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小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

五臓と気血水の関係をAIに聞いてみました。

2025年05月26日 07時23分18秒 | 漢方
漢方医学における五臓論は中国の陰陽五行論に基づいており、
その仮想概念は奥深く、幅広く理解すべく勉強しても、
全部カバーする前に記憶が落ちていきます。

まあ、本場中国の中医学では、
分厚い書籍をたくさん、5年かけてマスターし、
中医師の資格を取得するというのですから仕方ありません。
(中国では西洋医学と中医学の資格が別々です)

日本漢方の気血水・陰陽虚実(虚実寒熱)・六病位の方が、
日本人の私にはしっくりきます。

でも日本漢方を勉強していても、
ときどき五臓論が顔を出します。

そして頭に浮かぶのが、
「気血水と五臓ってどんな関係なんだろう?」
という素朴な疑問。

解説を読んでも、なかなか頭に入りません。
そこで、AIの「Felo」に質問してみました。
「気血水と五臓の関係を教えてください」
すると、わかりやすくまとめてくれました。



<参考>
(上記の1)【漢方の基礎知識】漢方の気血水と五臓とは

う〜ん、やはり文章を羅列されても頭に入ってきません。
AIは私の能力をわかっているのか、なんと一覧表まで作成してくれました。


この表を作り替えてみました。



以前よりイメージしやすくはなりましたが、やはり複雑怪奇ですね。
意外だったのが、「水」には“作る”と“蓄える”に相当する五臓が存在しないこと。

さて、別の視点で五臓・気血水を捉えてみる試みを。
漢方専門医の重鎮、仙頭清司郎先生の書いた記事を抜粋引用します。

気血水を「水の入った鍋を温めている」状態に例えると・・・
気:
・蓋を持ち上げるパワーを持つ動力源
・水分(=水)を持ち上げて自由に移動
・空気として火(=血)が燃える材料となる“蒸気”
血:
・空気(=気)を材料にして燃え、鍋全体(=体)を温める“火”
水:
・鍋の中の“水”に当たる。
・火(=血)に温められることによって活発に動き出し、
 蒸気(=気)に引き上げられる形で巡り、体外にも発散される。

うん、これはイメージしやすいですね。

どのような生薬がどの五臓に働くのかも書いてありました。

腎:水分源と熱源を蓄える臓
・津液(=水)を増やす生薬
・熱を増やす生薬
脾:気血水の生成に関わる
・気血水の増減に関わる生薬
肝:気血津液を巡らせる臓
・気血水の巡りをよくする生薬
肺:水分代謝に関連
・津液(=水)の巡りを調節する生薬
心:熱を供給する
・熱を増減させる生薬


<参考>
・本格漢方(週刊朝日MOOK、漢方2012)
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月経・生理のトラブルに漢方薬

2025年05月07日 21時14分04秒 | 漢方
女性の月経関連症状に使用される漢方薬をまとめてみました。

▶ 月経トラブルに継続内服する漢方薬

↓ 当帰芍薬散:月経トラブル+めまい、貧血
↓ 加味逍遥散:月経トラブル+不定愁訴、神経質
↓ 桂枝茯苓丸:月経トラブル+冷えのぼせ
↓ 桃核承気湯:月経トラブル+便秘

▶ 月経痛・生理痛に対する頓服用漢方薬

68 芍薬甘草湯
・筋肉の痛み全般に有効
安中散
・胃痛に有効だが、生理痛にも有効
・腹痛一般に有効なことがある。
・カプセルあり
68 芍薬甘草湯+5 安中散
・両方を併用するとより効果的
・大正漢方胃腸薬と同じ成分構成になる

▶ 女性の冷えに対する漢方薬
・四肢末端の冷え・しもやけ → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・腹部の冷え+胃もたれ → 六君子湯(43)
      +腹痛・おなかゴロゴロ → 大建中湯(100)
      +めまい・倦怠感・下痢 → 真武湯(30)
・月経関連トラブル
   +浮腫・貧血 → 当帰芍薬散(23)
   +冷えのぼせ → 桂枝茯苓丸(25)
   +冷えのぼせ・神経質 → 加味逍遥散(24)

★ 冷えを改善する生薬
● 附子
・新陳代謝低下による冷え
・ガスバーナーで温める感じ
・冷えを改善して疼痛を緩和する作用
● 乾姜
・電球で温める感じ
・元気をつけながら温める
● その他の冷えを改善する生薬
・桂皮、当帰、人参、細辛、呉茱萸、生姜


<方剤解説>

23【当帰芍薬散
● 構成生薬:
 当帰・芍薬・川芎(血を補う)→(四物湯ー地黄)
 蒼朮・茯苓・沢瀉(水をめぐらせる)→(五苓散ー桂皮・猪苓)
● こんな症状・所見に:
・華奢な色白タイプ
・めまい・むくみ
・冷え症
・貧血

24【加味逍遥散
● 構成生薬:逍遥散+山梔子・牡丹皮
 柴胡・山梔子・薄荷(清熱・精神安定)
 当帰・芍薬・牡丹皮(血をめぐらせる)
 茯苓・蒼朮(水をめぐらせる)
 茯苓・蒼朮・生姜・甘草(胃腸機能改善)
● こんな症状・所見に:
・更年期障害
・不定愁訴が多い(受診のたびに相談事が異なる)
・冷えのぼせ
・便秘や肩こりにも有効
● 効能効果:
体質虚弱な婦人で、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神症状、
ときに便秘傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、更年期障害、血の道症

25【桂枝茯苓丸
● 構成生薬:
 桂皮(気をめぐらせる)
 茯苓(精神安定、利水)
 桃仁・牡丹皮(血をめぐらせる)
 芍薬(止痛・鎮痙)
● こんな症状・所見に:
・体力あり
・月経関連トラブル
・冷えのぼせ・赤ら顔のことが多い。
・打撲による腫脹や痔にも有効。
● 効能効果:
体力がしっかりしていて赤ら顔が多く、下腹部に抵抗のあるものの次の諸症:
・月経不順
・月経困難
・更年期障害
・冷え症
・腹膜炎
・打撲症
・痔疾患
・睾丸炎

38【当帰四逆加呉茱萸生姜湯
● 構成生薬:桂枝湯+当帰・呉茱萸・細辛・木通
 当帰・芍薬(血をめぐらせる)
 桂皮・芍薬・大棗・甘草・生姜(=桂枝湯)
 桂皮・大棗・甘草・生姜(気をめぐらせ温める)
 呉茱萸・細辛(温める、止痛)
 木通(利水)
● こんな症状・所見に:
・手足の冷え
・しもやけ
・寒冷により増悪する痛み(頭痛・腰痛・下肢痛、等)

61【桃核承気湯
● 構成生薬:
 桃仁・大黄(血をめぐらせる)
 大黄・芒硝(瀉下)=承気湯(気分を安定させる)
 桂皮(気をめぐらせる)
 甘草
● こんな症状・所見に:
・体力がある
・月経関連トラブル(月経時狂状)
・女性の頑固な便秘
・イライラ
● 効能効果:
比較的体力があり、のぼせて便秘しがちなものの次の諸症:
・月経不順
・月経困難症
・月経時や産後の精神不安
・腰痛
・便秘
・高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)

127【麻黄附子細辛湯
● 生薬構成:
 麻黄
 附子(強力に温める)
 細辛
● こんな症状・所見に:
・悪寒が強い
・沈脈
・寒さで悪化する関節痛
・喉チク風邪

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こどもの心に効く漢方

2025年05月07日 06時22分59秒 | 漢方
漢方薬は生薬の集まりです。
大抵、基本となる方剤があり、
それをアレンジして様々な方剤が創出され、
いろいろな症状や体質に対応できるようになっています。

さらに特徴として、
構成生薬の中に「こころ」に効くものが入っています。
つまり、「体にも心にも効く」のです。
「心身一如」と呼ばれる所以です。

私は小児科医なので、子どものこころのトラブルの相談を時々受けます。
乳幼児期の夜泣き、
幼児期のかんしゃく、
幼児・学童期の反復性腹痛(過敏性腸症候群)、
等々。
みんな、検査をしても異常が検出できない訴えです。

西洋医学では「ストレスを減らして様子を見ましょう」
としか言えませんが、
漢方では対応する薬が用意されています。
なんと1800年前からあるのですよ。
昔の人も同じようなことで悩んできたのですね。

そんな薬について、整理してみたいと思います。
子どもの成長とともに心の問題(小児心身症)の症状も変遷していきます。
これはアレルギー体質の子どもが成長とともに発症する病気が変化していく「アレルギーマーチ」と似ているな、と感じます。

(乳児期)
1.夜泣き
(幼児期)
1.眠らない
2.よくお腹を痛がる
(学童期)
1.眠らない
3.よく頭を痛がる
4.起立性調節障害・不登校
(思春期)
1.眠れない
2.よくお腹を痛がる
3.よく頭を痛がる
4.起立性調節障害・不登校

以上の病態を4つにまとめると、対応する代表的な漢方薬は、
1.睡眠障害 → 甘麦大棗湯(72)、抑肝散(54)
2.過敏性腸症候群 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯(60)、四逆散(35)
3.反復性頭痛 → 五苓散(17)、柴胡桂枝湯(10)
4.起立性調節障害 → 補中益気湯(41)、苓桂朮甘湯(39)、柴胡桂枝湯(10)

となります。これらを中心に説明します。

 1.睡眠障害夜泣き・眠らない・眠れない

(乳児期)夜泣き:甘麦大棗湯(72)、抑肝散(54)
・泣き虫、シクシク泣く、不安 → 甘麦大棗湯(72)
・怒りんぼ、ギャーギャー泣く、かんしゃくもち → 抑肝散(54)

(幼児期・学童期)眠らない・眠れない
~子どもの4₋5人に1人に睡眠問題がある。
 夜10時以降に就寝する子どもの割合は、1~3歳の半分以上。
・不安・泣き虫・あくび → 甘麦大棗湯(72)
・神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)
・反復性腹痛・虚弱 → 小建中湯(99)
・鼻閉・口を開けて寝ている → 葛根湯加川芎辛夷(2)

(思春期)眠れない
・不安 → 甘麦大棗湯(72)
・イライラ・興奮 → 抑肝散(54)
・動悸・ストレス・恐怖 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・うつうつ、不安だらけ、不眠 → 加味帰脾湯(137)
・心身ともに疲れて眠れない → 酸棗仁湯(103)

 2.お腹を痛がる反復性腹痛過敏性腸症候群
基本編:小建中湯(99)
・虚弱体質で登園・登校前にお腹が痛くなる、
 イベントの前になるとおなかが痛くなるタイプに有効
・マンガ「ちびまる子ちゃん」のキャラクターの中では「中井君」
応用編:
・桂枝加芍薬湯(60):(小学校高学年以降の)過敏性腸症候群
・柴胡桂枝湯(10):小中学生でストレスまみれ、他に頭痛やだるさも訴える
・四逆散(35):中高生でストレスが強く常に緊張、緊張で手が震える、手掌発汗
・芍薬甘草湯(68):頓服で使用

★番外編:のど・胸のつかえ感・違和感 → 半夏厚朴湯(16)

3.頭を痛がる反復性頭痛片頭痛
・気圧変化(低気圧・悪天候)による → 五苓散(17)、苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)
・筋緊張性頭痛 → 柴胡桂枝湯(10)
・神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)
・嘔吐・冷え・胃腸虚弱 → 呉茱萸湯(31)
・虚弱体質(+腹直筋緊張)→ 小建中湯(99)
・月経関連頭痛 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)

4.起立性調節障害・不登校

●「朝起きられない」ときに考えるべき病気:
① 体を起こせない(起立性調節障害)
② 目が覚めない(睡眠覚醒リズム障害)
③ そもそも起きたくない(心理社会的要因)
→ 以上を考慮し、①と判断したら漢方薬の出番。

● 起立性調節障害の諸症状に合う漢方薬
・朝起きられない、だるい、しんどい → 補中益気湯(41)
・朝起きられない、めまい・たちくらみ、車酔い → 苓桂朮甘湯(39)
  +胃腸が弱い・頭痛 → 半夏白朮天麻湯
・おなかが痛い、虚弱 → 小建中湯(99)
・おなかが痛い・頭が痛い・ストレス → 柴胡桂枝湯(10)
・心身症(ストレスが主因)→ 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・生理中に悪化傾向 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)

● 倦怠感+α に効く漢方薬
・倦怠感(とにかくだるい)→ 補中益気湯(41)
・倦怠感 + 貧血・皮膚乾燥 → 十全大補湯(48)
・倦怠感 + めまい・頭痛  → 半夏白朮天麻湯(37)
・倦怠感 + 不安・落ち込み → 加味帰脾湯(137)
・倦怠感 + 胃もたれ・冷え → 六君子湯(43)

フクロウ型体質(山本巌・惠紙英昭先生)
・朝起きるのが苦手
・朝は頭がボーっとしているが、夕方から夜にかけて最も元気
・夜はなかなか寝付けない
・体力がなく疲れやすい、頭痛やめまいがある
・吐き気・胃痛などの消化器症状
 → これらの症状に苓桂朮甘湯(39)が有効、
 倦怠感が強いときは苓桂朮甘湯(39)+補中益気湯(41)が有効

● 不登校になる前の体の不調
・頭痛・腹痛
・疲れやすい
・眠れない
・朝起きられない
 → 以上がやがて、不安・抑うつ・不登校につながる

● 不登校の要因ベスト5(令和4年、文科省)
① 無気力・不安(52%)
② 家庭の問題(13%)
③ 生活リズムの乱れ(11%)
④ 学校の問題(11%)
⑤ 友人関係(9%)

● 不安感に対する漢方薬
・悲しみ・パニック → 甘麦大棗湯(72)
・喉のつまり → 半夏厚朴湯(16)
・不安で心配でたまらない、体力なし、無気力 → 加味帰脾湯(137)
・ストレス、動悸、体力あり → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

★「粉薬は飲めない!」という年長児には錠剤が用意されている方剤も:
・ストレスが強い・動悸・イライラ → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 (抑肝散、甘麦大棗湯の代わりに)
・過敏性腸症候群 → 桂枝加芍薬湯(60)
 (小建中湯の代わりに)
・頭痛・腹痛・緊張が強い → 柴胡桂枝湯(10)
・だるい・疲れた → 補中益気湯(41)
・喉のつまり → 半夏厚朴湯(16)


<方剤解説>

※ 芍薬+甘草 → 鎮痙・鎮痛作用
※ 柴胡+芍薬 → 抗ストレス作用、自律神経調節作用

10【柴胡桂枝湯
● 構成生薬:小柴胡湯+桂枝湯
 桂皮・芍薬・甘草・大棗・生姜 → 桂枝湯
 柴胡・黄岑・半夏・人参・甘草・大棗・生姜 → 小柴胡湯
● 臨床応用:
・頭痛・腹痛などいろいろな症状
・ストレスがありそう
・自律神経失調症
・風邪の亜急性期
・反復性感染症
● こんな症状・体質に(広瀬滋之Dr):
・神経質・几帳面、不安傾向、ストレスに過敏
・ふだんから過緊張傾向(手掌発汗、肩こり、体が硬い)
・痛み(頭痛、腹痛、関節痛等)をよく訴える
・OD傾向あり(小症状>大症状・・・疼痛型)
・心身症に罹りやすい
・けいれん体質、周期性嘔吐症、夜尿症、チック、成長痛、不定愁訴、風邪をひきやすい
→「困ったときの柴胡桂枝湯」(新見正則Dr)

12【柴胡加竜骨牡蛎湯
● 構成生薬:(小柴胡湯-甘草)+竜骨・牡蛎+α
 柴胡・黄岑・半夏・人参・大棗・生姜 →(小柴胡湯-甘草)
 桂皮
 竜骨・牡蛎(精神安定、抗動悸)
 茯苓(精神安定)
● 効能効果:
比較的体力があり、動悸、不眠、いらだちなどの精神症状のあるものの次の諸症:
・高血圧
・動脈硬化
・慢性腎臓病
・てんかん
・ヒステリー
・小児夜驚症
・陰萎
● こんな症状・所見に:
・体力中等度
・ストレスに立ち向かっている
・臍上悸(腹部大動脈拍動著明)
・胸脇苦満(心か部から右脇にかけて抵抗)

16【半夏厚朴湯
● 構成生薬:小半夏加茯苓湯+厚朴・蘇葉
 半夏・茯苓(気をめぐらす)
 生姜
 厚朴・蘇葉(気をめぐらす)
● こんな症状・所見に:
・精神症状+喉のつまり感
・咽頭や食道部の違和感(梅核気、ヒステリー球、咽中炙臠)
● 効能効果:
・不安神経症
・神経性胃炎
・つわり
・咳
・神経性食道狭窄症
・不眠症

17【五苓散
● 構成生薬:
 桂皮(温める、抗炎症作用)
 蒼朮・沢瀉・猪苓・茯苓(水分代謝調節)
● 特徴:
・利水剤:脱水の時には水を保持、浮腫の時には水を排泄。
・水チャンネルであるアクアポリンに作用し水分代謝調節を行う。
● 臨床応用:
・ウイルス性胃腸炎
・頭痛(気象病・天気痛傾向)…アプリ「頭痛-る」の活用を
・乗り物酔い
・飛行機の離着時の症状
・熱中症
・二日酔い
・めまい

35【四逆散
● 構成生薬
 柴胡
 芍薬
 甘草
 枳実

37【半夏白朮天麻湯
● 構成生薬:
 天麻(頭痛・めまいを止める)
 黄耆・人参(元気にする)
 半夏・陳皮・生姜・茯苓・白朮→六君子湯
 茯苓・白朮・沢瀉(利水)
 麦芽・乾姜(健胃)
 黄ばく(清熱)
● 特徴:
・黄耆・人参入り → 参耆剤
・六君子湯の8つの構成生薬のうち、大棗・甘草以外が含まれている。
● こんな症状・所見に:
・めまい・頭痛・嘔気
・胃腸虚弱、全身倦怠感
・冷え

39【苓桂朮甘湯
● 構成生薬:
 茯苓(水をめぐらせる、精神安定)
 桂皮(気をめぐらせる、温める)
 蒼朮(水をめぐらせる、胃腸を整える)
 甘草
● こんな症状・所見に:キーワードは「ドキドキ・チャポチャポ」(腹診所見)
・めまい、立ちくらみ
・頭痛、動悸
・臍上悸(ドキドキ)
・胃内停水音(チャポチャポ)

41【補中益気湯
● 構成生薬:
 柴胡・升麻(下がったものを持ち上げる)
 (下がったものの例)食欲、気分、精神、内臓下垂
 人参・黄耆(元気にする)
 人参・蒼朮・陳皮・生姜・大棗・甘草(胃腸機能改善)
 当帰(血をめぐらせる)
● こんな症状・所見に:
・しんどくてやる気が出ない。
・食欲がない。
・疲れやすい。
・食後の眠気。
・風邪の回復が悪いとき。

