ぼくビー太です。
飼い主さんが帰省した時のお土産話です。
大晦日の午後、飼い主さんが上野駅から長野新幹線に乗った時のお話です。
その日の指定席券はすでに満席で取れず、仕方なく自由席車両のホームに並び、電車を待っていました。
東京駅始発の新幹線は、上野駅に到着した時点で自由席も満席。
座れないお客さん達で乗車口までぎっしりでしたが、飼い主さんは何とか3号車に乗り込むことができました。
比較的空いている車両なかほどの通路まで進み、立って本を読み始めました。
電車が大宮駅に着くと、まだまだお客さんが乗ってきます・・・・。
とうとう、通路も立っているお客さん達でぎっしり。
トイレにも行けない程のすし詰め状態になってしまいました。
大宮駅を発車し、しばらく経った頃、飼い主さんは後ろからトントンと肩を叩かれました。
振り向くと、後ろに立った女性が、こう囁きました。
「後ろの方からの伝言です。『2号車で具合が悪くなった人がいるので、車掌さんに伝えて下さい。』とのことです。」
どうやら急病人が出たようなのですが、車掌さんに知らせようにも、人が一杯で報せに行けない状況。
とっさに機転を利かせた誰かが、伝言ゲームを思いついたのでしょう。
飼い主さんも、同じように前の人の肩をトントンと叩き、伝言をリレーしました。
2号車から始まった伝言が、飼い主さんの立っている3号車を経由し、進行方向前方の4号車のお客さんに伝わっていきました。
うまく車掌室にいる車掌さんまで届くと良いのですが・・・・・。
大宮の次の停車駅は高崎です。
電車が高崎のホームに滑り込んだ時、担架や車椅子を持った数人の駅員さんがホームを走っていく姿が車内から見えました。
すかさず車内アナウンスがありました。
『2号車で急病の方がいらっしゃいますので、しばらく停車いたします。お急ぎのところご迷惑をおかけします。』
良かった! うまく伝わったようです。
しばらく電車は停車した後、静かに動き出しました。
すぐにまた車内アナウンスがありました。
『先ほどのお客様は、駅舎内で休んでおられます。ご乗車の皆様にご協力頂きまして、まことにありがとうございました。』
大事には至らなかったようです。
飼い主さんは心の中でガッツポーズをしました。
伝言に携わった多くのお客さんもきっと同じ思いだったでしょう。
『高崎駅を定刻より6分遅れで発車しました。お急ぎのところご迷惑をお掛けします。この先の到着予定時刻は・・・・・』とアナウンスは続きました。
伝言ゲームをとっさに思いついた最初のお客さん、その伝言を伝え続けた乗客の皆さん、的確な指示と状況説明をしてくれた車掌さん。
電車の多少の遅れはあったものの、多くの人のささやかな善意が、この電車に乗っている人の心を暖かくしてくれました。
寒い長野駅に降り立った後も、飼い主さんの心はずーっと温かかったそうです。
ちょっとした勇気と優しさがあれば、きっと世の中は明るくなるでしょうね。