「君は、なぜあんな古い本を読みたいのかね」
「海女さんは、はだか商売でしょう。私もそうですからあの場所のことに興味を持っているのです」
「ふうん、なるほどねぇ」
T先生は、さも感心したような相槌を打った。
汽車は、のんびりと田園風景の中をガタンゴトンと進んでは、小さな駅に止まっては、また走る。窓を開けると、かすかに海の香りが車内に漂う。
そうこうしているうちに御宿駅に到着した。
改札口には、I社長が出迎えていて、
「茉莉子さん、いらっしゃい」
と、声をかけたが、T先生には会釈をしただけであった。
「やぁ、しばらくですなぁ。社長さん、この前のお電話のとおり茉莉子さんを案内して来ましたよ」
と、さも手柄を立てたような話しぶりで、待っている車の方へさっさと歩いて行った。
「あなたも隣に乗りたまえ。運転手さん、このカメラボックスはトランクに入れてくれたまえ」
と、T先生は自分の車のように後ろの席にでんと座った。
I社長は、前の座席に乗ると、
「先生、いつもは海岸で撮影会をしていますが、たまには山の方でやったらどうかと会員が言うのでね、養老渓谷の方でなかなか趣のあるところを見つけてあります。先ずそこへ行きましょう」
「あぁそれは面白いねぇ。僕は若いころ尾瀬沼の近くの鄙びた所でヌードを撮って評判になったことがありますよ」
「先生、その写真は東京の個展で拝見したことがありますよ。神秘的な沼のほとりに髪の長いヌードモデルが静かに立っている作品でしょう」
「そうそう、よく覚えているねぇ。さすがは海女の写真を撮っては世界一と評判の社長ですなぁ」
「そんなに大げさま者じゃありませんが、先生のあの写真には感動しましたよ」
茉莉子は、車窓の新緑を二人の会話を聞きながら眺めていたが、頭の中はミゲルと鯛の物語の展開が気がかりなのであった。
「海女さんは、はだか商売でしょう。私もそうですからあの場所のことに興味を持っているのです」
「ふうん、なるほどねぇ」
T先生は、さも感心したような相槌を打った。
汽車は、のんびりと田園風景の中をガタンゴトンと進んでは、小さな駅に止まっては、また走る。窓を開けると、かすかに海の香りが車内に漂う。
そうこうしているうちに御宿駅に到着した。
改札口には、I社長が出迎えていて、
「茉莉子さん、いらっしゃい」
と、声をかけたが、T先生には会釈をしただけであった。
「やぁ、しばらくですなぁ。社長さん、この前のお電話のとおり茉莉子さんを案内して来ましたよ」
と、さも手柄を立てたような話しぶりで、待っている車の方へさっさと歩いて行った。
「あなたも隣に乗りたまえ。運転手さん、このカメラボックスはトランクに入れてくれたまえ」
と、T先生は自分の車のように後ろの席にでんと座った。
I社長は、前の座席に乗ると、
「先生、いつもは海岸で撮影会をしていますが、たまには山の方でやったらどうかと会員が言うのでね、養老渓谷の方でなかなか趣のあるところを見つけてあります。先ずそこへ行きましょう」
「あぁそれは面白いねぇ。僕は若いころ尾瀬沼の近くの鄙びた所でヌードを撮って評判になったことがありますよ」
「先生、その写真は東京の個展で拝見したことがありますよ。神秘的な沼のほとりに髪の長いヌードモデルが静かに立っている作品でしょう」
「そうそう、よく覚えているねぇ。さすがは海女の写真を撮っては世界一と評判の社長ですなぁ」
「そんなに大げさま者じゃありませんが、先生のあの写真には感動しましたよ」
茉莉子は、車窓の新緑を二人の会話を聞きながら眺めていたが、頭の中はミゲルと鯛の物語の展開が気がかりなのであった。