木組みと土壁の平屋の家、通称「くろnecoハウス」の荒壁塗りが終了した。そこで、プロの左官Eさんより教えてもらった荒壁塗りの方法を紹介する。荒壁塗りにおいても地域や使う材料によって違いがあるので、一つの例としてとらえて欲しい。
壁の面積は、畳30枚ほど。素人2名により左官集団「チームつばくろ」を結成。初日のみ左官Eさんと奥様に手伝って頂き、チームつばくろ with E2として作業を行った。
作業期間は7月22日~8月10日の間に延13日、約21人日である。通常は塗り手3人に対して才取り(運び手)1人で行うそうだが、初日以外は2人で作業したため、効率が悪かった。
材料
・仕込み済み荒壁土・・・約2トン
・切苆(約6cm)・・・1.5袋 無農薬栽培。2010年群馬県産。
道具
・耕運機
・角スコップ
・長靴
・養生用テープ
・マスキングテープ24mm
・クロスマスカーテープ550mm
・才取り棒
・一輪車
・左官バケツ
・左官用ポリ舟
・左官用手クワ
・左官用洗いブラシ
・左官用ちり刷毛
・鏝板
・鏝 各種
荒壁土のこね直し
昨年10月29日に仕込んでおいた荒壁用の土をこね直す。仕込み期間が予定より長引いてしまったため、土の上に被せておいた切苆2.5袋分の分解がかなり進んでいた。そのため、新しく1.5袋分の切苆を追加し、耕運機でこね直した。仕込みの時によくこねてあったので、5往復ほどで混ざった。
新しい切苆を加え耕運機でこね直す
ちなみに、仕込み期間を長くしても壁の強度は変わらないそうだ。ただし、仕込み期間が長い方が藁苆が分解され、細かい繊維がたくさんできるので、雨には強くなるらしい。また、仕込み期間が長いと、藁苆の灰汁が出て、柱などにシミを作ってしまう。そのため、養生をしっかりと行い、柱などに付いたら、すぐにチリぼうきで拭き取る必要がある。荒壁土を仕込んでしばらく寝かせておくと、茶色い土が薄緑色に変わっていく。しかし、この土を竹小舞に塗りつけてしばらく経つと、色が少しずつ茶色に戻っていく。これは藁苆から染み出た色が、紫外線などによって消えるために起こる現象らしい。
仕込みの土を実際に塗ってみると、小石ほどの土の塊が残っていて、作業しにくいことがあった。耕運機の刃には、ちょうど土の塊ほどの間隔が開いているので、よく混ぜたつもりでも土の塊が残ってしまうのは仕方がないことなのだろう。ちなみに、荒壁土を混ぜるには、耕運機を使う以外にも、ユンボで混ぜたり、専用の撹拌機を使う方法があるそうだ。
土の運搬
土はこね場から角スコップで一輪車に積んで、ポリ舟まで運び、手クワで固さを調整しながらこね直す。広いところではポリ舟から才取り棒ですくって歩いて運ぶが、足場などがある狭いところでは再度一輪車に積んで、そこから直接土をすくい取り塗り手に渡す。
養生
柱や桁、床などが土で汚れないようにマスキングテープやクロスマスカーテープを使って養生を行う。今回は柱や桁にチリじゃくりを入れてもらっているので、ちりじゃくりに沿ってマスキングテープを貼る。チリは20mm出ているので、24mmのマスキングテープを使うと、1回で柱の角まで養生できて都合がよい。床面はマスキングテープの上にクロスマスカーテープを貼ってビニールを伸ばし、マスキングテープで固定する。また、窓や柱・桁などを必要に応じてクロスマスカーテープで覆って保護する。
マスキングテープは貼ったままでいると、柱などに糊が残ってしまうので、土を塗り終わったら速やかにはがすようにする。
才取り棒
