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5つの目標を作り始まった、永住LIFEの幸せなオーストラリア永住権への道

幸せなオーストラリア永住権への道 139 NO FEAR 恐怖に負けるな

2008-02-27 18:38:38 | Weblog
このままじゃ負け犬になる。

チュックの言った言葉は僕の心の内側にある触られたくない部分にいきなり手を突っ込まれたようにずしりと重く響いた。僕は何も言うことができずにショックで言葉を失った。すると隣で怒りを隠すことなく僕の話に賛同してくれていたジュンが、師匠であるチュックに僕の代わりに噛み付いた。

「おい、チュック。負け犬ってなんだよ。それは永住ライフに対してひどすぎないか?やつらがやろうとしていることはずるくて卑怯なやり方じゃないか、自分の大切な物を奪われそうになったら俺だって頭にくるぜ。チュックはちがうのかよ。」

ジュンは頭に巻いていたタオルをほどき、作業台の上に叩きつけた。普段は冷静でやさしいジュンが怒る時は、いつもひとつの理由だけ。それは自分の友達や仲間が傷つけられた時だけだった。

チュックはそんなジュンにかまわずに肩に担いでいたXXXXビールのケースを作業台に脇に備え付けてある棚にしまうと、フーッと深いため息をついてから、僕とジュンの顔を交互に見て言った。

「おっと、ここにも勘違いした犬っ子が一匹いたか。うちにはバレル以外に、もう一匹いたんだったな。そんなに吠えたかったら表にでて二匹でキャンキャン吠えていろ。」

もともと職人気質で腕はいいが決して気の長いほうではないチュックは、僕等二人にもう一度一瞥を加えると、ばかばかしいと言いながら部屋を出て行こうとした。ジュンが僕のためにチュックとケンカになるのは耐えられなかった。急いでチュックの前に回りこみ、僕はチュックに謝った。

「ごめんよチュック怒らないで、ジュンは僕のために本気になってくれたんだ。二人をケンカさせるために来たわけじゃないんだ。気を悪くしないでよ。」

「じゃあ、お前は何のために来たんだ。弱音や泣き言を言うために、ここに来たのか?ちがうだろ。俺はこう見えても誇り高きクラフトマンだ、自分の仕事がうまくいかないからって、それを誰かのせいにして愚痴や泣き言を言ったことはないぞ。お前も一人前の男だろ、ウォーターマンだろ、ちがうのか?俺は仲間として、お前の泣き言なんか聞きたくはないぞ。」

チュックは残念そうな顔をしながら、僕の顔をじっと見つめ、作業台の脇の丸イスに腰掛けてジュンのことを呼びつけ、自分の隣に座るように言った。ジュンは不満そうな顔をしていたけれど、本気で僕を怒鳴りつけたチュックの迫力に押されるように静かにイスに座った。

「いいか永住ライフ。お前は随分と腹をたてて怒っていたようだけどな、それは本当は怒っているんじゃなくて恐がっているんだ。お前がここで吐き出したのは怒りじゃなくて恐怖なんだよ、恐れなんだよ。分かるか?それを感じたから俺は相手にしなかったんだ。」

チュックの言う言葉に僕はまたショックを受けた。僕が新しいボディーボードショップのやり方に腹を立てていたのは本当は恐れなんだとチュックは言った。怒りではなくて恐れ、その言葉をすぐには受け止めることができなかった。

ショックを受けてぼーっとしている僕と、チュックの言う言葉の意味がよく理解できなかったジュンを諭すようにチュックが話しを続けた。

「相手がどんなやりかたでこようが本気でなんとかしてやろうと思っていたら怒りや不平なんてぶちまけているひまは無いんだ、どうしたらいいか対処を考え、行動しなきゃいけないんだ。よし、お前等に分かりやすいように話してやる。

海に入っていて大きな波が突然やって来たとき、自分が想像していたよりもはるかに大きなうねりがやってきた時、自分の背のたけの何倍もあるような大波が眼の前に迫ってきたとき、その巨大な波に飲まれないようにテイクオフして乗りこなしていくのに大切なことはなんだ。」

