小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

腰痛その3:持続的な腰痛

2025年02月18日 12時59分43秒 | 漢方
田中 裕之 先生 の腰痛シリーズその3は「持続的な腰痛」つまり「慢性腰痛」です。
今回も、西洋の組織学的知見を漢方的にどうとらえるのか、詳しく解説されています。
私にとって「こんな風に考えるんだ!?」という発見だらけ。

<ポイント>
・持続性腰痛に対する西洋医学治療
 セレコキシブ(消炎鎮痛剤)、高齢者にはアセトアミノフェン(抗炎症効果なし)
  ⇩ 上記薬剤でコントロール不良
 トラマドール・デュロキセチンで中枢性感作を改善、
 しかし組織変性を改善しないので継続使用が必要となる。
・持続性腰痛は高齢者に多く、老化による関節変化は腎虚、関節周囲組織の圧痛を伴う痛みは「経絡の血瘀」と捉えられる。
・高齢者の持続性腰痛は「腎虚への対策」と「経絡内の血瘀」が中心になる。「腎虚への対策」が疎経活血湯(53)をベース方剤としてアレンジする。
・便秘を伴う女性の持続性腰痛には通導散(105)がよい。
・高齢者における「持続性腰痛」は「関節・付着部に原因がある」ことが多く、この場合には「圧痛が強い」という観点から疎経活血湯(53)+治打撲一方(89)という組み合わせがおすすめ。「冷えによる影響が強い」場合には疎経活血湯+附子がおすすめ。


▢ 腰痛3(持続性の腰痛)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長
・・・今回は「反復して継続」「数か月以上にわたって持続」しているような「持続性腰痛」について検討したいと思います。「加齢変性に伴う腰痛」などもこの範疇に属すると考えてください。

▶ 持続性腰痛に対する現代医学的治療
 持続性腰痛に対する現代医学的な治療として「消炎鎮痛薬」を使用する際には安全性を考慮してセレコキシブが選択されることが多いと思います。高齢者に対してはさらにリスク低減目的にアセトアミノフェンが使用されることもあります。ただしこちらは「解熱鎮痛薬」であり抗炎症効果を示さず「局所的な病態改善」は期待できません。これらの薬剤でコントロール不良であればトラマドール・デュロキセチンなどを用いて「中枢性感作」の改善を試みます。しかしそもそもの原因である「組織変性」自体を改善できるわけではないので結果的には「継続的に使用」する必要があります。このように「継続して投薬が必要な場合」は特に「安全性」と「有効性」の両立が求められます。漢方薬は現代薬と比較して少なくとも「安全性」の面では明らかに有利です。さらに「現代医学とは異なる機序」で効果発現することから現代医学での無効例や効果不十分例に対する「代替医療」としてその役割が期待されます。

▶ 持続性腰痛の病態
 持続性の腰痛は特に「高齢者」に多い傾向にあります。頻発部位を組織学的に考えると「関節・付着部」が中心になります。これは前回解説した「一時的な腰痛」が起こりやすい「筋・筋膜」と比較して「深部」に位置します。「関節変性」は「老化」により生じますが、漢方的には「腎虚」によると考えます(図1)。さらに「高齢者下半身の基本治療」の回で解説したように「腰は腎虚の影響を受けやすい部位」であることから腰部椎間関節や椎間板などは特に「加齢の影響を受けやすい」といえます。また付着部をはじめとする「関節周囲の組織」は「機械的刺激を受けやすく」「密な結合組織」であるため「血瘀がこびりつきやすい」構造です。これらの部位の病態では「圧痛を伴う」ことが多いことから漢方的には「経絡内の血瘀」を中心に考えます。


   図1 腎虚と「深さ」

▶ 持続性腰痛に対する漢方治療
 持続性腰痛を訴える患者の多くは「高齢者(中年以降)」です。そのため必要とされる対策は先ほど解説した「腎虚への対策」と「経絡内の血瘀」が中心になります。「腎虚への対策」は「高齢者下半身の基本治療」の回で詳しく解説した疎経活血湯をベース方剤として、これに他剤を組み合わせて使用することが多いです。しかし持続性腰痛を考える上で「加齢変化」以外にもう一つ注目していただきたい症状があります。それが「便秘」です。

▶ 便秘が強い場合
 私の経験では「腰痛」と「便秘」には深い関連があります。両者は漢方的病態では「経絡内の血瘀」という点で関連しています。総論(第3回)でお話ししたように「“経絡の出口”は排便」です。つまり「便秘」があれば「“出口が詰まって”血瘀が発生」しやすくなります(図2)。そのため「便秘」は「疼痛を誘発」し「改善を阻害」します。その結果として病態が「慢性化」しやすくなります。


   図2 経絡と三焦による循環システム

 この裏返しになりますが「血瘀」は「慢性便秘」の原因の一つとなります。便秘の原因はさまざまですが、「プルゼニドを毎日3錠使用していても1週間排便がない」など重度の便秘でも血瘀を解消することで急激に改善することがよくあります。この病態が特に多くみられるのが「高齢者」と「女性」です。高齢者の場合、腰痛により「腹圧をかけづらい」、姿勢不良や運動不足により「下腹部の血流が悪化している」影響が考えられます。一方で女性は「月経痛」「月経過多」など「婦人科系の症状」を併発していることが多く、このような場合は「子宮や卵巣に血瘀がある」可能性が高いです。その影響で骨盤内臓器が隣接する「下部消化管」においても血流がうっ滞しやすく「血瘀による便秘」が生じます。
 子宮は漢方では「女子胞(じょしほう)」(図3)と呼ばれます。女子胞は五臓六腑の中でも特に「腎」「肝」と関連が強いとされています。例えば高齢になると生殖能力が失われるのは「腎」の影響と考えられます。また「経血」は「肝」から供給されストックされた血が定期的に排出されると考えられています。この「ストックされている血」は「血瘀」に相当するのでそもそも「女性は血瘀を発生しやすい」ことになります。「“肝”は感情を主る臓」であるため月経周期による「精神状態の変動」に影響します。特に「血をため込みやすい時期(黄体期)」は「血瘀が悪化」しやすい時期になります。これが月経前症候群(PMS)の原因の一つと考えられます。この時期に「便秘」を伴うと「血の流れがさらに悪化」して「イライラが増悪」しやすくなります。若年女性における腰痛の発生部位は「関節・付着部」などに限らず「腰全体に鈍痛が持続」していることが多いです。子宮・卵巣・後腹膜などの痛みを「腰痛として認知」しているのかもしれません。このような「部位が限局されない」痛みには「血瘀に併発する気滞」が影響していると考えられます。


   図3 女子胞と肝・腎

 「便秘に伴う血瘀」は「肩こり」「頭痛」など「遠隔部位」の症状にも影響しますが、「便が停留している部位は“下部消化管”」であることから特に「隣接部位」への影響が特に強くなります。つまり「腰部」「子宮」など「体幹下部」に影響が出やすい傾向があります。その関連機序の一つとして「便の滞留」が骨盤内で「静脈やリンパを圧迫する」ことが考えられます(図4)。圧力を持つ動脈はこの程度の圧迫では影響を受けませんが、静脈や並走するリンパは明らかに「滞りやすく」なりそうです。例えば「腰方形筋」を支配する静脈の一つである腸腰静脈は腸骨静脈に流入します。そのため骨盤内で便秘により腸骨静脈が圧迫されると「腰方形筋において静脈うっ滞が起こりやすくなる」可能性があります。また間接的には「便秘は腹圧低下を伴いやすい」ことから「姿勢不良」が発生して背筋群や椎間関節に慢性的な負荷がかかるとも考えられます(図5)。


   図4 便秘と骨盤内の静脈


   図5 便秘と腰痛

 このように「便秘と腰痛」は深い関係にあります。漢方薬を使わずとも「便秘を解消する」ことは腰痛治療上有用なので、漢方薬を服用できない場合には現代薬や生活指導で改善を目指します。しかし漢方薬では便通だけでなく「疼痛改善」に対しても積極的に介入できる方剤があります。それが通導散です(図6)。

【通導散】
 君薬:当帰・紅花・蘇木
 臣薬:枳殻・厚朴・陳皮
 佐薬:大黄・芒硝
 使薬:木通・甘草


   図6 通導散

 君薬の紅花と蘇木の組み合わせは慢性化して血塊となった血瘀を砕いて流し去る効果をもちます。これを佐薬の大黄がサポートしてより強固なものにしています。大黄の最大の治療目標は「便秘」なので「血瘀による便秘」にはピッタリの方剤です。私の経験では「便秘を伴った胸腰椎圧迫骨折」の症例に対して著効したことがあります。圧迫骨折はNSAIDsの効果が認められないことがあり鎮痛に難渋することがよくあります。さらに安静臥床に伴い便秘が悪化しやすいです。このような場合にはぜひ本剤をお試しください。
 残りの君薬である当帰は補血薬であり「血虚」がベースに存在する場合に有効です。そのため「腎虚に伴う血虚(高齢者)」や「元来、血虚気味の女性」に対してはさらに適した方剤になっています。本剤は「経絡内・外」ともに流し去り「通じて導く」方剤ですが、疼痛に関しては「経絡内の血瘀」を流し去ることで「圧痛改善」が期待できます。そのため「関節・付着部」では特にその効果が発揮されます。さらに臣薬に配合される枳殻・厚朴・陳皮は「気滞を改善する」理気薬となっています。これらの生薬の作用により「メンタルの影響」にも対応できます。つまり「心因性腰痛」「ストレス性便秘」にも効果が期待できます。これらの症状を複合的に呈している更年期女性にフィットすることが多く、便通に応じて内服回数を調整しながら長期に常用することも多いです。

▶ 便秘を伴わない場合
 次に持続性腰痛で「便秘を伴わない」場合につき検討したいと思います。先ほど解説したように高齢者における「持続性腰痛」は「関節・付着部に原因がある」ことが多いです。この場合には「圧痛が強い」という観点から疎経活血湯+治打撲一方という組み合わせがおすすめです。治打撲一方にも通導散と同様に瀉下作用はありますがそれほど強くありません。下痢に対して注意が必要ですが合方することで疎経活血湯の「鎮痛効果」が増強されることが多いです。また「冷えによる影響が強い」場合には疎経活血湯+附子がおすすめです。附子は「腎虚に対する効果」も期待できる上に温熱効果や鎮痛効果が加わることで高齢者の腰痛には特に有効です。

