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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

シャー・ルク・カーンの『Jab Harry Met Sejal』

2017-08-09 | インド映画

016)日本でも自主上映があったようですが、シャー・ルク・カーンの新作『Jab Harry Met Sejal(ハリーがセージャルに出会った」時)』がバンコクでも公開中です。監督は、『Jab We Met(私たちが出会った時)』(2007)をヒットさせ、その後『Highway(ハイウェー)』(2014)などの話題作を作ってきたイムティアーズ・アリー。今回のタイトルも、出世作となったカリーナー・カプールとシャーヒド・カプールの主演作『Jab We Met』のセルフパロディーですね。 

今回はカップル役がシャー・ルク・カーンとアヌシュカー・シャルマーということで大いに期待していたのですが、その反面、最近のボリウッド映画のトレンドとして、①舞台は海外、②旅行中の男女が出会う、③自分探しやら何やらグズグズのメンタル描写を経て最後はハッピーエンド、という作品が多くてウンザリしていたため(イムティアーズ・アリー監督も前科あり)、『Jab Harry Met Sejal』ももしかしたら...と危惧していました。その危惧に関してはまたのちほど、ということで、まずはストーリーからご紹介しましょう。 

JHMS2017.jpg

ハリーンダル・シン・ネーフラ-、愛称「ハリー」(シャー・ルク・カーン)はインドのパンジャーブ州出身で、今はオランダのアムステルダムで観光ガイドとして働いています。実は歌手になりたくて家を飛び出し、海外に渡ったものの途中で挫折、アムスに落ち着いてインド人相手のガイドで生活費を稼いでいる、というわけです。おしゃべりがうまく、「はい、これで一応見学コースは終わりです。何か質問は、って、僕には質問しないで下さいね。何も知りませんからねー、ディーピカー・パードゥコーンの電話番号以外は」とか言ってみんなを笑わせるハリーは、人気ガイドでした。そんな彼の欠点は、女グセの悪さ。しょっちゅう誰かと関係を持ってはトラブルに発展し、契約していた旅行会社からクビを通告されたことも一度や二度ではありません。これには親友のマヤンク(アル・クリシャンシュ・ヴァルマー)もお手上げでした。

そんなハリーが、グジャラート州から来たご一行様に付いてヨーロッパ中を約1ヶ月ガイドし、空港に送って(聞こえないと思って「こんにゃろー、二度と来るなよ~」とか罵りながら、笑顔で見送る偽善者ハリー)、やれやれと帰宅しようとしたところ、空港前の道路で彼の車を停める人物が。何と、さっき見送ったばかりの一行にいた若い女性(アヌシュカー・シャルマー)でした。セージャル・ザヴェーリーと名乗る彼女は、旅行中に婚約式を行った時に婚約者からもらったエンゲージリングをなくした、なくした場所に心当たりがあるから一緒に捜しに行ってほしい、と言うのです。どうやら指輪をなくしたことが空港で発覚し、婚約者から責め立てられたようで、何が何でも指輪を見つけなくちゃ、という考えに凝り固まってフライトをキャンセルし、彼女だけが戻ってきたのでした。「もう僕のガイドの仕事は終わってる!」とあらゆる抵抗を試みたハリーでしたが、結局セージャルに押し切られ、アムス市内に連れ戻ることになりました。

ところが、目星を付けていた婚約式を行った場所、ホテルのレストランにはもちろん指輪はなく、店側も心当たりがないとのこと。こうして2人は、一行が回った土地をまた巡ることになります。インドにいるセージャルの姉や婚約者が送ってくる写真で、「〇〇で撮った写真ではまだ指に指輪があった」とわかると、その土地へ一目散、というわけです。こうしてチェコのプラハやらハンガリーのブダペストやら、さらには怪情報のおかげでポルトガルのリスボンにまで足をのばす2人。当初は反発し合い、弁護士であるセージャルが免責条項を文章にしてハリーに渡したりもしましたが、一緒に旅する間に2人の心は近づいて行きます。でも、セージャルと婚約者の結婚式の日取りは、もうすでに決まっているのでした...。

 जब हैरी मेट सेजल पोस्टर.jpg

 先に述べた③に関しての危惧は幸い当たらなかったのですが、「なくしたエンゲージリングを捜す」という設定がいかにもムリクリで、しかも行き当たりバッタリ。写真を元に場所を特定するならば、最初から全部の写真を移動した場所に従ってチェックしていき、「ここから指輪がなくなっている」という場所がすぐに特定できたはず。とても弁護士のやり方とは思えません。というわけで、残念ながら脚本に欠点がかなりあるのです。さらに、セージャルが夜、なぜかハリーの出かける先に尾行していき、彼を驚かせる、というシーンでは、セージャルの着ている洋服がまるで娼婦かと思うような露出過多のもので、これまたインド人女性、しかも保守的なグジャラートの良家の娘(おまけに弁護士!)とは思えません。まあ、70年代や80年代の娯楽映画では、ヒロインがこういうトンデモ服装や行動をする、ということもままありましたが(で、たいていヒロインがレイプされそうになり、ヒーローが助けに入って、お色気シーンとアクションシーンが実現する)、いまどきの作品、しかもイムティアーズ・アリー監督作品がこれでは、気分が盛り下がろうというものです。 

