源氏物語に災害の場面なんてあるのか? というと、2つあります。「野分」の巻に台風の後の六条院、「須磨」「明石」には、大暴風雨・雷・高波に襲われる光源氏の姿があります。そっちの方を見てみます。
3月初めの巳の日に「上巳の祓え」というのをやりました。今の雛祭りはその進化したものです。流し雛などは、穢れを雛に託して流してしまうもので、祓えの意味を現代につなげています。
この「上巳の祓え」、亡き霊魂を呼び寄せ、その力で災いを祓うというのですから、ちょっと怖いこともあります。下手をすると、亡魂が手に負えなくなるかもしれません。
須磨にいる光源氏は、鬱々としていますから、気分転換の意味も多分あって、都落ちの陰陽師を呼び、形ばかりの祓えを行わせます。天気はいいし、時期はいいし(今年でいうと4月8日)、遊び感覚でしょうね。
それが、突然の、大暴風雨・雷・高波です。一行は、雷鳴と波に追われるように、やかたに走り帰ります。「高潮というもので、人命が失われることもあるそうだ」など語るうちに、落雷、やかたの一部は焼け落ちます。源氏物語としては、稀に見る自然災害の場面なのです。
ところで、地元の漁民たちがこのやかたに集まって来ます。高貴な存在への信仰みたいなもの、と説明されることもあったり、作者がどんなつもりでこのことを書き加えたのかわかりませんが、今読んでみると、光源氏級のやかたは高台にあるに決まっていますから、避難の感じがします。食料も貰えるかもしれませんしね。
瀬戸内海に津波が起きるのか、ネットを見るとテーマのひとつですね。その受け売りですが、江戸時代に2m程度のものがあったとか。
ならば平安時代にもあり、その詳細を作者が伝聞していたこともあり得ることです。光源氏の遭遇したものは、地震や津波ではなさそうですが、都の女性である作者にとっては、海の自然災害をリアルに描くことはそう容易ではないし、求められたことでもなかったことでしょう。
ともあれ、優雅な物語の中の荒々しい自然災害です。