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ミニマリズムをキーワードとした
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*Writing*DJ Mix*Disc Review*

『リッチー・ホウティンの進化するDJと機材』

2006-01-15 19:00:30 | ■minimal techno
テクノロジーと歩む音楽がテクノであると断言するリッチー・ホウティンは、その彼の言葉通りに機材の機能的進化とともに可能となるテクニークを真っ先に取り入れ、常に進化するテクノを具現化しているアーティストである。

前回のミックスアルバムである「DE9:Closer To The Edit」の時と、最新ミックスアルバムである「DE9:Transitions」をリリースした後でのDJブースの違いからその進化の様子を見てみよう。



「DE9:Closer To The Edit」をリリースしたばかりの2001年7月、新宿リキッドルームでは、次のような機材をDJブースに持ち込んでのプレイだった。

(1) Pioneer CDJ-700s
(2) Technics SL-1200 MK3 × 2
(3) Allen & Heath XONE62
(4) VAIO (Final Scratch)
(5) Roland TR-909
(6) Electrix Repeater (Loop Based Recorder)
(7) Lexicon MPX-1 (Multi Effector)
(8) Roland CV PEDAL

この時の、彼の興味はスローなBPMで、かつ強烈にリズムのあることであった。
ミニマルな要素で空気間を見つけることができて、人を圧倒しすぎる音ではないところにバランスを見つけていると述べていた。

この時のスタイルは、Final Scratchから音を出し、Electrix Repeaterを使って気に入った部分のループを作り、ミックスをしながらリバーヴやディレイといったエフェクトをかけていた。
TR-909は、フロアを見て、クラウドのテンションに触発されて全く新しいパーカッシヴなリズムを作ったり、プレイされている曲にリズムを加えたり、ライヴ性の高い使い方をしていたようだ。



そして、2005年12月に渋谷Wombでの使用機材は次のようになっている。

(1) Technics SL-1200 MK2 × 2 (Stanton 680 EL2)
(2) PowerBook G4 × 2 (Final Scratch, Senato Scratch Live, Ableton Live)
(3) Allen & Heath XONE92
(4) Red Sound Sound Bite (Loop Based Sampler)
(5) Sennheiser HD25 (Headphone)

まず機材の重量が大幅にダウンされた。機能を減らしたわけではなく、機材自体の大きさが小さくなったりソフト化したためである。

基本的には、2001年のプレイとスタイルは変わっていないが、彼自身も「DE9:Transitions」リリース時に言及している通り、より曲と曲との組み合わせや移り変わり、空間に響く音をコントロールするということに重点を置いている。
彼の場合、音での空間作りを意識しているからだろう。リバーヴやディレイといった空間系エフェクトを多用する。

リッチーのDJ機材に見て取れるように、未来のDJは、コンピュータとオプションハードウェアだけを持ち込んでのプレイになるのではないだろうか。
そして、彼のように、いかに機材の進化を活用し、オリジナル性を持って音空間をプロデュースできるかが重要になるのであろう。

『ジェフ・ミルズの使用機材について』

2005-10-23 13:48:52 | ■minimal techno
デトロイトの奇才、ミニマルテクノのパイオニアであるジェフ・ミルズの生み出すサウンドは、シンプルでありながら非常に独特の曲構成・音質を我々に感じさせる。そんな彼が、どのような機材を使用して様々なサウンドを紡ぎだしているのかはファンならずとも興味のあるところだ。

ROLAND TR-909と彼とは切っても切れない関係で、DJライヴの際、常にブースにセッティングされることは周知の事項であるが、他の制作機材はどのようなものを使っているのか。ここで数年前(恐らく1997年)に掲載された雑誌(サウンド&レコーディング誌)のインタビューから、彼が当時、使用していた幾つかの機材を紹介してみよう。



まず音源であるが、
(1) OBERHEIM M-1000
(2) WALDORF Pulse
(3) SPECTRALAUDIO Pro Tone
(4) KORG X3

