3月16日。朝目が覚めるのが怖かったです。テレビのニュースや携帯でYahooのニュースをみるのが恐ろしかったです。事態はどんどん悪化していました。「放射能、爆発で敷地に飛散か」
「4号機 建屋の壁に大きな穴2つ」「4号機燃料プールの水温上昇」「福島第1で400ミリシーベルト」「3号機核燃料プール 覆いなし」「福島第1制限値16倍の放射線」…いずれも15日から16日の朝にかけてのインターネットニュースの見出しです。妻や実家の両親を東京に残し、不安が募るが、しかたがない。
「せっかくだから京都タワーにでも登るか。」
途中、娘のリクエストでスターバックスで朝食。目の前には以前、家族三人で旅行した時に並んだ思い出のバス停があります。京都タワーのお土産屋さんを物色して、「お母さんに何か食料を送ろうよ。」と娘。それはいい考えだと店のおばちゃんに商品を送れるかと聞きます。
「はい。送れますよ。どちらまでですか?」
「東京なんですけれど。」
「それは無理。ぜんぜん配送業者が動いていないんですよ。」
「えっ? じゃあいつぐらいになったら送れるんですか?」
「さあ、まったくわからないですよ。ああ、そーうですか。東京からいらしたんですか。東京も随分ゆれたんでしょうねえ。」
随分のんきなリズムで応えてくれます。それはそうですよね。ここでは別世界の出来事なのでしょう。
地震も。原発も。
京都タワーには「たわわん」というゆるキャラがいるとタワーのガイド係のおっさんが説明してくれます。
「たわわんというんですか。」
「はい。わりと有名なデザイナーが作ったそうですよ。ほかにも『ひこにゃん』なんてキャラクターもつくっているそうです。」
「へー。じゃあ一緒に写真とろうかなあ・・・」
娘の前ではこういったのんきな会話を交わしたけれど、そのあと、京都タワーから町を見下ろしながら、彼女の目を盗んで、僕はさめざめと泣きました。
この晴れた朝の京都の町、季節外れのまばらな観光客。ひとり記念写真を撮る韓国人男性。この日の光景を僕は一生忘れないでしょう。
「お前も逃げろ」とすすめた元部下から返事がきました。
「今朝はお電話ありがとうございました。事態の深刻さは理解してるのですが、ここまで危険な状況だと移動中に被爆するリスクも相当たかいことと、今日も出社しなきゃならない妹を一人置いていくわけにもいかず…。とりあえず家から一歩も出ずに最悪の事態を覚悟したいと思います。」
これが日本人なのです….
妻からもメールが来ました。
「こちらで定期的にガイガーカウンターで値を調べています。
東京で大丈夫なら京都でも大丈夫でしょう。
今日は風が陸から海へふいているので。」
ところで僕たちの泊まった京都の部屋ではCNNが見放題でした。ニュースは日本のTSUNAMIとFUKUSHIMAのnuclear reactor explosion(原子炉爆発)で持ち切りでしたね。新宿にいる特派員がアメリカのスタジオとやり取りをしています。僕の英語力では100%はわからないけれど、何度もmelt downという言葉が使われているのはわかりました。それからdesaster 、catastoropheという言葉も使われています。
「そちらにいて日本のオフィシャルの対応はどうですか?」
「正直言って、こちらの情報はあまり信用できない。健康に影響ないといったあとで、やっぱり健康に影響があるといってみたり、避難範囲がころころ変わったり、それに最悪の事態に至ったときにどういう心配があるのかといったことを全く伝えようとしない。」と日本への不信感を露わにしていました。
実際、15日の午前の段階でフランス大使館は「10時間ほどで東京に弱い放射能が到達するおそれがある」として、都内在住の自国民に外出を控えるように勧告していたのに、一方、日本はといえばこの日、都内の観測施設で、通常の20倍以上の放射線量を観測しながらも、石原慎太郎都知事も政府も「専門家」も「ただちに健康に問題が生ずるわけではない」」と繰り返すのみでした。一体どちらが正しいのか? そもそも少しでも危険性があれば用心しろと勧めるべきではないのか。一方CNNではメルトダウンのカウントダウンが進行と繰り返し報じています。どうみてもあまり落ち着いていていい状況ではないようです。アメリカのシンクタンクもフランスの原子力安全期間も今度の事故はレベル6だと言い始めていました。それなのに何故「心配ない」のか。NHKとも民放のニュースとも温度差がありすぎるのだ。それは政府の報道管制のせいなのでしょうか。あるいは単に大口広告クライアントである東京電力に遠慮した結果なのでしょうか。ともあれ、この温度の違い、報道姿勢の違いはあらたな不安を感じさせました。
