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密室のハエトリグモ 1

2024年10月11日 | ぼくの博物誌
尾籠なお話で恐縮ですが、今回は、家のトイレの蜘蛛の生態についてのお話です。
観察と感想が主ですが、図があります。不快を感じる方は、どうぞ、飛ばしてくださいませ。


では、早速。
最近のこと。トイレの床に黒い点がちらちらすると思ったら、お馴染みのハエトリグモでした。体長は6mmほど、全体が黒っぽいとしかいいようがないのですが、図鑑を見るとアダンソンハエトリの雌ではないかとみています。
どこから入ってきたのか判りませんが、このクモは巣を張らないしハエやカなどの小さな虫を捕食してくれるので当家では手厚く保護している種です。
なので、毎度、ハエトリグモ(以後は「ブル」*と呼びます。)とご挨拶ということに相成りました。
*ずんぐりした姿から勝手にイメージしたニックネームです。音楽家のブルグミュラーやブルックナー、ブルッフとは何の関係もありません(笑)。

ブルは奇妙な行動していました。
壁の手洗器から床まで金属製のパイプがあり、床面に供え餅のような形のリングが付いています(下図左参照)。
その前でブルが睨めっこをしているのです。パイプ、リングともメッキしてあるのでブルの眼の前には360度のパノラマが展開されているはずです。しかも、ブルは目が8つ**もある高性能。しばらくすると、ブルはリングに突進、ぶつかるや否や後方に急速後退。英名の jumping spider の面目躍如の行動をします。
**ハエトリグモには全部で8個の眼があり、前中眼、前側眼、中側眼、後側眼それぞれ2組あります。3年前にもチャスジハエトリグモの記事を書きました。 この時撮影出来たのが前部の大きな4つの眼。この他に小さな眼が2対あります。



この行動は何だろうと興味を惹かれました。
まず、思い付いたのは縄張り防衛行動で、前面に映った自分の姿を縄張りへの侵入者と考え、間合いをはかって攻撃に出た瞬間、固いリングにぶつかり驚いて後退しているのではないかということ。

もうひとつは、求愛行動です。しかし、雌から行動にでるものでしょうか。詳しいことは分からないのですが、可能性は低そうです。
3つめは捕食行動で、鏡面に映った影を虫と見て捕えようとしたのではないかということです。
最後に、単に遊んでいるのではないかとも考えました。クモ・ルーデンス(笑)。

縄張り意識による威嚇や攻撃は野鳥にも認められ、例えば、セキレイが車のフェンダーミラーに映った自分の姿を見て執拗に攻撃するということが知られています。これも縄張りを守る本能と説明されています。

ブルもそうであれば、無駄なことをさせてしまっているわけで、試しに紙で鏡面を囲んで映り込みをなくしました。すると、ブルは何事もなかったように通り過ぎるだけになりました(図の右)。

なるほど。ブルは鏡面を認識していたことは立証されました。でも、それ以上のことは分かりません。
しかしながら、こんな小さなクモでさえ、様々なものを認識し複雑な行動をすることに不思議を感じながら、いつのまにか便座で考える人になっていました。まあ、厠も「三上」(さんじょう)のひとつだからよしとしましょう。(つづく

(参考)
須黒辰巳著『ハエトリグモ ハンドブック』増補改訂版.2022年4月刊.文一総合出版.



今日は穏やかな良い天気になったので下田の杜へ行ってきました。
風景に季節の変化は感じられるものの、紅葉にはまだまだというところでした。

Nikon D5600 / AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED