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さめのくち

日常の記録。

観るなら字幕版で|『新感染 ファイナル・エクスプレス』

2017年09月12日 | 2017映画
「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編


映画の「食べ合わせ」が悪かったと言いますか、『ダンケルク』の直後でなければもう少し楽しめたかもしれません。あれがすごすぎた。

吹き替え否定派というわけではありませんが、韓国映画に関しては字幕版のほうがよろしいのではないかと思います。本作では中村悠一に坂本真綾、小山力也に喜多村英梨と、アニメ界隈で評判の良いボイス・アクターがキャスティングされています。確かに上手いのですが、韓国語特有の感情を揺さぶるような発声があっての韓国映画。酢のない韓国冷麺という、ニンニクが入っていないキムチいうか、どうにも最後までしっくりきませんでした。

ゾンビ映画としては可もなく不可もなく。映画を通して描かれている(と思われる)韓国社会の問題が面白かった。例えば、「今の若者は何かあるとデモするけれど、昔だったら殴る蹴るされて逮捕される」と語る老姉妹。その言葉の裏には「自分の主義主張だけ通すのではなく、もっと相手のことを慮るべき」という、失われつつある古き良き韓国への憧憬がありました。他人のことを思いやる人ほど損をするという社会なんて滅びてしまえばいいという、激しい憤りが描かれています。

「自分さえ良ければ他はどうなってもいい」という空気は、そこここで描かれています。何しろ主人公が(悪徳)ファンド・マネージャーなのですから。その彼が絶望の淵に追い込まれて少しずつ変わっていくわけです。

最終防衛ラインが釜山、災厄が北から南へ下ってくるというのは嫌でも朝鮮戦争を彷彿させます。だとするとゾンビは危機のメタファーであり、我々がよくわかっていないだけで、韓国社会はたいへんな状況にある(と感じている人が少なくない)のかもしれません。

新感染 ファイナル・エクスプレス
個人的満足度: ★★(字幕なら多分★★★

ちょっとはCG使ってもいいんじゃない?|『ダンケルク』

2017年09月11日 | 2017映画
映画『ダンケルク』予告


久々に大作を観た、と実感しました。軍オタも納得の見事な作品です。

まず、構成が巧み。陸(一週間の物語)、海(一日の物語)、空(一時間の物語)と異なるタイム・スケールをうまく紡ぎ合わせてクライマックスで集約する手法が実に素晴らしいのです。陸のエピソードはサバイバル、海と空のエピソードは英国人としての務めを果たそうとする対照的なものなのも興味深い。

次に迫力がすごい。さんざん語られていることですが、CGなしで本物にこだわっているからこその迫力に圧倒されます。一方で海岸の兵士の数が明らかに不足気味。



実際はこれもんだったので、CGを使ってでも水増しすればよかったんじゃないかと思わずにはいられません。

ディテールも素晴らしい。特にBFGことマーク・ライランスが演じるミスター・ドーソン。スピットファイアのロールスロイス・エンジンにうっとりしたり、的確な指示でMe-109の機銃掃射をかわしたり。その理由が……だったり。またこの台詞にぐっときた人もいるでしょう。

Men my age dictate this war. Why should we be allowed to send our children to fight it?

この台詞からは子どもたちを戦場に送り出すことになった悲しみと、そのような状況をつくり出してしまった──宥和政策でヒトラーの増長を許してしまった政府に対する憤懣とがない交ぜとなった感情がうかがえます。

人の評価はいざという時に何ができるかで決まるはずですが、なすべきことをなした人はだいたい寡黙であって、ろくでもない人の大声のほうだけが記録に残されます。語られることのない無数の善き人のおかげで今があるのだと、役目を果たしたスピットファイアとそのパイロットが教えてくれます。

マーク・ライランスからのロアルド・ダールつながりで『スノーグース』を読みたくなりました。あの不幸な少年から『スノーグース』を連想したせいでもあります。

ダンケルク
個人的満足度: ★★★★★

女神仕事しろ(したの?)|『ワンダーウーマン』

2017年09月04日 | 2017映画
映画『ワンダー・ウーマン』日本版予告編 1


欅坂なんとか絡みの予告を見てすっかり観る気を失っていたのですが、何となく評判が良かったのと、暇な時間と上映時刻がマッチしていたので観てきました。『新感染』観れば良かったか。

最初に気になったのがドイツ軍の駆逐艦(水雷艇か)の扱いですが、あれはきっと座礁して、乗員全員が上陸して海岸で戦ったのだと脳内補完。しかし駆逐艦が行方不明になった海域を調査すればあの島、一発で見つかりそうです。

また、ワンダーウーマンがトリガー・ハッピー的なところ。軍神に操られている人間は殺したって構わないとばかり、何ら顧みることなくばったばったとドイツ兵をぶち殺します。

それはさておき、原作は第二次世界大戦が舞台ですが映画は第一次世界大戦。休戦直前の1918年11月です。ネタバレになりますがワンダーウーマン、仇敵の軍神と間違えてルーデンドルフを抹殺します。よくわからないガスで強化されているとは言え、老人を剣でぐさっと。その後、軍神アレスを倒して史実通り休戦を迎えることになるのですが、この世界では第二次世界大戦が起こったのかどうかが気になります。『キャプテン・アメリカ』を観ていないので何とも言えませんが、こちらも原作はナチと戦っております。そうすると、ヒトラーと一緒にミュンヘン一揆を起こしたルーデンドルフを殺そうが、やっぱりナチスが政権を握ってチェコやポーランドに攻め込んで第二次世界大戦が勃発したのかもしれません。