「びびらないこと、ためらわないこと、かな?」

ジュンが目をつぶり大波に向かってテイクオフしていく姿を想像しながら応えた。僕もジュンと同じように目を閉じて目前から巨大なうねりが入ってくるところを想像してみた。はるか沖から海水を高くもりあげながら迫ってくる大波、僕はまずその大波に乗ることを心に決意する、タイミングを合わせていつもより早く大波のスピードに追いつくようにパドリングをしながら海水をこぐ、大波に追いつかれないように、飲み込まれないように。

十分なスピードがついてきたところで僕は振り返る、すぐ背後には巨大な波がいまにも白波の大口を開けて崩れんばかりに迫る。次の瞬間に僕の体を波のトップへとどこまでも引き上げる、エレベーターで5,6階までひきあげられる気分、胸に迫り来る恐怖。負けるな恐怖に飲まれるな、失敗を考えるな、腕をまわせ、体を研ぎ澄ませ、ためらうな、ボードを押し込め、ゴーゴーゴー。いったぁー!

僕は胸の中に広がりそうな闇のような恐怖に打ち勝ち、ツナミのような大波にテイクオフをした。滑り降りる急斜面、岩のこぶのように固い水面、跳ね回るボードを両足と体中で押さえ込み、大きな白い大口につかまらないように走りぬけた。

「やったぁー!乗りこなした僕は恐怖に負けなかった。」

僕は思わず声をあげて、目を開けてイメージの世界からもどってきた。目を開けてチュックの顔をみると満足そうに微笑んでいた。その顔はいつものチュックと同じ、優しく、誇り高い海の男の顔だった。

「わかったよチュック、大波に乗るには恐怖に負けちゃいけないんだ。恐れは迷いになり全ての行動を狂わす、いつもの自分のライディングができなくなり結局は大波に飲まれるんだ。僕はツナミに飲まれる前に自分自身の恐怖に飲まれていたんだ。」

「さすが永住ライフ、そして俺の一番弟子のジュンだ。大切なことが分かっている。なかなか感がいいな。それじゃあ、もう一つ問題だ。どんなに腕が引きちぎれるほどパドリングしても追いつけないようなツナミのような大波が入ってきたらどうする。それでも、どうしても乗らなければならない、そんな大波がやってきたらどうする。」

僕は考えた、どんなに腕の筋肉や背中の筋肉を鍛えても自分一人の力では乗りこなすことができないツナミのような大波がやって来たとき。それでも恐怖に打ち勝ってツナミに乗らなければならない時、僕はそんな時どうするだろうか。諦めて逃げ出すか、大波に飲まれることが分かっていながら無謀にも一人で海に出て行くか。

その答えはいつか見た映画の中にあった、それはハワイに年に数回やってくるツナミのような大波で何十年も誰も乗ることができないと言われていた巨大な波に乗る男達のストーリーだった。彼等は一人ではなくチームだった、大波用の板を開発する者、体を極限まで鍛える者、みんなでたくさんのアイデアを出し合い、強大な波を制するために一つになった。そして今まで無かった方法で大波に乗ることを考え付きついに誰も乗ることができないと言われた大波にのることができた。

「わかったよ、チュック。一人ではとても太刀打ちできないような大波がきたら僕はチームを組むよ。そしてみんなで一つになって力を出し合うんだ。トーイングだよ、トーイングサーフィンをするよ。僕は恐怖に決して負けない。仲間を信じて大波がやってくる海に入る、そして仲間にジェットスキーで引っ張ってもらう、僕一人のパドリングじゃツナミにテイクオフすることはできないからね。

そして万が一ツナミに飲まれてもすぐに発見してもらえるようにヘリコプターから見ていてもらう、そしてたとえ波に飲まれても、もう一度チャレンジすることができるようにジェットスキーで救助をしてもらうようにするよ。一人では無理でも心から信頼できる仲間と一緒なら、きっと乗りこなすことができるよ。」

「そうだ永住ライフ。だからお前が恐怖を感じている場合じゃないんだ。お前が何があろうと大波に乗ると心に決めたなら俺達はいつでもジェットにでもヘリにでもなってやる。俺もジュンもお前達シリンダーズのチームだからな。」

