裸の王様

日常をダラッと垂れ流しております。
時折、マニアックな妄想も垂れ流していますのでご注意下さい。

遠い夏の日⑦ (幼SX過去捏造 女装注意)

2007年08月18日 19時14分32秒 | REBORN(SS)
砂浜はさほど広い訳ではなかったのだが、自分と同程度の人間を背負って歩くのは容易なことではなかった。
スクアーロはふら付きながらも歯を食いしばり、やっとのことで海沿いの道路まで辿り着いた。
そこから一番誓い民家まで約1km程ある。
舗装もされていない小道は、日が暮れると人も車も滅多に通らないことをスクアーロは良く知っていたから、しばらく立ち止まって息を整えなおすと、背中からずり落ちてくるXANXUSの体を背負いなおして漁村の方向へ月明かりを頼りに歩き始めた。


その頃、昼も食べずに別荘を飛び出して以来、日が暮れても一向に帰ってこないXANXUSに、流石のフェデリコ兄妹も心配になり、家人を使って辺りを探し始めようとしていた。
ちょうどその時、昼前に勃発したファミリーの闘争劇が激化したため、XANXUSの身を保護しボンゴレの屋敷に連れ戻すべく9代目の命を受けた、まだ門外顧問に就任して間もない家光が別荘を訪れたところだった。

「失礼する、私は門外顧問を務める沢田家光だ。
すまないが、緊急事態が起きたのでXANXUS坊ちゃんを一刻も早く保護し、ボンゴレの屋敷にお連れしなければならない。
こちらに来ていると聞いているのだが、どこにいる?」

家光は家人と思しき人物を捕まえて、そう言った。

「XANXUS様は、外へ遊びに行かれたきりお戻りにならなくて、これから村の衆にも声をかけて、この辺りを捜索するところです。」

庭師のような格好の初老の男性は、そう言うと慌てた様にバタバタと走り出した。

「まずいな。」

と一人ごちた家光を見咎めたフェデリコが声をかけてきた。

「沢田家光か、こんなところにどうしたんだ?
まさか、9代目に何かあったじゃないだろうな?」

「ん?フェデリコ君か、君らも早く別荘を出て避難したまえ。
抗争中のファミリーのシマがこの近くにあるんだ。
ファミリーの時期ボス候補がいると知れればいい標的になってしまう恐れがあるからな。
ところで、XANXUSが行方不明らしいが、どういうことだ?」

「あ、ああ昼前にちょっと家の妹に遊ばれてな、それが嫌で出て行っちまった。
腹が空いたら帰ってくるだろうと思っていたんだが、日が暮れても帰ってくる気配がねぇから、今捜索を指示したところだ。」

「くそ、こんな時に。
抗争相手にはボンゴレ9代目の息子がここにいるという情報が漏れているらしい。
捜索に村人も使うとさっき使用人が言っていたが、あまり事を大きくしすぎるとかえって危ない。
この辺りにも対抗組織の連中が紛れ込んでいないともかぎらねぇからな。
別荘裏の山手と海方面の二手に分かれて周辺捜索をしよう。
子供の足だ、そう遠くへは行っていまい。」

「わかった、家人にはそう伝えておく。
じゃあ俺は山側捜索の指揮を執る、お前は海側の捜索隊を指揮してくれ。」

事の重大さに気づいたフェデリコは一瞬で表情を引き締めると、次期ボス候補らしく慌てふためいている家人を集め、捜索隊を組織して指示を始める。
騒然とした様子にリビングでソファに座っていたフェンネッラも青い顔をして両手でロザリオを握り締め、『どうかXANXUSが無事でありますように』と祈っていた。
その傍らに、家人らしき老女が座り、『大丈夫ですよお嬢様、きっと坊ちゃんはご無事です。』とやさしく肩を抱いて慰めている。
二手に分かれた捜索隊は、それぞれ森を抜け丘へ続く山側と海側に分かれ捜索を開始したのだった。

