球の中心から6,384.4キロメートル離れた位置にあり、北緯27度59分に位置するエベレストの6,382.3キロメートルを2,100メートルも上回っているのである。これを高いというのに抵抗があるのであれば、エベレスト山頂よりチンボラソ山頂のほうが地球から飛び出している、つまり宇宙に一番近いところにある!といえる。
この世界は見る人によって価値観が変わる。ただ漫然と一点から眺めるだけでは物事の本質は見えてこない。対象に近づいたり離れたりすることで、視点のスケールを変える。つまり、自分の視点をどこに置くかによってものの見方や考え方が変わってくる。しかし、俗に視点を変えるというが、そんなに簡単なことではない。ここでは毛利衞という宇宙飛行士の目線にただただレスペクトするばかりである。