サンプラーには12ビッドのラフなサウンドがいいらしく(5)AKAI S-612を4台使用。

シーケンサーは(6)YAMAHA QX21、リズムに変化を付けたい時には(7)DOEPFER MAQ-16を使用する。

ミキサーに(8)YAMAHA Pro Mix 01(9)TASCAM M-2600

レコーダーに(10)ALESIS ADAT、そして音に深みを出したい時には、(11)TASCAMのアナログ・レコーダー48を使うらしい。いづれの機材もごくシンプルな操作性のもので、シンプルなセットで選択肢の少ないことは音作りには良い傾向だとしている。



スタジオの作業環境については、敏速に、快適に作業できるセッティングを保ち、なおかつリラックスした雰囲気作りを心がけているそうだ。方法として、全ての機材のスイッチを全部つけっぱなしにしておく。そうすることによって精神的に落ち着いた気持ちになれるらしい。ちょっとしたシーケンスを流しっぱなしにしたりしているうちに、自然と曲作りの方へ流れる事が多いのだという。

具体的な作業方法において、彼はコンピューターを使わないらしい。ADATをメインに数少ないシーケンスで音のヴァリエーションのみで曲を展開させ厚みをつける。この作業方法は彼流のミニマリズムを表現する方法ということだ。意外にもアナログライクな機材や作業方法は、実際には暖かみや深み、厚さを出すといった音に対するこだわりから来ているものなのである。



ここまでが、当時の記事に書かれていた事柄である。そして、つい最近、2005年11月号のサウンド&レコーディングで、彼が現在の使用機材について言及しているが、ほとんど機材が変わっていないことに驚いた。

彼はいまだにコンピューターを使用せずに、YAMAHA QX21というシーケンサーを使って作業している。私もこのシーケンサーを使用したことがあるが、ものすごくシンプルな機材で、現在となっては原始的ともいえるレベルだ。



それから、幾つかの機材を列挙している。

・KORG Wavestation × 2台
・KORG N364
・KORG X3
・WALDORF MicroWave XT
・OBERHEIM
・TASCAM DA-45HR


・ALLEN&HEATH GL2400(ミキシング・コンソール)
・YAMAHA NS-10M(モニタースピーカー)
・MSP10(モニタースピーカー)
・GENELEC(モニタースピーカー)



ここで、確認できるのは、KORG X3は当初からお気に入りで今でも愛用しているということ。ストリングス系の音を絶賛している。ベールラインに多様するというOBERHEIMは、今回機材の型番を明かしていないのだが、恐らく同じ機材であろう。

ある種の限定された条件の中で作業することが好きらしく、その方がよりシンプルに作曲が行えるとのこと。こういった環境の中で作業し続けてきたことによって、よりパーソナリティやキャラクターを出せるということらしい。5分間という限られた世界の中でアイディアやコンセプトを表現するために、音楽をよりミニマルに、よりシンプルにするように心掛けるのが、彼のトラックメイキングへの姿勢である。

『ADAM BEYER - DRUMCODEの激しいグルーヴ -』

2005-05-01 17:12:58 | ■minimal techno
ミニマルテクノのDJは多くいるが、その中でも独特のGROOVEを持ち、シーンをリードしているDJにADAM BEYERがいる。
スウェーデンのミニマルテクノシーンは熱く、才能あるDJたちが良質なトラックを数多くリリースしているが、そんな中でも、3台のターンテーブルを駆使してのDJプレイとユニークなトラックをコンスタントにプロデュースするADAM BEYERは、ひときわ輝きを放っている。

「若干12歳でドラムを始め、その後もリズムに対する執着を捨てず、自信が最もうまく使いこなせる楽器、ターンテーブルとミキサーに出会い、DJを始める。ヒップホップやハウスとのリズムを追っていた時、テクノに出会う事となる。

