さめのくち

日常の記録。

「昔は東京が裏日本だったんだよ!」かつての表玄関の日本海でまったり

2016年03月31日 | 日記
3月の連休、いろいろあって境港方面に出張ってきました。境港と言えば水木しげる、水木しげると言えば妖怪です。その昔、水木しげるロードへは大阪から日帰りで突撃して、ラバウルからガ島上空へ出撃する零戦搭乗員の気持ちを味わったことがあります。ああ、あの頃は油冷のBandit 1200に乗っておったなあと昔を懐かしみつつ、今回は車でGOです。



10年以上前と比べ、はるかに人も店も増えており、立派な観光地に育っておりました。お土産に猫娘の手ぬぐいを購入。

宿泊はそこから30分ほどの距離にある、島根県の紅葉館。「境内の宿」の看板に偽りなしで、ナビに頼って山道を登っていくと大きな寺の門に行き当たり、どこにも宿が見当たらず、途方に暮れかけました。ちゃんと宿泊予約時のメールに、麓の駐車場に車を止めて参道を歩いて、どうぞと書かれていたのですが!



建物が古くていろいろ賑やかだったことをのぞけば、雰囲気、料理ともパーフェクト。翌朝は部屋から見えた三重の塔まで、樹齢を問うのも野暮な巨大な杉を愛でつつ散策するなど、メンタルもフィジカルもストマックも大満足でした。夕食は精進料理、朝食は「ザ・旅館の朝食」ですが、どちらもすこぶる美味でした。フード・ポルノ・フォトグラファーの戦果は次の通り。





イカの刺身のようなこんにゃくとか、



豆乳の茶碗蒸しとか、



芋で作った鰻の蒲焼きとか。どれも繊細な味つけで、満腹満腹を連呼しつつも完食です。朝食に出た梅干しが、一週間分の塩分を摂取できそうな、昔ながらの梅干しでした。最近のスーパーで売っているのとはモノが違いますけぇと自慢されていましたが、この梅干し1個でご飯3杯はいけそうでした。

翌日は出雲大社へ。寒かったので、オーソドックスにお参りして、温かい蕎麦を食べて、早々に引き上げました。その時に買ったお土産がこれ。「鷹の爪団のおやつ」。全然辛くないとなめてかかっていると、次第に蓄積された辛さで不愉快になるという、文化的侵略を彷彿させるまさに世界征服の味。





で、冒頭の言葉ですが、そんな話を旅館で教えてもらったわけです。「満州(ママ)から日本を見ればわかるけど、昔の文化の玄関口は日本海側で、東京は文化の果て、裏日本だった」と。まあ、逆に言えば大陸方面からの侵略に備えて日本海側から瀬戸内海でワンクッションおいて難波宮に近江宮、京都、江戸と、政治的中枢の場所を移動させたのかもしれません。

興味がなくても落語好きにしてしまう地獄の『えんま寄席』

2016年03月30日 | 書評・感想
民泊(Airbnb)、白タク(Uber: これは日本では難しそう)ときて、今度は犬貸しアプリですか。どこまで進むかシェア・エコノミー。

New App Lets Users Borrow, Share Dogs

猫なら猫カフェがありますが、飼い主が犬を連れてくる同伴型ではなく、特定多数の犬がもふもふさせてくれるタイプの犬カフェを運営するのはなかなか大変そうなので、犬を飼えない犬カスの皆さんには朗報かもしれません。このアプリではユーザーが個人情報を登録する必要があり、貸した犬が盗まれる、というリスクも小さいとのこと。でもまあ生き物だけにいろんなトラブルが予想されそうなので、普及する




えんま寄席 江戸落語外伝』(車浮代/実業之日本社)★★★★

今期のアニメの話題は『おそ松さん』で持ちきりですが、『昭和元禄落語心中』もなかなか評判が良くて、「落語女子」増加の一因になっているようです。『の・ようなもの のようなもの』を観て、ああ落語を聞きに行きてえなあ、と思いながらもなかなか実現できないでいましたが、何やら良さげな小説が出版されたので買ってみました。そして面白かった!



