アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

ショーレ・ゴルパリアンさん、『神さまがくれた娘』を語る

2014-03-02 | インド映画

『神さまがくれた娘』のトークイベント@渋谷ユーロスペースで、ショーレ・ゴルパリアンさんのお話をうかがってきました

ショーレ・ゴルパリアンさんは、イラン映画の字幕翻訳や監修、そして来日したイラン映画人の通訳として知られています。1979年に来日し、イラン大使秘書や貿易会社の仕事を経て、1991年から通訳・翻訳の仕事を開始したショーレさんは、近年はイランの映画監督が日本で映画を撮る時の、コーディネーターやプロデューサー的役割も務めてらっしゃいます。『ライク・サムワン・イン・ラブ』 (2012)のアッバース・キアロスタミ監督、『CUT』 (2011)のアミール・ナデリ監督ら、お世話になったイラン映画人は数知れず。下は、2013年の東京フィルメックスでモフセン・マフマルバフ監督の通訳を務めるショーレさんですが、彼女は「日本におけるイラン映画の母」と言われたりもしています。

そのショーレさんが、『神さまがくれた娘』を大阪アジアン映画祭に紹介したのだ、と聞いた時は、一体どういうコネクションが、ととても不思議でした。そのあたりをうかがってみたいと思って、今日のトークを配給会社太秦からお願いしてもらったのですが、本番前の打ち合わせでは出るは出るは、秘蔵エピソードがいっぱい出てきました。本番のトークは15分と短かったため、打ち合わせでのお話もまじえながら、ショーレさんと『神さまがくれた娘』やインド映画の関わりをまとめてみました。

★イランでのインド映画

「イランでは、昔からインド映画がよく上映されてきました。娯楽映画といえばインド映画という感じで、特に泣かせる作品が多かったインド映画は、ちょっと低俗なもの、というイメージもあったんですね。だから、”インド映画みたいだ”という表現は、”俗っぽい、くだらない作品だ”という意味になったりします。
でも私はインド映画が大好きで、よく見に行っていたんですね。私の母は学校の教頭をしていたので、インド映画なんて見ちゃダメ、と言われていたのですが、父方の叔母がくだけた人で、その叔母とよく見に行っていました。
インド映画の中で、イランで一番人気があったのは『サンガム(Sangam/合流点)』(1964/ヒンディー語/監督・主演:ラージ・カプール)です。イラン人はほとんど全員が見てると思うし、私も2、3回見ました。すごい人気だったんですよ。

イスラーム革命後は、インド映画は映画館ではなかなか上映できなくなりました。サリー姿だとお腹の所が見えるでしょ? あれが検閲に引っかかるんですね。でも、バザールに行くと、インド映画の海賊版コピーがいっぱい並んでいます。ある時、マニラトナム監督がファジル国際映画祭の審査員でイランに来て、奥様のスハーシニをバザールに案内したことがありました。イラン映画のソフトが買いたい、ということで連れて行ったら、インド映画のソフトがずらーっと並んでいたので、彼女もその友人もびっくりしていましたよ」

私も1977年12月にイランに行った時、テヘランのハーフェズという映画館でインド映画を見たのですが、ペルシャ語吹き替え版で、歌のシーンだけがヒンディー語という形での上映でした。下の写真は、その時に見た『サギナー』(1974/主演:ディリープ・クマール、サーイラー・バーヌー)の看板です。

★ヴィクラムとの出会い

「私はマニラトナム監督の『ボンベイ』 (1995)を見て彼が大好きになって、彼とも連絡を取り合うようになりました。そして、2010年の釜山国際映画祭(BIFF)で、マニラトナム監督の『ラーヴァン』 (ヒンディー語)と『ラーヴァナン』 (タミル語)が上映された時、私もBIFFのコーディネーターの1人なので行ってたんですね。
その時はマニラトナム監督のほか、アビシェーク・バッチャンとアイシュワリヤー・ラーイ、そしてヴィクラムがゲストとして来ていました。アビシェークとアイシュワリヤーは、いかにも大スターです、という感じで会場にやって来るのですが、ヴィクラムはそれほど背も高くないし、普通の人と変わらない地味な感じでした。アビシェークとアイシュワリヤーは1日か2日で帰ってしまい、その後ヴィクラムと話す機会があって、私がまだ『ラーヴァン』しか見ていない、と言うと、『ラーヴァナン』もぜひ見てほしい、とDVDを渡してくれました。