そうすると覚醒したワンダーウーマン、お前仕事しろよと思ってしまうわけです。「現実とお話を一緒にしちゃあいけません」ですが、ワンダーウーマンを演じたガル・ガドットはイスラエル出身。だったら余計にナチスを放っておけないだろうと。

俳優のリアルを劇中のエピソードと結びつける危険性(あるいはつまらなさ)について、伊丹十三は『ヨーロッパ退屈日記』に書いていましたが、まさにその通りです。その通りなのですが、嫌でもあらゆる情報が入ってくる時代なのです。

そこに目をつむるとしても、エンタテインメントとしてはテンポが悪くカタルシスもなく、かと言って何かを考えさせるわけでもなく、どちらかと言えば残念な内容でした。

ワンダーウーマン
個人的満足度: ★★

母衣問題で話題の『関ヶ原』を観た

2017年08月28日 | 2017映画
母衣問題については以下を参照。問題のレビューは削除されていました。

参照先: シネマトゥウデイ評論 映画「関ケ原」の酷評評論が炎上(togetter: 2017年8月26日付)

母衣知らないでしらないこと書いちゃったのかなあと思っていましたが、劇中でちゃんと家康が母衣のことを話しているのだから、このレビュワー、ちゃんと観ずに批評している可能性があります。

映画にせよ読書にせよ、あるいは他の趣味にせよ、何かを楽しむためには相応の教養が求められます。自分の場合、洋楽の知識がなかったために『ベイビー・ドライバー』を十分に楽しむことができなかったように、関ヶ原に至るまでの大筋を知らなければ本作を楽しむのは難しいでしょう。

司馬遼太郎の原作は未読ですが、本作は関ヶ原が「天下分け目の決戦」ではなく、いろいろ面倒ごとを収めるためのイニシエーションであったとの描き方です。

(1)石田三成(岡田准一)は秀頼擁立の道筋をつけることができれば引退して初芽(有村架純)とよろしくやりたいだけだった。
(2)だから三成を単に殺すのは意味がない。合戦をして、西軍が家康(役所広司)の軍門に下る形を示さなければならない。
(3)三成も家康もポジション・トークを別にすれば目指すところは同じ(天下泰平)。それは合戦前と合戦後、二人が同じ地蔵を立て直すシーンで象徴されている。

考証で気になったのは母衣ではなく、勝鬨。歴史考証に関する本で、大将が「えいえい」と叫び、手下が「おう(応)」と続くとあって、大河ドラマ『功名が辻』の家康もそうしたのですが、本作では一人で「えいえいおう」と言っておりました。関ヶ原は西軍と東軍との決戦ではなく、三成と家康個人の通過儀礼であったから、家康に「おう」とまで言わせた演出だったのかもしれません。

三成の参謀役として、また戦場では一騎当千の活躍を見せる島左近(平岳大)ですが、壮絶な最期を迎えます。対馬に落ち延びた説は……ないか。いやでも最後に近くにいたのが朝鮮からやってきた砲兵だったから、あるいは……。



ちなみに関ヶ原ウォーランドの島左近像からは悪意しか感じられません。



関ヶ原
個人的満足度: ★★★

猫抜きでも考えよう|『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』

2017年08月27日 | 2017映画
A Street Cat Named Bob - Official Trailer - At Cinemas November 4


いろいろ不幸があって薬物依存症に陥った若者が、ジンジャー(茶トラ)キャットと出会ってから運命の歯車が好転し始めるというシンデレラ・ストーリー。猫さま様です。Based on true story.

映画レビュー的に★3つくらいの作品で、新聞その他のレビューもだいたいそんな感じ。トマトも鮮度77%で、海外でもそういう無難な評価なのでしょう。猫好きということもあり、楽しく観ることができたものの、「猫がいることでセカンド・チャンスをものにできたホームレス」の物語が、実は「猫がいなければセカンド・チャンスさえ与えられないホームレス」の物語とイコールであることに気づかされて居心地の悪さを感じました。猫を肩に載せているホームレスとそうでないホームレス、どっちからビッグイシューを買いますか?

救いは、晴れて路上生活者から印税生活者となったジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)が現在、ホームレス救済と動物愛護のために活動をしているとテロップが入るところ。具体的な活動は見つけられませんでしたが、オフィシャル・ショップの売上げの一部をしかるべき団体に寄付しているのかもしれません。

映画の中ではすっかり悪者? に描かれている犬ですが、ロンドンではホームレスが飼っている犬を無料でケアするサービスが始まったようです。

参照先: New Service for Homeless Dogs Launched in London(THE BIG ISSUE: 2017年4月19日付)

日本語字幕では「YouTubeで100万回再生を超えた」になっていましたが、劇中の画面はYouTubeではなかったですよね? 実際の動画はこれでしょうか。

"A Street Cat Named Bob" The Big Issue cat - iPhone 4s 1080p


ボブにマフラーをプレゼントした「天使」の言葉、「茶トラは飼ってくれる人を自分で決める(大意)」は、茶トラを飼って、そして失った経験のある人は号泣必至でしょう。

ボブという名の猫 幸せのハイタッチ
個人的満足度: ★★★