NO FEAR 恐怖に負けるな。
僕達はチームだ、何があろうとツナミに乗ってやる。僕の心に本物の火が灯った。


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幸せなオーストラリア永住権への道 138 負け犬

2008-02-20 19:37:27 | Weblog
マサヤの住むアパートからシェブロンアイランドの僕のアパートまで信号につかまることもなく一気に走った。どこに向けてそんなに急いで走っているのかは自分でもよく分からなかったけれど、そこはこれから行こうとしているチュックのファクトリーよりもっとずっと先にあって、全速力で走っていかないと後ろから迫る何かに追いつかれてしまうような気分だった。ただ、さっきまでと違うのは僕は一人で走っているわけじゃないという、強くてあたたかい気持ちが胸の真ん中を照らしていた。

家の前に停めたスカイブルーの72年製フォードファルコンに素早く乗り込みエンジンキーを回した。おなかのそこから感じるような低い排気音が響き、エンジンに火が入り出発の準備ができたことを体で感じることができた。僕はアクセルをふかし、ほとんどプラスティクが使われていない、鉄でできたピカピカの重い車体を動かした。

チュックのファクトリーがあるバーレーヘッズに行く途中、ゴールドコーストハイウェイを右折する瞬間に、ある光景が目に入った。それは直感的に感じたことだけれど、不思議とひと目見ただけで、それがどういうことか理解することができた。僕は車を道路の脇によせ自分の直感を確かめるために、少し前までFOR RENTになっていた空き店舗の前まで歩いていった。

ガラスのドアに貼られていた赤と白のFOR RENTの看板は無くなっていて、工事の業者が入り、店の中では数人のワーカー達が忙しそうに働いていた。コンクリートが剥き出しの部分とボードが張られている部分があり工事はまだまだ始まったばかりの様子で、外から見てもここに何ができるのかは誰にも分からない段階だった。

僕は店の中から大きなボードを運びだしてきたワーカーに声をかけた。ワーカーのおじさんは最初はめんどくさそうな顔をしたけれど、ボードをトラックの荷台に積み込み終えると振り返って応えてくれた。

「すいません、ここに何のお店ができるのですか?」

「サーフィンだかボディーボードだかの店ができるらしいぞ。俺達は詳しく聞いちゃいないが、なんでもジャパニーズがオーナーらしいな。おっと、おまえもジャパニーズか?それにその格好はサーファーにちがいないな。オープンが楽しみだな、マイト。」

おじさんはそう言うと大きな声を出してガハガハと笑いながらポケットからロングビーチというタバコを取り出して火をつけた。頭の先から胸元にかけて冷たいものが通っていった。僕もおじさんにつられるようにポケットからタバコを取り出して、火をつけた。

この場所はシリンダーズとは目と鼻の先でほんの2、30メートルしか離れていない。ゴールドコーストハイウェイを挟んで反対側にある大きなホテルの1階にあり、サーファーズパラダイスの一番にぎやかな通りからも、海からも、1ブロックだけシリンダーズより近くに位置していた。

「こんなに近くに店を開けて、僕達と本気で戦うつもりなんだ。」

「うん、なにか行ったか?」

心の中で思ったことを無意識に声に出してしまったようでワーカーのおじさんが驚いて、僕の顔を見た。おじさんの声で我に帰った僕は、お礼を言うと急いで車にもどった。さっきまで胸の中にあったマサヤから貰った温かい情熱は、大きな不安で一気に冷たくなった。

今まで目には見えなかったツナミが現実に形になって僕の前に現れた。それは逃げ出したくても、どこまでもリアルな現実だった。店に戻ったら、この店の場所についてもマークに話さなければならない。

車を走らせながら、僕に何ができるかをよく考えてみた。どうしたら来月までにお金を支払うことができるか、どうしたらボーディーボードブランド達とこれからもいい条件で取引ができるか、どうしたらシリンダーズを存続することができるか、どうしたら、どうしたら…。頭の中をグルグルといろいろな思いがまわり、同時に新しくできるジャパニーズオーナーのボディーボードショプに対して激しい怒りの気持ちが湧いてきた。

