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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

2020 FILMeX & TIFF<DAY 3>

2020-11-01 | アジア映画全般

本日はTIFF初参戦と、六本木から有楽町回遊コースの日でした。TOHOシネマズ六本木はスクリーン部分のロビーが狭いため、あれこれいろんな対策が取られていますが、プレス上映も下の広場で並び、検温やパス確認を済ませた上で、階段をぞろぞろ上がって入場、という形になりました。会場にいらしてこんな列を見たら、プレス試写待ちの人ね、と思って下さい。」

しかし、膝の痛い人間には階段徒歩上がりはきつい(ちょっとだけ泣)。列に並んでいた人たちが入ってしまえば、あとは席さえあれば入れてもらえるので、2作品目からは並ばずに、開映ぎりぎりぐらいになって会場に行く作戦に切り替えました。実際、映画と映画の間の時間がタイトで並びに行く暇もなかったりしますし、人気作でない限り、アジア映画のプレス試写は満杯になることはまずありません。というわけで、まずは3本のアジア映画を立て続けに見ました。

『スレート』
 2020年/韓国/語/99分/原題:슬레이트/英語題:Slate
 監督:チョ・バルン(조바른)
 出演:アン・ジヘ、イ・ミンジ、パク・テサン
 画像はすべて©2020 CONTENTS VILLAGE and MCMC All Rights Reserved.

この画像だけで、ハートを射貫かれたアジア・アクション映画ファンも多かったはず。アクションは剣技中心で、それほどすさまじいものはなかったのですが、小技でいろいろ楽しませてくれる素敵な作品でした。主人公のヨニは、無名俳優だった父が言っていた「主人公になれ」という言葉を胸に刻み、アルコール依存症の父と別れて養護施設で大きくなります。大人になって俳優の道を歩み始めますが、ずーっと無名のまま。友人のスアに文句を言われながらも支えられて、やっと無茶な売り込みで掴んだ、怪我した主演女優の代役で「鬼剣(キゴム)伝説」の主役を演じるために郊外のセットにやってきます。ところがそこには誰もおらず、登場したのは女性の領主を始めとする村人たちと、村から略奪しようとする山賊たち。何か変だ、と思っていると、ユーチューバーの男が登場し、彼の説明で自分がパラレルワールドに迷い込んでしまったことを知ります。そこは悪の権化が君臨する、恐怖の世界でした。ヨニはみんなから「キゴム様」と頼りにされるようになりますが、果たして元の世界に戻れるのでしょうか...。

悪の面々も思いっきり異世界ぶりを発揮していますが、彼らの手下からヨニ側に寝返る人物も出たりして、小物ですが面白いキャラがいろいろ登場します。本当は平凡な女の子ヨニの、「私は主人公!」という思い込みがパワーを生み出す仕掛けで、それゆえにアクションもガチなものが多かったのではと思います。ギャグもちょこちょこはめ込まれ、一番笑ったのはヨニがおでん屋の親父に言われる「あんた、ハン・ジヘさん?」というギャグ。主人公を演じたアン・ジヘはこれが映画初出演のようですが、写真でおわかりのように顔はハン・ジヘとは全然似ていません。名前が激似だっただけなのよ~、ですが、とてもチャーミングなのでこれから人気が出て、ハン・ジヘより知名度が高くなるかも。現実部分とパラレルワールドでは画面サイズを変えるなど、なかなかに工夫もこらされた作品なので、どこか配給会社さんが買って下さりそうな作品ではあります。タイトルの「スレート」の意味は多分これこれだと思うのですが、自信がないのでいずれまた。チョ・バルン監督はこんな若い人です。

 

 『ファン・ガール』
 2020年/フィリピン/タガログ語/100分/原題:Fan Girl
 監督:アントワネット・ハダオネ
 出演:チャーリー・ディソン、パウロ・アヴェリーノ
 画像はすべて©Epicmedia Productions Inc., Project 8 corner San Joaquin Projects

アントワネット・ハダオネ監督の作品だというので期待して見たのですが、これは何とも...。スターシネマ25周年の記念作品公開で、人気スターのパウロ・アヴェリーノ(本人役で出演)が相手女優と共にモールで宣伝活動を繰り広げています。女子高校生のジェーンはパウロの大ファン。彼が引き上げようとする姿を見て、彼のバンを改造したトラックの荷台に潜み、彼の家まで行こうとします。ところが、一人車を運転して帰るパウロの行動は、驚くようなことばかり。こっそり忍び込んだ家は古いお屋敷で、電気も通っていないよう。パウロに見つかってしまったジェーンは、意外に彼が紳士なのに不満も感じますが、その後驚愕の事実がいろいろ明るみに...。