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腰痛その2:一次的な腰痛

2025年02月18日 10時23分18秒 | 漢方
田中 裕之 先生 の腰痛シリーズその2は「一時的な腰痛」、すなわち急性腰痛です。
これにはいわゆる“ギックリ腰”も含まれます。

ギックリ腰は、漢方的には「血虚(使いすぎ・過労)による腰方形筋の痛み」と捉えられ、芍薬甘草湯が有効、
傍脊柱部(脊柱起立筋)の怠い痛みには葛根湯が有効、とのこと。

<ポイント>
・いわゆる「ギックリ腰」はロキソプロフェンが有効であることから「炎症性疼痛」と考えられる。この病態に対して漢方薬の効果はロキソプロフェンに及ばない。
・「疼くような自発痛」「軽微な刺激により誘発される強い疼痛」にはロキソプロフェンが有効であるが、軽度の腰痛である「ツッパリ感」「不快感」「怠さ」等に対しては漢方薬の方が有効なことが多い。
・「ツッパリ感」を感じるケースでは主に「筋・筋膜」に問題がある。この症状が出現しやすい代表的部位は「腰方形筋」付近。「慢性的なツッパリ感」であれば「気滞」の可能性を考える。
【芍薬甘草湯】
・「過労」「使いすぎ」により発生する腰方形筋の一時的な場合は「血虚」が中心となり、この時に使用するのが芍薬甘草湯である。「こむら返り」に頻用され、「速効性」「筋緊張緩和作用」が期待される。君薬である芍薬は「血中の水(の成分)」を増やす作用、甘草は大量に使用すると「急速に流れを促進」する作用がある。
・芍薬甘草湯は「“血中の水”を補充」しているわけではなく「疑似的に“血中の水”の作用を代替している」ことに注意が必要、根本的に「“血中の水”を増やす」ためには当帰を配合する必要がある。本剤を長期使用しても「腰痛を予防する効果」は期待できない。
【葛根湯】
・脊柱に沿った「怠い」ような腰痛、「かぜ気味で腰痛がある」、「寒い時期」や「体調が悪い時」に「背中が丸くなっている状態」で見られやすい腰痛には葛根湯がよい。「脊柱起立筋」付近の症状が中心で「脊柱に沿って縦に長いエリア」に「怠さ」を訴えに有効であるが、単独で「ギックリ腰」に有効なほどの強い鎮痛効果は期待できない。ロキソプロフェンを使うほどでもない「傍脊柱部の怠い腰痛」を目標に使用するとよい。
・葛根湯は項部のコリを伴う感冒に有効で、葛根は血の流れを改善する活血薬の一つであり「筋肉を潤すことで舒筋」する。
・葛根湯は経絡の「太陽膀胱経」に主に作用する。太陽膀胱経は12本ある経脈の中でも「最も浅い部位を走行する」とされており、体表付近である「皮膚・筋」などへの影響が最も強い。外邪は体表から侵入する」ため最初に「最も浅い経脈」である本経脈に侵入することが多く「風邪のひき初めには葛根湯」として頻用される。


▢ 腰痛2(一時的な腰痛)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長

▶ 「一時的な」腰痛(図1)
 前回お示ししたように「腰痛の90%は自然に治る」と考えると「一時的な腰痛」が圧倒的に多いはずです。「一時的な腰痛」の代表例は「ギックリ腰」です。別名「魔女の一撃」とも呼ばれるように「急性の強い痛み」が特徴です。「ギックリ腰」に対しては「消炎鎮痛薬」である「ロキソプロフェン」が使用されることが多く、しかも有効です。通常はこれに湿布剤やコルセットを併用して数週間で改善することが多いと思います。ロキソプロフェンが有効であるということは「ギックリ腰」は「炎症性疼痛」であると考えられます。 
 「炎症性疼痛」の典型としては「疼くような自発痛」「軽微な刺激により誘発される強い疼痛」などがあげられます。この病態に対して漢方薬の効果はロキソプロフェンに及ばないと思います。では逆に「ロキソプロフェンが効かない一時的な腰痛とは?」と考えてみると「炎症を抑制しても鎮痛が望めない」ということから「非炎症性疼痛」であると推測されます。具体的な症状として「ツッパリ感」「それほど強くない痛み」「不快感」「痛みの変動が大きい」などが考えられます。 「一時的な腰痛」を発症しやすい組織として「筋・筋膜」があげられます。これらの組織におこった「強い痛み」に対してはやはりロキソプロフェンが有効なことが多いですが、「ツッパリ感」「不快感」「怠さ」等に対しては漢方薬の方が有効なことが多いです。これらの症状について漢方的な病態と対応につき検討していきたいと思います。


   図1 ギックリ腰が頻発する筋肉

▶ 「ツッパリ感」が強い一時的腰痛
 「ツッパリ感」を感じるケースでは主に「筋・筋膜」に問題があると考えられます。この症状が出現しやすい代表的部位は「腰方形筋」付近です。「慢性的なツッパリ感」であれば「気滞」の可能性を考えますが、「過労」「使いすぎ」により発生する一時的な場合は「血虚」が中心となります。この時に使用するのが芍薬甘草湯です。

(芍薬甘草湯)君薬:芍薬、臣薬:甘草


   図2 芍薬甘草湯

 本剤は「こむら返り」に頻用されることからもわかるように「速効性」「筋緊張緩和作用」が期待されています。例えば「背筋を使いすぎた」「中腰を長時間保持していた」場合等にみられる「筋のツッパリ感」に適します。漢方的病態で考えると筋肉を作動するために「“血中の水”を消耗」することで「筋に血が届かなくなった」状態です。君薬である芍薬は「血中の水(の成分)」を増やす作用を持ちます。甘草は大量に使用すると「急速に流れを促進」します。ただし本剤は「“血中の水”を補充」しているわけではなく「疑似的に“血中の水”の作用を代替している」ことに注意が必要です。根本的に「“血中の水”を増やす」ためには当帰を配合する必要があります。しかしその場合には効果発現に最低でも数日はかかります。急性症状の場合そんなに待っていられない上に、一時的な消耗にすぎないので速効性のある本剤で代用します。
 使用上の注意として本剤を長期使用しても「腰痛を予防する効果」は期待できません。さらに本剤が含有する「多量の甘草」は長期使用により偽アルドステロン症の発症リスクを高めるため短期投与または頓服を基本とします。
 本剤を腰痛に対して使用するメリットがもう一つあります。腰痛はさまざまな内臓疾患に伴って発生することも多いですが、その中でも本剤を使用する場面が多い「腰方形筋」付近の痛みを呈しやすいのが「尿路結石による痛み」です。尿潜血が陰性でも症状的に疑わしく診断がはっきりしないこともよくあります。本剤の「筋痙攣を緩和」する作用は「尿管の痙攣性の痛み」を軽減する作用が期待できます。この場合ロキソプロフェンに匹敵する鎮痛効果を発揮することが多いです。

▶ 脊柱に沿った「怠い」ような腰痛
 これは「寒い時期」や「体調が悪い時」に「背中が丸くなっている状態」で見られやすい症状です。「脊柱起立筋」付近の症状が中心で「脊柱に沿って縦に長いエリア」に「怠さ」を訴えるようなことがあります。それほど強い痛みではなく治療を必要としないこともありますが、「風邪気味で腰痛もある」ような場合には治療の参考になる症状です。この時に使用するのが葛根湯です。

(葛根湯)
 君薬:葛根
 臣薬:麻黄
 佐薬:桂皮・芍薬
 使薬:甘草・生姜・大棗


   図3 葛根湯

 本剤は風邪薬として有名ですが、その中でも特に「項部のコリを伴う感冒に有効」とされています。これは主に君薬である葛根の「舒筋(じょきん)作用」を期待しています。「舒筋作用」については今まで薏苡仁について何度か触れてきました(第15回)。薏苡仁は「こびりついた水滞をはがす」イメージでした。それに対して葛根は血の流れを改善する活血薬の一つであり「筋肉を潤すことで舒筋する」と考えられています。私は「経絡自体の柔軟性を高める」イメージで使用しています。これは「水滞により周囲から固められている」のではなく「一時的に経絡自体が柔軟性を失っている」ために「硬くなっている」状態です。この病態は「経絡自体の問題」であるため「血瘀」が主病態となりますが急性であるため「こびりついている」のではなく「停滞している」イメージです。葛根は「葛湯(くずゆ)」の原料として知られていますが「デンプンの一種」であるため「滑らかにする」「ふやかして柔軟にする」イメージを持っていただくとよいと思います。
 もう一つ腰痛に対して本剤を使用する根拠があります。それが「経絡の流れ」です。主要な経絡は「経脈」と呼ばれ、人体には主要な経脈が12本設定されており「十二経脈」と呼ばれています。葛根湯はその一つである「太陽膀胱経」に主に作用するとされています(図4)。この経脈は背面では頭頂部から脊柱の両側を下降しています。さらに太陽膀胱経は12本ある経脈の中でも「最も浅い部位を走行する」とされており体表付近である「皮膚・筋」などへの影響が最も強いです。この考え方は本剤が頻用される「感冒の治療」についても影響します。「外邪は体表から侵入する」ため最初に「最も浅い経脈」である本経脈に侵入することが多く「風邪のひき初めには葛根湯」として頻用されています(図5)。この理論を腰痛に対して応用します。ただし単独で「ギックリ腰」に有効なほどの強い鎮痛効果は期待できません。外邪の中でも「風邪」の影響が強い「怠さ」が主な治療目標になります。ロキソプロフェンを使うほどでもない「傍脊柱部の怠い腰痛」を目標に使用していただくとよいと思います。


   図4 太陽膀胱経

   図5 初期の感冒
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腰痛その1:分類

2025年02月18日 07時39分42秒 | 漢方
私は小児科医ですが、歳を取ってくると知人から成人領域の症状・病気の相談を受けることが増えてきます。
今回は腰痛。
漢方的対処法を調べてみました。