怒りの感情が僕の頭を支配すると、もういいアイデアなんて浮かんではこなかった。僕達のお店のコンセプトをマネしやがって、ボディーボードブランドに圧力なんてかけやがって、あんなに近くに店をオープンさせるなんて、なんてひどいやつらなんだ。僕の頭の中は、怒りで一杯になった。

バレーヘッズの交差点を右に曲がりチュックのファクトリーにたどり着く頃には、肩に重いものが乗っているような、のどのあたりに石がつまっているような酷い気分になっていた。車をいつもの草むらに停めドアを閉めると、チュックの飼っている大型犬のバレルが大きな声でワンワンと吠えながら僕にめがけて突進をしてきた。いつもなら、しばらくの間は顔中がよだれだらけになるまで舐めるというバレル流の挨拶を喜んで受けるのだけれど、今日はとてもそんな気分にはなれなかった。

遊ぼうよ、遊ぼうよ、と言わんばかりに大きな白い尻尾を振りながら、小刻みにジャンプをして、バレルが僕の後ろからついてくる。それでもバレルを相手にはしないでチュックのシェーピングルームへと一直線に歩いていった。

大型のキャンピングカーが幾つか組み合わさったようなチュックのファクトリーのドアは空いてたままになっていて中からジュンの大好きなサブライムの音楽が聞こえてきた。薄暗いファクトリーに入ると上半身裸のジュンが頭にタオルを巻いて、顔にはシェーピングマスクをつけサーフボードのフォームを夢中で削っていた。あまりにも楽しそうに、そして真剣にシェープをしているので僕が入ってきたことにもまるで気がついていない様子だった。

「ジュン!調子はどう?」

僕が急に声をかけるとジュンは驚いて目をパッと見開いて、手にもっていたシェーピング用の機械を落としそうになった。それでも僕を見つけると嬉しそうな目で微笑み、シェーピングマスクを外し、体中についているフォームの白い削りかすを手で払い落としながらシェーピングルームから出てきた。

「ヘーイ永住ライフ、どうしたんだ。今日は遊びに来てくれたのか?チュックなら今、出かけているぜ、バーレーのショップにオーダーされたサーフボードを届けに行ったんだ。まぁそのうち戻るだろ。それより調子はどうだ?お前、なんだか暗い顔してるぜ。大丈夫か?」

ジュンにそう聞かれると、れいの工事中のボディーボードショップを見てから僕の中で大きく膨らんだ怒りを、これまでの話と一緒に一気にぶちまけた。お金のこと、ボディーボードブランドのこと、シリンダーズやマークのこと、そんな心の中のマイナスを一気に吐き出すとジュンも僕と同じように怒りははじめた。

「いったいどんな汚いスネーキングやろうなんだよ。店のコンセプトをそっくりそのまま真似て、ボディーボードブランドに圧力をかけてボードが手に入らないようにして、そのうえシリンダーズのすぐ近くに店をオープンするだと。同じ日本人でもぜったい許せないぜ。永住ライフ、絶対に負けるなよ。俺も応援するぜ。」

「ああ、絶対に負けたくない。そんなやつらに僕たちの夢をうばわれたくない。」

僕はジュンの言葉にこたえながら、自分がどうしたらいいのか分からない不安に包まれた。マークにも、僕にもどうしたらいいか分からない。マサヤもジュンも力を貸してくれる、でも肝心な方法が僕の頭の中でまだみつかっていなかった。

「おっ、永住ライフ来てるのか?表でバレルがずいぶん騒いでいたぞ。」

ファクトリーの入り口のドアからXXXXビールの箱を肩に背負ったチュックが入ってきた。チュックの顔を見ると、心の中の不安をまた誰か同じように賛同してくれるであろう仲間に聞いてもらいたくなって、チュックにもジュンにしたのと同じように話し始めた。ジュンも怒りをかくすことなく僕の隣で聞いていてくれた。

チュックは僕の話を聞きながらも顔色一つ変えなかった。そして、最後まで聞き終えると僕が期待していたのとは正反対の言葉を僕に投げかけた。

「永住ライフ、お前がそんな気持ちならシリンダーズはなくなるな。
いいか、このままじゃお前は負け犬になるぞ。」

負け犬になる。チュックの言葉が僕の胸に突き刺さった。


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幸せなオーストラリア永住権への道 137 ルームナンバー119