▲A4サイズじゃありませんが、『マンガでわかる!マッキンゼー式ロジカルシンキング』で学んだメモ書き。

芝浜」「子別れ」「火事息子」「明烏」4つの噺のその後と、それらの登場する人物に追加したディテールを融合させて、閻魔様に聞かせようってんだから、面白くないはずがない。それにオリジナルを知らなくたって、大筋がわかるように書いてくれている親切なつくり。どこまでが原典に忠実でどこからが作者の創作かわからなくなりますが、面白いんだからそんな野暮なことは気にしないのが域ってもんです。

4つの噺に奥行きを与え、全体的にリンクさせるためのしかけが、現代的な教訓になっていると言いますか、落語に新たな息吹を与えていると言いますか、たいへん具合が良いのです。「本当は怖い大人の落語ミステリー」とありますが、最後はやっぱり人情噺。ほろりとさせてくれます。

著者の車浮代は、昨年3冊、今年は本書を含めて既に2冊上梓されるという、江戸文化方面でたいへん勢いのある方です。リストラされそうなおっさんが江戸時代にタイムスリップして江戸繁盛しぐさ(……)を学ぶという『蔦重の教え』が面白そうではありますが、フランキー堺『写楽道行』のパクリちゃうんかい、というレビューもありますので、まずはそちらを見てからでも遅くはないでしょうか。

マンガでわかる!地雷本を華麗に回避

2016年03月29日 | 書評・感想
マンガでわかる!マッキンゼー式ロジカルシンキング』(赤羽雄二)★★★★

そもそもそんなにビジネス本を読まないし、「マンガでわかる!」などと書かれていると余計に引いてしまう。けれど本書はすこぶる評判が良かったので読んでみようと思いました。

しかし、書店で面出しで売られていたのは似たようなタイトルの『マンガで読める マッキンゼー流「問題解決」がわかる本』。評判良かったのはこれだったか、マンガ解説本なら似たようなものか、でも表紙の絵はこんなにしょぼくなかったぞ……と手にとってぺらぺら。いやこれはあかんやろうという内容。マンガもアレですが、説明している内容も陳腐で、もし確認せずに買っていたら、前掲リンク先にある辛辣なレビューと同じ感想を抱いたことでしょう。無事、別の書店で『~マッキンゼー式ロジカルシンキング』を購入しました。

立ち読み以外で他のマッキンゼー本を読んだわけではないので比較はできませんが、非常に面白い内容でした。



なぜ『~マッキンゼー式ロジカルシンキング』が面白いのか? 2016年3月29日
●マンガのたとえ話が適切でわかりやすい。
●マンガがビジネス「あるある」のテーマに基づいているので説得力がある。
●解説がシンプルで理解しやすい。
●すぐに実践できるノウハウが紹介されている。
●桃子(27)かわいい。



気になったことの「why」を1分間で考えてA4判の用紙に書き留める「A4メモ書き」で論理的思考を養うというのは、自分の考えを整理するのに役立ちます。英会話の勉強をしている人なら、発信力、表現力を身につけるためにも英語で「A4メモ書き」をするのも効果的ですよね。英語で0秒シンキングができるようになれば完璧ですな!

本書を読んで、できているつもりでできていなかった論理的思考。おっさんですが、精進してまいりたいと思います。

さて本書の作画を担当しているのは大舞キリコで、リンク先の作品、過去の仕事を見ると硬軟どちらにも対応できる器用な作家さんのようです。コミックの仕事も多数こなされており、本書でも本筋と離れたところでちょっとした遊び心を加えてキャラクターを立たせたりと、職人技を楽しませてくれます。



コース料理の途中で解決策を思いついてレストランを飛び出す桃子と、きっちり2人分を平らげるマッキンゼー出身の角井さん。



殺すな。

『マンガで読める~』の作画は石野人衣。イラスト、特にカラーのものは艶やかでたいへん素晴らしいのですが、20代以上のパーソンに合った絵柄ではない感じですね。そのうちどこかの出版社が、本の内容と作画の両方をきっちりレビューする、「このビジネスマンガ本がすごい」とかやってくれると楽しいんですが!

