元細胞生物研究者の日記

某病院に勤務する医師です。以前は細胞やマウスを相手に仕事をしていましたが、現在は医療に携わっています。

学と術と道

2007-07-23 | Weblog
阿部正和先生は元慈恵会医科大学の学長です。
糖尿病をご専門とし、基礎医学者から一転して内科教授に就任され、栄光の第3内科を築かれた偉大な内科医です。
阿部先生がお書きになられた随筆をまとめた「学と術と道」は私の蔵書のなかで最も大切な本の一つです。
私は学生時代図書館で偶然この本に出会い、将来は阿部先生のような立派な内科医になることを夢見ました。
暇をみつけては図書館でこの本を読み、医師の職業の厳しさ、やりがい、心得などを学びました。
そしていつか、この本を手に入れたいと思いましたが、私と慈恵医大との接点はまったくなく、
医師になってからは日々の仕事に追われ、この本のことはいつの間には忘れてしまいました。

初めての出会いから15年以上経ったある日、偶然インターネットでこの本を検索したところ、
この本が古本屋で買えることが分かり、いてもたってもいられず、早速購入しました。
最初のページでは15年前と同様に阿部教授が微笑みかけていました。
内容もすばらしく、全く古さを感じさせず、学生時代と同じ気持ちでこの本に接することができました。
阿部先生はスローガンを作るのがとてもお上手で、医師の心得として大切な事柄が短い言葉の中に凝集され、本の中にたくさん書かれています。
本のタイトルである「学と術と道」とは、臨床医学は学(学問)、術(技術)、道(職業倫理:私の解釈で誤っているかもしれません)の全てが揃ってはじめて成り立つということを示しています。

ばたばたと慌ただしく過ぎ去った一日をふりかえり、今日の私の診療は学問的にな裏打ちはしっかりあっただろうか、手術の手順、方法は適切だっただろうか、患者さんの利益を第一に考え、患者さんの気持ちに配慮した診察だったろうか?などと、自問自答すると、冷や汗が出る毎日です。
しかし、一日の終わりにこの本を手に取ると、
阿部先生が笑顔で
「君はまだまだ未熟だが、少しずつでも進歩するように精進しなさい。」
と励ましてくれているような気がして,明日の診療に真摯に取り組もうとする気持ちが湧いてきます。