54【抑肝散
● 構成生薬:
 釣藤鈎・柴胡(情緒安定)
 茯苓・蒼朮(水のめぐりを調節)
 当帰・センキュウ(血のめぐりを調節)
 甘草
● こんな症状・症状に:
・神経質でイライラ、落ち着きがない。
・常に緊張を強いられている。
・やや興奮的な状態。
・どこかに怒りがある。
※ 母親もイライラしているときは母子同服を。
● 効能効果:
・虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児癇症
● 臨床応用:
・イライラ
・夜泣き、疳の虫
・睡眠障害
・チック
・神経発達症
・泣き入りひきつけ
★ 怒りの急性期には抑肝散、
 長期化した怒りは、心身を損ね虚弱化させ胃腸を弱めるため、
 抑肝散化陳皮半夏がよい。

72【甘麦大棗湯
● 構成生薬:
 甘草(緊張緩和)
 浮小麦(情緒安定)
 → トリプトファンを含み、セロトニンやメラトニンのもとになる。
 大棗(情緒安定・胃腸を整える)
● 特徴:
・すべてが食品としても使用される生薬で甘い。
● こんな症状・所見に:
・精神興奮がはなはだしく、不安・不眠・ひきつけなどのある子ども。
・「大丈夫、心配しないで」と声をかけたくなる子ども。
● 効能効果:
・夜泣き、ひきつけ(ツムラ)
・小児および婦人の神経症、不眠症(コタロー)
● 臨床応用
・不安が強い(母親分離不安も含む)
・夜泣き
・睡眠障害
・パニック、過換気
・チック
・神経発達症
・心因性頻尿
・涙があふれる
● 具体的な投与方法:
・パニック、不安予兆、過呼吸、涙があるれるとき→頓用
・登校不安など→朝、登校・登園前に
・夜泣き、ヤキョウ症、怖い夢を見る→夜、寝る前に
★ パニックに甘麦大棗湯(72)で効果が今一つの場合は、
 苓桂甘棗湯(奔豚湯):甘麦大棗湯(72)+苓桂朮甘湯(39)
 がおススメ。

83【抑肝散化陳皮半夏
● 構成生薬:抑肝散+陳皮・半夏
 陳皮・半夏(胃腸機能調整・気のめぐり・水バランス調整)
● こんな症状・所見に:
・抑肝散より虚弱なタイプ。
・食が細い。
・怒りで心身が弱っている。

99【小建中湯
● 構成生薬:桂枝加芍薬湯+膠飴
 桂皮(温める)
 芍薬(鎮痙・鎮痛)
 大棗・生姜・甘草(胃腸を整える)
 膠飴(滋養・潤す)・・・麦芽糖(オリゴ糖)
● 特徴:
・虚弱児の体質改善
・腸を温めて腸蠕動を調節する
・緊張を緩和し情緒安定 → 体と心の緊張をゆるめて楽にしてくれる
● こんな症状・所見に:
・食が細い、線が細い
・何となく顔色が悪い
・腹痛の訴えが多い
・目の下のクマ、まつげが長い
・偏食で甘いものが好き
・便秘したり下痢したり
・冷え症
・緊張しやすい
・汗をかきやすい(寝汗も)
・頻尿傾向
● 参考となる漢方的腹部診察(腹診)所見:
・お腹を触ると腹直筋が緊張(=交感神経過緊張)している
・くすぐったがる子ども
・「はい、力を抜いて~」と言っても抜けない人
● 効能効果:
・小児虚弱体質
・疲労倦怠
・神経質
・慢性胃腸炎
・小児夜尿症
・夜泣き
● 臨床応用:
・反復性腹痛、過敏性腸症候群
・虚弱児の体質改善
・周期性嘔吐症
・便秘症
・遷延性下痢症
・心因性頻尿
・アレルギー疾患の体質改善

137【加味帰脾湯
● 構成生薬:帰脾湯+柴胡・山梔子
※ 帰脾湯には四君子湯が丸ごと入っている
 柴胡・山梔子(清熱)
 当帰・酸棗仁・竜眼肉・遠志・木香(血を補う、精神安定)
 黄耆・人参
 人参・茯苓・蒼朮・大棗・生姜・甘草
● 効能効果:
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
・貧血
・不眠症
・精神不安
・神経症
● こんな症状・所見に:
・顔色の悪い虚弱タイプ
・心配で思い悩んで疲れる
・オキシトシンとの関係(137はオキシトシンを増やす)


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発生学(西洋医学)と表裏(漢方医学)

2025年04月06日 12時39分58秒 | 漢方
以前からなんとなく、
発生学の外胚葉・中胚葉・内胚葉という分類は、
漢方医学の表・半表半裏・裏とにているなあ、
と思ってきました。

でも、具体的に比較したことはありませんでしたので、
ちょっと実行してみたいと思います。

<西洋医学>
外胚葉  →  表皮・神経系 
中胚葉  →  骨・筋肉・腎臓・生殖器・心臓と血管 
内胚葉  →  消化管(食道~大腸・直腸まで)・肺

(下図はこちらから引用)


<漢方医学>(こちらから引用)
表    →  皮膚,皮下組織,筋肉,四肢,頭部,鼻, 関節など身体表層部
半表半裏 →  口腔 ~胃,肺,気管支,心,肝など横隔膜付近にある 臓器
裏    →  消化管や腹部内臓など身体深部

共通項
外胚葉と表:   皮膚
中胚葉と半表半裏:心臓
内胚葉と裏:   消化管

半表半裏は基本的に裏なので、
細かくいうと違いがありますが、
やはりイメージは似ていますね。

2000年前に確立した漢方医学の概念が、
近代医学の発生学に似ているのは不思議です。

おっと、検索していたら、私の疑問にズバリ答える論文を見つけました。

半表半裏の発生学的考察(日東医誌 Kampo Med Vol.59 No.6 813-850, 2008)
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腰痛その3:持続的な腰痛

2025年02月18日 12時59分43秒 | 漢方
田中 裕之 先生 の腰痛シリーズその3は「持続的な腰痛」つまり「慢性腰痛」です。
今回も、西洋の組織学的知見を漢方的にどうとらえるのか、詳しく解説されています。
私にとって「こんな風に考えるんだ!?」という発見だらけ。

<ポイント>
・持続性腰痛に対する西洋医学治療
 セレコキシブ(消炎鎮痛剤)、高齢者にはアセトアミノフェン(抗炎症効果なし)
  ⇩ 上記薬剤でコントロール不良
 トラマドール・デュロキセチンで中枢性感作を改善、
 しかし組織変性を改善しないので継続使用が必要となる。
・持続性腰痛は高齢者に多く、老化による関節変化は腎虚、関節周囲組織の圧痛を伴う痛みは「経絡の血瘀」と捉えられる。
・高齢者の持続性腰痛は「腎虚への対策」と「経絡内の血瘀」が中心になる。「腎虚への対策」が疎経活血湯(53)をベース方剤としてアレンジする。
・便秘を伴う女性の持続性腰痛には通導散(105)がよい。
・高齢者における「持続性腰痛」は「関節・付着部に原因がある」ことが多く、この場合には「圧痛が強い」という観点から疎経活血湯(53)+治打撲一方(89)という組み合わせがおすすめ。「冷えによる影響が強い」場合には疎経活血湯+附子がおすすめ。


▢ 腰痛3(持続性の腰痛)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長
・・・今回は「反復して継続」「数か月以上にわたって持続」しているような「持続性腰痛」について検討したいと思います。「加齢変性に伴う腰痛」などもこの範疇に属すると考えてください。

▶ 持続性腰痛に対する現代医学的治療
 持続性腰痛に対する現代医学的な治療として「消炎鎮痛薬」を使用する際には安全性を考慮してセレコキシブが選択されることが多いと思います。高齢者に対してはさらにリスク低減目的にアセトアミノフェンが使用されることもあります。ただしこちらは「解熱鎮痛薬」であり抗炎症効果を示さず「局所的な病態改善」は期待できません。これらの薬剤でコントロール不良であればトラマドール・デュロキセチンなどを用いて「中枢性感作」の改善を試みます。しかしそもそもの原因である「組織変性」自体を改善できるわけではないので結果的には「継続的に使用」する必要があります。このように「継続して投薬が必要な場合」は特に「安全性」と「有効性」の両立が求められます。漢方薬は現代薬と比較して少なくとも「安全性」の面では明らかに有利です。さらに「現代医学とは異なる機序」で効果発現することから現代医学での無効例や効果不十分例に対する「代替医療」としてその役割が期待されます。

▶ 持続性腰痛の病態
 持続性の腰痛は特に「高齢者」に多い傾向にあります。頻発部位を組織学的に考えると「関節・付着部」が中心になります。これは前回解説した「一時的な腰痛」が起こりやすい「筋・筋膜」と比較して「深部」に位置します。「関節変性」は「老化」により生じますが、漢方的には「腎虚」によると考えます(図1)。さらに「高齢者下半身の基本治療」の回で解説したように「腰は腎虚の影響を受けやすい部位」であることから腰部椎間関節や椎間板などは特に「加齢の影響を受けやすい」といえます。また付着部をはじめとする「関節周囲の組織」は「機械的刺激を受けやすく」「密な結合組織」であるため「血瘀がこびりつきやすい」構造です。これらの部位の病態では「圧痛を伴う」ことが多いことから漢方的には「経絡内の血瘀」を中心に考えます。


   図1 腎虚と「深さ」

▶ 持続性腰痛に対する漢方治療
 持続性腰痛を訴える患者の多くは「高齢者(中年以降)」です。そのため必要とされる対策は先ほど解説した「腎虚への対策」と「経絡内の血瘀」が中心になります。「腎虚への対策」は「高齢者下半身の基本治療」の回で詳しく解説した疎経活血湯をベース方剤として、これに他剤を組み合わせて使用することが多いです。しかし持続性腰痛を考える上で「加齢変化」以外にもう一つ注目していただきたい症状があります。それが「便秘」です。