いまのうちに準備すること。
水と非常食の買い出し。事態がさらに悪化した場合のさらなる避難場所の確保。親の世代の思い出話によく出てきていた「疎開」という言葉が頭に浮かびました。そして情報の確保。
幸い、ホテルの1階ロビーには簡単なビジネスセンターがあり、インターネットを有料で使うことが出来るということがわかりました。さらにフロントの女性からの情報収集。
「僕らのように東京から来ているお客さんも多いんですか?」
「そうですね。まだ観光シーズンではありませんが、少しずつ増えています。」
「やっぱり、地震や原発から逃げてですか?」
「そういった方も結構いらっしゃるようです。」
「そういった人たちと連絡というか、情報交換をすることは可能でしょうか?」
「それは、お客様のプライバシーに関わることですので、当ホテルとしてはご紹介するというわけにはいきませんが。」
そうか。他にも同じような考えの人がこのホテルにもいるのだ。そう思うと少し気が楽になりました。なにしろ、ここのところあまりにも自分と周囲の温度差があって、孤独感に苦しめられ続けていたものですから。自分だけ、頭がおかしいのではないだろうかと。
この日、夕方の4時頃、自衛隊のヘリコプターが原発の上から水を落とす準備をはじめていると報道は伝えました。しかし、2時間後の6時のNHKのラジオニュースは、3号機の上空の放射線量が高すぎるため、本日の作業を断念したと伝えました。一方、僕はさらに事態が悪化した時に備え、仕事で知り合った、北九州の知人へ万が一の時はそこに避難させてもらうように段取りをつけはじめました。
この日3月16日の朝日新聞の夕刊の見出しはこうなっています。
3号機 格納容器破壊か
「4号機 建屋の壁に大きな穴2つ」「4号機燃料プールの水温上昇」「福島第1で400ミリシーベルト」「3号機核燃料プール 覆いなし」「福島第1制限値16倍の放射線」…いずれも15日から16日の朝にかけてのインターネットニュースの見出しです。妻や実家の両親を東京に残し、不安が募るが、しかたがない。
「せっかくだから京都タワーにでも登るか。」
途中、娘のリクエストでスターバックスで朝食。目の前には以前、家族三人で旅行した時に並んだ思い出のバス停があります。京都タワーのお土産屋さんを物色して、「お母さんに何か食料を送ろうよ。」と娘。それはいい考えだと店のおばちゃんに商品を送れるかと聞きます。
「はい。送れますよ。どちらまでですか?」
「東京なんですけれど。」
「それは無理。ぜんぜん配送業者が動いていないんですよ。」
「えっ? じゃあいつぐらいになったら送れるんですか?」
「さあ、まったくわからないですよ。ああ、そーうですか。東京からいらしたんですか。東京も随分ゆれたんでしょうねえ。」
随分のんきなリズムで応えてくれます。それはそうですよね。ここでは別世界の出来事なのでしょう。
地震も。原発も。
京都タワーには「たわわん」というゆるキャラがいるとタワーのガイド係のおっさんが説明してくれます。
「たわわんというんですか。」
「はい。わりと有名なデザイナーが作ったそうですよ。ほかにも『ひこにゃん』なんてキャラクターもつくっているそうです。」
「へー。じゃあ一緒に写真とろうかなあ・・・」
娘の前ではこういったのんきな会話を交わしたけれど、そのあと、京都タワーから町を見下ろしながら、彼女の目を盗んで、僕はさめざめと泣きました。
この晴れた朝の京都の町、季節外れのまばらな観光客。ひとり記念写真を撮る韓国人男性。この日の光景を僕は一生忘れないでしょう。
「お前も逃げろ」とすすめた元部下から返事がきました。
「今朝はお電話ありがとうございました。事態の深刻さは理解してるのですが、ここまで危険な状況だと移動中に被爆するリスクも相当たかいことと、今日も出社しなきゃならない妹を一人置いていくわけにもいかず…。とりあえず家から一歩も出ずに最悪の事態を覚悟したいと思います。」
これが日本人なのです….