整形外科医の田中裕之先生の解説で勉強しましたが、
まず西洋医学的組織とそれに対応する漢方病態の関連が複雑怪奇!
覚えられそうになく、めげそう。

<ポイント>
・腰痛全体の85%は画像検査で明らかな異常が見られない「非特異的腰痛」である。
・非特異的腰痛の半数以上にストレス、不安などの「心理・社会的要因」が関与している。
・腰痛の経過:「90%は自然に治る」「慢性化は約10%」「急性腰痛を繰り返す人は約25%」。
・急性期であれば「ロキソプロフェンを出しておけばだいたい治る」 → 「急性の腰痛」はほとんどが「炎症による」。
・残る「ロキソプロフェンが効かない」または「効果不十分」「痛み止めを使うほどの強い痛みではない」ような症例が問題となる。慢性化している場合には神経痛を伴えばプレガバリン、疼痛が強ければデュロキセチンやトラマドールというパターンだが、これでも解決しない症例がいる。
・以前から腰痛には「精神的影響が強い」とされており、その対応として整形外科では従来「エチゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)」が多用されてきたが、近年ベンゾジアゼピン系の依存性や認知症発症リスクが問題視されている。非特異的慢性腰痛に対してデュロキセチンを使用することが多い。
<筋肉痛・筋膜痛>
・痛みは主に筋膜で感じる。筋膜に関しては「気滞」⇒「水滞」⇒「筋膜の柔軟性低下」⇒「ツッパリ感」。同時に発生する「怠さ」については「気滞」⇒「軽度の血瘀」⇒「筋うっ血」が併発していると考える。
・腰痛の強さが「軽症」の場合は「気滞を解消する」つまり「流れを改善する」イメージをもって治療する。「気滞の原因」として内因性であれば「ストレス」の影響を、外因性であれば「風邪」の影響を考える。
・「筋断裂」や「筋膜の癒着」等により発生する「重症」の腰痛では以下に示す「関節痛・付着部痛」に準じて「経絡内の血瘀」が中心と考えて治療する。
<関節痛>
・一般的な関節痛とは「骨・関節から生じる」というより「関節周囲の組織」から生じる。これらを構成する「高密度の結合組織」におこった「微小循環障害」が痛みの主因。これらの痛みはほぼ全例に「圧痛が強い」という特徴を示し、漢方的には「経絡内の血瘀」が中心の病態となる。故に治療は「血瘀を砕いて流す」イメージで行う。
・腰痛の漢方的原因
  • 特異的腰痛(腰椎椎間板ヘルニア・分離症など):「血瘀」
  • 心理・社会的要因:「気滞」
  • 天候などの環境的要因:「風邪」「寒邪」「湿邪」
  • 体調の影響:「体質により異なる」各種病態
<急性腰痛・慢性腰痛>
・「一時的な腰痛」は「画像所見では異常がない(非特異的)」場合でも「過労」「冷え」など原因が推測できることが多く対策が立てやすい。
・持続性の腰痛」の原因は高齢者であればほとんどが「加齢変性」。若年者の慢性腰痛では「体質的問題」「慢性ストレス状態」が多くなり対応が難しい。


軽症腰痛の多くは「筋膜由来」で、漢方的には「筋膜の水滞」と捉えること、重症腰痛は「筋肉の瘀血」と捉えて方剤を考慮、ということのようです。
最後にまとめられていた「漢方的原因」でようやく腑に落ちました。


▢ 腰痛1(腰痛の分類)
田中 裕之 先生:たなか整形漢方クリニック 院長
2024.12.11:漢方スクエア)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 腰痛とは
 「令和4年 国民生活基礎調査」によると全自覚症状の中で「腰痛」の有訴率は第1位であり10人に1人が「腰痛持ち」だそうです。対象患者は若年者から高齢者まで幅広く存在しますが加齢に伴い増加します。しかし腰痛全体の85%は画像検査で明らかな異常が見られない「非特異的腰痛」であるとされており、さらに非特異的腰痛の半数以上にストレス、不安などの「心理・社会的要因」が関与しているとされています。「腰痛の経過」としては「90%は自然に治る」とされており「慢性化は約10%」「急性腰痛を繰り返す人は約25%」とされています。このように日常的で「自然軽快が望める症状」の代表ですが、治療するとなると「病態把握」は複雑です。その最大の理由が「非特異的」つまり「異常所見を認めない」点にあります。「どこに異常があるのか不明」な症状は「現代医学の苦手とする病態」です。
 しかし実際には急性期であれば「ロキソプロフェンを出しておけばだいたい治る」というのが現実です。この点を考えると「急性の腰痛」はほとんどが「炎症による」と考えられます。そのため問題となるのは「ロキソプロフェンが効かない」または「効果不十分」「痛み止めを使うほどの強い痛みではない」ような症例になります。また慢性化している場合には神経痛を伴えばプレガバリン、疼痛が強ければデュロキセチンやトラマドールというパターンが考えられます。しかしそれらを用いても疼痛コントロール不良なケースが存在します。
 以前から腰痛には「精神的影響が強い」とされており、その対応として整形外科では従来「エチゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)」が多用されてきました。しかし近年ベンゾジアゼピン系の依存性や認知症発症リスクが問題となっています。「エチゾラム」は中毒性が非常に強く、当院では「ベンゾジアゼピン中毒化」していた患者に対して何人か「離脱に成功」しましたがかなり大変です。できる限り新規の投与は控えていただく方がよいと思います。非特異的慢性腰痛に対して私はデュロキセチンを使用することが多いです。本剤で「精神的影響」にもある程度対応できるようになりましたが、残念ながら副作用により使用できない場合も多々あります。これらの現代薬で対応が不十分な腰痛に対し漢方によるアプローチで治療効果を高めていきましょう。

▶ 腰痛の頻発部位(図1)
 一口に「腰痛」といっても詳しく診察していると様々な症状があります。まずは腰痛の「頻発」部位について考えてみたいと思います。これらは単独で発生したリ複合的に発生したりします。さらに誘因についても様々です。腰痛を治療する上でこれらをいくつかに分類して検討したいと思います。


   図1 腰痛頻発部位

▶ 腰痛頻発部位の組織学的分類(図2)
 先ほど挙げた頻発部位を「組織学的」に4つに分類したいと思います。さらにそれぞれに多い特徴的な「痛みの特徴」をお示しします。
1. 筋肉・筋膜痛(動作時痛・怠い、突っ張る)
2. 関節痛(動作時痛・圧痛が強い)
3. 付着部痛(動作時痛・圧痛が強い)
4. 神経痛(安静時痛・しびれ・放散痛) 


   図2 腰痛組織学的分類

▶ 組織学的分類と漢方的病態
 上記の組織学的分類を漢方的イメージに置き換えて漢方的病態を考えてみたいと思います。・・・
1. 筋・筋膜痛(図3)
 まずは組織学的にそれぞれについてどのように考えるのか検討したいと思います。
 「」は「血液が豊富で赤い」ため「経絡」の影響が強い組織です。そのため問題となる病態は「血虚」「血瘀」が中心となります。一方で「筋膜」は「結合組織であり赤くない」ため「三焦」の影響が強いです。そのため発生する病態は「水滞」です。しかし筋膜が「水を貯留する」ことはないためこの場合の水滞は「浮腫」ではなく「硬化」をきたすことで「筋膜の柔軟性を低下」させます(手部腱鞘炎3参照)。これらの部位における「痛みの知覚」は主に筋膜で行われており、具体的な症状としては「筋膜のツッパリ感」が中心となります。では「筋由来の痛み」とはどのようなものでしょうか? まず「血虚」についてはこむら返りの回(参照)でも解説しましたが「筋痙攣」「筋過緊張」を呈します。一方「血瘀」であれば「筋膨隆」「筋うっ血」「強い痛み」などの症状が出現し、さらに「持続しやすい」はずです。
 しかし実際には「水」「血」の病態は併発することがほとんどです。そして両者に共通して影響する病態が「気滞」です。気滞は「三焦には水滞」「経絡には血瘀」をもたらします。「気滞」の代表的症状の一つに「張った感じ」があります。筋膜に関しては「気滞」⇒「水滞」⇒「筋膜の柔軟性低下」⇒「ツッパリ感」と考えられます。これと同時に発生する「怠さ」については「気滞」⇒「軽度の血瘀」⇒「筋うっ血」が併発していると考えるとよいです。そのため腰痛の強さが「軽症」の場合は「気滞を解消する」つまり「流れを改善する」イメージをもって治療を検討します。「気滞の原因」として内因性であれば「ストレス」の影響を、外因性であれば「風邪」の影響を考えます。「気滞」と「風邪」は「移ろいやすい」という共通した特徴を示します。これが多くの場合「自然軽快が望める」理由だと考えられます。ただし「筋断裂」や「筋膜の癒着」等により発生する「重症」の腰痛では以下に示す「関節痛・付着部痛」に準じて「経絡内の血瘀」が中心と考えて治療する方がよいです。


   図3 筋・筋膜

2. 関節痛・付着部痛(図4)
 この2つは同様に考えていただくとよいです。私は一般的な関節痛とは「骨・関節から生じる」というより「関節周囲の組織」から生じると考えています。関節内滑膜などの影響はもちろんありますが、力学的負荷を考えると関節包や靱帯付着部などの方が影響は強そうです。具体的にはこれらを構成する「高密度の結合組織」におこった「微小循環障害」が痛みの主因と考えています。先ほど解説した「筋・筋膜の痛み」についても例えば「第5腰椎横突起~仙骨・腸骨の間隙」などの「筋膜が密集している部位」や「筋膜が重積している部位」に形成される「トリガーポイント」は付着部と同様に考えるとよいと思います。これらの痛みはほぼ全例に「圧痛が強い」という特徴を示します。そのため漢方的には「経絡内の血瘀」が中心の病態となります。血瘀は外傷により急性発症することもありますが、非外傷性の場合は時間をかけてゆっくりと形成されることが多く「こびりつきが強い」傾向にあります。先ほど挙げた「軽度の血瘀」による「怠さ」と比較してこちらは「経絡が閉塞して流れない」状態にあり「慢性の強い痛み」を誘発しやすいです。故に治療は「血瘀を砕いて流す」イメージで行います。ちなみに私の経験上「内服治療が奏効しない腰痛」で最も多く経験するのが「仙腸関節由来の痛み」です。この部位の痛みは骨格を伝わって大腿部まで痛みを伴うことが多く、坐骨神経痛と紛らわしいですが「しびれがほとんどない」ことが特徴です。「プレガバリンが全く効かない」「安静時痛がない」「歩行時のみ増悪する」などの症状を呈することが多いです。この場合漢方では「関節・付着部におこった血瘀」として治打撲一方を使用することが多いのですが、残念ながら奏効しないこともよくあります。そんな時には「仙腸関節ブロック」が劇的に有効なことが多いので是非お試しください。局所麻酔薬の効果はすぐに切れるはずですが、一旦痛みを止めると数か月単位で有効なことも多いです。注射後はしばらく治打撲一方を投与して再発予防を試みるとよいと思います。