▶ 便秘が強い場合
 私の経験では「腰痛」と「便秘」には深い関連があります。両者は漢方的病態では「経絡内の血瘀」という点で関連しています。総論(第3回)でお話ししたように「“経絡の出口”は排便」です。つまり「便秘」があれば「“出口が詰まって”血瘀が発生」しやすくなります(図2)。そのため「便秘」は「疼痛を誘発」し「改善を阻害」します。その結果として病態が「慢性化」しやすくなります。


   図2 経絡と三焦による循環システム

 この裏返しになりますが「血瘀」は「慢性便秘」の原因の一つとなります。便秘の原因はさまざまですが、「プルゼニドを毎日3錠使用していても1週間排便がない」など重度の便秘でも血瘀を解消することで急激に改善することがよくあります。この病態が特に多くみられるのが「高齢者」と「女性」です。高齢者の場合、腰痛により「腹圧をかけづらい」、姿勢不良や運動不足により「下腹部の血流が悪化している」影響が考えられます。一方で女性は「月経痛」「月経過多」など「婦人科系の症状」を併発していることが多く、このような場合は「子宮や卵巣に血瘀がある」可能性が高いです。その影響で骨盤内臓器が隣接する「下部消化管」においても血流がうっ滞しやすく「血瘀による便秘」が生じます。
 子宮は漢方では「女子胞(じょしほう)」(図3)と呼ばれます。女子胞は五臓六腑の中でも特に「腎」「肝」と関連が強いとされています。例えば高齢になると生殖能力が失われるのは「腎」の影響と考えられます。また「経血」は「肝」から供給されストックされた血が定期的に排出されると考えられています。この「ストックされている血」は「血瘀」に相当するのでそもそも「女性は血瘀を発生しやすい」ことになります。「“肝”は感情を主る臓」であるため月経周期による「精神状態の変動」に影響します。特に「血をため込みやすい時期(黄体期)」は「血瘀が悪化」しやすい時期になります。これが月経前症候群(PMS)の原因の一つと考えられます。この時期に「便秘」を伴うと「血の流れがさらに悪化」して「イライラが増悪」しやすくなります。若年女性における腰痛の発生部位は「関節・付着部」などに限らず「腰全体に鈍痛が持続」していることが多いです。子宮・卵巣・後腹膜などの痛みを「腰痛として認知」しているのかもしれません。このような「部位が限局されない」痛みには「血瘀に併発する気滞」が影響していると考えられます。


   図3 女子胞と肝・腎

 「便秘に伴う血瘀」は「肩こり」「頭痛」など「遠隔部位」の症状にも影響しますが、「便が停留している部位は“下部消化管”」であることから特に「隣接部位」への影響が特に強くなります。つまり「腰部」「子宮」など「体幹下部」に影響が出やすい傾向があります。その関連機序の一つとして「便の滞留」が骨盤内で「静脈やリンパを圧迫する」ことが考えられます(図4)。圧力を持つ動脈はこの程度の圧迫では影響を受けませんが、静脈や並走するリンパは明らかに「滞りやすく」なりそうです。例えば「腰方形筋」を支配する静脈の一つである腸腰静脈は腸骨静脈に流入します。そのため骨盤内で便秘により腸骨静脈が圧迫されると「腰方形筋において静脈うっ滞が起こりやすくなる」可能性があります。また間接的には「便秘は腹圧低下を伴いやすい」ことから「姿勢不良」が発生して背筋群や椎間関節に慢性的な負荷がかかるとも考えられます(図5)。


   図4 便秘と骨盤内の静脈


   図5 便秘と腰痛

 このように「便秘と腰痛」は深い関係にあります。漢方薬を使わずとも「便秘を解消する」ことは腰痛治療上有用なので、漢方薬を服用できない場合には現代薬や生活指導で改善を目指します。しかし漢方薬では便通だけでなく「疼痛改善」に対しても積極的に介入できる方剤があります。それが通導散です(図6)。

【通導散】
 君薬:当帰・紅花・蘇木
 臣薬:枳殻・厚朴・陳皮
 佐薬:大黄・芒硝
 使薬:木通・甘草


   図6 通導散

 君薬の紅花と蘇木の組み合わせは慢性化して血塊となった血瘀を砕いて流し去る効果をもちます。これを佐薬の大黄がサポートしてより強固なものにしています。大黄の最大の治療目標は「便秘」なので「血瘀による便秘」にはピッタリの方剤です。私の経験では「便秘を伴った胸腰椎圧迫骨折」の症例に対して著効したことがあります。圧迫骨折はNSAIDsの効果が認められないことがあり鎮痛に難渋することがよくあります。さらに安静臥床に伴い便秘が悪化しやすいです。このような場合にはぜひ本剤をお試しください。
 残りの君薬である当帰は補血薬であり「血虚」がベースに存在する場合に有効です。そのため「腎虚に伴う血虚(高齢者)」や「元来、血虚気味の女性」に対してはさらに適した方剤になっています。本剤は「経絡内・外」ともに流し去り「通じて導く」方剤ですが、疼痛に関しては「経絡内の血瘀」を流し去ることで「圧痛改善」が期待できます。そのため「関節・付着部」では特にその効果が発揮されます。さらに臣薬に配合される枳殻・厚朴・陳皮は「気滞を改善する」理気薬となっています。これらの生薬の作用により「メンタルの影響」にも対応できます。つまり「心因性腰痛」「ストレス性便秘」にも効果が期待できます。これらの症状を複合的に呈している更年期女性にフィットすることが多く、便通に応じて内服回数を調整しながら長期に常用することも多いです。

▶ 便秘を伴わない場合
 次に持続性腰痛で「便秘を伴わない」場合につき検討したいと思います。先ほど解説したように高齢者における「持続性腰痛」は「関節・付着部に原因がある」ことが多いです。この場合には「圧痛が強い」という観点から疎経活血湯+治打撲一方という組み合わせがおすすめです。治打撲一方にも通導散と同様に瀉下作用はありますがそれほど強くありません。下痢に対して注意が必要ですが合方することで疎経活血湯の「鎮痛効果」が増強されることが多いです。また「冷えによる影響が強い」場合には疎経活血湯+附子がおすすめです。附子は「腎虚に対する効果」も期待できる上に温熱効果や鎮痛効果が加わることで高齢者の腰痛には特に有効です。

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腰痛その2:一次的な腰痛

2025年02月18日 10時23分18秒 | 漢方
田中 裕之 先生 の腰痛シリーズその2は「一時的な腰痛」、すなわち急性腰痛です。
これにはいわゆる“ギックリ腰”も含まれます。

ギックリ腰は、漢方的には「血虚(使いすぎ・過労)による腰方形筋の痛み」と捉えられ、芍薬甘草湯が有効、
傍脊柱部(脊柱起立筋)の怠い痛みには葛根湯が有効、とのこと。

<ポイント>
・いわゆる「ギックリ腰」はロキソプロフェンが有効であることから「炎症性疼痛」と考えられる。この病態に対して漢方薬の効果はロキソプロフェンに及ばない。
・「疼くような自発痛」「軽微な刺激により誘発される強い疼痛」にはロキソプロフェンが有効であるが、軽度の腰痛である「ツッパリ感」「不快感」「怠さ」等に対しては漢方薬の方が有効なことが多い。
・「ツッパリ感」を感じるケースでは主に「筋・筋膜」に問題がある。この症状が出現しやすい代表的部位は「腰方形筋」付近。「慢性的なツッパリ感」であれば「気滞」の可能性を考える。
【芍薬甘草湯】
・「過労」「使いすぎ」により発生する腰方形筋の一時的な場合は「血虚」が中心となり、この時に使用するのが芍薬甘草湯である。「こむら返り」に頻用され、「速効性」「筋緊張緩和作用」が期待される。君薬である芍薬は「血中の水(の成分)」を増やす作用、甘草は大量に使用すると「急速に流れを促進」する作用がある。
・芍薬甘草湯は「“血中の水”を補充」しているわけではなく「疑似的に“血中の水”の作用を代替している」ことに注意が必要、根本的に「“血中の水”を増やす」ためには当帰を配合する必要がある。本剤を長期使用しても「腰痛を予防する効果」は期待できない。
【葛根湯】
・脊柱に沿った「怠い」ような腰痛、「かぜ気味で腰痛がある」、「寒い時期」や「体調が悪い時」に「背中が丸くなっている状態」で見られやすい腰痛には葛根湯がよい。「脊柱起立筋」付近の症状が中心で「脊柱に沿って縦に長いエリア」に「怠さ」を訴えに有効であるが、単独で「ギックリ腰」に有効なほどの強い鎮痛効果は期待できない。ロキソプロフェンを使うほどでもない「傍脊柱部の怠い腰痛」を目標に使用するとよい。
・葛根湯は項部のコリを伴う感冒に有効で、葛根は血の流れを改善する活血薬の一つであり「筋肉を潤すことで舒筋」する。
・葛根湯は経絡の「太陽膀胱経」に主に作用する。太陽膀胱経は12本ある経脈の中でも「最も浅い部位を走行する」とされており、体表付近である「皮膚・筋」などへの影響が最も強い。外邪は体表から侵入する」ため最初に「最も浅い経脈」である本経脈に侵入することが多く「風邪のひき初めには葛根湯」として頻用される。


