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【現代思想とジャーナリスト精神】

【転載】週刊金曜日2/23(金) 11:10配信と『私見』

前橋市長選と京都市長選を比較分析
1⃣木下ちがや・政治学者評論『群馬・前橋市長選は野党系新人が圧勝 保守王国をも揺るがせた民意』
2⃣私見~『広原盛明のつれづれ日記』をもとにして~



❶木下ちがや・政治学者評論『群馬・前橋市長選は野党系新人が圧勝 保守王国をも揺るがせた民意』

 実に呆気にとられる展開だった。2月4日(日)午後7時、NHKが同日投開票の群馬県前橋市長選挙で当確を打ったのだ。

 選挙速報の当確といえば、通常は早くて午後8時。それがこんな時刻に打たれたのは、前橋市長選の投票終了時間が午後7時だったからだが、当然ながらその結果は現職で、自民党と公明党の推薦で4期目を目指した山本龍氏勝利の「ゼロうち」だろうと思われた。ところが当確が出たのは、立憲民主党など野党側の議員が支援した新人、小川晶氏に対してだった。

 最終的には小川氏が6万486票で、山本氏の4万6387票に圧勝。保守王国といわれる群馬県の県庁所在地・前橋で、リベラルな野党候補が圧勝するという事態に、政界関係者に衝撃が走った。同市長選は前回が保守系候補同士の対決、前々回は山本氏と共産党推薦候補の対決で、いずれも山本氏が圧勝していた。野党系が入る隙間がないと思われた街の市長選における野党候補勝利の背景には、自民党が裏金問題で有権者の信頼を急速に失う情勢とともに、群馬県の野党勢力間の巧みな同盟戦略があった。

 小川晶氏は千葉県出身、41歳の女性弁護士だ。群馬県議会議員を4期連続で務め、前橋市長選には今回が初の立候補だった。「時代の流れが変わる予感」をスローガンに「学校給食の無償化」「ヤングケアラーや子どもの貧困対策」「人権、平和教育推進」と野党ならではの政策を堂々と掲げ選挙戦に挑んだ。そしてこの小川氏の果敢な挑戦を支えたのが群馬県内の「保守」と「革新」だった。

水と油が組めばこうなる

 同市長選の背景を詳しく取材した人物によると、現職市長の山本氏は前回市長選で生じた保守陣営の分裂を放置。「デジタル政策」一辺倒で、インフラ整備や市街地の空洞化対策にはきちんと取り組まなかった。これに経済界と保守系の一部が不満を持ち、選挙戦で「寝て」しまった。一方、野党側を仕切ったのが元民主党参議院議員の角田義一氏。角田氏は共産党に候補者一本化を働きかけ、水と油の関係にある連合群馬とつないだ。山本陣営は「小川は共産党と組んだ」とネガティブキャンペーンを張ったものの、むしろ大人気ないと保守系が反発したのだ。

 そしてもう一つ重要なのが女性たちの動向だ。筆者のSNSまで情報をくれた前橋出身者によれば「複数の女性に聞いたところ、私の同年代はみな投票に行って小川氏に入れたそうです」とのこと。ちなみにその女性の友人の父親は90代後半でゴリゴリの自民党支持者だが「山本が勝つんだろう」ということから今回は初めて投票に行かなかったそうだ。「やっぱり日本を変えるのは女性。だが大差がついた最大の要因が、小川氏に連合票と共産系の票が流れたことにあるのは間違いない。水と油が組めばこうなる」との分析だった。

 このように前橋市長選における野党系候補の圧勝の原因は、自民党のスキャンダルだけではない。野党系に実力のある候補者がいたことに加えて、野党側が「大人の距離感」を持ちながら静かに連携し、不満を持つ有権者の受け皿になることで、保守の分裂を誘った点にもある。

 今回のこうした野党の戦略は

昨年10月の参議院徳島・高知選挙区補欠選挙で野党系候補の広田一氏が圧勝した際に採った戦略とほぼ同じである。しかし他方、昨年12月には菅直人元首相の地元で長年野党系が市長を担ってきた東京都武蔵野市長選で、野党系は僅差とはいえ敗北している。

 野党やリベラル系が強い地盤でも、適切な戦略がなければ野党は勝利できない。そして、前橋市のような保守地盤でも、野党が適切な戦略を採れば圧勝できる。岸田文雄政権と自民党の支持率の急落は、野党伸長の客観的情勢をもたらしている。だが有権者のマインドと、それぞれの地域にマッチした同盟戦略を採らなければ、この情勢を主体的な力に転化できない。そのことを今回の前橋市長選の結果は明らかにしたのである。

木下ちがや・政治学者


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❷【私見】

2024年2月4日。この日、東の前橋市と西の京都市で市長選が行われた。京都市長選は過去に出馬している福山和人氏が全政党の支援を断り、無所属市民派を掲げた。去年の9月からひとり街頭で演説を続け、その信念と政治姿勢は多くの支持を得ていた。その福山和人氏が開票日に接戦のすえ自公派に敗れた。
この模様を自らも京都市長選に出馬したことのある元京都府立大学総長・龍谷大学教授の経験のある広原盛明氏は連載ブログ
『広原盛明のつれづれ日記】2024-02-07
「支援」と「推薦」はどう違うか、市民派首長選挙における政党の立ち位置に共産は失敗した、2024年京都市長選から感じたこと(2)

においてこう記している。

<転載開始>
 福山氏はこのように、保守層も含めて「門川市政」に疑問を感じる広範な市民が支持できる市長選挙をやろうと考えていた。その政治姿勢に共感する多彩な市民が福山陣営に集まり、支持の輪が次第に広がっていった。「共産対非共産」でもなく「保守対革新」でもない、京都ではかってない新しい選挙構図が生まれつつあったのである。共産も中盤戦ころまでは自制的に振舞い、このまま行けば勝利する展望が広がりつつあった。ところが、この情勢に危機を感じた松井陣営が最後に打った手が「反共キャンペーン」だった。そして、この「反共キャンペーン」の〝挑発〟にまんまと乗せられたのが共産だったのである。京都の事情を何も知らない田村委員長がある日突然やって来て、「京都市長選は自民党政治と対決だ」とぶった瞬間から、京都の空気が変わった。「支援政党」であるはずの共産が前面に立ち、市長選の終盤を「反共攻撃打破!」一色で染めた瞬間から、市民派選挙は「政党選挙」へと変貌したのである。

 だが、今回の京都市長選は貴重な教訓を残した。民意が多様化し、政党も多党化している現在、首長選挙を「政党選挙」として展開することはもはや不可能になったということだ。これからは「支援」の在り方が首長選挙のカギになる。この情勢の変化を理解できず、複雑な選挙情勢を「反共攻撃」としか受け止められないような政党は消えていくしかない。福山氏は実に立派な候補者だった。40歳で司法試験に通った苦労人弁護士は、穏やかな風貌と飾り気ない語り口で多くの有権者の心を掴んだ。こんな素晴らしい候補者は、やはり「政争の都・京都」でしか生まれない。30年余に及ぶ「共産対非共産」の不毛な政治的対立から抜け出て、「市民の市民による市民のための市政」を実現するのは容易なことではない。でも、その可能性を見せてくれたのが福山氏だった。福山氏にはぜひ「三度目の正直」に臨んでもらいたい。私の周辺の老いぼれたちは、みんな「生きてその日を迎えよう」と決意している。
<転載終了>


この広原氏が指摘した「完全無所属市民選挙」を展開したのが小川昌(あきら)元県議だった。その選挙については、週刊金曜日で政治学者木下ちがや氏が執筆しているとおりと思う。<了>

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