認知症の行方不明者1万人
2914年4月18日 14時00分
9607人。
認知症やその疑いがあり、徘徊などで行方不明になったとして、おととし1年間に警察に届けられた人の数です。
NHKがその実態を取材したところ、行方不明のままだったりする人が合わせて550人を超えることが分かりました。
初めて明らかになってきた深刻な実態について、社会部の津武圭介記者が解説します。
■行方不明の実態は
NHKは、ことし2月、おととし1年間に認知症やその疑いがある人が徘徊などで行方不明になったケースについて、全国の警察本部を対象にアンケート調査を行いました。
その結果、行方不明になったとして警察に届けられた人は、全国で延べ9607人に上ることが分かりました。
このうち、死亡が確認された人は351人。
その年の末の時点でも行方不明のままの人も208人いたことが分かりました。
都道府県別で死者数が最も多かったのは、
大阪で26人
愛知が19人
鹿児島が17人
東京が16人、
茨城が15人でした。
行方不明のままの人の数は、
愛媛が最も多く19人
愛知が17人
兵庫が16人
東京が15人
大阪が14人でした。
警察への届け出はいずれも延べ人数で、家族などから通報があれば原則受け付けている大阪が最も多く2076人、次いで兵庫が1146人に上りましたが、最も少ない長崎で7人、
山梨が8人と大きな開きがありました。
正式な届け出前に保護されたり、死亡が確認されたりする人もいるほか、神奈川、千葉、埼玉の3つの警察本部ではいち早く捜索を行うため、
正式な届け出前に電話などでの連絡と同時に一時的所在不明者として受理する制度もあり、実際の死者や行方不明者の数はさらに多いとみられます。
■亡くなった人の家族は
おととし行方不明になり死亡して見つかった東京・稲城市の吉澤賢三さん(享年76)の妻のマユミさんからお話を聞くことができました。
吉澤さんは、亡くなる半年ほど前から認知症の症状が目立ち始めましたが、マユミさんの介護を受けながら自宅で暮らしていました。
自宅にいるのに「うちに帰る」と外に出ていってしまうことがたびたびありましたが、自力で帰宅したり、マユミさんが近所を捜したりして無事、見つかっていたということです。
賢三さんはおととし3月、マユミさんが夕食の支度をしている間に出かけ、そのまま行方不明になりました。
靴には名前を書いていましたが、その靴は玄関に置かれたままで、賢三さんは別のサンダルを履いて出かけていました。
家族で手分けして捜したものの見つからなかったため、警察に通報しましたが、手がかりはつかめませんでした。
この時の心境についてマユミさんは、「とにかくどこかで生きていてほしいという思いと毎日毎日、とにかく地獄のような思いでした」と話しています。
賢三さんの遺体は、3週間後、自宅から500メートルほど離れた川沿いで見つかりました。
死因は凍死とみられ、道路などから死角となり、発見が遅れたと考えられています。
マユミさんは「徘徊して行方不明となり、死亡するとは考えていなかった。すぐに見つけてあげられず、今でも申し訳ない気持ちでいっぱいです。こうした悲劇は少しでもなくなってほしい」と話しています。
■捜し続ける家族は
行方不明になった人を捜し続けている家族からもお話を聞くことができました。
秋田県横手市の草薙みえ子さんの母親の高橋ツヤさんは、おととし5月、87歳の時に行方不明になりました。
ツヤさんは、その3年前、アルツハイマー型の認知症を発症しましたが、自宅で長女のみえ子さんの介護を受けながら2人で暮らしていました。
ツヤさんは散歩を日課にしていましたが、行方不明になる1か月ほど前から途中で迷子になることが目立ち始めたということです。
心配したみえ子さんは、ツヤさんの洋服や散歩で使っていた手押し車に名前や住所を書き込むなど迷子になっても自宅に戻れるよう対策を取っていました。
さらに手押し車は玄関の段差を通る際「ガタン」と大きく響くため、夜、寝ていてもすぐに気づくことができたといいます。
ところがおととし5月、みえ子さんが朝8時ごろ目を覚ますといつも隣の部屋で寝ているツヤさんがいないことに気づきました。
合図となるはずの手押し車は玄関に残されたままでした。昼頃まで家族で付近を捜しましたが見つからず、警察に通報しました。
その日から3日間、警察や消防、それに地域の住民が参加して大規模な捜索が行われましたが、ツヤさんを見つけることはできませんでした。
行方が分からなくなってまもなく2年。みえ子さんは、近くに住む弟の茂さんと手作りのチラシを作ってツヤさんを探し続けています。
みえ子さんは「あの日、もう少し早く起きていればと後悔の気持ちが消えません。まさか行方不明になるとは思いもしませんでした。1日でも早く見つかってほしい、今はそれしかないです」と話しています。
■増え続ける認知症の高齢者
厚生労働省の研究班によりますと、国内の認知症の高齢者は、おととし(H24)の時点で462万人に上り、高齢者の15%に達すると推計されています。
また認知症の予備軍とされる「軽度認知障害」の高齢者は、400万人に上ると推計され、国内の認知症とその予備軍の高齢者は合わせて860万人余り、高齢者の4人に1人に上っています。
高齢化が進むにつれて、今後も認知症の高齢者は増え続けると予測されていて、この認知症の行方不明者の問題は、さらに深刻な問題になるとみられています。
■国の対策は
国は認知症になっても病院に入院せず、できるだけ自宅で暮らし続けられるよう、訪問介護や訪問看護のサービスの充実やグループホームなどの施設の整備を進めています。
さらに行方不明になった場合、警察や行政、それに地域が連携して地域ぐるみで捜す「SOSネットワーク」と呼ばれる取り組みも行われています。
この取り組みは平成7年、警察庁が全国の警察本部に呼びかけたことをきっかけに全国的に広がり、厚生労働省も自治体に財政支援をするなどしてネットワーク作りを促しています。
しかしネットワークの中にはほとんど稼働していないケースもあり、認知症の人が安心して外出できる街をどのように実現していくのか課題となっています。
■専門家は
認知症の問題に詳しい認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長は「今回明らかになったのは、まだまだ氷山の一角で、今後認知症による高齢者は増え、徘徊の問題はより深刻化していくことが予想される。
国は正確な実態を把握するとともに詳しい分析を行って、有効な対策を打ち出していく必要がある」と話しています。
明らかになってきた、認知症の人が徘徊などで行方不明となる問題。
亡くなる人が1人でも少なくなるためにどうしたらいいのか、課題とともに解決のヒントを取材していきたいと思います。
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2014_0418_02.html
http://www.peeep.us/073ec38f