仮タイトル

『超時空要塞マクロス』(初代)輝×未沙中心だが
美味しい所はミンメイが持って行く二次創作(SS)ブログ。

イワン君と雅持さん

2016-04-05 | ウムイ星編
それは雅持が臨月に入った月だった。
「雅持ーー!育児休暇取ってきたぞー!」
「はあ?」
なんと。イワンがいつでも出産に立ち会えるように、そして産まれた後の雅持のフォローの為に育児休暇を取って来たと言うのであった。
「何考えてるのよ!信じられない!なんで私がパイロット辞めたのか分からなくなっちゃうじゃない!」
「あ~~それは隊長にも言われた」
「そりゃそうでしょうに!」
「でもほら、隊長ってああ見えても一応、父親としては先輩だし、初産だからって大目に見てくれたぞ!」
「パイロットの感が鈍くなるでしょーが。育児休暇から戻ったらコロナ大隊長は違う人になってたりしてね」
「…大丈夫だ。それでも月に一週間は隊長にしごいてもらう事が条件だったから」
イワンは涙ながらに訴えた。
「ま、それならよしとしましょう。あ、いたた」
「雅持!大丈夫か?!まさか?!」
「そんな訳ないでしょう、今お腹を蹴られたのよ。赤ん坊ながらにパパの馬鹿さ加減がわかるみたいね」
「そりゃないぜベイビィ…」
どんどんとキャラが変わっていくイワンであった。

それでも雅持は感心しているのだ。
まずタバコを止めてくれた事、食事を作ってくれた事、夜の営みを自粛してくれた事。
そう、”あの”イワンが、だ。
多分それはきっと一条隊長の助言のおかげだろうと思うと、隊長の家の方角に足を向けて眠れない雅持であった。
今、リビングでイワンは名づけに悩んでいる。
担当の木村先生は「産まれるまで性別を隠しておいてもいいんですよ」と言ってくれたものの、イワンがいつまでも「どっちだ?どっちなんだ?」とうるさいので、教えてもらった。
男の子だった。
雅持は自分に似た男の子であって欲しいと、切に思ったのであった。

そして、ついにその時が来た。
「いたたた」
「大丈夫か?!雅持!今タクシー呼ぶからな!」
なんでイワンは車の免許を取らなかったのか、と今更ながらに思う。
「えーと、あとなんだ?どうすりゃいいんだ?」
オロオロしているイワンを見ていると痛みも和らぐような気がした。
「病院に電話して」
「電話か、よしっ!」
イワンは電話をするものの、どう説明すればわからなく、更にオロオロするばかりだった。
その電話を雅持が剥ぎ取り、説明を始めた。
「はい、今20分おきで陣痛がきています。はい、はい、わかりました」
雅持は電話を切る。
「あれ?雅持、大丈夫なのか?」
「馬鹿ね、陣痛って言ったってず~っと痛み続けてる訳じゃないのよ。それよりタクシーが来たんじゃない?イワン」
「あ、そうだ。えーと、何持って行くんだっけ?」
「玄関に用意してあります。持って来てねイワン」
雅持はしっかりと入院準備をして旅行ケースに詰めていた。
「…はい」

病院に着くとまた陣痛が起こりはじめた。
「あいたたた」
「大丈夫か?」
そこに看護士達が走ってやってきた。
「レオノフさんですね?ご案内します。大丈夫ですか」
「はい、なんとか…」
「じゃ、ご主人もこちらへ」
「は、はいぃ」
分娩室隣の部屋に通された。
「いったーーーーい!」
「雅持~~」
看護士が時計を見る。
「陣痛が5分間隔になりましたので分娩室へ行きますね。ご主人も立会いますか?」
「はいっ」
「イワン…」
「もう少しだからな、頑張れよ、雅持」
イワンは雅持の手をぎゅっと握った。
「じゃあ、ご主人はこれを着て分娩室に入ってくださいね」
渡されたのは看護士と同じ手術着とマスクだった。
「はじめます」
そう言ったのは医者の顔をしたベンジャミンだった。

「痛いーーーーっ」
「まだ力まないで、頭は見えてるよ。もう少しだ」
「深呼吸してリラックスして」
イワンは何も出来ずにただ、ただ、雅持の手を握ってやる事だけだった。
それでも、爪が食い込んで血が流れていた。
「はい、すーーーはーーーー…はい!いきんで!」
その瞬間、大きな産声があがった。
へその緒の処置をし、産湯につかせて血をふき取る。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
まず母親である雅持にこんにちはの挨拶をさせる。
雅持の小指をぎゅっとつかんで離さないようにも見えた。
「次はご主人、抱いてみますか?」
「は、はい!」
まず手と腕全体に消毒液をスプレーさせられた。
それから赤ん坊を抱っこする。
「首を支えるように…そうそう」
「……」
「イワン?」
「なんか…生まれたての赤ん坊って…ぐにゃぐにゃしてて土偶みてえな顔してんのな」
ゴッ!
分娩台から雅持のアッパーカットが炸裂した。
看護士はくすくす笑っている。
「では新生児室で預かりますので、もうよろしいですか?ご主人」
「あ、はいよろしくお願いします」
イワンは赤ん坊をそろーっと看護士に渡した。
「じゃ、ご主人も外でしばらく待っていてください」
「え?」
「後産がありますので、奥さんはもうひと頑張りしなくちゃいけないんですよ」
「あ、そーなんですか…」
イワンは分娩室を後に新生児室へと向かった。
腕に『レオノフ』のタグが付けられ、ベビーベッドに寝かされたのが自分の子供だ。
「…坊主、父ちゃん頑張るからな」
しばらくすると雅持がストレッチャーで運ばれてきた。
「雅持」
ストレッチャーの横に並び、名前を呼んだ。
「ありがとうな、そしてお疲れ様」
雅持はニコッと笑った。
「ご主人、奥様は308号室へ運びますので、後からお越しください」
「はい」
遠くなるスレトレッチャーを見送り、イワンはなんだかウズウズしてきた。
「イィヤッホー!」
イワンは浮かれて軍エリア側の出入り口を出る。
もちろん向かう先は輝の所だ。
それから輝は延々と子供の話を聞かされるのであった。

おしまい