ボチボチかめさん

良い日本を夢見てきましたが 現実は遠のくばかり
のろまですが小さな脳で考えます
日本のこと 日本人のこと

銀の爪

2008-01-19 22:46:49 | つれづれ日記
今日は寒い日で、夕方まで引きこもっていたが午後5時を過ぎた頃、
はっと、野暮用があったことを思い出しバタバタと天神に向った。


電車の中も福岡駅構内も、ティム・バートンの最新作「スィーニートッド」のポスターで溢れ
ジョニー・デップとヘレナ・ボナムの豊満な胸に挨拶の視線を送りながら
時計を見ると、まだちょっと余裕がある。


いつも行く茶店は、壁の片側が一面総ガラスになっていて
その窓に吸いつくように半円形の木製のカウンターがある。

覗くと、一番端の好きな席が空いていた。


端から三つ目の席に黒いコートを着た女性が座っている。
『ここいいですか』と声をかける。『ええっ、どうぞ』と感じの良い返事が返ってきた。

見下ろす天神の喧騒はわたしの席には届かず、ただ車が流れていた。


なんにも考えないでテーブルに両肘を立て、お祈りの形に手を組む。
そこにあごを軽く押しつけながらお茶を待った。

ふと隣の女性をちらっと横目で見る。


白い携帯を左手で握って左親指の爪でなにやら入力している。
バックの中を探して銀行の預金通帳を取り出す。
携帯を置き、通帳の頁をめくると、また携帯になにやら入力する。


『あっ、銀の爪、、、』 彼女は年の頃50代後半だろうか。
 
長く伸ばした爪には銀色のマニキュアがほどこされ、それが白い携帯によく似合った。
携帯が動く度にキラキラと光るものがある。

わたしは横目を寄せられるだけ左側に寄せ、光る正体を見届けようとする。
それはルビー色とトルマリンブルー色の携帯ストラップの小さな石たちだった。

こんなの売ってるの見たことないから、
多分、使わなくなった指輪を加工したのね、、、などと想像する。


彼女はわたしの視線も気にせず、
(いや、気にならないように こちらも最大限の注意をして)

今度は財布を取り出し、小さな紙類の整理を始めた。
切符、メモ、何枚ものサービスカード、、、

中には、わたしもよく買い物にいく店のもあり、妙に親近感が湧く。

一枚、一枚確かめながら 半分に破っては灰皿に捨てていく。
時折、大事なメモなのか携帯の上で動く銀の爪とゆれる二色の光。

そしてまた時々、彼女は考え事をしながら頸をかしげ、右手の銀の爪で頭を掻いた。



黒いコートの女性の動作は、どれも こじんまりと もの静かで、 
だが生活感に溢れていた。

なにより やわらかな時間が彼女を包み、わたしはそのお相伴に与った。



『素敵ですね』と声をかけたい衝動を抑え、彼女の整理が終わるのを待った。


彼女が財布をバックにしまう。
飲みかけのお茶を飲み干す。

声をかけるのは、『今だ!』と思った瞬間、パチンと音を立てて白い携帯は閉じられた。


わたしは振り返って黒いコートを見送る。

彼女の後姿は40代のそれだった。

ふと気づくとタバコの空箱がキュッと捻られ、行儀よく灰皿の隣に置いてあった。


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
絵画 (P@RAGAZZO(Pの視点))
2008-01-21 10:56:43
う~~ん、、やっぱり大姉の文章は絵画的ですね。
とても美しい。

宮部みゆき『火車』のラストシーンを思い出しました。
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Unknown (damedakorea)
2008-01-21 12:45:30
こんにちは~

「銀の爪」の素敵な女性を読んでいて・・・
ボチボチ様を思い浮かべました。
実はこちらへ立ち寄るようになったきっかけはボチボチ様のエントリー・天皇皇后両陛下の福岡ご訪問なんです。
提灯行列に参加された方のレポが見たいと思い検索してヒットしたのがボチボチ様でした。
提灯を振って両陛下の幸せを祈る・・・
凄く素敵な人なんだな~とボチボチ様のお人柄が伝わってくる内容でした。

今年の歌会始、皇后様のお歌はこの時の事が読まれていますね。きっとボチボチ様の灯りを見てお詠みになったんですね。

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感性 (ボチボチです)
2008-01-21 23:44:52
ブログ「Pの視点」のP@RAGAZZO様

ありがとうございます。

この拙い文章を
>とても美しい。と感じていただける

P様の感性がすばらしいです。

宮部みゆきは、まだ一度も読んだことはありませんが、
黒いコートの女性にわたしは 

轟はんの
「色気とは余裕のことでござんすよ」の
言葉を思い出しました。



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ク、ク、くっ。。。 (ボチボチかめです。)
2008-01-22 00:02:08
ブログ「damedakorea」のDam女史へ

こんばんは。

このDam女史のコメントを
わたしの弟たちが読んだら爆笑しますね。

友だちは、笑いをこらえるのに苦労することでしょう。

残念ですが、ボチボチを思い浮かべないで下さい(笑い)

ですが「銀の爪」の女性が、
素敵な女(ひと)だと思って頂けてうれしいです。

顔が美しいということではなくて、
なんとも いい雰囲気をもった女の方でした。


そうですか、、、、

天皇皇后両陛下が、Dam女史をここへ
お導きくださったのですか、、、。

ありがたいことです。
今後とも宜しくお願いします。



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コメント忘れてた ごめんなさい (ahluckylaura)
2008-01-25 11:09:29
素晴らしい描写



外国語には翻訳不可



お見事



褒めておきながら

またいらぬこと書き足せば

中国の悪口blog記事より

百段上

同一人物とは思えない



日本文学の血が流れ染み込んでらっしゃる人です
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Unknown (Unknown)
2008-01-26 08:16:49
ahluckylaura様

おはようございます。

あまりにも、立派なお褒めの言葉を頂戴して
ご返事のことばが、みつかりません。

ありがとうございます。恐縮しています。

>同一人物とは思えない

ははは~ 
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