家光は捜索隊を2名づつに分け、それぞれを西と東を捜索させ、自分は海へ向かってまっすぐ南へと下っていった。
各自には通信手段として高性能なトランシーバーを持たせてある。
村内ならば、大方の連絡に不自由はしないだろう。
漁村の港まで辿り着いた家光は、湊近くにいた村人に子供を見なかったかどうか聞いてまわったが、それらしき情報は得ることが出来なかった。
それではと、この辺りで子供が興味を持ちそうな場所は無いかと村人に尋ねたとき、丘から海まで続く鍾乳洞があることを聞きだすことが出来た。
鍾乳洞は一部がとても狭くなっており、大の大人では上から下まで辿り着くことはできないが、子供ならば通り抜けることが可能なのだとその村人は言っていた。
ボンゴレの別荘の裏手に広がる森を抜けたところに丘側の出入り口があり、ここから2kmほど南東に下った海岸沿いに海側の出入り口があるのだそうだ。
『もしかしたら、XANXUSはこの鍾乳洞へ迷い込んだのではなかろうか?』
直感的にそう感じた家光は、トランシーバーでフェデリコにも山側から鍾乳洞の捜索を依頼し、自らは海側の入り口を目指して走った。


スクアーロはただ根性のみで重いXANXUSをおぶりながら夏草の生い茂った小道を一歩一歩歩いていたが、先ほどからなかなか足が前に出ない。
いつもなら駆け足でほんの10数分駆け抜ければ自分の家まで辿り着く距離なのに、今のスクアーロにとってその距離は途方もなく遠く感じられた。
泳いで渡る時、靴を脱いでしまったため、裸足の足に転がる小石が食い込んで痛かった。
疲労と暗がりで、普段慣れた道でも心細さを感じ、泣きそうになた時、
『男はなぁスクアーロ、女を守るために強くなくちゃいけねぇ。』
唐突に父が言った言葉が脳裏をよぎった。

「とうちゃん。俺がんばるせぇ。」

歯を食いしばり、背にXANXUSの温もりを感じながら一歩踏み出したとき、道の前方から誰かが走ってくるのがわかった。
懐中電灯の明かりが左右に振れながらこちらに近づいてくる。
30mくらいに近づいたとき、懐中電灯の明かりが自分達を捕らえ、そして声がかけられた。

「おい、そこの坊主、何をしている?」

懐中電灯は遠慮なくこちらに向けられていてまぶしさに目がくらんだ。
近づいてきた人物は、スクアーロたちの前まで来るとしゃがみこんで二人の顔を確認した。

家光は、瞬時に背負われている子供がXANXUSであることがわかったが、なぜワンピースを着ているのかは不思議でならなかった。
ただ、この少年がXANXUSを助けてくれたのではないかということが、彼らの様子からなんとなくわかった。

「おい坊主、その子助けてくれたのか?」

そう言ってスクアーロの頭をワシワシと撫で、背負われたXANXUSの様子を確認する。
きちんと息をしていることを確かめると、家光は立ち上がってフェデリコら他の捜索隊にXANXUS発見の報を入れた。
トランシーバーを腰にしまうと、もう一度スクアーロの前にしゃがみこんだ。

「なぁ、その子探してたんだ。お兄さんにおんぶさせてくれねぇか?」

にっこりと笑って話しかけられたのだが、なんとなくスクアーロは目の前の人物が信用できなくて、家光から距離をとるために数歩後ずさった。

「怖がらなくても大丈夫だよ。お兄さんを信用したまえ、少年。」

その様子に苦笑しつつ、自分が無害であると主張する家光に、スクアーロは問いかけた。

「お前、ハァハァ・・・ダニエラの・・・なんだぁ?」

「(ダニエラ?偽名使ったのかXANXUS。まったくいらぬ所で頭の回る子だな。)
お兄さんは、その子の知り合いだ。」

「・・・あの・・ハァ・・幽霊屋敷に・・住んでんのかぁ?」

「幽霊屋敷?」

「・・丘の・・・別荘のことだ。ハァハァ
この辺じゃ・・・皆、幽霊屋敷って・・・言うぜぇ。」

「ああ、幽霊屋敷ね。確かに幽霊の一つや二つで手もおかしくは無いが、お兄さんはあそこにゃ住んでねぇ。」

「じゃあ、ダニエラは・・・渡せないぜぇ。ハァハァ
俺が・・・送っていくんだぁ。」

「あー、でも坊主。」

「スクアーロ・・・だっ!」

「そうか、スクアーロか。俺は家光ってんだ、よろしくな。
スクアーロ、でもお前さんもうその子を背負っているのもやっとって感じだぞ?
とっても別荘までその子を運べるとは思えねぇ。
だから、お兄さんがその子を預かる方がいいんじゃねぇか?」