妻からもメールが来ました。
「こちらで定期的にガイガーカウンターで値を調べています。
東京で大丈夫なら京都でも大丈夫でしょう。
今日は風が陸から海へふいているので。」
ところで僕たちの泊まった京都の部屋ではCNNが見放題でした。ニュースは日本のTSUNAMIとFUKUSHIMAのnuclear reactor explosion(原子炉爆発)で持ち切りでしたね。新宿にいる特派員がアメリカのスタジオとやり取りをしています。僕の英語力では100%はわからないけれど、何度もmelt downという言葉が使われているのはわかりました。それからdesaster 、catastoropheという言葉も使われています。
「そちらにいて日本のオフィシャルの対応はどうですか?」
「正直言って、こちらの情報はあまり信用できない。健康に影響ないといったあとで、やっぱり健康に影響があるといってみたり、避難範囲がころころ変わったり、それに最悪の事態に至ったときにどういう心配があるのかといったことを全く伝えようとしない。」と日本への不信感を露わにしていました。
実際、15日の午前の段階でフランス大使館は「10時間ほどで東京に弱い放射能が到達するおそれがある」として、都内在住の自国民に外出を控えるように勧告していたのに、一方、日本はといえばこの日、都内の観測施設で、通常の20倍以上の放射線量を観測しながらも、石原慎太郎都知事も政府も「専門家」も「ただちに健康に問題が生ずるわけではない」」と繰り返すのみでした。一体どちらが正しいのか? そもそも少しでも危険性があれば用心しろと勧めるべきではないのか。一方CNNではメルトダウンのカウントダウンが進行と繰り返し報じています。どうみてもあまり落ち着いていていい状況ではないようです。アメリカのシンクタンクもフランスの原子力安全期間も今度の事故はレベル6だと言い始めていました。それなのに何故「心配ない」のか。NHKとも民放のニュースとも温度差がありすぎるのだ。それは政府の報道管制のせいなのでしょうか。あるいは単に大口広告クライアントである東京電力に遠慮した結果なのでしょうか。ともあれ、この温度の違い、報道姿勢の違いはあらたな不安を感じさせました。
いまのうちに準備すること。
水と非常食の買い出し。事態がさらに悪化した場合のさらなる避難場所の確保。親の世代の思い出話によく出てきていた「疎開」という言葉が頭に浮かびました。そして情報の確保。
幸い、ホテルの1階ロビーには簡単なビジネスセンターがあり、インターネットを有料で使うことが出来るということがわかりました。さらにフロントの女性からの情報収集。
「僕らのように東京から来ているお客さんも多いんですか?」
「そうですね。まだ観光シーズンではありませんが、少しずつ増えています。」
「やっぱり、地震や原発から逃げてですか?」
「そういった方も結構いらっしゃるようです。」
「そういった人たちと連絡というか、情報交換をすることは可能でしょうか?」
「それは、お客様のプライバシーに関わることですので、当ホテルとしてはご紹介するというわけにはいきませんが。」
そうか。他にも同じような考えの人がこのホテルにもいるのだ。そう思うと少し気が楽になりました。なにしろ、ここのところあまりにも自分と周囲の温度差があって、孤独感に苦しめられ続けていたものですから。自分だけ、頭がおかしいのではないだろうかと。
この日、夕方の4時頃、自衛隊のヘリコプターが原発の上から水を落とす準備をはじめていると報道は伝えました。しかし、2時間後の6時のNHKのラジオニュースは、3号機の上空の放射線量が高すぎるため、本日の作業を断念したと伝えました。一方、僕はさらに事態が悪化した時に備え、仕事で知り合った、北九州の知人へ万が一の時はそこに避難させてもらうように段取りをつけはじめました。
この日3月16日の朝日新聞の夕刊の見出しはこうなっています。
3号機 格納容器破壊か