その後、同郷のトップDJ、CARI LEKEBUSCHとのユニット、PLANET RHYTHMによって多くのテクノアンセムを世に放つ。若干19歳で自身のレーベル、“DRUMCODE”を設立し、10枚のビッグリリースを放出。その後もサブレーベル“CODE RED”を立ち上げ、世界的なテクノプロデューサーとして認知される。2002年には新レーベル“TRUESOUL”を設立し幅広い範囲でシーンに影響を与えている。

彼の良質なエンジニアリングスキルとハードでミニマルなDJスタイルは、現在のテクノシーンで最も熱い支持を受けているDJとして世界中を飛び回っている。」

*WOMB MONTHLY FLYER No.44より引用


彼のメインレーベルである“DRUMCODE”は、太いバスドラの渦巻くリズムから繰り広げられる激しいグルーヴが、全てのトラックに共通する特徴として見られる。
ストイックなほどに硬派でハードミニマルのスタイルは、レーベル設立当初から貫かれているようである。
ただし、単調なドラムループのようなミニマルではなく、シンセやベースによる繊細な上音がメロディアスに絡まるのである。

参加アーティストも非常に豪華絢爛で、CARI LEKEBUSCH、JOEL MULL、OLIVER HO、最近ではユニットとして共に活動しているHENRIK Bなどが優れたトラックをリリースしている。

『ミニマルテクノに関しての一考察』

2004-12-31 16:52:43 | ■minimal techno
 ここでは、ミニマルテクノに対する私のアティテュードを軸に、その音楽性のあり方について述べてみたい。そもそもミニマルテクノのミニマルという言葉は、絵画や彫刻におけるミニマルアートに由来する。ミニマルアートとは、形態・色彩をできるかぎり簡素・無飾にした造形芸術のことであり、単純な幾何学的形体を無機的なスタイルで造形した抽象絵画や彫刻を具体的には指す。それらミニマルアートは、このサイトのタイトルネームともなっている「ミニマリズム」というコンセプトに基づいて制作されたか、あるいは鑑賞する受け手に、そのようなコンセプトを提示する性質のある作品である。「ミニマリズム」を簡潔に説明するならば、芸術において、できるかぎり少数の単純な要素を用いて最大の効果を達成することを目指す考え方と言うことができよう。

 「ミニマリズム」のコンセプトは、そのまま音楽の世界にも移行される。音楽のミニマル性やミニマルミュージックの起源にさかのぼると歴史的に相当遡るし、膨大な説明を要するので、ここでは一切割愛する。ただ、その特性として、ミニマルと名のつく音楽には、同一音、あるいは同小節の反復性ということが前提として挙げられる。これは様式的な特徴であり、観念的にはその他の要素も含まれると思われる。このサイトでテーマとされているミニマルテクノも、もれずにこの特性を持ち合わせている。ミニマルテクノと呼ばれている以上、当然のことといえるが。音楽としてのミニマリズムの追求とは、そのミニマルな要素である1音源や1小節が反復し、絶妙なバランスを持って、全体として構成された時、最大としての作品として完成していることがミニマルトラックの目指すところである。

 こうした事柄を踏まえた上で、高いクォリティーを持ったミニマルトラックとは如何なるものになってくるのだろうか。それはミニマリズムを貫徹し、その存在だけでも一つのアートとして完結しているようなものだろう。いわば、それは宝石でいう原石の輝きを持ち、非の打ち所のないアンバランスを内包しつつ、絶妙なバランスで至高の美しさを表現している自然のようなものだろう。ミニマルアートの一つの定義付けとして、

最高度に控え目で抑制された表現、機械的な正確さ、匿名性と個人的な感情移入の欠如、それらがミニマルアートの特徴であり、その価値と限界を示している、(「ミニマルアート」千葉成夫著より)

