アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

『Jawan』が世界で大ヒットのきざし

2023-09-10 | インド映画

一昨日見た『Jawan(ジャワーン/兵士)』をもうちょっと詳しく書いておきたいと思います。

Jawan

映画は、インドの山奥にある国境の村から始まります。モンゴロイド系の人々が住む村ですが、チベット人のような服装をしているものの、拝んでいる神はヒンドゥー系の神のようなので、架空の村という描き方です。その村の母子が川で馬を洗っていると、上流から人が流れてきました。引き上げてみると傷だらけで、血が滴っています。馬の背に乗せて村の呪術師の老婦人の元に運ばれたその男は、銃創傷の手当てをされて一命をとりとめますが、ずっと眠ったっきり。しかしながら村の祭りの時にある軍隊(赤い星が付いている帽子を被っているので、某国の軍隊を暗示しているようです)が襲ってくると、眠りから覚めたその男はとてつもない力を発揮し、村人たちを救います。しかしながら、その後に彼が口にしたのは、「俺は誰なんだ?」という言葉でした。彼を川から助け上げた時の少年は、「僕が大きくなったらあんたの身元を調べてあげる!」と約束します。

Jawan

それから30年後。場所はムンバイに移り、チャカーラーを通るメトロ路線に、包帯で顔をぐるぐる巻きにした男(シャー・ルク・カーン)が乗り込んできます。そして、若い女性6人も、何やら連絡を取り合いながら同じくこのメトロに乗り込みます。彼らが実行したのは何と地下鉄ジャック! ちょうど乗り合わせていて、彼らを取り押さえようとした刑事も反対に捕まってしまい、ムスリムの中年女性が撃ち殺されてしまうなど、車内は凍り付きます。包帯を取った姿は丸坊主の若い男ですが、待避線に入れさせた車両から男は動画を送り、政府に対して4千億ルピーの金を要求します。この車両には、武器商人カーリー(ヴィジャイ・セードゥパティ)の娘も乗り合わせていたのですが、女性警部ナルマダー(ナヤンターラ)が率いる救出作戦はことごとく失敗、カーリーは金を出すと約束し、その金はすぐに国中の困っている人々の元へと配布されました。そして煙にまぎれ、実行犯たちは見事に逃げおおせます。彼と彼女たちが戻ったのは女子刑務所。率いていたアーザード・ラートゥルは刑務所長、手先となった女性たちはみんな、理不尽な理由が元で刑務所に入れられた女性たちでした。

それからしばらく経って、アーザードはナルマダーと見合いをします、というか、最初はナルマダーの娘スージーとの見合いだったのですが、やがて二人は心を通わせ合い、結婚します....。

Jawan

と、これぐらいならネタバレにならないでしょうか。インド版Wikiにはもう詳しいストーリーが書かれていますし、芸能ニュースでは初日9月7日の初回上映が終わると、「シャー・ルク・カーンは父と息子の二役!」というニュースが即出ましたので、何となくこの後の展開は皆さん見当が付くかと思います。しかし、予想を裏切るというか、予測できない展開も多々あって、それが本作の醍醐味となっています。

醍醐味①親父ラートゥルが大ボケをかます!

アトリー監督、父子の話にすると決めてからいろいろアイディアを考えたのでしょうね。「親父の方はラジニSirのキャラを借りようか」というアイディアが浮かんだのかも知れません。『エクスペンダブルズ』に入れてもいいようなキャラで、記憶喪失ということもあって、実にユニークな親父どのになっています。

Jawan

醍醐味②刑務所を根城にするというアイディが面白い!

刑務所が根城になったのは、親父ラートゥルの妻アイシュワリヤー(ディーピカー・パードゥコーン)の因縁もあるのですが、ラジニSirの『Jailer』というタイトルもアトリー監督の頭にあったのでは、と思います。刑務所を舞台にしたソング&ダンスシーン「Zinda Banda(ジンダー・バンダー/生きている囚人)」ではアトリー監督もカメオ出演しているし、本作のキーワードは「刑務所」ですね。

Jawan

醍醐味③アクションが冴える!