2008-02-13 18:10:40 | Weblog
マークの話を聞き終えると、僕はいてもたってもいられなくなった。ツナミに立ち向かうためのアイデアが浮かんだわけでも、解決策を見つけたわけでもなかった。ただ、その場にボーッと立ちすくだままでいると大きな渦に足元から持っていかれそうな気持ちになったからだった。

「マーク、僕ちょっと行ってくる。夕方までには戻るから心配しないで。ターニーにも今の話をちゃんと説明してあげてね。」

「おーい、永住ライフ。お前どこに行くんだ。どこかに行けば問題が解決するってもんじゃないだろ。」

僕はマークの言葉を最後まで聞かずにバックルームから飛び出した。心配そうな顔でバックルームのドアの前に立っていたターニーの脇をすり抜けながら、僕は店を飛び出して走っていった。

ゴールドコーストハイウェイから2ブロック先を海側に曲がると、すぐにマサヤが住んでいる緑色のアパートがある。前にマサヤとサーフィンをした時にはいつもこのアパートの前に立っているビューパシフィックアパートメントという看板の前で待ち合わせをしていた。

アパートの入り口のドアを開けるとエントランスから中に入るのにはオートロックのドアに鍵がかかっていて、部屋番号の書かれたブザーを鳴らして内側から開錠してもらわないとドアが開かないシステムになっていた。僕はマサヤの部屋の番号までは知らないので、管理人室のブザーを鳴らし、ハーフジャパニーズのマサヤの部屋を教えてほしいと頼んだ。

お店から走ってきたのでずいぶんと息がハアハアとしていたのと、さっきマークから聞いた話のせいで険しい顔をしていたので管理人のおばあちゃんに心配をされたけれど、僕がマサヤの働いている店のマネージャーで緊急の連絡を持ってきたことを告げると、おばあちゃんの管理人さんは急いで自分の部屋に戻り、マサヤの部屋の番号を確認して教えてくれた。

ルームナンバー119番

オーストラリアでは緊急の場合の電話番号は000番でまったく関係ないけれど、マサヤのアパートのルームナンバーが日本で緊急時に消防や救急を呼ぶ時にコールする119番だったことに僕は驚いた。たしかに今のシリンダーズには緊急事態が発生していて、おしりについた火を消してくれる消防車や、容態が悪化したお店を治療してくれる救急車が緊急で必要だった。

僕はゆっくりとマサヤの部屋の番号を押した。ルームナンバー1,1、9、。電話の呼び出し音のような機械音がして、しばらくするとマサヤのハローという声が聞こえた。

「マサヤ、僕だよ。永住ライフだよ、シリンダーズのことで話があるんだ。ドアを開けてくれないか。」

マサヤは何も言わずに、返事をする代わりにオートロックのドアを開錠するブザーを押した。ビーッという間の抜けた音の後にゆっくりとエントランスのドアーが僕の前で開いた。薄暗い廊下をルーム119番を探しながら僕は歩いた。右側に折れる廊下を曲がると薄暗いトンネルの先でゆっくりとドアが開き、太陽の明るい光が差し込んできた。あの光がルーム119だ。

マサヤは別段、機嫌が悪い様子でもなく、いつものように落ち着いた調子で僕を部屋に招き入れてくれた。大学の友達とシェアをしていると聞いていた部屋はよくある2ベットルームのアパートだった。共用のリビングとキッチンが中央にあり、その両脇にはそれぞれの部屋があるタイプだった。ただ普通と少し違うのはリビングの中央に僕の身長ほどもある大きな木のオブジェが飾られていて、それに数枚のサーフボードが立てかけられるように専用の棚が作られていた。そして壁には大きなラスタ柄の布が掛けられていた。

僕はマサヤが勧めてくれた真っ赤なペンキで塗られた丸い木のイスに腰掛けた。マサヤは何も言わずに冷蔵庫からよく冷えたコーラを2本取り出して僕に手渡してくれた。マークが今のシリンダーズの状況をどこまでマサヤに話し、何を言ったのか、僕は知らないけれど、とにかくマサヤには最初に謝らなければならないと思った。