▢ 腰痛2(一時的な腰痛)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長

▶ 「一時的な」腰痛(図1)
 前回お示ししたように「腰痛の90%は自然に治る」と考えると「一時的な腰痛」が圧倒的に多いはずです。「一時的な腰痛」の代表例は「ギックリ腰」です。別名「魔女の一撃」とも呼ばれるように「急性の強い痛み」が特徴です。「ギックリ腰」に対しては「消炎鎮痛薬」である「ロキソプロフェン」が使用されることが多く、しかも有効です。通常はこれに湿布剤やコルセットを併用して数週間で改善することが多いと思います。ロキソプロフェンが有効であるということは「ギックリ腰」は「炎症性疼痛」であると考えられます。 
 「炎症性疼痛」の典型としては「疼くような自発痛」「軽微な刺激により誘発される強い疼痛」などがあげられます。この病態に対して漢方薬の効果はロキソプロフェンに及ばないと思います。では逆に「ロキソプロフェンが効かない一時的な腰痛とは?」と考えてみると「炎症を抑制しても鎮痛が望めない」ということから「非炎症性疼痛」であると推測されます。具体的な症状として「ツッパリ感」「それほど強くない痛み」「不快感」「痛みの変動が大きい」などが考えられます。 「一時的な腰痛」を発症しやすい組織として「筋・筋膜」があげられます。これらの組織におこった「強い痛み」に対してはやはりロキソプロフェンが有効なことが多いですが、「ツッパリ感」「不快感」「怠さ」等に対しては漢方薬の方が有効なことが多いです。これらの症状について漢方的な病態と対応につき検討していきたいと思います。


   図1 ギックリ腰が頻発する筋肉

▶ 「ツッパリ感」が強い一時的腰痛
 「ツッパリ感」を感じるケースでは主に「筋・筋膜」に問題があると考えられます。この症状が出現しやすい代表的部位は「腰方形筋」付近です。「慢性的なツッパリ感」であれば「気滞」の可能性を考えますが、「過労」「使いすぎ」により発生する一時的な場合は「血虚」が中心となります。この時に使用するのが芍薬甘草湯です。

(芍薬甘草湯)君薬:芍薬、臣薬:甘草


   図2 芍薬甘草湯

 本剤は「こむら返り」に頻用されることからもわかるように「速効性」「筋緊張緩和作用」が期待されています。例えば「背筋を使いすぎた」「中腰を長時間保持していた」場合等にみられる「筋のツッパリ感」に適します。漢方的病態で考えると筋肉を作動するために「“血中の水”を消耗」することで「筋に血が届かなくなった」状態です。君薬である芍薬は「血中の水(の成分)」を増やす作用を持ちます。甘草は大量に使用すると「急速に流れを促進」します。ただし本剤は「“血中の水”を補充」しているわけではなく「疑似的に“血中の水”の作用を代替している」ことに注意が必要です。根本的に「“血中の水”を増やす」ためには当帰を配合する必要があります。しかしその場合には効果発現に最低でも数日はかかります。急性症状の場合そんなに待っていられない上に、一時的な消耗にすぎないので速効性のある本剤で代用します。
 使用上の注意として本剤を長期使用しても「腰痛を予防する効果」は期待できません。さらに本剤が含有する「多量の甘草」は長期使用により偽アルドステロン症の発症リスクを高めるため短期投与または頓服を基本とします。
 本剤を腰痛に対して使用するメリットがもう一つあります。腰痛はさまざまな内臓疾患に伴って発生することも多いですが、その中でも本剤を使用する場面が多い「腰方形筋」付近の痛みを呈しやすいのが「尿路結石による痛み」です。尿潜血が陰性でも症状的に疑わしく診断がはっきりしないこともよくあります。本剤の「筋痙攣を緩和」する作用は「尿管の痙攣性の痛み」を軽減する作用が期待できます。この場合ロキソプロフェンに匹敵する鎮痛効果を発揮することが多いです。

▶ 脊柱に沿った「怠い」ような腰痛
 これは「寒い時期」や「体調が悪い時」に「背中が丸くなっている状態」で見られやすい症状です。「脊柱起立筋」付近の症状が中心で「脊柱に沿って縦に長いエリア」に「怠さ」を訴えるようなことがあります。それほど強い痛みではなく治療を必要としないこともありますが、「風邪気味で腰痛もある」ような場合には治療の参考になる症状です。この時に使用するのが葛根湯です。

(葛根湯)
 君薬:葛根
 臣薬:麻黄
 佐薬:桂皮・芍薬
 使薬:甘草・生姜・大棗


   図3 葛根湯

 本剤は風邪薬として有名ですが、その中でも特に「項部のコリを伴う感冒に有効」とされています。これは主に君薬である葛根の「舒筋(じょきん)作用」を期待しています。「舒筋作用」については今まで薏苡仁について何度か触れてきました(第15回)。薏苡仁は「こびりついた水滞をはがす」イメージでした。それに対して葛根は血の流れを改善する活血薬の一つであり「筋肉を潤すことで舒筋する」と考えられています。私は「経絡自体の柔軟性を高める」イメージで使用しています。これは「水滞により周囲から固められている」のではなく「一時的に経絡自体が柔軟性を失っている」ために「硬くなっている」状態です。この病態は「経絡自体の問題」であるため「血瘀」が主病態となりますが急性であるため「こびりついている」のではなく「停滞している」イメージです。葛根は「葛湯(くずゆ)」の原料として知られていますが「デンプンの一種」であるため「滑らかにする」「ふやかして柔軟にする」イメージを持っていただくとよいと思います。
 もう一つ腰痛に対して本剤を使用する根拠があります。それが「経絡の流れ」です。主要な経絡は「経脈」と呼ばれ、人体には主要な経脈が12本設定されており「十二経脈」と呼ばれています。葛根湯はその一つである「太陽膀胱経」に主に作用するとされています(図4)。この経脈は背面では頭頂部から脊柱の両側を下降しています。さらに太陽膀胱経は12本ある経脈の中でも「最も浅い部位を走行する」とされており体表付近である「皮膚・筋」などへの影響が最も強いです。この考え方は本剤が頻用される「感冒の治療」についても影響します。「外邪は体表から侵入する」ため最初に「最も浅い経脈」である本経脈に侵入することが多く「風邪のひき初めには葛根湯」として頻用されています(図5)。この理論を腰痛に対して応用します。ただし単独で「ギックリ腰」に有効なほどの強い鎮痛効果は期待できません。外邪の中でも「風邪」の影響が強い「怠さ」が主な治療目標になります。ロキソプロフェンを使うほどでもない「傍脊柱部の怠い腰痛」を目標に使用していただくとよいと思います。


   図4 太陽膀胱経

   図5 初期の感冒
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腰痛その1:分類

2025年02月18日 07時39分42秒 | 漢方
私は小児科医ですが、歳を取ってくると知人から成人領域の症状・病気の相談を受けることが増えてきます。
今回は腰痛。
漢方的対処法を調べてみました。

整形外科医の田中裕之先生の解説で勉強しましたが、
まず西洋医学的組織とそれに対応する漢方病態の関連が複雑怪奇!
覚えられそうになく、めげそう。

<ポイント>
・腰痛全体の85%は画像検査で明らかな異常が見られない「非特異的腰痛」である。
・非特異的腰痛の半数以上にストレス、不安などの「心理・社会的要因」が関与している。
・腰痛の経過:「90%は自然に治る」「慢性化は約10%」「急性腰痛を繰り返す人は約25%」。
・急性期であれば「ロキソプロフェンを出しておけばだいたい治る」 → 「急性の腰痛」はほとんどが「炎症による」。
・残る「ロキソプロフェンが効かない」または「効果不十分」「痛み止めを使うほどの強い痛みではない」ような症例が問題となる。慢性化している場合には神経痛を伴えばプレガバリン、疼痛が強ければデュロキセチンやトラマドールというパターンだが、これでも解決しない症例がいる。
・以前から腰痛には「精神的影響が強い」とされており、その対応として整形外科では従来「エチゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)」が多用されてきたが、近年ベンゾジアゼピン系の依存性や認知症発症リスクが問題視されている。非特異的慢性腰痛に対してデュロキセチンを使用することが多い。
<筋肉痛・筋膜痛>
・痛みは主に筋膜で感じる。筋膜に関しては「気滞」⇒「水滞」⇒「筋膜の柔軟性低下」⇒「ツッパリ感」。同時に発生する「怠さ」については「気滞」⇒「軽度の血瘀」⇒「筋うっ血」が併発していると考える。
・腰痛の強さが「軽症」の場合は「気滞を解消する」つまり「流れを改善する」イメージをもって治療する。「気滞の原因」として内因性であれば「ストレス」の影響を、外因性であれば「風邪」の影響を考える。
・「筋断裂」や「筋膜の癒着」等により発生する「重症」の腰痛では以下に示す「関節痛・付着部痛」に準じて「経絡内の血瘀」が中心と考えて治療する。
<関節痛>
・一般的な関節痛とは「骨・関節から生じる」というより「関節周囲の組織」から生じる。これらを構成する「高密度の結合組織」におこった「微小循環障害」が痛みの主因。これらの痛みはほぼ全例に「圧痛が強い」という特徴を示し、漢方的には「経絡内の血瘀」が中心の病態となる。故に治療は「血瘀を砕いて流す」イメージで行う。
・腰痛の漢方的原因
  • 特異的腰痛(腰椎椎間板ヘルニア・分離症など):「血瘀」
  • 心理・社会的要因:「気滞」
  • 天候などの環境的要因:「風邪」「寒邪」「湿邪」
  • 体調の影響:「体質により異なる」各種病態
<急性腰痛・慢性腰痛>
・「一時的な腰痛」は「画像所見では異常がない(非特異的)」場合でも「過労」「冷え」など原因が推測できることが多く対策が立てやすい。
・持続性の腰痛」の原因は高齢者であればほとんどが「加齢変性」。若年者の慢性腰痛では「体質的問題」「慢性ストレス状態」が多くなり対応が難しい。


軽症腰痛の多くは「筋膜由来」で、漢方的には「筋膜の水滞」と捉えること、重症腰痛は「筋肉の瘀血」と捉えて方剤を考慮、ということのようです。
最後にまとめられていた「漢方的原因」でようやく腑に落ちました。