爆死爆死言いたいのはわかる、だがちょっと待って欲しい『ちはやふる』

2016年03月28日 | 映画
ちはやふる-上の句-』(2016年)★★★

漫画原作の映画化なら、本来は原作はあくまで原作と割り切り、そこから劇場映画という制約の下で作品を再構築すべきなんでしょうが、今はそれが許されない時代ですよね。大筋では原作のトレースが求められ、二次元なら許される珍妙なキャラクターの再現度が話題にのぼる。そんな風潮に(多分)果敢に挑んだのが『進撃の巨人』でしたが、原作ファンダメンタリストからも改編許容派からも駄目出しを喰らいました。仕方ないね。

「大人気コミックの映画化!」という惹句がついた映画は、新春かくし芸大会の芸能人コスプレ寸劇くらいの気持ちで観に行くのが、心の平穏を保てて幸せかもしれません。そんなわけで期待値を下げつつ『ちはやふる』を観に行ったわけですが、序盤はそれこそ「コスプレ寸劇」感が漂うものの、合宿から地方大会にかけては、しっかり青春群像劇していて面白かった。とりあえず「下の句」に行こうと思ったくらい。

まさかの爆死!広瀬すず「ちはやふる」、ガラガラ閑古鳥で女優ロードに赤信号

見事な釣りタイトルです。アンチがたくさん釣れたんじゃないでしょうか。広瀬すずが諸悪の根源のようですが、映画がスイーツじゃない(原作通りじゃんか……)、若者の分割上映離れが爆死の原因ではないか、ということです。前述した通り、青春群像劇としてきっちり楽しめましたから作品も広瀬すずも悪くない。

正直なところ、前後編分割上映はそろそろ勘弁願いたいものでして、昨年の今頃も『ソロモンの偽証』が爆死したばっかりじゃないですか! パイを大きくする努力を惜しんで取れるところから取っおけ、アニメファンやアイドルファンはナンボでも金出すから搾り取れ、みたいな商売はもうもたないんじゃないですかね(『宇宙戦艦ヤマト』以外。ええ、ええ、映画館で観て、劇場販売の割高な円盤を買って、テレビ放映が始まったらそれもちゃんと見て、バンダイのプラモデルも買い支えましたし次があればきっとそうするでしょうよ!)。それでも続けられているということは、円盤が売れるのか、分割してタイトル数を増やしたほうが配信で小銭が稼げるとか、別の理由があるのでしょう。

「上の句」は地方大会初出場初優勝、「下の句」では全国大会が描かれるわけですが、果たして「下の句」で決着がつくのかどうか。原作は連載中なので「下の句」は高校2年生編までとして、エンドロールが終わった後に「緊急特報! 完結編、2016年末公開」とかやられるともやっとしますね。

監督は小泉徳宏。『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013年)を監督しており、こちらも面白かった。何より大原櫻子を世に送り出したというだけで素晴らしい。 関係ないですがMUSH&Co.の『明日も』は阪神・梅野(映画観たんかい)のテーマソングだったんですね。昨日初めて知りました。

カラマーゾフかよと思ったらカラマーゾフで、リアルに書店で『黒い本』を見かけて、何が何だか

2016年03月26日 | 書評・感想
モナドの領域』(筒井康隆/新潮社)★★★★

昨年、発表されるやたいへん話題になって、掲載誌『新潮』が入手できなかったほどです。「筒井康隆の最高傑作」と唱われておりますが、果たしてそうなのかどうか、全ての作品を読んだわけではありませんが、絶対的な評価として楽しめました。

我々が言うところの「神」に近いのだけれど、それとは一線を画する、過去にも現在にも未来にも、あまねく場所に偏在するGODの物語で、傷害罪の裁判に引き出されたGOD、テレビの討論番組に呼び出されたGODとの対話がたいへん面白いのですが、それを言ったら何でも許されることになるじゃないですかGOD、と。『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の挿話を思わせるが、だいぶ違うのですが、通底しているものは同じじゃないですかね。亀山郁夫が言う「ロシアの広漠たる大地が、インターネットの果てしない空間と重なる」は、「行き場のなさ」につながるわけですが、時空を越えて偏在することも同じ「行き場のなさ」に着地するように思えるわけです。『モナドの領域』は、(一時的にせよ)行き場をなくしてしまった我々にとって救いの話であり、黙過の大切さを教えてくれます。

いやだって、全ての行為がプログラムされた通りのものであるとしたら、まるで『教団X』に書かれていた通り、脳から命令を出していると思いきや、反射の結果を脳が追認しているだけとしたら、あわゆることを黙過するしかないじゃん、みたいな。

とすると、読了後に立ち寄った書店で見かけた『黒い本』、これはもう手に取って、レジに持って行くようプログラムされているのだと自然に手が動きましたが、値段を見てそっと棚に戻してしまったのも、これもまた既定のことだったのかもしれません。