「マサヤ、ごめんね。せっかく働きにきたのに帰らせるなんて。きっとマークも悪気があったわけじゃないと思うんだ。今のお店の状況をどこまでマサヤに話したか分からないけれど、マークも気が動転していて、どうしたらいいのかわからないんだと思う。シリンダーズの仲間として僕が謝るよ。どうかマークとシリンダーズを許して欲しい。」

「そんなことを言いにきたのか?永住ライフ。」

マサヤは少し、驚いたような表情をしながら手に持っていたコーラーの栓を開けた。そして、それを喉を鳴らして飲み込むと、頭をかきながらしばらく窓の外の景色を見てから、僕の方を向いた。

「永住ライフ、俺は帰らされたんじゃなくて、自分で帰ってきたんだ。」

「自分で帰ってきた?」

僕は意味がわからなくて、ビックリしながらマサヤの言った言葉をそのまま繰り返した。マサヤは目を大きく開いてから、そうだと言うように静かにうなずいて見せた。

「俺もマークからたぶん永住ライフが聞いたことと同じことを聞いたんだと思う。ジャパニーズツナミの話、日本人のボディーボードショップの話、そいつらがシリンダーズのスタイルをそっくりそのまま真似する話、そして来月までに金を払わなきゃ、店のボードを持ってかれる話、ジャパニーズがつぶしにかかっているんだろシリンダーズを。ちがうか?」

マサヤが聞いた話は僕がマークから聞いた話と全部同じようだった。マークはマサヤにも包み隠さず今のシリンダーズの状況を話していたんだ。ただ、マサヤの言葉にはどこかに少しトゲがあるように感じられた。

「今、マークには金が必要だろ、来月までに大金を用意できなきゃシリンダーズがつぶれちまうんだからな。だから俺がいて余計な時給を払うより少しでも返済にあてたほうがいいと思ってマークに自分から提案したんだ。平日は俺はシフトに入らない、土曜日曜の忙しい時だけヘルプで働くって。」

マサヤは少しいらついたような、悲しいような複雑な顔をしていた。今日のマサヤの行動は自分がいなくなれば少しでもシリンダーズが楽になるだろうと考えた、優しい気持ちからの行動だったんだ。

僕がシリンダースを大切に思うように、マサヤもシリンダーズを大切に思っていてくれた。そしてマサヤはマサヤなりの考えと行動でベターだと思うことをシリンダーズのためにしてくれていたんだ。それが分かると、僕の心の中にあった想いは確信に変わった。

「マサヤ、自分がいなくなればシリンダーズのためだなんて勝手に考えるなよ。シリンダーズにはマサヤの力が必要なんだよ。今回のツナミはパワフルで大きいよ、正直に言って僕もマークもどうしたらいいのか分からない。だから今、マサヤがいなくなったら確実にシリンダーズはツナミに飲まれてしまうんだ。マサヤだけじゃない、ターニーや、チュック、シリンダーズの仲間みんなの力が必要なんだよ。僕はシリンダーズを失いたくない、力を貸してくれマイト。」

マサヤはだまって僕の言葉を聞いていた。そして何かを考えるように静かに目を閉じた。自分の想いを、シリンダーズの状況を、そして自分の大切なものを心の中でもう一度整理するようにゆっくりと目を閉じた。

「永住ライフ。俺、自分の大切なものを誰かに奪われるような想いはもう二度としたくない。俺に何ができるか分からないけれど、一緒にやらせてくれ。」

マサヤは何かを決意したように立ち上がり右手を出して握手を求めてきた。僕は嬉しくって思い切りマサヤの手を握り締めた。マサヤは笑いながら痛い、痛い、と言って手を振りほどいた。

店が終わる少し前にシリンダーズに来るように僕はマサヤに頼み、手に持っていたコーラーを一気に飲み干した。炭酸が気持ちよく胃の中を刺激して大きなゲップになって飛び出し、だいぶ気分が落ち着いた。さぁ次の場所に行かなければならない。僕はマサヤにお礼を言って玄関を出ようとして、あることを思い出してもう一度振り返った。