描きたかったのは何なのか、スターに夢を託すしかない、貧しくてひどい家庭環境の女子高生の姿なのか、映画スターの裏の顔なのか、よくわからない作品でした。それにしても、パウロ・アヴェリーノ、こんな汚れ役をよくOKしましたね。途中でいろいろ脚本を変えたのでは、と疑いたくなるのですが、『リリア・カンタペイ 神出鬼没』のアントワネット・ハダオネ監督。

 

『遺灰との旅』
 2020年/インド/マラーティー語/106分/原題:Karkhanisanchi Waari/英語題:Ashes on A Road Trip
 監督:マンゲーシュ・ジョーシー
 出演:アメーイ・ワーグ、モーハン・アーガーシェー、ギーターンジャリー・クルカルニー
  画像はすべて©Nine Archers Picture Company, 2020 

西インドのマハーラシュトラ州にある地方都市プネー。カルカニス家では長男のプルショッタムが亡くなり、こちらも高齢の次男サティーシュ(モーハン・アーガーシェ)が、三男プラディープ(プラディープ・ジョーシー)やアメリカ帰りの四男アジート(アジート・アビャンカル)、一番下の妹サードナー(ギーターンジャリー・クルカルニー)らを取り仕切り、葬儀の準備をしていました。伝統的な薪で遺体を燃やすやり方は薪代がかかり過ぎるなど、すったもんだの末やっと長男は遺灰になって家族の元に戻ってきます。ところが四男が、「亡くなる前の晩に、プールー兄さんから遺言を聞かされた。遺灰は聖地パンダルプールに散骨して欲しい、それが終わったら、自分の書いた手紙がロッカーの中にあるので、それを読んでほしい、と言った」と言うではありませんか。遺言書と思われる手紙が発見され、兄弟は兄の遺灰をパンダルプールに持って行くことにしました。小さなバンを運転するのは、就職も出来ず起業もできずじまいの息子のオーム(アメーイ・ワーグ)。しかし、皆それぞれに兄や父の遺産を当てにし、弔う気持ちは二の次のこの旅は、次々とトラブルを招いていくのでした。そして、プネーに残った未亡人のインディラ・カルカニス(ヴァンドナー・グプテー)にも、晴天の霹靂のような事実が判明するという試練が待っていたのです...。

このカルカニス家は今どき珍しい大家族で暮らしているようで、それをテレビ局が取り上げ、「家族は最高!」という番組に生前のプルショッタム始め全員が出演したりします。ところがその放映がお葬式の日の夜で...というような、ギャグが随所に詰め込まれています。運転手役の息子オームは、生前の父親が怖くて何も言い出せなかったのですが、マードゥリーというしっかり者の女性と恋愛関係にあり、彼女からは「妊娠したわ、もう結婚するしかないでしょ」と迫られており、この「遺灰との旅」でも彼女はバイクに乗って追いかけてくる始末。三男は少々認知症気味、四男はアメリカ人の妻からは離婚を切り出され、借金の始末もつけねばならずアップアップ。ただ一人の妹は同性の恋人がいるのですが、彼女とDV夫を引き離したと思ったら、どうやら世間体を考えた彼女は元の鞘におさまりたい気配、と、暗雲立ちこめまくる人たちを乗せた赤いミニバンの「遺灰との旅」。さらに旅先でいくつものトラブルに遭遇するのですが、もう書き切れません。

マラーティー語映画は、この手の「身内のトラブルコメディ」は得意分野で、過去にもいろんな作品が作られ、ヒットしていますが、これほどてんこ盛りの作品は珍しいのでは、と思います。マンゲーシュ・ジョーシー監督(下写真)はこれが3本目で、今、ノリにノッてる時なのかも知れません。この日プレス試写を見たライターさんたちには、なかなか評価が高かった作品でした。なお、パンダルプールはプネーの南東約210㎞の所にあり、ヒンドゥー教の聖地として信仰を集めています。詳しくお知りになりたい方は、カタログの人名表記監修をしてくれた亜細亜大教授小磯千尋さんのこちらの論文をどうぞ。

 

さて、有楽町へ移動し、シャンテの地下でインド料理を食べたりして(ナーンとカバーブはおいしいお店でしたが、野菜カレーがいまいちで残念。でもこの安さじゃーねー、という感じ。セットで900円でした)、FILMeX作品に備えました。

『不止不休』
2020/中国/中国語/115分/原題:不止不休/英語題:The Best is Yet to Come 
 監督:ワン・ジン(WANG Jing/王晶)
 主演:バイ・クー(白客)、ミャオミャオ(苗苗)、チャン・ソンウェン(張頌文)、ソン・ヤン(宋洋)、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)、チン・ハイルー(秦海璐)

