最近、テレビや新聞で「ジェネリック医薬品」という言葉を聞かれることが多いと思います。ジェネリックとは開発特許が切れた医薬品を他のメーカーがその特許を利用して製造した「後発」の医薬品です。以前はゾロ品などと、やや蔑まれるような名称で呼ばれていました。
テレビコマーシャルでこの言葉が頻回に聞かれるようになった理由は簡単です。安いからです。新薬の開発は自動車メーカーの新車開発と同じように、長い年月と膨大な開発費がかかるとてもリスキーな事業です。しかし、ジェネリックを製造する製薬会社は、そのリスクを負担する必要でがないのですから、安く薬を提供できる訳です。
平成17年度の国民医療費は33兆1289億円、国民1人あたり25万9300円もかかっており、借金だらけの日本国政府はなんとか医療費を抑制しようと必死になっているのです。赤ちゃんからお年寄りまで、1人約26万円も医療に支払っているのですから、たしかに多額のお金が支払われています。この費用が本当に高いかどうかは、またいずれこのブログに書こうと思いますが、ちなみに日本と比較して「素晴らしい医療」とされるアメリカの医療費と比べると、GDP比に占める割合は約半分です。さらに、医療費をぎりぎりまで抑制したため、病院の外来予約期間(申し込んでから受診できるまで)が3ヶ月になっているイギリスと比べてもGDP比に占める割合は日本の方が低い状況です。
さて、確かに同じ質なら安い方がいいに決まっています。全く同じ薬効で同じ安全性であるなら、安い医薬品を使用することで医療費を抑制することが出来ます。しかし、ジェネリック医薬品の問題点は、この大切な薬効と安全性が担保されているかどうかが怪しいことです。ジェネリックは決して新しい物ではなく、以前はゾロ品とよばれ、少し胡散臭い名も知らない製薬会社が作っていることが多く、医師の間でもあまりイメージが良くありませんでした。さすがに、今は状況が改善されていますが、現在でも私たち皮膚科医が実際に使用してみると効果が劣り、症状をコントロールできない製品もあり、論文として発表されている場合もあります。
乾癬という慢性の皮膚疾患がありますが、軟膏の外用で症状がコントロールできない場合は免疫抑制剤を使用することがあります。この薬品にもジェネリックがいくつかありますが、先発品に比べ症状をコントロールするので難しいことは皮膚科医の間で常識となっています。ジェネリックが全く効果がない訳ではなく、患者さんの体質により、薬の吸収に個人差があり、その為に症状がコントロールできないことがあるのです。先発品はこのことを改善する為に、錠剤に工夫し、薬の吸収の個人差を少なくするようにしています。しかし、薬の中身の特許は切れても、この製剤をつくる特許はまだ有効な為、先発品と全く同じ薬効があるジェネリックはまだ作ることができません。
現在行われている、厚生労働省のジェネリックに対する啓蒙方法を見ていると、ジェネリックのリスクを全く説明していません。おそらく、ジェネリックによって発生したトラブルは、医師や患者の責任に転嫁するつもりなのでしょう。しかし、このような政府の態度が、現在も騒がれている血液製剤によるC型肝炎感染の問題を引き起こしたのだと思います。ジェネリックにも、今後同じような問題が発生する可能性があるのではないかと、私は危惧しています。