荒壁土を塗り手に渡すには、大きなフォークですくって、投げ渡す方法もあるようだが、今回は才取り棒を使った。
才取り棒は柄の下に羽子板状の板がくるようにして使う。こうすると柄の先端に土が引っ掛かり落ち難くなる。
才取り棒で荒壁土をすくうには、まず、ポリ舟の中の荒壁土を平らに均す。次に、才取り棒を縦に使い、才取り棒の羽子板の幅で土に筋を入れる。さらに、才取り棒の先で1回にすくう分を3つに分け、切苆の絡まりを減らす。最後に、3つに分けた土の下に才取り棒をすべり込ませてすくい取る。慣れるまでは、ポリ舟の角や端を利用して土をすくうと取りやすい。
塗り手に土を渡すには、まず、才取り棒の土が載っている羽子板を鏝板の上に載せる。次に、塗り手に才取り棒の上に鏝を内向きに当ててもらう。最後に、才取り棒をゆっくりと引き抜くと、土が鏝板の上に残る。
才取り棒での土の受け渡し
運び手は才取り棒に土を取ったら、塗り手のそばで待っている。塗り手は土が必要になったら、「はい」と声を掛ける。塗り始めは次々と土を小舞に盛り付け、運び手が忙しい時に土を伸ばすようにすると効率がよい。
荒壁塗り
荒壁土を塗る工程は、表塗り、裏撫で、裏返し塗りの3工程に分かれる。
表塗りは竹小舞の片側から荒壁土を塗っていく作業であるが、どちら側から塗るかは地域によって、個々の壁や現場の状況によって違ってくる。今回は小舞の横竹側から先に塗った。一般的には縦竹側から塗ることが多いそうだが、縦竹側から塗るよりも土の引っ掛かりがよく、塗りやすいように感じた。塗り始める方向の違いによるメリット・デメリットについては、『土と左官の本 4』の「竹小舞の荒壁土は,横竹側から塗るか,縦竹側から塗るか?」(p73)という記事が参考になる。
塗る順番の基本は、中塗りなどと同じくロの字に塗っていくが、小舞竹(篠竹)の上に土を盛って伸ばすようにすると、小舞がグラつかず、塗りやすい。チリ際や貫の上下などは、鏝で土を押し込むようにするとよい。
荒壁土を塗る時は、竹小舞の反対側にはみ出る土の量や形が一定にそろうようにする。これは土が少し固まった後(今回は翌日)に、はみ出た土を下から上に鏝で撫で上げ(裏撫で)て、裏返し塗りの土を絡ませ、一体化させるためである。はみ出る土の量や形をそろえるには、水と切苆の量および鏝の圧力のかけ方がポイントとなる。また、鏝を上下左右に大きく動かし、薄く塗り伸ばすと、はみ出る土が多過ぎたり、つながったりしてしまい、一体化の効果が減ってしまう。
土を均一にはみ出すのは難しい
表塗りは土の厚さを貫面に合わせるが、裏返し塗りは竹小舞が見えなくなる程度に薄めに塗る。貫がなく、竹小舞だけの壁は柱芯に小舞をかけるので、土の厚さは表塗り、裏返し塗りともに同じ厚さにできる。
乾燥
土の乾燥には風通しが重要なので、できるだけ窓を開けるようにする。また、ユニットバス周りなど壁で囲まれたところは扇風機を使って風を送るとよい。乾燥の目安は土が元の茶色に戻った具合でみる。また、よく乾くと土が痩せてひび割れ、貫や柱、桁との間に1cm以上の隙間ができる。
余談
当初の予定では、ツバメが巣をつくる頃に塗るつもりで「チームつばくろ」と名づけた。あわよくば、ツバメが巣の材料用に壁土を持って行ってくれればと思っていた。しかし、実際に塗り始めたのは7月に入ってからだったので、ツバメの姿は見かけなかった。代わりにハチの一種が土を持って行ってくれた。
荒壁土とハチ
参考文献
・『土壁・左官の仕事と技術』p77-79
・『家づくりビジュアル大事典』p65-67