さめのくち

日常の記録。

今夜、ロマンス劇場で

2018年02月26日 | 映画★★★
 クソみたいな予告からの外角ストライクゾーン一杯に鋭く変化するスライダー(球速142km/h)。完璧なデートムービーでした。綾瀬はるかに北村一輝、観ているだけで幸せになれます。泣けるほど美しいシーンも多くて眼福眼福。予告編があれだとか、フジテレビだとかが理由で観ないのはもったいない!

 とフィルマークスには投下したものの、もう一回観るかと言われれば微妙。本当にデートムービーとしてはよくできていたと思いますが、残念ながら劇中で言われていた「無数にある、忘れ去られる作品」の一つかもしれません。が、繰り返しますがデートムービーです。本作を観て、リアルで素晴らしい思い出ができたとすれば、忘れられない作品になるでしょう。『カイロの紫のバラ』あたりが好きだという相手と行けば、別の意味で忘れられない作品になるかもしれませんが。

 北村一輝には大いに楽しませてもらえます。先週読んだ産経新聞のレビューでも北村一輝推しでした。

猫星人

2018年02月25日 | 映画★★
 フィリピン航空の機体が良くなりましてね、機内エンタテインメントで映画を見られるようになりました。日本語吹き替え作は限りがあるので、中国語 or 韓国語 with 英語字幕で珍しい作品を選んで見ました。英語が聞き取れればいいんですが。

 今回見たのはこれ、『猫星人』。古来から猫星から地球を侵略しにやってきているのですが、どうもうまくいかない。そこで最強戦士(スマートな青い猫)を送り込むことになったのですが、大気圏突入の途中で秘密兵器を落としてしまい、そのために写真のような巨大猫に。それでも先遣隊の面々(普通の猫ですな)と地球征服のための密談を猫カフェで開きます。

「主人面している人間どもを奴隷にするんだ!」
「うちの主人は奴隷のように毎日ご飯を用意してくれるよ」

 既に人類は猫に支配されているというお決まりのジョーク!! 人間を倒すには家族を破壊することから、とやっかいになった家でいろいろ企てますが、その騒動が家族の絆を深めることになって……というお話。

 IMDbの評価は4.5/10と低いですね。実際、途中で寝てしまいました。日本で公開されることは多分ないでしょう。

ユーゴ内戦は「歴史」になってはいない

2018年02月20日 | 日記
 セルビアの人と『ロープ/戦場の生命線』のことが話題になりましたが、「ちょっとそれは……」と妙な雰囲気になりました。作品としてどうこう、というのではなく、まだ触れられると痛い話題のよう。できることはなかったし、今もほとんどありませんが、映画を通じてでも学んでおくことが大事ですね、と軽い気持ちで取り上げたのがいけませんでした。

 代わりに勧められたのがドキュメンタリー映画『The Weight of Chain』。大勢の人が命を落とす中で、セルビアとクロアチアの大統領はパリにある個人口座にせっと蓄財した……ということなどが描かれているとか。リンク先のストーリー・ラインによると、西側が介入した理由がこれまでにない視点で描かれている、悲惨と言われている中でも人々の助け合いや英雄的な行為があったということで、たいへん興味があるのですが円盤も売っていないようで視聴方法がありません。と書いていたらYouTubeに。しかも最初にDVDはここで買えよとテロップが。

 『ロープ』は停戦合意20周年を記念して公開された作品のようですが、当事者の西側に対する感情からすると「何善人ぶってやがる」という内容なのかもしれません。

日本神話はいかに描かれてきたか: 近代国家が求めたイメージ

2018年02月16日 | 読書★★★★
 明治維新後、西洋のキリスト教に倣ってナショナリズムを強力にまとめ上げる宗教が必要だと考えた明治政府は国家神道をつくり上げたわけですが、『古事記』『日本書紀』を大いに活用しました。そのようなわけで、近代において記紀を真面目に検証するのは不敬であり、津田左右吉の本は1940年に発禁、1942年には禁固刑を言い渡されています(!!)。

 津田左右吉を除いて近代化の過程において日本の神話がどのように描かれてきたのかまともに検証されていない。ならば「引札」など庶民が身近にどのように受け止めてきたのか、あるいは為政者がどのようなイメージを押し付けようとしてきたのか、「受容史」として捉えて検証しているのが本書であります。実に興味深い。全部で6つのエピソードが取り上げられています。