「マサヤ。マサヤが事件に巻き込まれたり、緊急事態が起こって助けて欲しい時にはどこに電話する?」

「緊急事態かぁ、内容にもよるけど警察か救急かな?000番だ。だけど、それがどうかしたのか?」

僕はマサヤにウィンクして笑いながら応えた。

「000番はきっとマサヤを助けてくれるだろ。日本ではそんな時は119番をコールするんだ。マサヤのルームナンバーは日本のヘルプナンバーなんだよ。」

マサヤの笑顔を見て、僕は後ろでにドアをしめ、また外に向けて走り出した。暗い廊下のトンネルを抜けると眩しい太陽の光が一斉に僕の顔に降り注ぎ、エントランスを抜けるときには管理人のおばあちゃんがニッコリ笑いながら手を振ってくれた。

ルームナンバー119は僕の心をしっかりと救助してくれ、ツナミに立ち向かう仲間と勇気を僕に与えてくれた。


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幸せなオーストラリア永住権への道 136 ツナミの正体

2008-02-06 18:23:20 | Weblog
ジャパニーズツナミがやってくる。

僕にはマークの言う言葉の意味が分からなかった。ツナミというのは日本語の津波という言葉と、同じ意味、同じ発音の言葉で英語で言うツナミは日本語が語源になっていることは知っていたけれど。なぜ、そんな巨大な波が僕等をめがけてやってくるのか、今回のツナミとはいったい何なのか理解することはできなかった。

ただマークの真剣な表情と、いつになく落ち込んだ話し振りから何かとんでもないことが起こりつつあることはすぐに想像ができた。

「いいかい、永住ライフ。サーファーズの街にサーフショップはいくつある?」

マークは今回のツナミの大きさ、パワーの強さを僕に教えようと、ゆっくりと質問を始めた。大切なことは相手の頭で考えさせながら話し、理解をさせるという、いつものマークの常套手段だった。僕は一気に結論を聞きたいという焦る気持ちを抑えながら、ひとつ、ひとつ、理解しながらツナミにたちむかうための情報を得ることにした。

「ローカルショップが3つ、大手資本のサーフショップが5つ。日本人がやっている店が1つ。それに僕達シリンダーズを合わせると全部で10軒だ。」

「それじゃあ、そのうちサーフボードをメインに置いているのは何軒だ?そして日本人のスタッフが常勤しているのは?」

僕は指を折りながら、サーファーズパラダイスの街の中心を南北に走るゴールドコーストハイウェイの南側の端っこから、北側の端っこまで、ひとつひとつのお店を頭の中に思い浮かべながら考えてみた。

10軒のお店の中には洋服がメインでサーフボードはディスプレイ程度にしか置いていない店や、ローカルオージーをターゲットにした観光客はほとんど行かないような店もあり、その店、その店に独自のカラーがあった。

「サーフボードをメインに扱っている店は全部で6軒、常勤ではなくても日本人スタッフがほぼ毎日、働いている店は4軒だね。シリンダーズはここに入れてもいいのかな?僕は毎日働いているけれどサーフボードがメインかと聞かれれば正直、ボディーボードがメインだしなぁ。」

「よし、いいところに気がついた。じゃあ質問を変えよう。サーファーズの街の中でボディーボードを200枚以上ストックしていて、日本人スタッフが常勤している店は何件ある?」

この質問は簡単だった、そんな店はゴールドコーストハイウェイの南の端っこから北の端まで探しても1軒しかないからだ。僕は考えるまでもなくニヤッと笑いながら即答をした。

「そんな店は1軒しかないよ、僕達シリンダーズだけだ。」

マークも僕につられたのか、できの悪い生徒がまんまと自分が導いた回答に到達したのに満足をしたからか、目をクルッと回して軽く微笑んでから、低い声で正解だと答えた。それでもすぐに腕を胸の高い位置で組みながら、僕等の側にせまるツナミについての解説を始めた。