それ以外では魅力的なシーンも多く、特にハリーが「パンジャーブではね、高い声で歌わないといけないんだ。トラクターの音に負けないようにね」と言って歌い出すシーンとか、目的地に移動する列車の中でセージャルがハリーに「あなたは孤独だったのね。でも、私がいる間は私がガールフレンドになるから、自分が孤独だなんて思わないで」と言うシーンとか、親友マヤンクの結婚式シーンとか、心にグッとくるシーンも結構ありました。ところが根本の設定が「何じゃ、それ」なので、あちこちでほころびが出てしまい、シャー・ルク・カーンとアヌシュカー・シャルマーの熱演も100%楽しめないのです。特にアヌシュカー・シャルマーはホントにホントにチャーミングなのですが、『Band Baaja Baaraat』(2010)や『スルタン』(2016)のセルフパロディに見えてしまうシーンも出て来て(でも、ランヴィール・シンの代わり?に登場するシャー・ルク・カーンは、やっぱり「シン」さんだったのね、という服装も含めてとっても素敵!)、監督、それは意地でも新しい演出にしてくれなくっちゃ、と思ってしまいました。グジャラート女子の描写も、もっと研究の余地があったのでは、と思います。 

そんなこんなで、インドでは8月4日(金)から公開されたのですが興収があまりのびず、公開した週末の興収は10億ルピーにはるかに届きませんでした。特に初日は1億5,250ルピーという興収で、「シャー・ルク・カーン作品のうち、最低の初日興収」だったそうです。その後いい点が口コミで少し伝わったのか、本日までの興収は8億7千万ルピーに。何とか10億ルピーを超えてほしいですね。予告編を付けておきますが、タイでの観客は平日昼間ということと、料金がタイ映画作品(120B/1バーツは約3.4円)の3倍近い350Bということもあってか、私を入れて5人でした。

  Jab Harry Met Sejal Trailer | Shah Rukh Khan, Anushka Sharma | Releasing August 4, 2017


あと、シャー・ルク・カーンの映画をご紹介してるのにこんなこと書くのも何なんですが、この映画の上映前にかかった予告編『Secret Superstar(謎のスーパースター)』が、本編への期待をかき立ててくれました。アーミル・カーン・プロダクションの製作で、アーミル・カーンも人気ロックスターとして出演します。主人公は『Dangal(レスリング)』(2016)のザーイラー・ワシーム演じるティーンの女の子で、歌手になりたいという夢を父親から反対され、自分の歌う映像をYouTubeで発信して話題になるのですが、名を明かせないため...というストーリーのようです。その予告編も付けておきます。こちらは10月19日、ディワーリーに向けての公開の予定です。

 Secret Superstar Trailer | Zaira Wasim | Aamir Khan | In Cinemas this Diwali



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10 コメント

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感動できませんでした。 (サントーシー)
2017-08-11 01:37:20
ヒンディー語が理解できたのは一部なのですが、
観終わった後に感動はなく残念な感じがしました。
貧乏な男性と裕福な女性と言うのもインド映画ではありきたりですし。
ヨーロッパの綺麗な風景をバックに二人が映えるだけですた。
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あら?また重なりましたね (エドモン)
2017-08-11 03:57:44
cinetamaさん、今度はバンコクで重なりましたね。
私は、9日深夜にバンコク入り。深夜でも、simカードが購入出来るのは、さすがバンコクの空港です。
10日は、朝のんびりした後、運河の乗合ボートでバンカピのショッピングモールへ。
食事と珈琲を挟みながら、sf cinema cityで泰国映画を三片梯子見。
夜、エカマイのmaijor cineplexで、シャー・ルク・カーン主演の印度映画を見て、ホテルに戻って来ました。
良い旅を、、旅行中のup楽しみにしています。
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エドモント様 (cinetama)
2017-08-11 20:38:20
コメント、ありがとうございました。
あらら、今、同じバンコクの空の下なんですね。

タイ映画3本、というとどれかな、とバンカピのSFシネマを見てみたら、『Slum Boy Soi Teut』『You & Me xxx』と『15+』でしょうか。
最初の2本は私も中心部の映画館で見たのですが、どちらもいまひとつで、ご紹介しなくてもいいかな、と考えているところです。
前者のコメディアン+妹役のかわいい彼女や、後者の高校生主人公4人はみんななかなかいい素材なんですけどねー。

インド映画は今日からアクシャイ・クマールの『Toilet - Ek Prem Katha(トイレ-ある愛の物語)』が公開になったので、明日にでも見に行く予定です。
エドモントさんも、ぜひご覧になって下さいね。
では、楽しいご滞在を。
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サントーシー様 (cinetama)
2017-08-11 20:45:00
コメント、ありがとうございました。

そうですねえ、グッと感動できる作品、ラストが「ああ、よかった~」と盛り上がる作品、ではなかったですよねえ。
そういう所が、インド人観客にはあまりアピールしなかったのかも。