「でもお前、・・・信用ならねぇ。
別荘に・・・住んでるん・・・じゃなきゃ、
ダニエラを・・・攫いに来た・・・やつかも・・・しれないだろぉ。」

「ははは、お兄さんは人攫いじゃないよ。
そんなに信用できない顔してるかなぁ?奈々には男前だって言われるんだけどなぁ。
なぁスクアーロ、お兄さんはその子の遠い親戚だ。
嘘じゃねぇ、その子のお父さんにうちに連れてくるように頼まれてんだ。
その様子だと、二人とも今日は大冒険だったらしいなぁ。
本当息も絶え絶えじゃねぇか、汗だくでよ。
お前さん、ダニエラを助けてくれたんだろう?
俺からも礼を言うよ、ありがとう。
だから、大人しく渡してくんねぇかな?」

親戚だという目の前の外国人が漸くダニエラの名前を呼んだので、渋々うなづくと、スクアーロは背中におぶったXANXUSを家光に託した。
流石にスクアーロも、もうXANXUSを背負っているのは限界だった。
XANXUSの重みが背中から消えたとたんに、気が抜けたスクアーロはその場で気を失ってしまった。
気を失って倒れそうになった少年を抱きとめ、家光は二人を抱えてきた道を引き返していった。
家光はとりあえず二人を別荘に運び込むと、心配して待っていたフェンネッラたちに預け、スクアーロをリビングのソファに寝かせた。
家人の手配で、漁村にいる医者がやってきて二人を診察した結果、どちらも異常はなくただ疲れて寝ているだけであるとわかり、一堂はほっと胸を撫で下ろした。
程なく先に目覚めたXANXUSは、家光にことの顛末を説明され、一刻も早く屋敷に帰らねばならないことを告げられた。
急かされるように風呂に入り着替えを済ませたXANXUSは、出発する前にソファで未だに眠っているスクアーロの額に手を置くと、

「ありがとう、スクアーロ。お前のことは忘れねぇ。」

と呟いて、家光に連れられ別荘を後にした。
額に置かれた小さな温もりに、うっすらと目を開けたスクアーロがほんの一瞬見たものは、少年の姿をしたダニエラだった。
また泥沼のような眠りに引き込まれ、スクアーロが次に目を覚ましたときには、別荘の管理人の婆さんが一人こちらを見ているだけだった。
ダニエラの事を聞いてみたが、婆さんは『ダニエラ様はもうずいぶん前にお亡くなりだよ。』と答えただけだった。
では、己が一緒にいた少女は幽霊だったのかと問えば、婆さんは『幽霊じゃありませんよ、ただお前さんとは住む世界が違うお人たちだ。それにお嬢様方なら、もうとっくにお帰りなすったですよ。もうしばらくはここにはいらっしゃらないだろうねぇ。』と寂しそうに笑った。
家に帰ったスクアーロは、それからしばらくの間、毎日XANXUSが来ていやしないかと別荘を訪ねたが、あれ以来XANXUSが別荘に来ることは無かった。
毎日幽霊屋敷に通い詰める弟を、『幽霊に魅入られた。』と姉は心配したが、スクアーロはXANXUSの温もりを覚えていたので、それが生きた人間であることの確かな証であると姉の忠告にも耳を貸さなかった。
やがて夏が終わり、秋の風が吹く頃、スクアーロに1通の手紙が届いた。
そこには、幼い筆跡で短いお礼の言葉が書かれていて、ひまわりのついた髪縛りが同封されていた。
差出人の名前は無かったが、それがダニエラからのものであることをスクアーロにはわかった。
手紙を届けにきた人物は、両親に礼だといって幾許かの金と貝殻のマークの入った礼状を渡していた。

秋風は空を吹き渡り、やがてひと夏の想い出は二人の記憶の底に押し込められていった。


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