アジア映画巡礼

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韓国映画つるべ打ち<6>『バッカス・レディ』

2017-07-15 | 韓国映画

暑い3連休ですね~。一足早く、夏休みを取っておられる方も多いのでは、と思います。私も、こんなピーカンの日の海が見たいです(できれば須磨海岸が...)。さて、ちょっとダラダラ連載になってしまいました「韓国映画つるべ打ち」、最終回は来週から始まる「ハート アンド ハーツ コリアン・フィルムウィーク」の上映作品『バッカス・レディ』です。実はこの『バッカス・レディ』、2016年の香港国際映画祭で見て、強く印象づけられたのでこんな記事にまとめてあります。ストーリー等はこの記事と今回のフィルムウィークの公式サイトを参照して下さいね。まずは、『バッカス・レディ』の作品データからどうぞ。


 ©2016 KOREA FILM COUNCIL ALL RIGHT RESERVED

『バッカス・レディ』

 2016年/111分/原題:죽여주는 여자/英語題:The Bacchus Lady
 監督:イ・ジェヨン
 主演:ユン・ヨジョン、ユン・ゲサン

7月22日(土)よりシネマート新宿、7月29日(土)よりシネマート心斎橋で開催される「ハート アンド ハーツ コリアン・フィルムウィーク」にて上映

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本作は、韓国における2つの社会問題を扱っています。一つは「老人問題」、もう一つは「外国籍の人々の問題」と言っていいでしょうか。「老人問題」は多岐にわたっており、「貧困」「孤独」「性」といった問題がからまって描かれています。主人公は60歳を過ぎた売春婦のソヨン(ユン・ヨジョン)で、公園で客引きをし、安いラブホテルに行ってことに及び、日本円にして2、3千円のお金を受け取る....。大きめのトートバッグには、「バッカスD」のような栄養ドリンクと、ムードを盛り上げるためか、アロマキャンドルなどが入っています。公園に集まってくる老人たちは年金生活者がほとんどでさほど裕福ではなく、また「バッカス・レディ」の側も生きていくためにお金を稼がなければならない女性たち、ということで、華やかさはまったくありません。

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ソヨンと関係を持ったり、過去に関係があった相手として何人かの男性が登場しますが、わびしい独り暮らしだったり、家族はいてもアメリカ在住で、一人病院のベッドで療養する人もいたりと、お金がなくてもあっても孤独な生活を強いられています。そこでソヨンによる奇妙な人助けが始まるのですが、これは極端な行き方だとしても、朝鮮戦争後の韓国で若い頃から辛酸をなめてきたソヨンは人に対する同情心が勝り、自分から見た「人助け」に手を染めてしまうことになります。このあたりのソヨンのキャラクター、人に頼まれるとイヤとは言えずに引き受けてしまう、どちらかというとおっとりした老女を、ユン・ヨジョンがかわいく演じています。イ・ジェヨン監督が2ヶ月で脚本を書き上げ、即ユン・ヨジョンのところに持って行った、というのがうなずける、ハマり役です。

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もう一つの「外国籍の人々の問題」は、ソヨンのおせっかいというか同情心が作用して、医師に対する傷害事件で現行犯逮捕されたフィリピン女性の子供を自宅に連れて来てしまう、というところから始まります。のちにカン・ミノという韓国名を持っているとわかる上写真の男の子は、医師がフィリピンの現地妻との間にもうけた息子で、おそらく連絡がとだえたためその女性が息子を連れて韓国にやってきたのでしょう、医師のクリニックに押しかけて傷害事件を起こしてしまいます。その時クリニックにたまたまソヨンがいて、逃げる男の子を目撃したことから、おせっかいが始まるのです。普通は警察に連れて行くと思いますが、後ろ暗い職業のソヨンにとっては、まずかくまう方が先だったのかも。子供を育てるような余裕があるのか、自分が仕事に行っている間はどうするのか、というようなことも考えずに、家に引き取ってしまうソヨンです。フィリピンは、日本人と同じく韓国人も英語学習などでよく訪れる国で、これもまた日本と同じく、韓国人男性とフィリピン人女性が恋愛関係になることも多いのだとか。「コピノ」(コリア+フィリピノ)という言葉もあるそうで、これはそういうカップルの間にできた子供を指すそうです。

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「コピノ」のミノのほか、ソヨンの暮らすアパートにはスーパー勤務のアフリカ人女性がいますし、その女性の勤務先上階には「タージパレス」というインド料理レストランもあります。韓国はこんな風に、日本にも負けないぐらい外国籍の人が多く暮らしている土地で、以前から『もし、あなたなら~6つの視線~』(2003)や『ワンドゥギ』(2011)などでその一端が描かれてきました。韓国語をあまりしゃべれないミノも、近所で働いていたフィリピン人青年のおかげで意志が通じ、母親とも面会できます。また、母親の裁判を待っている間ソヨンや同じアパートの住人たちと一緒に暮らすことになるのですが、大家のティナはトランスジェンダーの女性、そしてフィギュア作りをしている青年ドフン(ユン・ゲサン)は足が不自由と、みんなそれぞれに何か痛みを抱えている人たちで、ミノも彼らになつきます。このアパートでの話だけなら、心温まるエンディングになったのですが...。

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『バッカス・レディ』の韓国語原題は「殺してあげる女」なのだとか。つまり、性交渉用語の「イカせてあげる女」ということなのだと思いますが、それがダブルミーニングになっていて、性と生の深淵を表しています。『情事』(1998)、『スキャンダル』(2003)など、「性」にからむ問題作をこれまでも作ってきたイ・ジェヨン監督ですが、今回は「性」と「生」を通じて現代韓国社会を見据えた、少し重い作品となっています。イ・ジェヨン監督によると、「私が今まで観察してきた”ユン・ヨジョン”の普段の素の姿を、本作のキャラクターにたくさん取り入れた」とのことで、ソヨンのキャラクターがどこか品が良く、かつカッコいいのはそのせいかも知れません。知らない韓国を見せてくれる『バッカス・レディ』、ぜひこの機会にご覧下さい。予告編を付けておきます。

BacchusLady JapanseTitle Trailer web

 


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