アジア映画巡礼

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『女神は二度微笑む』の迷宮<4>コルカタに迷う

2015-02-18 | インド映画

『女神は二度微笑む』の主役は女優ヴィディヤー・バーランが演じる妊婦ヴィディヤですが、もう1人の主役は、間違いなくコルカタの街です。映画の舞台となるのはコルカタとデリー、そして、デリー近郊のファリーダーバードなのですが、デリーは国家情報局が出てくるだけ、また、ニューデリーの東南にあるファリーダーバードは、かつて国家情報局に勤めていたバジパイの家がちょっと出てくるだけ、というわけで、ほぼ全編舞台はコルカタと言っても差し支えありません。


最初に出てくるのは、コルカタ名物のメトロ(地下鉄)です。「コルカタ名物」と呼ぶのは、インドで最も早く誕生した地下鉄だからで、長い工事期間を経て1984年に開業しました。私も工事期間中に掘り返された道路に難渋したクチで、その次に開業後間もなく行った時には、真新しいステンレス車両に乗ってみました。その時は昼間だったせいか一般乗客より見物人が多く、席が空いているのに銀色の床に体育会座りをしている人々が目立ち、村から出て来た観光客かなあ、と思ったのを思い出します。

映画は冒頭、このメトロ内である事件が起きるのですが、映画の中盤では、予告編の最後に出てきたようにヴィディヤが男に突き落とされ.....という不気味な出来事も起こります。この時の駅カーリーガートは、中心街のマイダーン駅から南へ4つ目で、その名の通りカーリー寺院に行く最寄り駅です。カーリー女神の寺院はコルカタ観光名所の一つで、本作ではこのカーリー女神の神話が様々に姿を変えて物語の中に生かされています。詳しくお知りになりたい方は、劇場用パンフレットに掲載されている澁谷俊樹さん(慶應大学大学院博士課程修了。ご本人は「インドお祭り研究家」と名乗ってらっしゃいますが、ベンガル地方の祭祀研究をしておられる研究者です)の文章をぜひお読み下さい。


導入部が終わると時間が2年後に飛び、いよいよヴィディヤの登場となるのですが、その前にコルカタの特徴を歌で説明しながらいろんな風景を見せていく、という秀逸な手法が取られています。下は、コルカタをベースに貧しい人々を助ける活動を行った修道女、マザー・テレサの壁画です。マザーの活動は、彼女亡き後他のシスターたちに引き継がれ、日本を始めとする世界各国からのボランティアに支えられて、力強く続いています。これも、世界に発信するコルカタの顔ですね。 

さて、その歌は....

♪心も売ってる 華やかな街
♪希望と欲望の街 コルカタ
♪逃げても追ってくる街
♪コルカタは世界のすべて
♪パワフルで脆弱 新しくて古い
♪ホントのことだよ

歌の歌詞はヒンディー語なのですが、リフレイン部分はベンガル語で、「アミ(私は)・ショッティ(真実を)・ボルチ(言っている)」と歌っています。ヴィディヤがコルカタ空港に姿を現すまでに、コルカタの街の様子がいろいろ切り取られて登場しますが、その中にはあとで登場する、これもコルカタ名物の路面電車の姿も。二両連結の路面電車、昔と比べるときれいになりましたねー。


空港からヴィディヤは黄色い色が特徴的なコルカタのタクシーに乗って、カーリーガート警察署に出向きます。そして、そこで若い警官のラナ(パラムブラト・チャテルジー)と初めて顔を合わせ、その後ホテルまで送ってもらうのですが、そのホテルが「モナリザ」という名前で、実在するホテル(正確にはゲストハウス)なのです。外壁がユニークだしてっきり映画のためのセットかと思ったら、実際に稼働しているホテルだったとは。パンフレットの制作過程で、前述の澁谷さんの文章を読み、それを知った時にはびっくりしました。すでにコルカタに行って現地訪問をした方もあるようですが、映画がヒットしたせいかこのホテルはきちんとしたHPを作っていて、そこでホテルの様子を見ることができます。「ギャラリー」のページを付けておきましょう。


こうして、この物語はコルカタの「リアル」をつぶさに見せてくれます。もちろん、上の写真ハウラー橋のように観光名所も出てきますが、名もなき人々が早朝に身支度する姿や働く姿、街角の様子や下町の路地裏の光景など、普段着のコルカタが見られるのが大きな魅力となっています。ホウラー橋は、ラナが路面電車で帰宅する時に出てくるのですが、この帰宅シーンが秀逸です。あまり言うとネタバレになるので、とりあえずご覧になってみて下さい。


そして圧巻は、やはりドゥルガー・プージャーの場面。祭りの前に泥人形を作っているシーンから始まって、祭りの当日までを映画に見事に組み込んだストーリー展開は、心憎いばかり。実際のお祭りの雑踏の中で撮影するのはどんなに大変だったことか、と思いますが、それが抜群の効果を上げています。


このドゥルガー・プージャーに関しても、澁谷さんの文章の中に解説があり、なるほど泥人形にはそういう由来が、と納得できます。もちろん、ドゥルガー像のデザインについての説明も書いてありますので、一読なさってみて下さい。ただし、勘のいい方はストーリーの結末がわかってしまう怖れもあるので、パンフレットの澁谷さんの文章は映画をご覧になってからお読み下さいね。


このドゥルガー像の顔にも流行があって、1970年代は当時のトップ女優ヘーマー・マーリニーに似せた顔がずいぶんあったとか。私の友人は、「あれじゃ、ヘーマー・マーリニー・プージャーだよ」と嘆いていましたっけ。確かに、いろんな顔があって、上の写真と下の写真では結構印象が違いますよね。


こんな風に、もう1人の主役コルカタも、きっと強い印象を残すに違いありません。『女神は二度微笑む』は2月21日(土)より、渋谷のユーロスペースほかで公開です。公式サイトはこちら、劇場のサイトはこちらです。さあ、女神降臨の日まで、あとわずかです!


 



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