▢ 腰痛1(腰痛の分類)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長
2024.12.11:漢方スクエア)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 腰痛とは
 「令和4年 国民生活基礎調査」によると全自覚症状の中で「腰痛」の有訴率は第1位であり10人に1人が「腰痛持ち」だそうです。対象患者は若年者から高齢者まで幅広く存在しますが加齢に伴い増加します。しかし腰痛全体の85%は画像検査で明らかな異常が見られない「非特異的腰痛」であるとされており、さらに非特異的腰痛の半数以上にストレス、不安などの「心理・社会的要因」が関与しているとされています。「腰痛の経過」としては「90%は自然に治る」とされており「慢性化は約10%」「急性腰痛を繰り返す人は約25%」とされています。このように日常的で「自然軽快が望める症状」の代表ですが、治療するとなると「病態把握」は複雑です。その最大の理由が「非特異的」つまり「異常所見を認めない」点にあります。「どこに異常があるのか不明」な症状は「現代医学の苦手とする病態」です。
 しかし実際には急性期であれば「ロキソプロフェンを出しておけばだいたい治る」というのが現実です。この点を考えると「急性の腰痛」はほとんどが「炎症による」と考えられます。そのため問題となるのは「ロキソプロフェンが効かない」または「効果不十分」「痛み止めを使うほどの強い痛みではない」ような症例になります。また慢性化している場合には神経痛を伴えばプレガバリン、疼痛が強ければデュロキセチンやトラマドールというパターンが考えられます。しかしそれらを用いても疼痛コントロール不良なケースが存在します。
 以前から腰痛には「精神的影響が強い」とされており、その対応として整形外科では従来「エチゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)」が多用されてきました。しかし近年ベンゾジアゼピン系の依存性や認知症発症リスクが問題となっています。「エチゾラム」は中毒性が非常に強く、当院では「ベンゾジアゼピン中毒化」していた患者に対して何人か「離脱に成功」しましたがかなり大変です。できる限り新規の投与は控えていただく方がよいと思います。非特異的慢性腰痛に対して私はデュロキセチンを使用することが多いです。本剤で「精神的影響」にもある程度対応できるようになりましたが、残念ながら副作用により使用できない場合も多々あります。これらの現代薬で対応が不十分な腰痛に対し漢方によるアプローチで治療効果を高めていきましょう。

▶ 腰痛の頻発部位(図1)
 一口に「腰痛」といっても詳しく診察していると様々な症状があります。まずは腰痛の「頻発」部位について考えてみたいと思います。これらは単独で発生したリ複合的に発生したりします。さらに誘因についても様々です。腰痛を治療する上でこれらをいくつかに分類して検討したいと思います。


   図1 腰痛頻発部位

▶ 腰痛頻発部位の組織学的分類(図2)
 先ほど挙げた頻発部位を「組織学的」に4つに分類したいと思います。さらにそれぞれに多い特徴的な「痛みの特徴」をお示しします。
1. 筋肉・筋膜痛(動作時痛・怠い、突っ張る)
2. 関節痛(動作時痛・圧痛が強い)
3. 付着部痛(動作時痛・圧痛が強い)
4. 神経痛(安静時痛・しびれ・放散痛) 


   図2 腰痛組織学的分類

▶ 組織学的分類と漢方的病態
 上記の組織学的分類を漢方的イメージに置き換えて漢方的病態を考えてみたいと思います。・・・
1. 筋・筋膜痛(図3)
 まずは組織学的にそれぞれについてどのように考えるのか検討したいと思います。
 「」は「血液が豊富で赤い」ため「経絡」の影響が強い組織です。そのため問題となる病態は「血虚」「血瘀」が中心となります。一方で「筋膜」は「結合組織であり赤くない」ため「三焦」の影響が強いです。そのため発生する病態は「水滞」です。しかし筋膜が「水を貯留する」ことはないためこの場合の水滞は「浮腫」ではなく「硬化」をきたすことで「筋膜の柔軟性を低下」させます(手部腱鞘炎3参照)。これらの部位における「痛みの知覚」は主に筋膜で行われており、具体的な症状としては「筋膜のツッパリ感」が中心となります。では「筋由来の痛み」とはどのようなものでしょうか? まず「血虚」についてはこむら返りの回(参照)でも解説しましたが「筋痙攣」「筋過緊張」を呈します。一方「血瘀」であれば「筋膨隆」「筋うっ血」「強い痛み」などの症状が出現し、さらに「持続しやすい」はずです。
 しかし実際には「水」「血」の病態は併発することがほとんどです。そして両者に共通して影響する病態が「気滞」です。気滞は「三焦には水滞」「経絡には血瘀」をもたらします。「気滞」の代表的症状の一つに「張った感じ」があります。筋膜に関しては「気滞」⇒「水滞」⇒「筋膜の柔軟性低下」⇒「ツッパリ感」と考えられます。これと同時に発生する「怠さ」については「気滞」⇒「軽度の血瘀」⇒「筋うっ血」が併発していると考えるとよいです。そのため腰痛の強さが「軽症」の場合は「気滞を解消する」つまり「流れを改善する」イメージをもって治療を検討します。「気滞の原因」として内因性であれば「ストレス」の影響を、外因性であれば「風邪」の影響を考えます。「気滞」と「風邪」は「移ろいやすい」という共通した特徴を示します。これが多くの場合「自然軽快が望める」理由だと考えられます。ただし「筋断裂」や「筋膜の癒着」等により発生する「重症」の腰痛では以下に示す「関節痛・付着部痛」に準じて「経絡内の血瘀」が中心と考えて治療する方がよいです。


   図3 筋・筋膜

2. 関節痛・付着部痛(図4)
 この2つは同様に考えていただくとよいです。私は一般的な関節痛とは「骨・関節から生じる」というより「関節周囲の組織」から生じると考えています。関節内滑膜などの影響はもちろんありますが、力学的負荷を考えると関節包や靱帯付着部などの方が影響は強そうです。具体的にはこれらを構成する「高密度の結合組織」におこった「微小循環障害」が痛みの主因と考えています。先ほど解説した「筋・筋膜の痛み」についても例えば「第5腰椎横突起~仙骨・腸骨の間隙」などの「筋膜が密集している部位」や「筋膜が重積している部位」に形成される「トリガーポイント」は付着部と同様に考えるとよいと思います。これらの痛みはほぼ全例に「圧痛が強い」という特徴を示します。そのため漢方的には「経絡内の血瘀」が中心の病態となります。血瘀は外傷により急性発症することもありますが、非外傷性の場合は時間をかけてゆっくりと形成されることが多く「こびりつきが強い」傾向にあります。先ほど挙げた「軽度の血瘀」による「怠さ」と比較してこちらは「経絡が閉塞して流れない」状態にあり「慢性の強い痛み」を誘発しやすいです。故に治療は「血瘀を砕いて流す」イメージで行います。ちなみに私の経験上「内服治療が奏効しない腰痛」で最も多く経験するのが「仙腸関節由来の痛み」です。この部位の痛みは骨格を伝わって大腿部まで痛みを伴うことが多く、坐骨神経痛と紛らわしいですが「しびれがほとんどない」ことが特徴です。「プレガバリンが全く効かない」「安静時痛がない」「歩行時のみ増悪する」などの症状を呈することが多いです。この場合漢方では「関節・付着部におこった血瘀」として治打撲一方を使用することが多いのですが、残念ながら奏効しないこともよくあります。そんな時には「仙腸関節ブロック」が劇的に有効なことが多いので是非お試しください。局所麻酔薬の効果はすぐに切れるはずですが、一旦痛みを止めると数か月単位で有効なことも多いです。注射後はしばらく治打撲一方を投与して再発予防を試みるとよいと思います。


   図4 付着部

▶ 原因による分類と漢方的病態(図5)
 最初に解説したように腰痛の85%は「非特異的腰痛」とされています。つまり「原因がはっきりせず」複合的な原因で発生することが多いですが、目安としてそれぞれの原因と漢方的解釈につきお示ししたいと思います。


   図5 腰痛の漢方的原因
  • 特異的腰痛(腰椎椎間板ヘルニア・分離症など):「血瘀」
  • 心理・社会的要因:「気滞」
  • 天候などの環境的要因:「風邪」「寒邪」「湿邪」
  • 体調の影響:「体質により異なる」各種病態
▶ 時間的な分類
 最初に解説したように腰痛の90%は「自然に治る」とされています。すなわちほとんどは「一時的な腰痛」で残り10%が「持続的な腰痛」となります。治療する上で「一時的な腰痛」は「画像所見では異常がない(非特異的)」場合でも「過労」「冷え」など「原因が推測できる」ことが多く対策が立てやすいです。それに対して「持続性の腰痛」の原因は高齢者であればほとんどが「加齢変性」です。一方で若年者の慢性腰痛では「体質的問題」「慢性ストレス状態」が多くなり対応が難しくなります。このように「一時的な痛み」なのか「持続的な痛み」なのかによっても対応方法を検討する必要があります。




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未病の漢方:冷え性

2025年02月02日 09時05分43秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の動画「未病シリーズ」、今回は冷え症です。
西洋医学では病気とは見なされず、当然治療法もありませんが、
漢方医学では「冷えは万病の元」と最重要視されています。

体調不良に「冷え」が隠れていると、まずそこから治療を考えます。
例えば、冬になるとしもやけで悩む方には、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)という特効薬がありますが、
冷えが強くてその効きが悪い人もいます。
そのような人には、冬になる前から人参湯(32)でお腹を温め、
冬に備えるという治療を考慮します。
これが“未病を治す”という概念ですね。

