さめのくち

日常の記録。

洛中ヘイトからまさかの熱い靖国ヘイトへ

2016年04月28日 | 書評・感想
京都ぎらい』(井上章一/朝日新書)★★★★

関西ネイティブではありませんが、長年大阪で暮らしていると、京都の特殊性は嫌でも感じてしまうもの。人が多いという理由もありますが、そういう特殊性が面倒なので必要に迫られない限りは京都に行きません。東京で暮らしている頃は、抵抗なく京都を旅行できたのに!

京都に関するあれこれは、想定内とは言え面白いものでした。意外だったのはそこから戊辰戦争の話になり、靖国へと論理の飛躍がなされたこと。いやそれはそれで面白いし、靖国批判も理に適っていて、それが「京都ぎらい」に通底するところもあって面白い主張に仕上がっています。ざっくり言って、日清・日露戦争あたりで不幸な負け方をしていれば、「幕府軍の戦死者をちゃんと慰霊しなかったから罰が当たったんや! 怨霊の仕業や!」と、明治新政府も、その後の政府も、襟元正さなかったですかね。

他にあるのかどうかは知りませんが、幕府軍戦死者の慰霊碑としては碧血碑は有名ですね。ただ設置された場所が悪くて、行くのに難儀した覚えがあります。

食わず嫌いでしたすみません『世界で突き抜ける』

2016年04月27日 | 書評・感想
世界で突き抜ける』(佐藤航陽VS竹中平蔵/ダイヤモンド社)★★★★

尊敬する経営者が面白いと言っていたので購入。確かに面白かったです。佐藤航陽氏のことはよく知らなかったのですが、竹中平蔵氏と言えば、小泉政権時代に社会格差を広げた張本人であります。本書の中で、父親は小売店の店主であり、真面目にこつこつ商売を続けてきた。そういう人が幸せになれる社会をつくらなあかん、と述べていますが、氏がつくり出した今の社会は、それプラス投資による資産形成がうまくいった人じゃなかろうかと思ってしまいます。が、低いほうに合わせて全体が沈み込むのではなく、全体の値を維持するために中間層を切り捨てて格差を拡大するのを是とした判断は正しかったのでしょう。いやあと10年20年経たないとわからないか。

そんなわけで、ネットに書かれていること全てが真実であるかのように信じるピュアな中学生のように、「俺たちのニッポンを殺伐とさせやがって」と竹中平蔵を蛇蝎のごとく嫌っていた時期もありましたが、本書を読んで反省した次第です。



その本書ですが見開きごと、小口にキー・フレーズが掲載されるのはうるさくてかなわんという装丁。けれど読了してからしばらく経つと印象に残ったこと以外はきれいさっぱり忘れているもので、内容を振り返るのに役立ちます。まさに今。

「速やかで大胆な意思決定ができる遊牧民型のリーダーが少ない」(竹中)
「アカウンタビリティの中でも重要なのが、アーリースモールサクセスです」(竹中)
「変わるには快適すぎる、快適すぎて変われない」(竹中)
「アメリカは、カンファタブルになりすぎないように、ストレスも少し残しておく」(佐藤)
「違う国の人たちをマネジメントするには『教養』が必要だということです」(佐藤)
「日本って、ちょっとよくなると、昨日のことでも忘れてしまう」(竹中)
「日本は急激にしか変われない国です」(竹中)
「日本でイノベーションがなかなか生まれない理由のひとつは、やっぱりホモジニアス(同質)」(竹中)
「システムも人間も精度を上げていくプロセスは同じ」(佐藤)
「ものごとの変化を加速させるレバレッジ、梃子の性質が変わってきた」(佐藤)
「近代においては、情報の非対称性が利益の源泉だったからです」(佐藤)
「3本のベクトルが走っている三角形の中間が、未来の方向性だと思っています」(佐藤)

3本のベクトルとは、テクノロジーの進化、人間の感情、そして経済(お金)。

「inventionとinnovationは違う」(竹中)
「そもそも再分配などしなくてもいいような状況をつくるのが一番大事です」(竹中)
「一部の人間は時間軸まで含めた意思決定が、訓練によってできるようになる」(佐藤)
「外側から時間の流れを眺められる人は、未来を少しだけ見通せる」(佐藤)
「資本主義は、その成功ゆえに失敗する」(竹中)

これはシュンペーターの引用。うまくいって守りに入ると新しいものを生み出さなくなる。結局、資本主義は衰退していく、という意味。

「セルフイメージと現状が相当離れていると、そこまで伸びる可能性がある」(佐藤)
「スイッチングというのは経済学の理論にも出てきますよ」(竹中)