   図4 付着部

▶ 原因による分類と漢方的病態(図5)
 最初に解説したように腰痛の85%は「非特異的腰痛」とされています。つまり「原因がはっきりせず」複合的な原因で発生することが多いですが、目安としてそれぞれの原因と漢方的解釈につきお示ししたいと思います。


   図5 腰痛の漢方的原因
  • 特異的腰痛(腰椎椎間板ヘルニア・分離症など):「血瘀」
  • 心理・社会的要因:「気滞」
  • 天候などの環境的要因:「風邪」「寒邪」「湿邪」
  • 体調の影響:「体質により異なる」各種病態
▶ 時間的な分類
 最初に解説したように腰痛の90%は「自然に治る」とされています。すなわちほとんどは「一時的な腰痛」で残り10%が「持続的な腰痛」となります。治療する上で「一時的な腰痛」は「画像所見では異常がない(非特異的)」場合でも「過労」「冷え」など「原因が推測できる」ことが多く対策が立てやすいです。それに対して「持続性の腰痛」の原因は高齢者であればほとんどが「加齢変性」です。一方で若年者の慢性腰痛では「体質的問題」「慢性ストレス状態」が多くなり対応が難しくなります。このように「一時的な痛み」なのか「持続的な痛み」なのかによっても対応方法を検討する必要があります。




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未病の漢方:冷え性

2025年02月02日 09時05分43秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の動画「未病シリーズ」、今回は冷え症です。
西洋医学では病気とは見なされず、当然治療法もありませんが、
漢方医学では「冷えは万病の元」と最重要視されています。

体調不良に「冷え」が隠れていると、まずそこから治療を考えます。
例えば、冬になるとしもやけで悩む方には、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)という特効薬がありますが、
冷えが強くてその効きが悪い人もいます。
そのような人には、冬になる前から人参湯(32)でお腹を温め、
冬に備えるという治療を考慮します。
これが“未病を治す”という概念ですね。

実際に私が関わった患者さんで、
皮膚科で治療したけどよくならず相談され、
漢方薬をいくつか試したのですが手応えは今ひとつ、
結局、秋から人参湯を飲んだら解決した人がいます。

では備忘録としてのメモを残しておきます。
結論から云うと、

寒証+気虚 → 乾姜 → 人参湯(32)、大建中湯(100)
寒証+血虚 → 当帰 → 当帰芍薬散(23)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
寒証+水毒 → 附子 → 真武湯(30)、八味地黄丸(7)

になります。

▶ 冷えは万病の元
・“冷え”は未病、自然治癒力低下(免疫力低下)状態
・病気になりやすい、病気が治りにくい
(例)風邪、花粉症、がん
・冷えに伴う不調
 ✓ 頭痛、肩こり ・・・かき氷を急いで食べると頭が痛くなる
 ✓ 腰痛、関節痛
 ✓ 下痢、腹痛
 ✓ 月経不順(遅延が多い)、不妊
 ✓ 浮腫、肥満(水太り)
 ✓ 不眠

▶ 冷え性の原因となる病気
・西洋医学・漢方医学の関連とみると
 (甲状腺機能低下症)≒(寒証)
 (甲上腺機能亢進症)≒(熱証)

        (甲状腺機能低下症)(甲上腺機能亢進症)
甲状腺ホルモン      ⇩        ⇧
基礎代謝         ⇩        ⇧
体温          低い        高い
脈拍          遅い        速い
血圧          低い        高い
気分       気力低下・眠気    イライラ・不眠
顔色        蒼白(寒がり)   赤ら顔(暑がり)

・冷え症は甲状腺機能低下症の諸症状に一致する

▶ 寒冷に対する体の反応
1.熱の産生を増やす
・ふるえ
・交感神経緊張  → 代謝亢進  
2.熱の放散を減らす
・表在血管の収縮
・汗を止める(毛穴が閉じる)
・鳥肌が立つ(立毛筋の収縮)

▶ 冷え性の病態
・交感神経が緊張しても代謝が亢進しにくい → 熱の産生が増えない。
・熱の放散を減らすことしかできない。
 → 冷え症の症状・所見につながる。

▶ 熱の産生メカニズム〜その1:関係する臓器
・食事:炭水化物や脂肪を分解(異化)する過程でが発生する
・肝臓(化学工場):有害物質の分解・解毒を行う過程でが発生
・褐色脂肪細胞(肩甲骨・脊椎・腎周囲):漢方的には“太陽膀胱経”が走る部位、交感神経緊張なしでが発生(感冒罹患時など)

▶ 熱の産生メカニズム〜その2:熱が発生する活動
・食事 → ATP → 運動エネルギー → 筋肉(平滑筋・心筋・骨格筋)運動(仕事)でが発生
・食事 → ATP → 電気的エネルギー → 活動電位(神経・筋細胞の興奮)、静止膜電位(腎・尿細管での再吸収)でが発生

▶ 熱の産生メカニズム〜その3:熱の産生システムと五臓の関係
(脾・胃)食事〜ATP〜平滑筋(胃腸)
(肝・心)肝臓〜心筋・骨格筋・活動電位
(腎・肺)褐色脂肪細胞〜静止膜電位(Naポンプ)
※ 白色脂肪(体脂肪)は分解されてエネルギー(ATP)になるが、褐色脂肪はエネルギーにならず熱を産生するだけ。

▶ 熱の産生システム〜その4:五臓と冷えを3つに分類
1.脾・胃の陽虚:気虚を伴う → お腹〜全身が冷える
・栄養補給システム、消化器系の機能低下を伴う
2.肝・心の陽虚:血虚を伴う → 手足が冷える
・精神運動システム・循環器系の機能低下を伴う
3.腎・肺の陽虚:水滞を伴う → 下半身が冷える
・生体防御システム・泌尿器系の機能低下※ 陽虚 ≒ 寒証

▶ 冷え性(寒証タイプ)その1:寒証+気虚
・気虚 → 消化吸収低下、栄養補給低下
・症状:お腹〜全身が冷える
 ✓ お腹を冷やすとすぐに下痢する(腸管の吸収が悪い)
 ✓ 腹痛を伴う(腸管の動きが悪い → 便秘)
・適応症薬:乾姜(生姜に熱を加えて乾かした物)
・適応方剤:
 ✓ 人参湯(32) → お腹を冷やすとすぐに下痢する人へ
 ✓ 大建中湯(100) → 腹痛を伴う人へ(便秘系)
・養生:
 ✓ 腹巻き(冬も夏も)、カイロ、お灸
 ✓ 温める食材:ショウガ、ネギ
 ✓ とにかくお腹を冷やさない

▶ 冷え性(寒証タイプ)その2:寒証+血虚
・血虚:血液循環低下、精神運動低下
・症状:手足が冷える
 ✓ 手足の先が白くなる
 ✓ しもやけができる
・適応症薬:当帰
・適応方剤:
 ✓ 当帰芍薬散(23)
 ✓ 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)・・・しもやけの第一選択薬
・養生:
 ✓ エクササイズ、ストレッチ
 ✓ 日内リズム調整(規則正しい生活)

▶ 冷え性(寒証タイプ)その3:寒証+水滞
・水滞:泌尿排泄能低下、生活防御能低下
・症状:下半身が冷える
 ✓ 下半身が重い
 ✓ 下半身がむくむ
・適応症薬:附子(代謝亢進、熱産生亢進)
・適応方剤:
 ✓ 真武湯(30)
 ✓ 八味地黄丸(7)
・養生:
 ✓ 半身浴、インターバル速歩
 ✓ マグネシウムを多く含む食材(種実類、豆類、海藻類、ココアなど)
※ マグネシウムは酵素の減量となり、化学反応(≒代謝)を助ける

<参考>
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高齢者の腰下肢痛の漢方

2025年01月27日 07時35分57秒 | 漢方
知識をアップデートすべく、今回は小児漢方と離れて、
ふだん扱うことのない高齢者漢方のセミナーを視聴しました。

高齢者の漢方は小児と比較して複雑です。
人生の荒波にもまれ、さまざまな因子により症状が発生し色づけされるからです。

今回のセミナー(講師は喜多Dr.)でも、
どの漢方的評価法を用いればいいのか、
複雑な説明で煙に巻かれる感じがしました。

最初の基礎編でまず、気血水と五臓論が混じり合って解説されるという応用問題からはじまり、
頭の中が混乱しました。

高齢者の腰下肢痛を漢方医学で分析すると、
気虚・血虚・腎虚の要素があり、
かつ寒熱で漢方薬を使い分けるという、
複雑な思考回路が必要であることがわかりました。

でも、「ここまでわかっているけど、ここからが微妙」という自覚もできますので、
高齢者漢方を学ぶことも有用だと思いました。

備忘録としてメモを残しておきます。

▶ 変形性膝関節症や高齢者の腰下肢痛では“寒熱”概念が重要

▶ 西洋医学は疾患局所を診て、漢方医学は患者全体を診る
・その患者が病気になりやすい状態か、病気が治りにくい状態か
・漢方の診断治療スキルである“証”で評価する
 ✓ 気血水:不健康状態を把握
 ✓ 虚実寒熱:体質を評価
 ✓ 陰陽六病位:闘病反応を評価
・診断治療体系が異なるため、西洋医学からみると「同病異治」「異病同治」が発生する。

【気虚のはなし】

▶ “気”の働き
・“気”には二つの働きがある
✓ 機能発現:パワーとしての気(モーター)
✓ 機能維持:エネルギーとしての気(電池)・・・ATP ← グルコース・脂肪酸 ← 炭水化物・脂肪
・パワー低下+エネルギー不足=気虚

▶ 機能発現の三つの気(パワー)
・胃気 → 消化吸収機能発現
・神気 → 精神運動機能発現
・衛気 → 生体防御機能発現
これらのパワーとしての気に、エネルギーとしての気が供給されて機能を発現する。
エネルギーとしての気は胃気(消化吸収機能)により後天の気・水穀の気として供給される。

▶ 気虚の症候
・消化吸収機能低下
 ✓ 食欲低下
 ✓ 胃もたれ
 ✓ 消化不良
 ✓ 軟便傾向
 ✓ 下痢しやすい
・精神運動機能低下
 ✓ 全身倦怠感や易疲労
 ✓ 気力や活力低下
 ✓ 日中の眠気
 ✓ 目や声に力がない
 ✓ 手足がだるい
・脈・舌・腹の所見
・生体防御機能低下
 ✓ 風邪を引きやすい
 ✓ 風邪が治りにくい
 ✓ 創傷が治りにくい
 ✓ 脈が弱い
 ✓ 舌の色が淡白
 ✓ 腹力軟弱