後半のクライマックスが、悪徳武器商人カーリーの大金を運ぶトラック数台をラートゥル父子軍団が襲うシーン。ここのカー・アクションはアイディアと迫力満載で、「あれ、またトラックの上で戦うの? 『PATHAAN/パターン』の二番煎じじゃない?」と一瞬でも思ったことが申し訳ないです。

Jawan

醍醐味④最後に変なカメオ出演者が待っている!

これは、『PATHAAN/パターン』のタイガーことサルマーン・カーンのカメオ出演を意識したのだと思いますが、最後に変な人がカメオで出てくるんですね。これ、あまり効いていないように思うんですけど...。マラヤーリーの観客のためにサービスしたんでしょうか...。

Jawan

という風に、ツッコミどころも満載の、娯楽要素がてんこ盛りすぎて、フラッペのてっぺんからアイスが転がり落ちてくるような作品なのでした(よく意味がわからないでしょ、すみません)。しかし、それが観客には強烈アピールしたようで、初日、9月7日(木)の国内興収は7億5500万ルピー、世界興収も入れると合計12億9600万ルピーにのぼりました。そして2日目9月8日(金)は何と、国内興収15億2650万ルピー、世界興収では8億7770万ルピーで、合計24億420万ルピーとなりました。1日で稼ぐにしてはとんでもない数字ですね~。さて、この土日では...と、記録を書くのがもうイヤになるぐらいです。これで、シャー・ルク・カーン完全復活! 日本でも公開されるといいですが、『PATHAAN/パターン』との比較も面白いので、皆さん『PATHAAN/パターン』をまずはお見のがしなく!!


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6 コメント

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Unknown (AmyU)
2023-09-15 13:52:52
川崎のインド映画講座で何度もお話を聴かせて頂いておりました。香港から帰国して3年、ずっと日本で息を潜めて暮らしてきましたが、やっと3年半ぶりにインドに来ています。今回初ジャイプールで、「うわっコレがザ北インドか(苦笑)」の連続でびっくりすることだらけですが、昨日Jawanを観てきました。ヒンディー語がトラトラのトの字にも満たない私には、こちらの解説記事が非常にありがたいです。
本作品、SRK好きにはたまらないでしょうね。彼の役者としての引き出しの多さに大変感服しました。「パターン」もTigerシリーズのZoyaもですが、現代のヒンディー語映画で理想とするヒロイン像は、美しいだけでは物足りず、男性並みに強くて男性を凌駕する賢明さがないとダメなんでしょうか。そんな女性ヒロインがインド人男性に受け入れられ、リアルな世界で生きるインドの女性達の活躍の場が広がる事を願ってやみません。
AmyU様 (cinetama)
2023-09-15 23:37:01
インドからのコメントをありがとうございました。
『Jawan』のご感想もありがとうございます。ヒロイン論、当たっているかも知れません。私自身、『RRR』ではヒロインの存在感が弱くて不満に思ったので、フェミニズム支持志向もあって、おっしゃるようなヒロイン像が現在のインド映画では好まれつつあるのでは思います。
講座に通って下さった成果が少しでも北インド理解に繋がっていくことを願っています。トーラー・トーラー(少しだけ)でもヒンディー語をお話になると、相手のインド人の対応が違うと思いますので、がんばって下さいね。
しかし私は、旅行で最後に香港に行ったら、広東語が出てこなくて困りました。「エアコンはお掃除が終わったらつけたままにしないでね、部屋が冷えるから」というのをハウスキーパーさんに言おうとして、「打開(タァホイ)」は出てこないは、「冷気機(ランヘイケイ)」も出てこないは、と到着後半日ぐらい頭がフリーズしてました...。
Unknown (AmyU)
2023-09-17 21:06:45
永住権保持目的で7月末に香港に3泊4日で行っていました。私のものの見方が偏っているのかもしれませんが、もうすっかり中国の一都市になってしまって、現地に住む友人も「普通語しか通じない労働者が増えた」と言っていました。
香港滞在が1週間後であれば、ホンハムでRocky aur Rani Kii Premが英語字幕で観れたはずと思うと悔しかったのですが、一昨日ジャイプールのPVRで観てきました。「ロッキーとラニのラブストーリー」というよりも「ロッキーとラニの家族の物語」でしたね。若い二人の恋愛よりも、家庭内の問題や家と家の確執をどう解決していくのかが興味深く、インド映画でならではだと感じました。Dev Dasのあの名曲の男性Verがとても素敵で涙してしまいました。
ロッキーとラニの後、大雨で外に出られなくなり、ついでにDream girl 2も観てきました。きっとアユーシュマンがとっても面白い台詞を話していたのでしょうが、理解できずとても悔しいです。「街中の男どもが女装姿とは気付かず美女に心が奪われる」という設定ですが、私の目にはどこからどう見ても、ただの女装のオッサンで退屈でした。Chandigarh Kara Aashiqui のヴァンニ カプールくらいの美しさでないと、ちょっと無理があるかと…。今から帰国便に乗り、この作品を観ながら東京に帰ります。今度こそ、ヒンディー語学習を諦めずに継続させます。
次回インド映画講座がありましたら、ぜひまた伺わせて頂きます。引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。
AmyU様 (cinetama)
2023-09-18 00:52:23
続報コメント、ありがとうございました。
「香港居民」の資格を所持しておられるのですね。
以前なら「うらやましい!」と書いたと思いますが、今は...と、ビミョーな反応になってしまいますね。