実際に私が関わった患者さんで、
皮膚科で治療したけどよくならず相談され、
漢方薬をいくつか試したのですが手応えは今ひとつ、
結局、秋から人参湯を飲んだら解決した人がいます。

では備忘録としてのメモを残しておきます。
結論から云うと、

寒証+気虚 → 乾姜 → 人参湯(32)、大建中湯(100)
寒証+血虚 → 当帰 → 当帰芍薬散(23)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
寒証+水毒 → 附子 → 真武湯(30)、八味地黄丸(7)

になります。

▶ 冷えは万病の元
・“冷え”は未病、自然治癒力低下(免疫力低下)状態
・病気になりやすい、病気が治りにくい
(例)風邪、花粉症、がん
・冷えに伴う不調
 ✓ 頭痛、肩こり ・・・かき氷を急いで食べると頭が痛くなる
 ✓ 腰痛、関節痛
 ✓ 下痢、腹痛
 ✓ 月経不順(遅延が多い)、不妊
 ✓ 浮腫、肥満(水太り)
 ✓ 不眠

▶ 冷え性の原因となる病気
・西洋医学・漢方医学の関連とみると
 (甲状腺機能低下症)≒(寒証)
 (甲上腺機能亢進症)≒(熱証)

        (甲状腺機能低下症)(甲上腺機能亢進症)
甲状腺ホルモン      ⇩        ⇧
基礎代謝         ⇩        ⇧
体温          低い        高い
脈拍          遅い        速い
血圧          低い        高い
気分       気力低下・眠気    イライラ・不眠
顔色        蒼白(寒がり)   赤ら顔(暑がり)

・冷え症は甲状腺機能低下症の諸症状に一致する

▶ 寒冷に対する体の反応
1.熱の産生を増やす
・ふるえ
・交感神経緊張  → 代謝亢進  
2.熱の放散を減らす
・表在血管の収縮
・汗を止める(毛穴が閉じる)
・鳥肌が立つ(立毛筋の収縮)

▶ 冷え性の病態
・交感神経が緊張しても代謝が亢進しにくい → 熱の産生が増えない。
・熱の放散を減らすことしかできない。
 → 冷え症の症状・所見につながる。

▶ 熱の産生メカニズム〜その1:関係する臓器
・食事:炭水化物や脂肪を分解(異化)する過程でが発生する
・肝臓(化学工場):有害物質の分解・解毒を行う過程でが発生
・褐色脂肪細胞(肩甲骨・脊椎・腎周囲):漢方的には“太陽膀胱経”が走る部位、交感神経緊張なしでが発生(感冒罹患時など)

▶ 熱の産生メカニズム〜その2:熱が発生する活動
・食事 → ATP → 運動エネルギー → 筋肉(平滑筋・心筋・骨格筋)運動(仕事)でが発生
・食事 → ATP → 電気的エネルギー → 活動電位(神経・筋細胞の興奮)、静止膜電位(腎・尿細管での再吸収)でが発生

▶ 熱の産生メカニズム〜その3:熱の産生システムと五臓の関係
(脾・胃)食事〜ATP〜平滑筋(胃腸)
(肝・心)肝臓〜心筋・骨格筋・活動電位
(腎・肺)褐色脂肪細胞〜静止膜電位(Naポンプ)
※ 白色脂肪(体脂肪)は分解されてエネルギー(ATP)になるが、褐色脂肪はエネルギーにならず熱を産生するだけ。

▶ 熱の産生システム〜その4:五臓と冷えを3つに分類
1.脾・胃の陽虚:気虚を伴う → お腹〜全身が冷える
・栄養補給システム、消化器系の機能低下を伴う
2.肝・心の陽虚:血虚を伴う → 手足が冷える
・精神運動システム・循環器系の機能低下を伴う
3.腎・肺の陽虚:水滞を伴う → 下半身が冷える
・生体防御システム・泌尿器系の機能低下※ 陽虚 ≒ 寒証

▶ 冷え性(寒証タイプ)その1:寒証+気虚
・気虚 → 消化吸収低下、栄養補給低下
・症状:お腹〜全身が冷える
 ✓ お腹を冷やすとすぐに下痢する(腸管の吸収が悪い)
 ✓ 腹痛を伴う(腸管の動きが悪い → 便秘)
・適応症薬:乾姜(生姜に熱を加えて乾かした物)
・適応方剤:
 ✓ 人参湯(32) → お腹を冷やすとすぐに下痢する人へ
 ✓ 大建中湯(100) → 腹痛を伴う人へ(便秘系)
・養生:
 ✓ 腹巻き(冬も夏も)、カイロ、お灸
 ✓ 温める食材:ショウガ、ネギ
 ✓ とにかくお腹を冷やさない

▶ 冷え性(寒証タイプ)その2:寒証+血虚
・血虚:血液循環低下、精神運動低下
・症状:手足が冷える
 ✓ 手足の先が白くなる
 ✓ しもやけができる
・適応症薬:当帰
・適応方剤:
 ✓ 当帰芍薬散(23)
 ✓ 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)・・・しもやけの第一選択薬
・養生:
 ✓ エクササイズ、ストレッチ
 ✓ 日内リズム調整(規則正しい生活)

▶ 冷え性(寒証タイプ)その3:寒証+水滞
・水滞:泌尿排泄能低下、生活防御能低下
・症状:下半身が冷える
 ✓ 下半身が重い
 ✓ 下半身がむくむ
・適応症薬:附子(代謝亢進、熱産生亢進)
・適応方剤:
 ✓ 真武湯(30)
 ✓ 八味地黄丸(7)
・養生:
 ✓ 半身浴、インターバル速歩
 ✓ マグネシウムを多く含む食材(種実類、豆類、海藻類、ココアなど)
※ マグネシウムは酵素の減量となり、化学反応(≒代謝)を助ける

<参考>
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高齢者の腰下肢痛の漢方

2025年01月27日 07時35分57秒 | 漢方
知識をアップデートすべく、今回は小児漢方と離れて、
ふだん扱うことのない高齢者漢方のセミナーを視聴しました。

高齢者の漢方は小児と比較して複雑です。
人生の荒波にもまれ、さまざまな因子により症状が発生し色づけされるからです。

今回のセミナー(講師は喜多Dr.)でも、
どの漢方的評価法を用いればいいのか、
複雑な説明で煙に巻かれる感じがしました。

最初の基礎編でまず、気血水と五臓論が混じり合って解説されるという応用問題からはじまり、
頭の中が混乱しました。

高齢者の腰下肢痛を漢方医学で分析すると、
気虚・血虚・腎虚の要素があり、
かつ寒熱で漢方薬を使い分けるという、
複雑な思考回路が必要であることがわかりました。

でも、「ここまでわかっているけど、ここからが微妙」という自覚もできますので、
高齢者漢方を学ぶことも有用だと思いました。

備忘録としてメモを残しておきます。

▶ 変形性膝関節症や高齢者の腰下肢痛では“寒熱”概念が重要

▶ 西洋医学は疾患局所を診て、漢方医学は患者全体を診る
・その患者が病気になりやすい状態か、病気が治りにくい状態か
・漢方の診断治療スキルである“証”で評価する
 ✓ 気血水:不健康状態を把握
 ✓ 虚実寒熱:体質を評価
 ✓ 陰陽六病位:闘病反応を評価
・診断治療体系が異なるため、西洋医学からみると「同病異治」「異病同治」が発生する。

【気虚のはなし】

▶ “気”の働き
・“気”には二つの働きがある
✓ 機能発現:パワーとしての気(モーター)
✓ 機能維持:エネルギーとしての気(電池)・・・ATP ← グルコース・脂肪酸 ← 炭水化物・脂肪
・パワー低下+エネルギー不足=気虚

▶ 機能発現の三つの気(パワー)
・胃気 → 消化吸収機能発現
・神気 → 精神運動機能発現
・衛気 → 生体防御機能発現
これらのパワーとしての気に、エネルギーとしての気が供給されて機能を発現する。
エネルギーとしての気は胃気(消化吸収機能)により後天の気・水穀の気として供給される。

▶ 気虚の症候
・消化吸収機能低下
 ✓ 食欲低下
 ✓ 胃もたれ
 ✓ 消化不良
 ✓ 軟便傾向
 ✓ 下痢しやすい
・精神運動機能低下
 ✓ 全身倦怠感や易疲労
 ✓ 気力や活力低下
 ✓ 日中の眠気
 ✓ 目や声に力がない
 ✓ 手足がだるい
・脈・舌・腹の所見
・生体防御機能低下
 ✓ 風邪を引きやすい
 ✓ 風邪が治りにくい
 ✓ 創傷が治りにくい
 ✓ 脈が弱い
 ✓ 舌の色が淡白
 ✓ 腹力軟弱

▶ 構造を形成する第四の気(パワー)、腎気(先天の気)
・腎気(先天の気) → 成長・発育、生殖・妊娠・出産、細胞の再生・抗加齢
・腎気は有機資材としての血から供給され、構造を維持する

▶ 狭義の気虚と腎虚を区別
・狭義の気虚:後天の気不足
・広義の気虚:後天の気不足+先天の気不足

▶ 腎虚の病態に適応となる方剤:八味地黄丸(7)
・先天の気(腎気)を補い、有機資材としての血を補う
 ✓ 成長能力の賦活
 ✓ 生殖能力の賦活
 ✓ 再生能力の賦活

▶ 八味地黄丸(7)が適応となる症状(抜粋)
症状:腰部・下肢の脱力感、腰痛、膝痛、下肢のしびれ
疾病:運動器疾患(腰痛症、坐骨神経痛、変形性膝関節症、骨粗鬆症)