▶ 構造を形成する第四の気(パワー)、腎気(先天の気)
・腎気(先天の気) → 成長・発育、生殖・妊娠・出産、細胞の再生・抗加齢
・腎気は有機資材としての血から供給され、構造を維持する

▶ 狭義の気虚と腎虚を区別
・狭義の気虚:後天の気不足
・広義の気虚:後天の気不足+先天の気不足

▶ 腎虚の病態に適応となる方剤:八味地黄丸(7)
・先天の気(腎気)を補い、有機資材としての血を補う
 ✓ 成長能力の賦活
 ✓ 生殖能力の賦活
 ✓ 再生能力の賦活

▶ 八味地黄丸(7)が適応となる症状(抜粋)
症状:腰部・下肢の脱力感、腰痛、膝痛、下肢のしびれ
疾病:運動器疾患(腰痛症、坐骨神経痛、変形性膝関節症、骨粗鬆症)

【血虚のはなし】

▶ 血が供給する素材
・エネルギー源(機能維持):グルコースなど(水穀の気・後天の気)
・有機素材(構造維持):アミノ酸やたんぱく質

▶ 血虚の病態
代謝器官(化学工場)としての甘草におけるアミノ酸やたんぱく質などの有機資材の産生低下
 ⇩
血液循環による全身の細胞への有機資材の供給低下
 ⇩
供給された有機資材を利用して全身の細胞が身体構造を形成・維持する活動低下
(筋肉・皮膚・爪・毛髪・軟骨・細胞内骨格など)

▶ 血虚の病態を示唆する症候
(全身)疲れやすい、体がだるい、体重減少、貧血
(精神)物忘れ、集中力低下、不眠、浅眠
(頭部)顔色不良、抜け毛、白髪、かすみ目、疲れ目、めまい感、口が渇く、舌色白色調
(四肢)皮膚の荒れとカサカサ、爪が薄くて割れやすい、筋肉のけいれん、こむら返り、手足のしびれ
(その他)動悸、息切れ、過少月経

▶ 気虚と血虚の共通する症状
・易疲労
・倦怠感
・舌色淡白〜白色調

▶ 血虚と腎虚の共通する症状
・疲労倦怠
・口が渇く
・皮膚枯燥
・下肢のしびれ
・動悸

▶ 血虚に対する方剤の使い分け
・筋肉(骨格筋・平滑筋)の血虚 → 芍薬甘草湯(68)
 ✓ こむら返り、急性腰痛、腹部仙痛など
・四肢・関節の血虚  → 疎経活血湯(53)
 ✓ 坐骨神経痛、変形性膝関節症など
・皮膚の血虚 → 温清飲(57)
 ✓ 湿疹、じんま疹、皮膚掻痒症など

【変形性膝関節症の漢方治療】

▶ 変形性膝関節症における漢方的病態
・腎虚:示された八味地黄丸(7)の効能表中に「膝痛」
・血虚:
 代謝器官(化学工場)としての甘草におけるアミノ酸やたんぱく質などの有機資材の産生低下
  ⇩
 血液循環による全身の細胞への有機資材の供給低下
  ⇩
 供給された有機資材を利用して損傷した膝関節の滑膜を形成・修復する活動低下
 (間接表面の滑らかさが失われる)

▶ 変形性膝関節症の漢方を寒熱で使い分ける
    熱感 腫脹 疼痛
熱証:  +  +  +  → 越婢加朮湯(28)  
中間:  ー  +  +  → 防巳黄耆湯(20)
寒証:  ー  ー  +  → 桂枝加苓朮附湯 ・・・寒証+気虚

▶ 血虚を伴う変形性膝関節症の漢方を寒熱で使い分ける
    熱感 腫脹 疼痛
熱証:  +  +  +  → 薏苡仁湯(52) 
中間:  ー  +  +  → 疎経活血湯(53)
寒証:  ー  ー  +  → 大防風湯(97)

▶ 桂枝加苓朮附湯で効果が不十分な場合の次の一手
・関節腫脹が強い場合 → 防巳黄耆湯(20)を併用
・関節の熱感が強い場合 → 越婢加朮湯(28)を併用
・冷えが強い場合  → 附子末を追加(高齢者ではこのパターンが多い)

▶ 附子末の使い方
・運動器の傷みを訴える寒証患者には広く使用可能
・附子末は単独で処方することはできないので、他の方剤と併用する。
・1日0.5gから開始して、0.75g → 1.0g → 1.5g → 2.0g → 3.0gと徐々に増量する。
・患者には副作用(舌のしびれ、動悸、のぼせ、悪心、不整脈)について事前に説明し、
 副作用が出たら中止を指示しておく。
・冬季には増量し、夏季には減量する。

【高齢者腰下肢痛の漢方治療】

▶ 高齢者の痛みには「附子剤」が第一選択
・寒証+腎虚 → 附子+地黄 → 八味地黄丸(7)、牛車腎気丸(107)
・寒証+脾虚 → 附子+芍薬 → 桂枝加苓朮附湯
注1)胃腸が丈夫であれば高齢者には地黄を第一選択とする。
注2)胃腸の虚弱な高齢者には地黄ではなく芍薬が適応となる。

▶ 附子無効例には「当帰剤」が第二選択
・寒証+血虚+気逆 → 当帰+芍薬+桂皮 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・寒証+血虚+瘀血 → 当帰+芍薬+桃仁 → 疎経活血湯(53)
注1)当帰+芍薬は冷えを伴う筋肉の緊張と血流低下を改善する。
注2)附子剤も当帰剤も無効な例には大防風湯(97)が適応となる。

▶ 高齢者の痛みに対する漢方薬のまとめ
第一選択(附子剤)
・胃腸が丈夫・腎虚 → 八味地黄丸(7)、牛車腎気丸(107)
・胃腸が弱い・脾虚 → 桂枝加苓朮附湯
第二選択(当帰剤)
・冷えが強い・気逆 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・冷えが弱い・瘀血 → 疎経活血湯(53)
第三選択(附子+当帰) → 大防風湯(97)


・・・う〜ん、消化不良(^^;)。
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未病の漢方:花粉症

2025年01月16日 10時45分15秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の未病シリーズ、今回は「花粉症」を視聴しました。
すでに患者さんに漢方を多用している私ですが、
それでも勉強になりました。

未病シリーズなので、症状だけでなく、アレルギー体質を変える養生についても触れています。
その中で「乾布摩擦」が登場して驚きました。

私はアレルギー専門医なので、
今から四半世紀前までは、重症小児喘息患者は学校併設の総合病院小児科に入院治療していた時代を知っています。
そこで当たり前のように行われていた健康づくりが乾布摩擦です。

しかしそのエビデンスが不十分であり、
上半身裸になることも時代に逆行しており、
今では姿を消しました。

そして今、乾布摩擦は漢方医学由来であることを知りました。
その理論的背景は「肺(体の表面=皮膚)に刺激を与えて免疫力を活性化する」というもの。

花粉症を気血水で解説し、
免疫力を五臓論(肺・腎)で解説している今回の内容も、
私には腑に落ちました。

西洋医学の概念「アレルギー性炎症」は漢方医学では「冷え・水滞」である、
 アレルギー性炎症=寒証
 化膿性炎症=熱証
とわかりやすく対比して見せてくれました。

講義メモを備忘録として残しておきます。

▶ 花粉症の概要
アレルギー体質+アレルゲン(花粉)
 → アレルギー炎症
 → 症状:鼻(くしゃみ、鼻汁)、眼結膜(かゆみ、充血)
漢方医学的に考えると、
 アレルギー炎症=病気
 アレルギー体質=未病

▶ 慢性鼻炎の病態を二次元グラフで位置づける

          (化膿性炎症)
             ⇧
               辛夷清肺湯(104)
               荊芥連翹湯(50)
(冷え・水滞あり)⇦       ⇨(冷え・水滞なし)
   小青竜湯(19)
  麻黄附子細辛湯(127)
             ⇩
         (アレルギー性炎症)

▶ “アレルギー炎症“は“冷え・水滞“
・炎症(アレルギーを含)=免疫系の反応
・免疫系は漢方医学的には肺と腎が関係する。
・アレルギー性炎症(西洋医学)は冷え・水滞(漢方医学)である。
・鼻汁は透明・水様である。
・小青竜湯(19)と麻黄附子細辛湯(127)は冷え・水滞を改善することにより症状をやわらげる。
・「冷え・水滞」は漢方理論、すなわち仮説であるが、実際に小青竜湯などが有効であることから実証されている。

▶ “化膿性炎症”は“熱”
・化膿性(感染性)炎症は熱証であり冷え・水滞はない。
・化膿性炎症による鼻炎には辛夷清肺湯(104)や荊芥連翹湯(50)が使用される。
・鼻汁は黄色・粘稠である。

▶ 鼻炎に“養生”が必要な理由
・小青竜湯(19)・麻黄附子細辛湯(127)には麻黄という生薬が入っており、
急性期・有症状期は問題ないが、長期に使用することは好ましくない。
・麻黄を使い続けないために“養生”が必要になる。
・鼻炎の病態には薬>養生、鼻炎の体質改善には養生>薬が重視される。

▶ 五臓理論上、免疫をつかさどるのは肺と腎
・漢方医学が確立した2000年前には免疫学はなかった、当時考えた仮説が五臓論。

▶ 肺の陽気(衛気)の働き
1.表を温めて、防衛する。
・表とは、皮膚・上気道(鼻〜のど)・下気道(気管〜肺)を含む。
2.表に水を巡らせる。
・リンパの流れ、発汗の調節。

▶ 肺の陽虚
1.体表面の冷え
2.防衛力の低下
3.体表面の水滞 → 水様鼻汁・水様喀痰 ← 乾姜・細辛(小青竜湯)で改善

▶ 肺の陽気を活性化する養生
・乾布摩擦
・冷水シャワー(風呂上がり、朝シャワー、滝壺修行)
・リンパマッサージ

▶ 腎の陽気の働き
1.熱を産生する
・深部体温(37℃)の維持
2.排尿
・老廃物(水毒)の排泄

▶ 腎の陽虚
1.下半身が冷えやすい(ヒトの身体は上熱下寒という状態になりやすい)
2.下半身には水毒が停滞しやすい
   ⇩
 腰から下の冷えと痛み ← 苓姜朮甘湯(118):茯苓・白朮で水滞を治し、乾姜で陽虚を治す。