帰国後そのDVDを見てびっくりしました。『ラーヴァン』もさすがマニラトナム監督の映画、と思ったんですが、『ラーヴァナン』を見たら『ラーヴァン』なんてもう話にならない! ヴィクラムの演技がすごいんです。圧倒されました。それで早速ヴィクラムに連絡して、それからメル友になりました」

『神さまがくれた娘』

「そんなヴィクラムが、ある時、”これからちょっと大変な作品と取り組むから、しばらくメールできない”と言ってきたんです。その作品が、『神さまがくれた娘』でした。
精神的な障害者を演じる、というので、彼はそういった人たちのいる施設に行ったり、それから心理学者である奥さんの助けを借りたりと、かなり詳しくリサーチしていたんですが、特に障害のある子供たちの動作や行動がとても参考になったそうです。ヴィクラムが演じたのは、6歳の子供の心を持った大人、ということなので、成人の障害者とはちょっと違う表現になったわけですね。
主人公クリシュナのあの髪型や、トレードマークであるチョッキ姿も、ヴィクラムが考案したそうです。クリシュナのセリフも特に台本があったわけではなく、ヴィクラムが考えてA.L.ヴィジャイ監督がOKを出す、という形で撮られました。やっぱりヴィクラムの方が大スターなので、若いヴィジャイ監督は彼を尊重しつつ作ったのでしょう。

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これは素晴らしい作品になる、と思っていたら、ヴィジャイ監督が早速、最初のラフカット版の映像を送ってきてくれました。それを見た時、本当にいい映画だなあ、と思ったのですが、ちょっと不要だと思えるシーンもありました。それで、ヴィジャイ監督に電話してこう言ったんです--”ヴィクラムが雨の中でアヌと踊るシーンと、ホテルでの笑いを取るためのドタバタのシーンは要らないと思います。それをカットしてくれたら、BIFFに推薦しましょう。”
立派なインド人監督に向かって、ほんとに、何てことを言ったんでしょうね(笑)。でも、ヴィジャイ監督はすぐに、僕もそう思います、カットします、と言ってくれたんですよ。インドで公開するためには必要だとプロデューサーに言われてああいうシーンを入れたけれど、監督自身も、ない方がいい作品になる、と思っていたんですね。
それで、2011年のBIFFのオープン・シネマで上映されたんですが、3,000人入る野外劇場が満員になりました。見終わったあと感激した観客がどっとヴィジャイ監督の所に押し寄せて、なかなか監督を放してくれず、監督はその日帰国のために飛行機に乗る予定だったのですが、それに遅れそうになったぐらいです。
その後、2012年の大阪アジアン映画祭で上映されて、グランプリとABC賞をダブル受賞したのはご存じの通りです」