気持ちの切り替えは大事ですよ、ということ。

「人間の頭って、刺激があって初めて反応するようなところがある」(竹中)
「『満足』という器はいくらでも大きさは変わると思います」(佐藤)

とまあ、こんなところで。

ハイブリッド車もたいがい詐欺

2016年04月23日 | 日記
三菱自動車は救いようがないとして、そろそろJC-08にもメスが入れられそうです。実燃費とカタログ値の差が大きすぎる。

e燃費でざっくり調べたところ、話題の三菱詐欺カーの実燃費達成率は51.88%(ekワゴン)と62.71%(ekスペース)なんですね。こりゃひどい。と思ってハイブリッド車について調べてみたらもっと素敵な結果に。

実燃費達成率

ベスト10が軒並み乖離率30%超で、プリウスに至ってはekワゴンよりあかんじゃないですか。JC-08の検査がザルなんですかね。その証拠に

日本のプリウス公式サイトでは37.2~40.8 km/lの燃費をうたっていますが、アメリカだと54/50 mpg、22.1 km/lじゃないですか。「JC-08の検査だから嘘は言ってない(不正をしていなければ)」というエクスキューズは立つんでしょうが、「日本の客は馬鹿だからカタログ値が良ければありがたがる。すぐに訴訟沙汰になる欧米の客は面倒なので実燃費に近い値を示しておこうか」と邪推されても仕方ないんじゃないでしょうかね。

今回の一件で地獄の窯の蓋がこっそり開きそうです(すぐに閉じられそうですが)。

なお三菱。今回の不正はJC-08モードであって、海外向けの検査及びその報告がどんなものかはわかりませんが、フィリピンではモンテーロのユーザーから「何か知らんが勝手にバックを始める」とクレームを出されているそうで、それが本当なら海外でも駄目な模様です。

1年前も出張のお供を気にしとったんかい

2016年04月15日 | 映画
高度経済成長(笑)|『「日本史」の終わり』感想
 池田信夫氏と『中国化する日本』の與那覇潤氏の対談なら面白くないはずもなく! ただし2012年10月に発行された同書の文庫化なので、若干、話題的に古いものもあります。フィリピン...


この記事から1年後もフィリピン出張です。そして今回のお供は『緊急解説 マイナス金利』(清水功哉/日経プレミアシリーズ)と『英語と日本軍』(江利川春雄/NHKブックス)、『世界で突き抜ける』(佐藤航陽 VS 竹中平蔵/ダイヤモンド社)の3本。帰りはいつもと違って深夜の便なので、果たして全部読めるかどうか。

これを読めばトランプ旋風もサンダース・フィーバーも丸わかり?『反知性主義』

2016年04月15日 | 書評・感想
反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―(森本あんり/新潮選書)★★★★★

昨年あたりから「反知性主義」という言葉を耳にするようになったかと思いますが、知性主義の反対、馬鹿でいきましょうかということかと思ったら違った。当たり前です。アメリカにおける反知性主義とは、「知性が世襲的な特権階級だけの独占的な所有物になることへの反感」であり、「新しい世代ごとに平等にチャンスが与えられればいい」という平等主義が原点になっています。だから馬鹿でいこう、ということではなく、平等主義をエンジンとして「大家のもつ旧来の知や権威への反逆であって、その反逆により新たな知の可能性を拓く力ともなる。反知性主義は、知性の発展にも重要な役割を果たすのである」。

本書ではこのことをアメリカ建国から、時に映画の紹介などを交えながら実にわかりやすく解説してくれます。反知性主義はリバイバル──信仰復興運動に端を発し、それが現在のテレビ伝道師につながっており、それが自己啓発に結びつきます。

引用ばかりで恐縮ですが、「知性が欠如しているのではなく、知性の『ふりかえり』が欠如している」のがいかんのであって、「知性が知らぬ間に越権行為を働いていないか。自分の権威を不当に拡大使用していないか。そのことを敏感にチェックしようとするのが反知性主義」なのです。

「あとがき」にある通り、では日本ではどうか。まず知性主義が育っていないのに反知性主義もないよね、反知性主義者のはずだった某が権力の虜になったしね、という件は痛快であります。という流れで、

反知性主義3 Part 1: 内田編『日本の反知性主義』は編者のオレ様節が痛々しく浮いた、よじれた本。(山形浩生の「経済のトリセツ」)

を紹介して今週の締めにしたいと思います。