▶ 腎の陽気を活性化する養生
・半身浴:38〜40℃のお湯に20〜30分間、ジワジワと発汗するまでつかる。
・インターバル速歩:3分/3分×5回(合計30分)を週に4〜5日


<参考>
未病の漢方:花粉症(喜多敏明Dr.の未病シリーズ)
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未病の漢方:頭痛

2025年01月15日 13時49分42秒 | 漢方
未病(健康と病気の中間)をテーマにした喜多敏明Dr.のレクチャー動画
今回は“頭痛”編を見てみました。

喜多Dr.の解説は歯切れがよいので、私はファンの一人です。
啓蒙に熱心な漢方専門医は大きく二つのタイプに分かれ、
漢方用語を使わないでわかりやすく説明することを目標にする先生と、
漢方理論をわかりやすく整理して解説する先生に分かれます。

初心者は前者の方が入りやすいのですが、
ある程度慣れてくると、壁にぶつかります。
このエキス剤が紀奈ない場合、次の一手は?
・・・その背景の理論を知らないと複数の漢方方剤の使い分けができないのです。

喜多Dr.は後者です。
今回も気血水理論を用いて明快に解説しています。
さらに、現代医学の要素も取り入れているので、
西洋医学を学んで医師免許を取得した世代の私でも、
頭に入りやすいです。

その中で「なるほど!」と感じたこと;
・西洋医学の痛み止めを飲むと血流が悪くなるので頭痛の頻度が増える。
・漢方薬を飲むと気血水バランスがよくなるので頭痛の頻度が減る。
という目からうろこが落ちるコメントでした。

だから漢方薬をベースに流し、鎮痛剤を併用、その使用頻度が減っていくのが理想的、
を目標にするという理由がわかりました。

▶ 慢性頭痛の種類と頻度
・頭痛の有病率は39.6%(15歳以上)、片頭痛が8.4%、緊張型頭痛が22.4%、残りはその他(群発頭痛、三叉神経痛など)

▶ 頭痛の分類
1.一次性(機能性):片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、三叉神経痛など
・部位:こめかみ、目の奥
・性状:拍動性、ズキズキ
・随伴症状:閃輝暗点(8.4%のうち2.6%にあり、5.8%にはない)、吐き気・嘔吐
2.二次性(症候性):くも膜下出血、脳腫瘍など
・部位:後頭部、頭全体
・性状:締め付け感、重い感じ
・随伴症状:肩こり、めまい

▶ 頭痛の誘因
【片頭痛】
① 肩こり(72%)
② ストレス(71%)
③ 睡眠(58%)・・・睡眠不足、睡眠過多
④ 月経(51%)・・・月経前、月経中
⑤ 天候(49%)・・・雨の前日、低気圧、台風接近
⑥ におい(16%)・・・香水、洗剤、タバコ
【緊張型頭痛】
① 悪い姿勢、骨格の歪み
② 肩こり、首の痛み
③ 歯のかみ合わせ
④ 目の疲れ
⑤ ストレス、睡眠障害
 → 対策として、姿勢を正す、ほぐす、リラックス、適度な運動など

▶ 緊張型頭痛の非薬物療法(慢性頭痛の診療ガイドライン2013より)
・・・ストレスの関与しない慢性頭痛はない → 心身医学的アプローチが必要
A. 精神行動療法
1.筋電図バイオフィードバック
2.認知行動療法
3.リラクゼーション
4.催眠療法
B. 理学療法
1.運動プログラム(頭痛体操)
2.マッサージ、頚部指圧
3.超音波、電気刺激
4.姿勢矯正
5.顎部の機能異常に対する治療
6.温冷パック
C. 鍼灸

▶ 頭痛体操
・1日2分で効果あり
【片頭痛】「コマ体操」


【緊張性頭痛】「肩回し体操」




▶ 片頭痛に影響する食品
A.  片頭痛を誘発する食品(誘発する成分)
① 赤ワイン(ヒスタミン、チラミン)
② チョコレート(チラミン)
③ チーズ(チラミン)
④ 柑橘類(チラミン、オクトパミン)
⑤ 加工肉:ハム、ソーセージ(亜硝酸ナトリウム)
⑥ ファストフードのうま味調味料(グルタミン酸)
B.  片頭痛によい食品(よい成分)
① 緑黄色野菜:ほうれん草(マグネシウム)
② 海藻:ヒジキ(マグネシウム)
③ 大豆食品:納豆(マグネシウム)
④ ナッツ類:アーモンド(マグネシウム)
⑤ うなぎ(ビタミンB2)
⑥ レバー(ビタミンB2)

▶ 片頭痛の治療薬(西洋医学)
(急性期用)
1.アセトアミノフェン:カロナール®
2.非ステロイド系抗炎症薬:バファリン®、ロキソニン®
3.トリプタン系片頭痛薬:イミグラン®、ゾーミッグ®ほか
4.エルゴタミン製剤:クリアミン®配合錠
(予防薬)
5.カルシウム拮抗剤:ミグシス®
6.抗てんかん薬:デパケン®
★ 市販薬のみ使用者:56.9%!

▶ 緊張型頭痛の治療薬(西洋医学)
1.アセトアミノフェン:カロナール®
2.非ステロイド系抗炎症薬:バファリン®、ロキソニン®
3.筋弛緩薬:テルネリン®
4.抗不安薬:デパス®
5.三環系抗うつ薬:アミトリプチリン®

▶ 治療経過の比較:西洋薬 vs. 漢方薬
A.  西洋薬
・鎮痛剤による頭痛治療を続けていると、血流が悪くなる(漢方的には“瘀血”)。
・薬の効果が減弱してくるため、頭痛の回数が増え、鎮痛剤の使用回数が増える悪循環に陥る(薬物乱用頭痛)。
・1か月に10日以上の服用を3か月以上続けると危険。
B.  漢方薬による頭痛治療
・続けていると、体質(気血水の異常)が改善され、頭痛の回数が減ってくる。
・機能性の頭痛に対しては漢方薬が第一選択薬。
・ただし、体質改善の漢方薬はゆっくり効いてくるので、鎮痛剤との併用が現実的。

▶ 頭痛の漢方医学的病態分類
・気血水の巡りが悪いと頭痛が発生する(誘因)
 → 気血水の異常を改善すれば頭痛が出現しなくなる。
A.  気の異常
① 気逆タイプ → 発作的(≒片頭痛)
② 気うつタイプ → 持続的(≒緊張型頭痛)
B.  血の異常
③ 瘀血タイプ → 生理前後、肩こり
C.  水の異常
④ 水滞タイプ → 雨の前日、低気圧(=天気痛)
★ 天気痛:気圧の変化によって頭痛が出現する。気圧の変化に対する自律神経による調節が破綻する。

▶ 頭痛に頻用される漢方薬
① 気逆タイプ(≒片頭痛) → 呉茱萸湯(31)
② 気うつタイプ(≒緊張型頭痛) → 釣藤散(47)
③ 瘀血タイプ → 桂枝茯苓丸(25)
④ 水滞タイプ(=天気痛) → 五苓散(17)


<参考>
未病と漢方:頭痛(喜多敏明Dr.)

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未病の漢方:快眠

2025年01月14日 07時52分09秒 | 漢方
漢方医学には「未病」という概念があります。
健康と病気の中間のグレーゾーン、
天気に例えれば、快晴と雨の中間の曇り状態。

そしてそれをちょうどよい状態(中庸)に戻そうと考えます。
絶対的な健康ではなく、その人の一番よい体調というイメージです。
そこで登場するのが養生・薬膳・漢方薬。

薬を飲む前にもできることがたくさんあります。
養生・薬膳を実行しても病的状態に近づいたら、漢方薬を飲むという思想。

私は学校健診の診察をこなしている最中、
この“未病”をよく思い出します。

学校健診でスクリーニングする病気は、
「症状がないけど病的状態が疑われる」
という、まさに“未病”状態なのです。

(これは怪しい、問題がかくれていそうだ・・・)
と判断して医療機関への受診勧告を発行しますが、
せっかく拾い上げても実際の医療機関受診率は30%程度と低率です。

教育委員会は、
「規則に基づく学校健診を実施」
することには熱心ですが、
「受診率〇〇%を維持する」
という規定がないため、スルーしています。

建前だけなんですね。
これでは参加する医師のモチベーションが上がりません。
おっと、愚痴モードになってきました。
話を元に戻します。

YouTubeで喜多Dr.による「未病:快眠」というテーマの動画を見つけました。

自分自身も不眠症気味である私は興味深く視聴しました。
一口に「眠れない」といっても、様々な原因・要因があります。
西洋医学では「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」と分類されることが多いのですが、
漢方医学では気血水というものさしでその人を評価・分析し、
その人に合った方剤を選択します。

簡単に云うと、
・疲れているのに眠れない → 気虚・血虚 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
・緊張して眠れない → 気うつ(肝気欝血)抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・興奮して眠れない → 気逆 黄連解毒湯(15)
等々。

メモを残しておきます。

▶ 睡眠の基礎知識
・睡眠-覚醒サイクル
(覚醒)動く:疲労・壊れる
 ↓↑     ↓↑
(睡眠)休む:回復・修復する
・REM睡眠
 ✓ 浅眠状態、夢見状態
 ✓ 速い眼球運動
 ✓ 体は動かない
・non REM睡眠
 ✓ 熟睡状態 ・・・最初の90分間
 ✓ 成長・若返り ← 成長ホルモン↑
 ✓ 疲労回復 ← 副交感神経↑

▶ 睡眠の役割
・体や脳の休養、記憶の整理、定着
・体の発育・修復、ホルモンバランスの調整
・脳の老廃物を除去、免疫を高める

▶ ビジネスマンの生活時間(シチズン意識調査、2000年)
       通勤時間  勤務時間 (睡眠時間)平日  休日
(1980年)  1:43    8:36     7:01     8:36(平日+95分)     
(2000年)  2:03    9:30    6:08     7:57(平日+109分)
 増減    +20分   +54分    −53分    −39分

▶ 睡眠の調節メカニズム
1.体内時計機構
・眠気の概日リズム・・・メラトニンが重要
・夜になると睡眠を発現させる
2.睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・長時間の覚醒・睡眠不足は・・・大脳皮質の疲労・睡眠物質の蓄積を招く
・深く、長いノンREM睡眠
3.覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
・オレキシンが活躍

