C E L L O L O G U E +

ようこそ、チェロローグ + へ!
いつまでたっても初心者のモノローグ
音楽や身の回りを気ままに綴っています

映画『今さら言えない小さな秘密』を観て

2019年10月25日 | アート

 映画「今さら言えない小さな秘密」は自転車に乗れない、それを誰にも言えない自転車屋というあり得ない設定の物語です。ファンタジー、大人の童話、おとぎ話、大人と子供のポエムとして受け止めて楽しむのが正解なのだと思います。原作者は、洒脱なタッチで知られるフランスの高名な漫画家、イラストレーターのジャン=ジャック・サンペ (Jean-Jacques Sempé, 1932- )です。


 私が自転車に乗れたのはいつの頃だったか忘れてしまいましたが、乗れた喜びは覚えています。乗れてしまえば何でもないのですが、乗れるまでのあのもやもや感は何とも言えません。
 この映画の主人公、ラウル・タビュランは大人になっても乗ることができず、ずっとそれを胸に秘めたままにしていました。そのために他の子供たちと遊べないだけでなく、それに振り回されて人生を送るという重荷を負わなければならなくなりました。そして、言いたくても言えない、言っても相手にされないなどなど試練が何度も訪れるのでした。その度に自分の首が締まっていきます。

■■

 映画はサンペの原作を南仏プロヴァンスの片田舎ヴァントロル(Venterol)の風景の中に見事に描いています。狭い村の生活や人間関係、親子代々伝えられる家業、自転車レースなどそこで暮らす人々の穏やかな様子や佇まいなど、作中の写真家フィグーニュでなくとも魅了されるでしょう。
 皮肉にも村一番の自転車屋になったラウル・タビュランは、自転車に乗れないという秘密を封印して穏やかな生活を手に入れました。しかし、忘れかけた頃、思いもよらないことから、ひた隠しにしてきた秘密が公然となろうとします。人生最大の危機です。

■■

 このようなことは、大なり小なり誰にでもあるのではないでしょうか。そして、自分と外の世界に壁ができてしまいます。それは、往々にして自分だけの妄想だったりします。あることがきっかけで壁は消滅し、改めてバランスが調整されて自分が自分になることができるのではないかと思います。まさにバランスの乗り物、自転車の役どころなのではないでしょうか。全体に流れる自転車のイメージはその象徴なのかも知れません。あるいは、原作者サンペの自転車愛、かも。

■■
■■

 この映画をみていて、素直に子役が可愛いと思いました。この映画には子供時代のタビュラン自身とタビュランの子供が出てきます。タビュランの父、タビュラン自身とその息子の親子3代の物語でもあるのです。連環していく人生と親子のつながりを感じさせます。特に私のような高齢者はその感を強くします。
 子供は自転車が好きです。お年頃になると自転車を欲しがるのは彼・彼女たちが世界を広げて行こうとしているからでしょう。自転車からの広い視界を得て子供たちは成長していくことになります。私からはノスタルジーでしかないのですが。

----------------------------



 サンペの本が一冊本棚にありました。"Les musiciens" (1992)というイラスト集がそれです(上)。どこで、どうして求めたのかは忘れてしまいましたが、何か惹かれるものがあって知らずに買ったのだと思います。クラシックやジャズなどの音楽家の雰囲気を描いたものですが、個性的な演奏家の佇まいを軽妙洒脱な線で捉えています。
 当時はインターネットが無く、サンペをセンペと呼んでいました(笑)。そんな縁もあり、映画を見てみたくなったのでした。本は大事にするものですね。

『今さら言えない小さな秘密』(Raoul Taburin; a un secret)
監督・脚色:ピエール・ゴトー
原作・脚色協力:ジャン=ジャック・サンペ
配役:ブノワ・ボールヴール(ラウル・タビュラン)、エドゥアール・ベール(エルヴェ・フィグーニュ)、スザンヌ・クレマン(マドレーヌ)他.2018年、フランス映画、90分.


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。