漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

生薬としてのハチミツ

2019年10月29日 08時24分20秒 | 漢方
 近年、咳止めとしてハチミツが注目されています。
 まあ、信頼できる論文を集めて解析するコクラン・レビュー(2018年)では効果を証明できず、微妙なんですが。

 実は人類は蜂蜜をクスリとして使用してきた長〜い歴史があります。
 そして漢方薬の材料(生薬)、あるいは薬膳としても利用されてきました。
 この視点から、少し調べてみました。

 蜂蜜は、五行分類で「土・甘・脾」、五性(寒熱分類)では「」になっています。
 「甘・脾」の生薬は「疲れを改善・虚弱を補う・脾胃を調和・痛みを和らげる」作用があります。
 「平」の生薬は、体を温めも冷やしもしないので、長期に食べても偏りません。
 同じ分類に属する生薬は、他に「大棗・山査子(サンザシ)・飴・甘草・百合・葛根・茯苓・麦門冬」などがあります。

【食物・生薬の五行分類表】

温心堂薬局HPより)

 蜂蜜の適応は「気虚・津虚」です。
 気虚はエネルギーの不足、津虚は潤いの不足を意味します。

 以上をまとめると、蜂蜜の適応は「胃腸が弱って元気がなくなり潤いを失ったカサカサのからだ」であり、病態としては、潤いがないことによる便秘、乾性咳嗽などが挙げられます。
 同じ分類に属する麦門冬はからだを潤す生薬として有名ですね。

 薬膳という視点から見ると、同じ分類に属する食物には「胡麻・大豆・米・蓮根・鶏卵・水飴・トウモロコシ・小豆・蜂蜜・ぶどう・カボチャ、松の実」等があります。黄色い食べ物は消化力を増進させ、胃腸の機能を高めてくれます。また、ベータカロチンが多く含まれているため、食欲増進と様々な成長を助け、生理作用を円滑にします。

 Wikipedia「蜂蜜」にわかりやすい記述があり、一部抜粋してみます。

■ Wikipediaより
・中国の本草書『神農本草経』(成立は後漢から三国時代の頃)には「石蜜」と呼ばれる野生の蜂蜜の効用について、「心腹の邪気による病を治し、驚きやすい神経不安の病やてんかんの発作をしずめる五臓の心臓・肝臓・肺臓・腎臓・脾臓を安らかにし、諸不足に気を益し、中を補い、痛みを止め、解毒し多くの病を除き、あらゆる薬とよく調和する。これを長く服用すれば、志を強くし、身体の動きが軽くなり、飢えることもなく、老いることもない」と記されており、中国最古の処方集である『五十二病方』(戦国時代)には蜂蜜を用いた利尿剤の処方が記されている。明代の薬学書『本草綱目』には「十二臓腑ノ病ニ宜シカラズトイフモノナシ」と、あらゆる疾病に対し有効な万能薬と記述されている。同書には張仲景による医学書『傷寒論』を引用する形で、蜂蜜を使った外用薬(坐薬)の作り方も登場する。
・日本の医学書『大同類聚方』には「須波知乃阿免」(すばちのあめ)が見え、巣蜂とはハチの巣のことである。ただし旧暦8月に土の中から掘り出して採るとしており、ハナバチの仲間ではマルハナバチが巣を土の中に作る。
・漢方薬では生薬の粉末を蜂蜜で練って丸剤(丸薬)をつくる。例として八味地黄丸がある。江戸時代の医師栗本昌蔵は、著書の中で丸薬を作る際の蜂蜜の使い方について解説している。


生薬の玉手箱【蜂蜜】より 
・中国医学では,薬用として『神農本草経』の上品に「石蜜」が収載され,「心腹の邪気,諸驚癇痙を主治し,また五臓を安んじ,諸々の不足を主治する。気を益し,中を補い,痛みを止め,毒を解し,衆病を除き,百薬を和す。久しく服用すると志を強くし,身を軽くし,飢えることなく,老いることもない」とあります。
・石蜜とは高山巌石の間に営巣されたものから得た蜜のことであり,蜂が営巣する場所によって,木蜜や土蜜などと区別されていました。
・蜂蜜の効果について,李時珍は「(生では)性が涼でよく熱を清す熟(加熱)すれば性は温となり,よく中を補う味が甘で和平の作用があるため,よく毒を解す柔かつ濡沢であるため,よく燥を潤す。緩は急を去ることから,よく心腹・肌肉・瘡瘍の痛みを止める。」とまとめています。現代中医学では腸を潤滑にして大便を排出させる潤下薬に分類され,潤腸通便,清熱・潤肺止咳,補中・緩急止痛に働き,性は甘で甘草のように解毒し,薬性を調和するとされています。昨今の市販品は採集後に加熱処理されているそうです。


■ 「伝統医薬データベース」より
臨床応用:配合剤の甘味剤, 丸剤の結合剤などとして用いる. また滋養強壮の目的に用いられ, 漢方処方用薬としては, 鎮吐薬とみなされる一処方 (大半夏湯)に配合されている.
頻用疾患:便秘, 乾咳, 無痰, 腹痛, 四肢の冷え
含有方剤:烏頭湯 , 烏頭桂枝湯 , 桂枝茯苓丸 , 赤丸料 (桂皮) , 赤丸料 (半夏) , 大烏頭煎 , 大半夏湯
帰経:肺・脾・大腸
性:平
味:甘  
中医分類:補気薬
薬能:補中, 潤燥, 止痛, 解毒. 腹(胃)虚痛, 肺燥干咳, 腸燥便秘に応用し, 瘡瘍不斂, 火傷に外用する. 
備考 第十七改正日本薬局方収載品.
参考文献 TN: 難波恒雄, 津田喜典編集, 『生薬学概論』, 改訂第3版, 南江堂, 東京, 1998.
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