ただ、今回行って安心したのは、広東語が通じるというか、いかにも中国北方人のような私が下手な広東語で話しても、皆さん普通話に切り替えずにずっと広東語で会話してくれたことで、映画館のチケット売り場、来年のカレンダーを探し歩いた文具屋さん、おみやげを買ったお菓子屋さん、街市の果物屋さんetc.etc.、あとで考えるとちょっと不思議でした。
映画館では1回だけタイトルが発音できなくて英語に切り替えたのですが、その後も英語と広東語まじりで話してくれたりと、一時期の「你在說什麼?」とすぐ言い返されていた時と感触が違いました。
バイリンガル(トリリンガル?)の世界に香港の人が馴染んできた、ということかも知れません。

『Dream Girl 2』のご感想が私と同じで一安心。
前作の方が、格段に面白かったですね。
アーユシュマーン・クラーナーはもっと大事に使うこと、と言いたい私です。

あんな形のインド映画講座はもうできないと思いますが(アーナンディさんの「自宅」だったからこそできた部分が大きい)、NHK文化センターの講座は今年から配信と教室のハイブリッドになりますので、よかったらお運び下さい。
Unknown (AmyU)
2023-09-18 19:06:56
大変丁寧に返信頂き、どうも有難うございます。
こちらのブログから情報を得て、また別の形式でのインド映画講座に通わせて頂き、インドに関する知見を深めていければと願っています。
それから、諦めず挫折せずヒンディー語学習を少しずつ継続していこうと心に決めました!今はYouTubeやポッドキャストで配信するヒンディー語講師の方達がいらっしゃいますので、上手く活用していきたいです。
AmyU様 (cinetama)
2023-10-15 00:01:42
本日は、NHK文化センター青山教室の講座に来て下さり、ありがとうございました。
ニコニコして入ってこられたお顔を拝見して、あ、スペース・アーナンディの講座に来て下さってた方だ、と思ったものの、まさかここでコメントを下さったAmyUさんでいらしたとは。
少しの時間でしたが、お話できてよかったです~。

ヒンディー語、ぜひぜひがんばって、映画を聞いて半分ぐらいわかるようになって下さればしめたもの、もうインドへ行っても大丈夫ですよ。
あと、歌を憶えて歌われるといいかも知れません。
「歌で憶えるヒンディー語」の歌、全部暗記する、ぐらいの意気込みでぜひどうぞ。
私も40数年前、こんな歌↓で憶えたヒンディー語を使ってみると通じたので、とても嬉しかったです。
https://www.youtube.com/watch?v=CeUyzVMwJTI
ラター・マンゲーシュカルとキショール・クマールの歌で、映画のタイトルは『आन मिलो सजना』(Aan Milo Sajna/会いに来て、愛しい人)。
デーヴァナーガリー文字の歌詞はこちらに。
https://www.lyricsindia.net/songs/96
「じゃ、私、行くわ」をその後何度、インドで使ったことか。
がんばって下さいね!

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