「そう、俺達は今までこの街でオンリーワンのボディーボードショップだったんだ。だから、他のサーフショップとサーフボードの種類や数、ブランド、他のいろいろなことでも競争する必要がなかったんだ。なぜなら俺達は違う種目で勝負をしていたからな。どこかに比べて早いとか、力が強いなんて関係なかったんだ。他のお店が競馬の馬だとしたら、俺達は障害物レースの馬さ、同じ馬でも種類が違うから最初から争う必要が無い。だって障害物レースはここでしかやっていないんだからな。

だからスポンサーも協力的だったろ。まぁ、今回の場合はボディーボードブランドのことだな。好きなブランドをなんでも仕入れることができたし、支払いも納品の3ヵ月後やなかには半年後でもOKなんてブランドさえあっただろ。」

確かにマークの言うとおりだった。僕等はこの街で唯一のボディーボードショップで、ある程度お店が認知されてからは、どこのボディーボードブランドもとても協力的だった。サーフボードに関してはサーファーズパラダイスの各お店に、ブランドごとに優先順位があって、あちらのお店に商品を入れているから他の店は仕入れることができないとか、優先順位が上の店からクレームがあるから入荷できる数に限りがあるなど、いろいろな制約やしばりもあった。

しかし、いままでの僕等にはそれがまったくなかった。サーフボードはチュックのオリジナルブランドとシリンダーズブランドの板しか置いていないし、ボディーボードは支払いは後で好きなブランドを好きなだけ仕入れることができた。だから資金の少ないシリンダーズでも200枚を越えるようなストックを持つことができたんだ。

「先週、3つのボディーボードブランドから同時に電話があってな、今までの商品の支払いを来月中に全て完済しろって言われたんだ。もし、払えない場合は商品の引き上げと、今後、一切のシリンダーズとの取引を中止するってな。」

マークはそこまで話すと顔からゆっくりと血の気が引いていくのと同時にソファーに深く体をうずめていった。それは、いつもどこか余裕があって諭すように僕を導いてくれていたマークとは違っていた。一気に5歳も年を取ったように生気のない顔をしていた。

「いったいなんで、そんなことになったのかな?マークは理由を知っているの。」

マークの顔を見ていると僕の胸の内側の胸騒ぎが大きくなり、頭の中に広がり始めた不安と闇に捕まってしまいそうになった。僕はそんな気持ちから逃げるようにマークに質問をした。早く僕等を飲み込もうとしているツナミの正体を知りたくなったからだ。

「ああ、それはもう突き止めたよ。来月の終わり頃にサーファーズの街に日本人観光客をメインターゲットにした女の子の水着や洋服を扱う、ボディーボードショップがオープンするらしい。そこに日本で幾つかのサーフショップを経営している投資家の資本が入るらしいんだ。そこから各ボディーボードブランドに圧力がかかったようでな。どうやら、うちをつぶしにきているらしい。」

ジャパニーズツナミの正体が僕にも理解できた。ボディーボードにターゲットを絞っているところも、女の子の水着や洋服を中心に展開しているところも今のシリンダーズの戦略とピッタリ同じだった。ただ一つ違うところは、僕等には十分な資金はなく、相手にはボディーボードブランドに圧力をかけるのに十分な資金力があるというところだった。

現実的に言えば、来月中に支払いが出来なければ僕等のお店からメインブランドのボディーボードが消えてしまう。シリンダーズを通じて海に恩返しがしたいというマークの夢も、商品の仕入れや企画に参加しながら自分のお店を持ちたいというターニーの夢も、シリンダーズで人に接しながら自分のルーツを知りたいというマサヤの想いも、そしてシリンダーズを成功させてビジネスビザを取り、オーストラリアで生活をしたいという僕の夢も一瞬で消し飛んでしまう。

「マーク、マサヤを帰らしたのは間違いだよ。今回のツナミにはマークが一人でパドルしても、僕が必死に水をこいだってとても間に合わないよ。シリンダーズの仲間みんなで一斉にオールをこがなければ、本当にツナミに飲まれちゃうよ。」

いつも自信があって、僕の先生のようだったマークが天井を見つめて落ち込んでいるのを見て本気で思った。

僕は、この夢をシリンダーズを最後まで諦めない。


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