▶ 体内時計機構(サーカディアンリズム)の調節
・規則正しい生活が最重要 ・・・同じ時刻に毎日起床
・メラトニン↑  ⇒  眠気↑
 ✓ 起床後約14時間後から分泌、太陽光によりリセット
 ✓ 就寝前には強い光を避ける(スマホ、タブレット、テレビなど)
・交感神経活動↓、深部体温↓、抗重力筋弛緩  ⇒  眠気↑
 ✓ 就寝前4時間のカフェイン摂取を控える
 ✓ 2時間前までの入浴、軽い読書、音楽、香り、筋弛緩トレーニングを取り入れる

▶ 睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・脳疲労を回復する
・長時間の昼寝は睡眠物質を低下させるため、浅く短い睡眠になりがち
 → 昼寝をするなら15時前に20〜30分程度がお勧め
・日中の適度な活動は睡眠物質を増やし、深く長い睡眠を得られる
 → 運動週間は熟睡を促進
・必要な睡眠時間は個人差が大きい
 ✓ 朝起きられない、日中眠い  → 睡眠が足りていない
 ✓ 休日に(平日より)2時間以上長く寝る  → 睡眠が足りていない
 成人の約4人に1人が睡眠不足を感じている(2008年)

▶ 覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
 大脳辺縁系      → 情動的な興奮
 情動調節系      (不安、緊張、怒り、怖れなど)
   ⇩
 視床下部       → 交換神経興奮、身体的緊張状態
 オレキシン
   ⇩
 覚醒系の興奮     → 目がさえて寝付けない、
           入眠後も睡眠が不安定

▶ 不眠に対する漢方治療
1.日内時計機構の乱れ
2.恒常性維持機構の障害 → 気虚・血虚
・疲れているのに眠くならない
 → 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
3.覚醒保持機能の活性化 → 気うつ・気逆
気うつ:緊張して眠れない
 → 抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
気逆:興奮して眠れない
 → 黄連解毒湯(15)、甘麦大棗湯(72)

★ 緊張と興奮はどう区別するか?
 → 緊張は持続する、興奮は持続しない。

喜多Dr.は気血水理論で使い分けを説明してくれました。
他の漢方専門家達も、さまざまな視点で解説している情報があります。
ちょっと覗いて比較してみましょう。

▶ 西洋医学的な「入眠障害」「中途覚醒・熟眠障害」による使い分け一覧表
(入眠障害)
 ✓ 黄連解毒湯(15)
 ✓ 抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ 竹筎温胆湯(91)
 ✓ 酸棗仁湯(103)
(中途覚醒・熟眠障害)
 ✓ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 ✓ 加味帰脾湯(137)
 ✓ 酸棗仁湯(103)
・・・喜多Dr.も「酸棗仁湯は万能で第一選択薬」とコメントしていましたが、
ここでも入眠障害・中途覚醒の両方に名前がありますね。

▶ 虚実で使い分け
(実証)
 ✓ 大柴胡湯(8)
 ✓ 黄連解毒湯(15)
(中間証)
 ✓ 抑肝散(54)
 ✓ 抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ 半夏厚朴湯(16)
 ✓ 温経湯(106)
(虚証)
 ✓ 柴胡桂枝乾姜湯(11)
 ✓ 加味帰脾湯(137)
 ✓ 帰脾湯(65)
 ✓ 酸棗仁湯(103)


陰陽虚実による使い分け(谷川聖明Dr.)
紹介されている4方剤はすべて虚証+陽証に分類されているので、
使い分けが難しいですね。

こちらの表の方が五臓(肝と心)で分類されている分、わかりやすい。
酸棗仁湯(103)は入眠困難に、
加味帰脾湯(137)は中途覚醒・熟眠障害に使うよう提唱されています。
う〜ん、これだけだと使い分けがよくわからない。



・・・ここまで読んだ方、ご苦労さまでした。
どの解説がわかりやすかったですか?
私は喜多Dr.に一票!
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漢方の「六病位」=「急性感染症のステージ分類」

2025年01月11日 13時44分02秒 | 漢方
・・・え、そうでしょう。
と以前から思っていたことが記事になっていましたので紹介します。

風邪をたくさん見てきたアラ還小児科医の自分のイメージとちょっと異なる部分もありますね。

<ポイント>
・六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類。
・時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病。実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがあり、六病位の順番についても諸説あってややこしい。
(インフルエンザを例にとって)
【陽病期】
太陽病:病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っている状況。インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多い。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点がある。
 太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的。
少陽病:病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めている状態。発汗とともに追い出すという作戦が使えないため、代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的。
陽明病:体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況。陽明病に対しては「体の芯にある熱を排便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療がある。
【陰病期】
 免疫が落ちて(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまう状態。
太陰病:太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況。お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよい。
少陰病・厥陰病:腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまい体温を維持することもだんだんと難しくなった状態。生命の危機が近づいていることを示す状況を少陰病、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼ぶ。この病気では西洋医学的治療が優先される。少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使う。

ふだん自分がカバーする病期は太陽病〜少陽病であることがわかります。
陽明病は病院へ紹介、陰病期は入院治療が必要です。

開業医の役割は、少陽病 → 陽明病に至らないよう治療することですね。
するとやはり柴胡剤が活躍することになります。

六病位の陽病期では「侵入してきた病原体を追い出す」という概念が底にあります。
まあ、西洋医学でも咳や鼻水は身体に入ったウイルスを排出するため、発熱もウイルスを失活させるための武器と説明されますから、一部共通しています。
太陽病期(風邪の初期)は体表面が戦いの場であり、発汗で追い出す(発表)、それができずに体深く侵入を許した陽明病期(風邪がこじれた状態)では消化管が戦いの場となり、排便で追い出す(瀉下)という発想が興味深いです。
そして太陽病期と陽明病期の間、少陽病期では追い出すのではなく「和解」するという概念が誠に興味深く、そこに柴胡剤を当てたのは歴史的大発見だと思います。
この柴胡剤、熱性疾患に使われますが、ストレス反応で体調が悪くなったときのメイン生薬でもあるのですから。


▢ 「急性期疾患のステージ分類」とも言える六病位って?
伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
監修:伊藤亜希(横浜薬科大学漢方薬学科)
2025/01/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・太陽病は、感冒初期に多くの患者さんが経験する状態を指していますが、「太陽病=感冒初期」としてしまうと、やや正確性に欠けるという問題があります。また、柴胡剤を取り上げた第9回では「感冒進行期」という表現を無理やり使っていましたが、これも「少陽病」という言葉を当てはめることができます。・・・そろそろ陰陽の概念を学ぶ潮時ではないかとも考え、今回は、陰陽に含まれる急性期疾患の重要概念である六病位について説明していきます。
 六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類です。悪性腫瘍は、深達度や転移の状況に応じてステージが進んでいきますが、漢方医学の世界でもそれと似たような概念が存在するわけですね。そして、その順番を時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病となります。細かい話をすると、実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがありますし、六病位の順番についても諸説あってややこしいのですが1~3)、本連載では今挙げた順番で話を進めます。ここから先は、インフルエンザに罹患した患者さんをイメージしながら読み進めると分かりやすいかもしれません。

▶ 太陽病
 インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多いかと思います。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点があります。病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っているこの状況を太陽病と呼びます。なお、インフルエンザに罹患した患者さんのすべてが太陽病になるわけではなく、例えば、体の免疫が損なわれていて「水際作戦」を実施できない場合は、一気に病邪が体の中になだれ込んで、後述する少陰病から始まることもあります(このようなものを「直中(じきちゅう)の少陰」と呼びます)。
 さて、太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的でしょう。そこで、汗の出にくい実証の患者さんに対しては、汗を出す麻黄湯や葛根湯が使われることになります。汗の出やすい虚証の患者さんの場合は、汗が出すぎて脱水を起こさないように、汗の量をほどほどに調整する必要があります。そこで、麻黄湯でなく桂枝湯を使用するのが良いという話になってくるわけです(参考:第5回)。

▶ 少陽病
 インフルエンザに罹患してしばらくの間は、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みが目立ちますが、時間がたつとこれらの症状が改善していき、代わりに咳が出始めたり、気分不快になって吐き気を催したり、倦怠感が残ったりします。しっかり問診をしていると、口の中が苦いと訴える患者さんがいることにも気付かされます。また、「日中は平熱なのに夜だけ熱が出る」といった具合に、発熱の日内変動を訴える患者さんも現れます。このような状況を少陽病と呼びます。
 少陽病では、病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めているので、発汗とともに追い出すという作戦が使えません。代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的です。ここで活躍するのが柴胡剤という漢方薬のグループで、便秘になりがちな実証であれば大柴胡湯などが、そうでもない虚実中間証では小柴胡湯などが使われます。太陽病と少陽病の過渡期であれば、桂枝湯と小柴胡湯の間となる柴胡桂枝湯を使うのもありです。

▶ 陽明病
 インフルエンザに罹患した患者さんの多くは外来での治療で間に合いますが、それでも一部の患者さんは、インフルエンザそのものによる肺炎や肺炎球菌などの細菌による二次性肺炎などを合併してしまうことがあります。そうすると、入院治療を余儀なくされるわけです。ある程度免疫がしっかりしている患者さんの場合は、入院下で抗ウイルス薬や抗菌薬などを使っている中で徐々に元気になってくるものですが、廃用症候群が進行してしまって、すぐに退院できないことがありますよね。
 そういった亜急性期の患者さんの病棟管理をしていると、便秘になってしまうことが往々にしてあり、よく看護師さんから下剤としてセンノシド(商品名プルゼニド他)などの処方を求められます。さらに、不眠やせん妄といった問題が生じてしまうこともよくあります。このように、体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況を陽明病と呼びます。
 陽明病に対する漢方薬は今まで解説していませんでしたが、代表的なものとしては承気湯類や白虎湯類が挙げられます。残念ながら、これらに対応するエキス製剤は少なく、わずかに調胃承気湯や白虎加人参湯などが使用可能です。調胃承気湯は、大黄、甘草、芒硝(硫酸ナトリウム)で構成される漢方薬で、西洋医学に例えるなら、センノシドと酸化マグネシウム(マグミット他)を合わせたようなイメージです。排便とともに体の芯にある熱を外に逃がすわけです。また、白虎加人参湯は、石膏、粳米(こうべい)、知母(ちも)、甘草、人参で構成される漢方薬で、体全体を潤しつつも、ひんやりとした石膏の力で体の芯にある熱を冷やす力があります。
 ここまでの説明を語弊を恐れずに簡略化すると、陽明病に対しては「体の芯にある熱を便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療があるということになります。