というようなものがある。これを強引な感もあるが適用するならば、ミニマルアートとしてのミニマルテクノであるためには、作品は限りなく制作者の意図が稀薄であり、無機質化していなければならない。人為的でなく自然が作り出した原石のように、それはただ一つの素材であると同時にまた芸術作品としても成立しているようなものに他ならないわけだ。しかし、実際のところ、いわゆるミニマルと呼ばれているトラックの少なくない数がこの定義からはずれているにもかかわらず、そのジャンルに依然、含まれている。それは、私たちが認識しているミニマルトラック、すなわちテクノミュージックが、ミニマルアートの様式的要素を初めから内包しているからである。もともと、テクノミュージックの曲構成自体が全ジャンルを通して、音源・小節の反復の法則で成り立っている。このようなことから、一般にミニマルテクノとは、その要素である反復が強調されたスタイルを持つテクノと言うことができる。決してミニマルアートとして成立しているものではないと言うことだ。

 しかしながら、このようなミニマルアートとしての条件とでもいうべき定義付けを満たしているトラックも中にはある。リッチー・ホーティンがプラスティックマン名義で追求し続けたシリーズは、シュールなまでにミニマルなテイストのトラックが多い。アルバム「コンシュームド」に収録されているトラックは、排他的なほどミニマルアート的印象を与える。また、ジェフ・ミルズもアルバム「フロム・ザ・21」で、かすかな音が21回カウントだけするトラックをリリースしている。これらは、ミニマルアートの源流を意識すると優秀なトラックとなりうるものだが、エンターティメントとしては淋しい印象に引き下がることは否めない。

 本来、ハードミニマルテクノが生まれた背景にはナイトクラブのフロアがあり、ダンスミュージックとしての側面を見逃すわけには行かない。DJたちはミニマルトラックを制作する時、間違いなくフロアでのクラウドの反応を意識し、ミックスする(される)ことを前提にそのトラックに機能的追求をする。この側面からは、ミニマルトラックは音源的位置づけをされ、ミニマルDJは一般のDJと違って、選曲をし1曲1曲つないでいくDJプレイをするというよりは、音源としてのミニマルトラックを使ってライブをする感覚に近いだろう。こうした需要を満たす質の高いミニマルトラックとは、DJがクラウドをエキサイティングなダンスへと誘う目的に応える優秀な音源でなければならない。つまり、ひとつの作品として完璧であるよりも他の作品とのコンビネーションがより高次の世界を作り出し、エキサイティングなグルーヴとして生まれ変われることが重要になってくるのだ。それゆえに、真のミニマルDJからは、音数が多く派手な展開が多いトラックは自然と嫌われるはずである。そのトラックは、もはやミニマルトラックとは呼べないからである。そのトラックはスタイルとしてのミニマルテクノを逸脱してしまっているのである。

 結論として、ミニマルトラックの優劣とは、そのトラックの目指す方向性によって、問われる資質が変わってくると言うことだ。アートとしてのミニマルトラックなのか、エンターティメントとしてのミニマルトラックなのか、道は大きく二つに分かれている。あるいは、その二つのベクトルさえも超越し、どちらの条件をも満たしているトラックが真に素晴らしいトラックと言えるのかもしれない。また、逆の言い方をすれば、そういう卓越したトラックが生まれるための土壌として、「ミニマリズム」が理解され、ミニマルアートとしてのミニマルトラックがエンターティメントとして受け入れられるようなシーンの進化ならぬ変化が必要であり、作品側と聴衆側のフェイズが価値観の統合性として合わさった時、ミニマルトラックはより高いレヴェルへと昇華するはずなのである。

written @ 1999/12/12
copyright(c)1999 electric_soundscape

サイト開設について

2004-12-31 02:38:56 | ■minimal techno
1999年から立ち上げた「minimalism」というミニマルテクノをテーマとしたサイトも管理人自身のクラビング活動が衰えるとともに更新がすたれ、事実上、停止していました。

しかし、2004年から管理人が新たにアンビエントDJという音楽活動を始めたことにより、ミニマルテクノという領域を超えて、「ミニマリズム」をキーワードとした電子音楽全てに扱う領域を広げ、様々な視点から分析・探究していきたいという衝動が起きました。

これを契機にサイト「minimalism」を新たにblogという形でリニューアルし、上記のテーマ内容で徒然なるままに執筆活動を再開したいと思います。
訪れていただいた皆様、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。