でも私は、セージャルが「あなたは孤独だったのよね」とハリーをハグして言う所でウルっときてしまいました。
一方セージャルが、あの赤いドレスや金色ドレス(どちらもミニスカで胸の谷間もろ見え)で出て来た時は、画面に蹴りを入れようかと思ったほどですが、あんな服装をさせるなんて、監督、ホントに何を考えてんでしょうね。
『Love in Tokyo』の続編、任せておいて大丈夫なんでしょうか...(監督はしないみたいですけど)。
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かっこよかったけど (アールーゴービー)
2017-08-14 12:59:33
5日にチェンナイの映画館で朝10:00の回を観ましたが、ほぼ席は埋まってました。シャー・ルクはどのシーンでもかっこよかったですが、ストーリーには、わくわくしませんでした。どうせ最後はくっついて終わりでしょって感じで。でも、さすが女性に人気の高いシャー・ルク。私の前列にいた若い女性5人組みが、映画が始まるなりいっせいにスマホを取り出しスクリーンを撮り出したのには、笑ってしまいました。
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当たり! (エドモント)
2017-08-14 18:50:23
cinetamaさん、そうです、「Slumboy-Soi-Teeed」、「15 IQ-Krachoot」、「You and Me XXX」の三片でした。
乗合ボートで渋滞知らずで、バンカピ・モールの裏にボート停留所があるので、駐車場から入れます。
難点は、1920頃にボートの最終となり、バスで中心市街に戻ろうとすると、時間がかかり、メーター・タクシーだと、3台に2台は嫌がります(笑)。
三片とも、これぞ、という作品ではなかったのですが、どれが1番?と、聞かれたら「You and Me XXX 」と、答えるかな。
男女が入れ替わるという設定で描かれる、いきなり違う性になった戸惑いを案外あっさりと描いて、話しを進めるのに、見ている方が戸惑いましたが、話が進むと、案外これでいいのかもしれませんね。
終わり方が、ちょっと勿体なかったかも知れません。
「15 IQ-Krachoot 」は、マイガールならぬ、マイボーイな話でしたが、下ネタばかりで勿体無い出来だったのは残念。
「Slumboy-Soi-Teeed 」は、音楽が盛り沢山でたのしめましたが、ストーリーは甘かったですね。
「Jab Harry met Sejai」は、突っ込みどころ満載でした(笑)。
アムステルダムの中心街で、この服装はないだろうと、スクリーン見ながら突っ込み入れていた私です。
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アールーゴービー様 (cinetama)
2017-08-14 19:25:16
チェンナイからもコメント、ありがとうございました。
公開当初はやはり満員状態だったのですね。

確かにおっしゃる通り、ラストはお約束の終わり方で、気の抜けたソーダみたいでした。
まだ『DDLJ』の方がずっと革新的だったなあ、と、見ながら思ったりしました。

ところでスマホだと、画面を撮っても結構きれいに写るんでしょうかしらね。
昔、まだネットのなかった頃、映画館でこっそりカメラ撮りしている人を見て、「ハレーション起こしてろくに写らないだろうになあ」と思ったのですが、デジカメやスマホだと案外きれいに写るのかも知れませんね。
でも、今はネットを捜せばいろいろ画像も出てくるでしょうし、そっちを画像コピーした方が賢くないかなあ。
いやいや、賢さなど思慮の外なのがファン心理なのかも。
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エドモント様 (cinetama)
2017-08-14 19:29:40
再度のコメント、ありがとうございました。

バンコクのアートハウス・シネマとしては、House RCAが知られていますが、昨夜もう一つ別の上映館を発見しました。
ルンビニ駅から近いところで、RCAに比べると行きやすいです。
昨夜はビルマのパンク青年を撮ったドキュメンタリーを見たので、あとでまた記事にしますね。

エドモントさんはそろそろ次の場所に移られたのでは、と思います。
引き続き、どうぞ楽しい旅を。
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『You & Me xxx』 (エドモント)
2017-08-18 17:35:47
cinetamaさん タイ作品『You & Me xxx』、"×××"て何だろな..と、思っていたのです。
cinetamaさんは、ひょっとしてご存じだったかもしれませんが、
コミック「僕と彼女の×××(ペケ3つ)」のタイでの映画化作品だったのですね。
帰国後、確認したら、
原作では、高校一年生のあきらは、同じクラスの美少女ではあるが、野獣のような菜々子に一目惚れ、ある日、菜々子の祖父が発明した機械での実験で、二人が入れ替わりしまう...という話でした。
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エドモント様 (cinetama)
2017-08-18 23:09:01
追加のコメント、ありがとうございました。

すみません、私はそんなに映画に入れ込めなかったもので、全然気にせず、あとでも調べませんでした。
日本の漫画が原作だったのですね。
機械の代わりにカップケーキとはかわいい発想ですが、『転校生』や『君の名は。』ほどには作りが上手ではなく...というわけで、映画での男女入れ替わりストーリーは、優れた過去作品が多いので割が悪いかも、です。
これに比べると『頭脳ゲーム』は大学院級ですので、福岡でぜひどうぞ。
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