▶ 太陰病
 インフルエンザや肺炎球菌性肺炎に罹患した患者さんで、免疫が落ちている場合(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまうことがあります。このような患者さんにはもう発熱するだけの余力はなく、体温も平熱に留まったり、下がっていったりするわけです(体温の低い敗血症は予後が悪いというのは、西洋医学ではよく知られるところです)。このような状態を陰病と呼び、太陰病、少陰病、厥陰病(けっちんびょう)という順番で進んでいきます。
 まず、太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況を指します。具体的には、お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的です。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。このような時に使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよいでしょう。これに該当するのが、桂枝加芍薬湯や建中湯類(例:小建中湯、当帰建中湯、黄耆建中湯)といった漢方薬です。

▶ 少陰病・厥陰病
 免疫が落ちている患者さんの中には、インフルエンザに合併した肺炎球菌感染症が肺炎だけに留まらず、菌血症、敗血症にまで至ってしまうことがあるかもしれません。こうなってしまうと、これはもう局所でなく全身の問題です。腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまうわけですね。体温を維持することもだんだんと難しくなっていきます生命の危機が近づいていることを示すこの状況を少陰病(図5)、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼びます。
 現代では、重症敗血症の患者さんに対しては、抗菌薬に加えてノルアドレナリンなどの昇圧薬や人工呼吸管理などを組み合わせて集中治療を行うことになるかと思いますので、漢方医学の入り込む余地はほとんどありません。ただ、もし少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使います。具体的には、四逆湯のように乾姜や附子(トリカブトの塊根)を含む漢方薬が選択肢です。
 乾姜を含む漢方薬としては、人参湯などがあり、人参の作用も相まって胃などの上部消化管から全身を温めてくれます(太陰病期から使用できます)。また、人参湯に附子を加えた附子理中湯という漢方薬もあります。こういった漢方薬を使用する目安として、口角から少し唾液が出ていることも参考になります。また、附子を含む漢方薬として真武湯(しんぶとう)も有名で、歩行時のめまいや下痢の時によく使います。人参湯とは対照的に、下部消化管から全身を温めるイメージがあります。さらに、太陽病の時に簡単に触れた「直中の少陰」(陰病から始まる、冷えを伴った感冒)に対しては、麻黄附子細辛湯が使われます。
 ここまで六病位をまとめてみましたが、漢方薬の種類がたくさん出てきて驚いた方も多いかもしれません。太陽病と少陽病、太陰病のところに出てきた処方はこれまでも触れてきた処方ですので置いておくと、皆さんには今回、新規に真武湯を覚えていただくのがよいかと思います。「陰病における葛根湯」と呼ばれるくらいには、応用範囲の広い漢方薬だからです。人参湯や麻黄附子細辛湯も時々使うので、余力があればどうぞ。


表1 六病位の治療コンセプトと代表的な漢方薬

<参考文献>
1)藤平健 『傷寒論』で少陽病篇が陽明病篇のあとに位置する理由. 日本東洋医学雑誌 1986;37(1): 9-17.
2)田原英一ら 日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察. 日本東洋医学雑誌 2021;72(4):452-9.
3)山崎正寿ら 「日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察」の問題点. 日本東洋医学雑誌 2022;73(3):347-8.

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こころの不調(気逆・気うつ)の漢方 〜心と肝〜

2024年12月30日 16時39分48秒 | 漢方
喜多先生のWEB配信されているレクチャーを視聴しました。
彼の解説は曖昧なところが少なく、頭の中の整理に役立ちます。

ポイントを列記します;
・こころの不調に対する漢方は、五臓の心と肝に属する。
・人間がストレスを受けたときの反応は、急性期(キャノン学説)と慢性期(セリエ学説)の2種類に分けられる。
・漢方医学的には急性期反応が“気逆”、慢性期反応が“気うつ”と捉えられる。
・気逆は「怒り・闘争・攻撃反応タイプ」と「恐れ・逃走・防御反応タイプ」の2種類に分けられる。
・攻撃反応タイプには黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)、防御反応タイプには桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)が適応となる。
・気うつは「悲しみをガマン・憂慮過多タイプ」と「怒りをガマン・緊張過多タイプ」の2種類に分けられる。
・憂慮過多タイプには半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)、緊張過多タイプには抑肝散(54)、加味逍遥散(24)が適応となる。
・抑肝散と加味逍遥散は適応となる精神状態が似ており、性格特性で使い分ける。抑肝散加陳皮半夏(83)は「打ち解けにくい」「精神的に強い」傾向があり、加味逍遥散は「打ち解けやすい」「精神的に弱い」傾向がある。
・こころの不調に対する漢方薬は、抑うつ・不安・興奮のどれがメインかで使い分けるが、性格特性も参考になる。

明快なのはよいのですが、これを理解して使いこなすにはちょっと時間がかかりそうです。
講義メモを備忘録として残しておきます。

***********************************

▶ 気の働き
1.生命活動を成業する:シグナルとしての気
2.生命活動を駆動する:パワーとしての気、エネルギーとしての気

▶ 二種類のストレス反応
1.キャノンの「闘争・逃走反応」 → 短期戦、交感神経系亢進 → 気逆
2,セリエの「ストレス抵抗反応」 → 長期戦、副腎皮質ホルモン分泌 → 気うつ

▶ 二種類の気逆と代表的方剤
1.攻撃反応タイプの気逆
・キーワード:怒り(闘争)、タイプA行動(虚血性心疾患になりやすい行動特性、ワンマン社長のイメージ)、顔面紅潮・のぼせ、血圧上昇、不眠
・代表的方剤;黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
2.防御反応タイプの気逆
・キーワード:恐れ(恐くて逃げる、逃走)、パニック発作、動悸発作、腹部の動悸、手足の発汗
・代表的方剤:桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

▶ 三黄瀉心湯の“心”は五臓の心
・心は覚醒・睡眠プロセスを司る
・心は中枢神経系と循環器系の日内リズムを作る
 ・心の陽気:動的活動・・・昼・覚醒し、心拍数多・血圧高い
 ・心の陰液:静的活動・・・夜・睡眠し、心拍数少・血圧低い
・心の異常
 ・心の陽気が過剰 → 気逆、興奮して眠れない → 黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
 ・心の陰液が不足 → 血虚、安らかに眠れない → 酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)

▶ 二種類の気うつと代表的方剤
1.憂慮過多タイプ
・キーワード:悲しみをガマン、憂鬱な気分、訴えが執拗、心気症的、胃気失調(※)を認める
・代表的方剤:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
2.緊張過多タイプ
・キーワード:怒りをガマン、イライラした気分、肩こり・頭痛、過緊張による症状、肝気鬱結を認める
・代表的方剤:抑肝散(54)、加味逍遥散(24)

※ 胃気失調:気の巡りが悪くて消化器症状(食欲がない、腹部膨満感、排ガス、ゲップ、腹部の鼓音)がみられる。

▶ 肝気鬱結:覚醒・睡眠プロセスの異常
・肝の働き:自律神経系+内分泌系の日内リズムを形成(陽気 → 陰液 → 陽気)
 ・肝の陽気:動的活動を担当、昼・覚醒、筋:緊張、肝:異化
 ・肝の陰液:静的活動を担当、夜・睡眠、筋:弛緩、肝:同化
・肝気鬱結とは動的活動から静的活動への移行がストレスのために障害された病態
 → 精神的&身体的な過緊張状態を呈する。

▶ 抑肝散(54)と加味逍遥散(24)の比較
・両方とも肝気鬱結に使用する方剤:高山Dr.の赤本のイラストを見ると似ている。
・適応となる精神状態は類似しているが、性格特性が異なる。
・16PF人格検査(★)による性格特性の比較
  (抑肝散加陳皮半夏) (加味逍遥散)
N: 如才ない       如才ない
O: 自信がない      自信がない
L:  疑り深い       疑り深い
Q4: 固くなる       固くなる
C: 情緒不安定      情緒不安定
H: 物おじする      物おじする
A: 打ち解けない     打ち解ける
I:   精神的に強い     精神的に弱い

▶ 性格特性から見た抑肝散加陳皮半夏(83)
・自己主張的:精神的に強い、打ち解けない
 → 協調性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ 性格特性から見た加味逍遥散(24)
・他者依存的:打ち解ける、精神的に弱い
 → 自立性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ こころの不調に有効な方剤の16PF因子A得点分布
           (4点以下)  (5-6点) (7点以上)
           打ち解けない  ジレンマ  打ち解ける

抑肝散加陳皮半夏(83)  10      1      1
柴胡桂枝乾姜湯(11)    7      2      0
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)   5      3      0
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)   2      8      2
香蘇散(70)        0      7      0
補中益気湯(41)      3      5      2
加味逍遥散(24)      2      6      16
半夏厚朴湯(16)      0      1      12
加味帰脾湯(137)     1      4      5

★ 16PF人格検査
  (低得点)  (高得点)
A:打ち解けない  打ち解ける
B:知的に低い   知的に高い
C:情緒不安定   情緒安定
E: 謙虚     独断 
F: 慎重     軽率
G:責任感が弱い  責任感が強い
H:物怖じする   物怖じしない
I:  精神的に強い  精神的に弱い   
L: 信じやすい   疑り深い
M:現実的     空想的
N: 率直     如才ない
O:自信がある   自信がない
Q1:保守的    革新的
Q2:集団的    個人的
Q3:放縦的    自律的
Q4:くつろぐ   固くなる

▶ 心の不調に有効な方剤の精神状態・性格特性
         (抑うつ・無力) (不安・緊張) (興奮・焦燥) (性格特性)
加味帰脾湯(137)           △       △     打ち解ける
補中益気湯(41)   ◎         △       ✖️     中間
香蘇散(70)              〇       ✖️      中間
半夏厚朴湯(16)   〇         〇       ✖️     打ち解ける
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)〇         ◎       〇       中間
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)△               △      打ち解けない
柴胡桂枝乾姜湯(11) △         〇       △     打ち解けない
加味逍遥散(24)   △        〇        〇      打ち解ける
抑肝散加陳皮半夏(83)△        〇        ◎     打ち解けない
酸棗仁湯(103)   ✖️        〇        ◎      ー


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