ゆでたまご

今は昔。
渡邉家の財政が今ほど、ひっ迫していなかった時代のこと。

２歳児までは、飛行機代がタダだからと
子どもが２人の時まで、結構、遠方まで旅行に出かけた。
と言っても、国内専門。

“紅葉のみちのく東北旅行”や“感動と驚きの北海道旅行”など
○△旅行社が企画する【格安旅行】の新聞折り込みをいつもチェックして
自分の中の底値の琴線に触れたものに関しては
「これ行ってみようか」とパパに提案して
「えーっ、こんなに安いなんて、現地集合で現地解散やないと？」と
不安がる慎重派の彼を必死に説得して、出かけたものだ。

大地が、幼稚園に入った年は、北海道旅行に出かけた。
高級ホテルに泊まって、小樽などを観光して回った。
イクラ丼や、ほっけの開き、ウニ、焼きトウモロコシ、塩ラーメンなど
いろんなものを食べた。

しかし、旅行から帰ってきて、登園した最初の日。
大地の担任の先生が
「大地君、北海道は楽しかった？何が一番、美味しかったの？」と
笑顔で尋ねてきた。
しばらく、考えて答えた大地のセリフは
「ゆでたまご！」だった。

「えーっ、ウニやイクラも食べたじゃないっ！」
と必死に見栄をはって、大地の背中を後ろからつつく。
先生も私も顔を見合わせ、ハハハと苦笑い。

悲しいかな。
まだ、ウニやイクラの（価格的）尊さが、理解できなかった当時の彼には
ホテルの朝食バイキングで食べた「ゆでたまご」が
なによりも美味しかったらしい。

そう言えば、『はだかの王様』に本当のことを告げたのは
子どもだったっけ。
しかし、いくらなんでも「ゆでたまご」だけとは…。