● 結婚式の神となったイザナキとイザナミ
● ヤマタノヲロチ退治の演出法
● 「ワニ」とはなにをさすのか
● サルタヒコとアメノウズメは夫婦神か
● つくられた神武天皇
● 戦う英雄、神功皇后

 どれも面白いですが、特に興味を引かれたのが「ワニ」。子どもの頃、ワニは鮫の古名だと教えられた記憶がありますが、『出雲風土記』には和邇(わに)と沙魚(さめ)を産するとあり、別の生き物として区別していたのだそう。

 ワニがいる南方(インドネシア)に似たような神話があることから、(1)日本人南方渡来説を補強し、(2)南方進出の正当性を高めたかったため、戦前はワニは鰐だという説も根強かった。戦後は鮫一辺倒で、そうそう自分はそのように教えられたのです。実際のところは「水に棲む得体の知れない怖い動物」を「ワニ」と呼んでいたのではないか、とのこと。近代化に伴い曖昧さが許されなくなって、鰐だの鮫だのと定義しなければならなくなったのです。

 神話を海外進出の正当性に用いた他の例としては神功皇后。1910年、韓国併合を報じる官報に、何の注釈もなく神功皇后の図像が使われていたのだそうです。知らなかったのですがこの方、神託を受けて新羅を征服したんだそうですね。1926年の「古今武勇双六」に、ジャンヌ・ダルクやナポレオン、関羽などとともに(えー!?)取り上げられています。

 現在もスマホゲームなどに原型をとどめていない日本の神々が登場しており、今後も形を変えながら付き合いは続くのでしょうが、政治的利用はノー・サンキューですね。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

2018年02月15日 | 読書★★★★★
 ああ、久しぶりに心地よい読書体験でした。これまで様々なAI関連書籍を読んできましたが、最もわかりやすかった。AIとは何か──いわゆる「AI」と「AI技術」の違い、AIのできること/できないこと、そしてAI技術が活用されることによってどのような近未来が訪れるのか。

 まず決定的に勘違いしていたのは、AIは計算機に過ぎず、四則計算しかできないということ。「自分で何かを考える」ことはできず、教師データをもとにそれっぽく回答しているわけです。その教師データは基本、人の手によってつくられています。

 一般物体検出でAIを用いる仕事に関わっていますが、そのAI(技術)も人海戦術で教師データを作成していました。15分の動画から特定のオブジェクトを定義する教師データをつくるのに1カ月/人かかります。依頼するほうは気楽なものですから、あのオブジェクトもこのオブジェクトも検索できるようにして! とリクエストを出しますが、その都度、教師データをつくり直さなければなりません。それに「目」に当たるカメラの性能が上がっても、やはり教師データをつくるところからやり直さなければならないそうです。

 文章読解もそう。Google翻訳がニューラル・ネットワークのおかげで精度が上がったと話題になりましたが、それは文章の意味を理解しているのではなく、それっぽい訳語に行き当たるようになったというだけのこと。「広島と山口に行った」という日本語を、「広島という場所」と「山口という場所」に行ったのか、それとも「広島さん」と「山口という場所に行った」のか、AIが区別することはできないと著者は予測しています。

 著者の新井紀子さんは「東ロボくん」の母。その「文章の意味を理解すること」で苦汁をなめることとなりました──と書くとフェアじゃありませんね。東ロボくんの目指すところは東大に合格するのではなく、今のAIで何ができて何ができないのかを明確にすることでしたから。

 数式化できる問題には抜群に強いAIですが、数式化できなければ問題を解くことはできません。ということは、前者で片付くような仕事はこれからAIに代替されていき、後者のような仕事はこれからも人の手が必要になるということ。ところがですよ、ならば問題文を理解する読解力を持っている学生がどのくらいいるのかとテスト(RST: Reading Skill Test)をしてみたところ、これが惨憺たる結果。「同義分判定」や「定義から具体例を考える」で半数以上がランダムな正答率しか得られなかったのです。

 ただ、読解力は急速に低下したというのでなく、もともとその程度だったのかもしれません(RSTは始まったばかりなので統計的な記録がありません)。AIがもっと活用されるようになれば、老いも若きも仕事を失うことになる。著者が危惧する「AI不況」がやってくるのかもしれません。