2003年、前年から始まった感染症SARSの流行が、ようやく終息した北京の街では、大学生を対象とした大規模な就職面接が行われていました。地方出身の韓東(ハン・トン)はマスコミ志望。実は彼は高校も中退で、学歴としては中卒なのですが、文章がうまいのと社会的関心が高いため記者志望なのでした。しかしどこの新聞社も、ハン・トンの学歴を聞くと、「僕の文章を読んでみて下さい」という彼の訴えには耳を貸さず、即、門前払い。彼を慰めてくれるのは、恋人(ミャオミャオ)だけでした。しかしながら、投稿した文章がある新聞に採用になり、ハン・トンは原稿料を受け取りに行きます。その新聞社でも売り込んだ結果、大物記者黄江(ホアン・ジャン/チャン・ソンウェン)の目に留まり、ハン・トンは見習いとして仮採用されることになりました。

ホアン記者に気に入られたハン・トンは、家にも招かれてホアン夫人(チン・ハイルー)とも会ったりしますが、ホアン記者と共に、炭鉱事故の現場に潜入することになります。遺族には監督(ジャ・ジャンクー)が大金を渡し、何やら因果を含めている様子。自身も貧しいハン・トンはうまく現場に潜り込み、ホアン記者のスクープを助けて、二人の名前は「月間賞」という紙に書かれて新聞社に張り出されます。次に、売血問題に取り組んだハン・トンは、そこでB型肝炎の問題に気づきます。感染症であるB型肝炎にかかると、「病人」ということになり、学業や就職に不利になるのです。そのためB型肝炎の患者は、業者に依頼して健康診断書を偽造してもらっていたのでした。それを暴こうと記事を書いたハン・トンでしたが、同郷の親友で大学院を目指す張博(ジャン・ポー/ソン・ヤン)もB型肝炎の患者だということが判明します。この記事が出れば、ジャン・ポーの将来を奪うことになる...。ハン・トンは記事を取り下げたのですが...。

B型肝炎の事件を追った韓福東(ハン・フードン)という記者がモデルとなっているそうで、ちょっと『薬の神じゃない!』を思わせるような作品でした。ぎっしりと内容が詰まった社会派作品で、中国の格差社会を見せながら、その枠を超えた一人の青年の生き方をまざまざと見せてくれます。偽の健康診断書を使う側のやむにやまれぬ事情や、献血希望者とりまとめ業者が仲介者となっているいきさつなど、中国社会の断面とそこに存在する人間性を見せてくれる力作でした。上映が終わった後、場内から拍手が起きたほどです。『薬の神じゃない!』と違ってスター俳優は出ていないため、日本公開は難しいかも知れませんが...と書いていていたら、中国版Wikiに当たるページに、「『不止不休』2021年に日本公開予定!」という速報が。どこかが買って下さったようです。良かったですね、これが監督デビュー作で、ジャ・ジャンクー監督の助監督をしていたというワン・ジン監督(下写真)。ご覧になれなかった皆様、楽しみにしてお待ち下さい。私ももう一度、ゆっくり見直したいです~。

 


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ファン・ガール (よしだ まさし)
2020-11-06 12:50:20
『ファン・ガール』観てきました。誠にもってcinetamaさんが書かれている通りの作品で、ロマンティックコメディが大好きというハダオネ監督、いったい何を撮りたかったのでしょう。
そのあたり、昨晩のネットインタビューで少しは語っていましたけど、いまいちすっきりしませんでした。

ちなみに、「途中でいろいろ脚本を変えたのでは」というcinetamaさんの推理はお見事で、以下のサイトによれば、実はそもそもはロマンティックコメディとして企画されたものが、途中であれこれあって、まったく違う作品になってしまったということです。

https://www.candymag.com/all-access/fan-girl-was-originally-written-as-a-rom-com-a00306-20201103?fbclid=IwAR3LL8QseI-VtmnG851uf-HuAWPk6lvT7Nvig2exZuPIZhVUI9PdYlw2A_U
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よしだ まさし様 (cinetama)
2020-11-06 15:50:24
コメント、ありがとうございました。
監督のネットインタビューについても、ご報告ありがとうございます。
何か変なストーリー展開だなあ、と思って書いたことが当たっていたとは。
お知らせ下さった記事はまだ読んでいないのですが(実はさっきまで広東語の授業を受けていて、これから六本木に出勤です)、私のような者にもわかる雑さなので、上映作品に選ばなくてもよかったのでは、という感じですね。
『リリア・カンタペイ』が良すぎたのかも...。
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