『神さまがくれた娘』のカットされたシーンは、YouTubeで見ることができます。歌のシーンはこちら、ホテルでのコメディ・シーンはこちらの20分ぐらいからです。

★大阪アジアン映画祭で

大阪アジアン映画祭では、ショーレさんはゲストトして来日したヴィジャイ監督とヴィクラムの舞台挨拶の通訳を務めると共に、1日お二人を京都観光に案内しました。

「ヴィジャイ監督は、いつもヴィクラムのことを”ヴィクラム・サー”と呼んで敬意を表していましたね。普通は監督の方が偉いわけですが、ヴィジャイ監督は1979年生まれでまだ若いので、ずっと”ヴィクラム・サー”と呼んでいました。
困ったのは、ヴィジャイ監督が完璧なベジタリアンだったことです。お蕎麦なら大丈夫かとお蕎麦屋さんに入ったのですが、ヴィクラムと私はおいしく食べたものの、ヴィジャイ監督はダシの魚の匂いがする、と言ってまったく食べずにオレンジジュースだけ飲んでいました。
帰途、京都駅まで来た時にインド料理店を見つけたので、ここなら大丈夫と思って入ろうとしたら、午後4時だったので店は休憩中。店の中に人影は見えるのですが、ドアの外から”入れて、お願い”というジェスチャーをしても、”4時だから休憩中”というしぐさをして開けてくれないんですね。ヴィジャイ監督が顔をくっつけるようにして頼んだんですが、やっぱり”ダメ”と手を振られて。
ところが、次にヴィクラムが顔を見せたら、お店の人がびっくりして大騒ぎになったんです。ちょうどタミル・ナードゥ出身の人だったとかで、もう舞い上がって、厨房からも人が飛び出してきたりと大変でした(笑)。それで、ヴィジャイ監督はおいしいインド料理にありつけたんですが、ヴィクラムの方はお腹がいっぱいで眠くなったのか、うつらうつらしていました(笑)。それにしても、ヴィクラムはすごい大スターなんだなあ、とあらためて感じさせられました。
でも、ヴィクラムはヴィジャイ監督が先に帰ったあとも残っていてくれて、授賞式にも出てくれましたし、本当にいい人です」

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★今、ヴィクラムとヴィジャイ監督、そしてベイビー・サーラーは?

「ヴィクラムとは昨年のBIFFでも会ったのですが、別人のように痩せていました。今撮っているシャンカル監督の映画(『Ai』)のために、25キロ体重を落としたそうです。頬がすっかりこけて、すぐそばにいたのにヴィクラムとは気が付かないほどでした。(こちらのニュースに写真が) 

ヴィジャイ監督が今撮っているのは『Saivam』という作品で、それに主演しているのが『神さまがくれた娘』のニラーを演じたベイビー・サーラーなんですね。映画のストーリーは、サーラー演じる女の子の家で鶏を飼っていて、皆がとても可愛がっている。で、ある時願い事があって一家が寺院に行ったら、お坊さんから、”神様に願いを叶えてもらうためには、一番大切なものを捧げないといけない”と言われ、それなら鶏を、となります。ところが女の子は、それは大変!と鶏を隠してしまう。そして...といったものです。

今度もタミル語の映画なんですが、北インドのヒロインがチェンナイに仕事に来ると、まず知り合いの監督とか共演者とかに「今回もよろしくお願いします」という電話を掛けるのが習慣になっているそうです。で、サーラーもチェンナイに来ると、きちんと電話を掛けるんだそうで、あんなに小さいのにもうプロ意識がちゃんとあるんですね。
『神さまがくれた娘』の時も、小さかったのでいつも誰かに抱かれていることが多かったんですが、レッドカーペットの前に来ると”降ろして”と言って、堂々とカーペットの上を進んで行ったんだそうです。一人前の女優ですね。
でも、この前サーラーがチェンナイに来てヴィクラムに電話を掛けてきた時は、最初”アッパー(パパ)!”と叫んでしまって、そばにいたお母さんがあわてて受話器を奪い、”すみません、娘が失礼なことを”と謝ったりしたそうです。そういう子供らしいところもあって、可愛いですね。そうそう、『神さまがくれた娘』には、サーラーの弟も出演しているんですよ。生まれたばかりのニラー役の赤ちゃん、あれが弟です」

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『神さまがくれた娘』の成績がよければ、ヴィクラムやサーラーちゃんの次作も日本で配給が決まるかも知れません。好きな作品となったら、自分から「私に紹介させて下さい!」と言ってしまうというショーレさん。その情熱のお陰で、『神さまがくれた娘』は日本にやってきました。ショーレさんの幅広い活動は、「アジア映画で<世界>を見る」(作品社)に収録されているインタビューでも知ることができます。

アジア映画で〈世界〉を見る――越境する映画、グローバルな文化
石坂 健治,市山 尚三,空族,ショーレ・ゴルパリアン,諏訪 敦彦,中沢 けい,夏目 深雪,野崎 歓,野中 恵子,萩野 亮,福間 健二,松岡 環,森山 直人,四方田 犬彦,渡邉 大輔,宇田川 幸洋,金子 遊
作品社

 ショーレさん、どうもありがとうございました! 「イラン映画の母」だけでなく、「インド映画の母」としても、今後たくさんの作品を日本に紹介して下さいね!

 


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