【血虚のはなし】

▶ 血が供給する素材
・エネルギー源(機能維持):グルコースなど(水穀の気・後天の気)
・有機素材(構造維持):アミノ酸やたんぱく質

▶ 血虚の病態
代謝器官(化学工場)としての甘草におけるアミノ酸やたんぱく質などの有機資材の産生低下
 ⇩
血液循環による全身の細胞への有機資材の供給低下
 ⇩
供給された有機資材を利用して全身の細胞が身体構造を形成・維持する活動低下
(筋肉・皮膚・爪・毛髪・軟骨・細胞内骨格など)

▶ 血虚の病態を示唆する症候
(全身)疲れやすい、体がだるい、体重減少、貧血
(精神)物忘れ、集中力低下、不眠、浅眠
(頭部)顔色不良、抜け毛、白髪、かすみ目、疲れ目、めまい感、口が渇く、舌色白色調
(四肢)皮膚の荒れとカサカサ、爪が薄くて割れやすい、筋肉のけいれん、こむら返り、手足のしびれ
(その他)動悸、息切れ、過少月経

▶ 気虚と血虚の共通する症状
・易疲労
・倦怠感
・舌色淡白〜白色調

▶ 血虚と腎虚の共通する症状
・疲労倦怠
・口が渇く
・皮膚枯燥
・下肢のしびれ
・動悸

▶ 血虚に対する方剤の使い分け
・筋肉(骨格筋・平滑筋)の血虚 → 芍薬甘草湯(68)
 ✓ こむら返り、急性腰痛、腹部仙痛など
・四肢・関節の血虚  → 疎経活血湯(53)
 ✓ 坐骨神経痛、変形性膝関節症など
・皮膚の血虚 → 温清飲(57)
 ✓ 湿疹、じんま疹、皮膚掻痒症など

【変形性膝関節症の漢方治療】

▶ 変形性膝関節症における漢方的病態
・腎虚:示された八味地黄丸(7)の効能表中に「膝痛」
・血虚:
 代謝器官(化学工場)としての甘草におけるアミノ酸やたんぱく質などの有機資材の産生低下
  ⇩
 血液循環による全身の細胞への有機資材の供給低下
  ⇩
 供給された有機資材を利用して損傷した膝関節の滑膜を形成・修復する活動低下
 (間接表面の滑らかさが失われる)

▶ 変形性膝関節症の漢方を寒熱で使い分ける
    熱感 腫脹 疼痛
熱証:  +  +  +  → 越婢加朮湯(28)  
中間:  ー  +  +  → 防巳黄耆湯(20)
寒証:  ー  ー  +  → 桂枝加苓朮附湯 ・・・寒証+気虚

▶ 血虚を伴う変形性膝関節症の漢方を寒熱で使い分ける
    熱感 腫脹 疼痛
熱証:  +  +  +  → 薏苡仁湯(52) 
中間:  ー  +  +  → 疎経活血湯(53)
寒証:  ー  ー  +  → 大防風湯(97)

▶ 桂枝加苓朮附湯で効果が不十分な場合の次の一手
・関節腫脹が強い場合 → 防巳黄耆湯(20)を併用
・関節の熱感が強い場合 → 越婢加朮湯(28)を併用
・冷えが強い場合  → 附子末を追加(高齢者ではこのパターンが多い)

▶ 附子末の使い方
・運動器の傷みを訴える寒証患者には広く使用可能
・附子末は単独で処方することはできないので、他の方剤と併用する。
・1日0.5gから開始して、0.75g → 1.0g → 1.5g → 2.0g → 3.0gと徐々に増量する。
・患者には副作用(舌のしびれ、動悸、のぼせ、悪心、不整脈)について事前に説明し、
 副作用が出たら中止を指示しておく。
・冬季には増量し、夏季には減量する。

【高齢者腰下肢痛の漢方治療】

▶ 高齢者の痛みには「附子剤」が第一選択
・寒証+腎虚 → 附子+地黄 → 八味地黄丸(7)、牛車腎気丸(107)
・寒証+脾虚 → 附子+芍薬 → 桂枝加苓朮附湯
注1)胃腸が丈夫であれば高齢者には地黄を第一選択とする。
注2)胃腸の虚弱な高齢者には地黄ではなく芍薬が適応となる。

▶ 附子無効例には「当帰剤」が第二選択
・寒証+血虚+気逆 → 当帰+芍薬+桂皮 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・寒証+血虚+瘀血 → 当帰+芍薬+桃仁 → 疎経活血湯(53)
注1)当帰+芍薬は冷えを伴う筋肉の緊張と血流低下を改善する。
注2)附子剤も当帰剤も無効な例には大防風湯(97)が適応となる。

▶ 高齢者の痛みに対する漢方薬のまとめ
第一選択(附子剤)
・胃腸が丈夫・腎虚 → 八味地黄丸(7)、牛車腎気丸(107)
・胃腸が弱い・脾虚 → 桂枝加苓朮附湯
第二選択(当帰剤)
・冷えが強い・気逆 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・冷えが弱い・瘀血 → 疎経活血湯(53)
第三選択(附子+当帰) → 大防風湯(97)


・・・う〜ん、消化不良(^^;)。
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未病の漢方:花粉症

2025年01月16日 10時45分15秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の未病シリーズ、今回は「花粉症」を視聴しました。
すでに患者さんに漢方を多用している私ですが、
それでも勉強になりました。

未病シリーズなので、症状だけでなく、アレルギー体質を変える養生についても触れています。
その中で「乾布摩擦」が登場して驚きました。

私はアレルギー専門医なので、
今から四半世紀前までは、重症小児喘息患者は学校併設の総合病院小児科に入院治療していた時代を知っています。
そこで当たり前のように行われていた健康づくりが乾布摩擦です。

しかしそのエビデンスが不十分であり、
上半身裸になることも時代に逆行しており、
今では姿を消しました。

そして今、乾布摩擦は漢方医学由来であることを知りました。
その理論的背景は「肺(体の表面=皮膚)に刺激を与えて免疫力を活性化する」というもの。

花粉症を気血水で解説し、
免疫力を五臓論(肺・腎)で解説している今回の内容も、
私には腑に落ちました。

西洋医学の概念「アレルギー性炎症」は漢方医学では「冷え・水滞」である、
 アレルギー性炎症=寒証
 化膿性炎症=熱証
とわかりやすく対比して見せてくれました。

講義メモを備忘録として残しておきます。

▶ 花粉症の概要
アレルギー体質+アレルゲン(花粉)
 → アレルギー炎症
 → 症状:鼻(くしゃみ、鼻汁)、眼結膜(かゆみ、充血)
漢方医学的に考えると、
 アレルギー炎症=病気
 アレルギー体質=未病

▶ 慢性鼻炎の病態を二次元グラフで位置づける

          (化膿性炎症)
             ⇧
               辛夷清肺湯(104)
               荊芥連翹湯(50)
(冷え・水滞あり)⇦       ⇨(冷え・水滞なし)
   小青竜湯(19)
  麻黄附子細辛湯(127)
             ⇩
         (アレルギー性炎症)

▶ “アレルギー炎症“は“冷え・水滞“
・炎症(アレルギーを含)=免疫系の反応
・免疫系は漢方医学的には肺と腎が関係する。
・アレルギー性炎症(西洋医学)は冷え・水滞(漢方医学)である。
・鼻汁は透明・水様である。
・小青竜湯(19)と麻黄附子細辛湯(127)は冷え・水滞を改善することにより症状をやわらげる。
・「冷え・水滞」は漢方理論、すなわち仮説であるが、実際に小青竜湯などが有効であることから実証されている。

▶ “化膿性炎症”は“熱”
・化膿性(感染性)炎症は熱証であり冷え・水滞はない。
・化膿性炎症による鼻炎には辛夷清肺湯(104)や荊芥連翹湯(50)が使用される。
・鼻汁は黄色・粘稠である。

▶ 鼻炎に“養生”が必要な理由
・小青竜湯(19)・麻黄附子細辛湯(127)には麻黄という生薬が入っており、
急性期・有症状期は問題ないが、長期に使用することは好ましくない。
・麻黄を使い続けないために“養生”が必要になる。
・鼻炎の病態には薬>養生、鼻炎の体質改善には養生>薬が重視される。

▶ 五臓理論上、免疫をつかさどるのは肺と腎
・漢方医学が確立した2000年前には免疫学はなかった、当時考えた仮説が五臓論。

▶ 肺の陽気(衛気)の働き
1.表を温めて、防衛する。
・表とは、皮膚・上気道(鼻〜のど)・下気道(気管〜肺)を含む。
2.表に水を巡らせる。
・リンパの流れ、発汗の調節。

▶ 肺の陽虚
1.体表面の冷え
2.防衛力の低下
3.体表面の水滞 → 水様鼻汁・水様喀痰 ← 乾姜・細辛(小青竜湯)で改善

▶ 肺の陽気を活性化する養生
・乾布摩擦
・冷水シャワー(風呂上がり、朝シャワー、滝壺修行)
・リンパマッサージ

▶ 腎の陽気の働き
1.熱を産生する
・深部体温(37℃)の維持
2.排尿
・老廃物(水毒)の排泄

▶ 腎の陽虚
1.下半身が冷えやすい(ヒトの身体は上熱下寒という状態になりやすい)
2.下半身には水毒が停滞しやすい
   ⇩
 腰から下の冷えと痛み ← 苓姜朮甘湯(118):茯苓・白朮で水滞を治し、乾姜で陽虚を治す。

▶ 腎の陽気を活性化する養生
・半身浴:38〜40℃のお湯に20〜30分間、ジワジワと発汗するまでつかる。
・インターバル速歩:3分/3分×5回(合計30分)を週に4〜5日


<参考>
未病の漢方:花粉症(喜多敏明Dr.の未病シリーズ)
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