">翌日は、撮影会に呼ばれていて、帰宅が遅くなってしまったが、頭の片隅には、撮影中も夢の中の鯛とミゲルの姿が、浮かんだり消えたりしていた。二人は、茉莉子よりも若いので妹と弟のように思われるからであろうか、とても身近に思われる。
晴れた朝は、海を見下ろす砂丘の上で沖を通る船を眺めていたり、風の強い日は、網をしまう小屋の中でミゲルの語る片言のルソンの話を聞いていたりする。
鯛が磯ものを獲りに海へ出かけると、仕事がなければ鯛の後を追う。畑へ野菜を獲りに出かければ、手伝いをする。
村の若者の中には、鯛とミゲルが、いつも一緒なのが面白くないので
「鯛よう、おめぇは、いつからノビスパンの人間になっただい」
「目の青い奴と付き合うと、ろくなことはねぇぞ」
などと、すれ違うと大声で言う者もいる。
ルソンに妻子のいるオットーが、羨ましがって
「ミゲルよ、鯛さんといつも一緒で二人は、恋人みたいだなぁ」
と、からかうと、鯛は頬をあからめるが、ミゲルは嬉しそうに笑っている。
鯛のおっかぁさんも
「若い娘と男が、いつも一緒じゃ、村の者たちに噂が立つからよう気をつけろよ
と、心配しているのだが、二人はますます仲が良くなった。
鯛が磯で栄螺を獲ろうとして深みに手を伸ばしたとき、急に大波が寄せて来た。
「よう、助けてぇ」
と、叫んで、鯛の姿は見えなくなった。
ミゲルは、その時、蟹を獲ろうとしていた。
鯛の声を聞きつけて、走り寄り、海に飛び込んだ。腕を伸ばして鯛の着物をつかんだが、引き波にミゲルも一緒に大浪に引き寄せられてしまった。
二人の頭は、水面に浮きつ沈みつ、必死で岩にしがみついた。
そこへこの前、鯛に悪口を言った若者が三人通りかかって、助けてくれた。
「有難うね。あぶねぇところだったよう」
「皆様の~お蔭様でぇ~助かりましたよ~。ほんとに~ありがたく~思います。」
「だかん、言うことじゃねぇよ。いつも二人だけだかん危ねぇ目に合うだぞ。気をつけろよ」
と、言うと、大声で話しながらすたすたと帰って行った。
閑話休題
敬愛する知人・詩人の吉野弘さんがご逝去なされて、心に空洞が出来ていたのですが、ニュースで松戸市出身のおぼかたさん(女性・30歳)が、従来の発想を覆す歴史的な研究を発表なさったので、小生も老骨に鞭打って、文芸の道をひたすらに歩もうと言う意欲が湧いてきました。チャーミングな彼女の意欲に学ぼうと考えております。font>
晴れた朝は、海を見下ろす砂丘の上で沖を通る船を眺めていたり、風の強い日は、網をしまう小屋の中でミゲルの語る片言のルソンの話を聞いていたりする。
鯛が磯ものを獲りに海へ出かけると、仕事がなければ鯛の後を追う。畑へ野菜を獲りに出かければ、手伝いをする。
村の若者の中には、鯛とミゲルが、いつも一緒なのが面白くないので
「鯛よう、おめぇは、いつからノビスパンの人間になっただい」
「目の青い奴と付き合うと、ろくなことはねぇぞ」
などと、すれ違うと大声で言う者もいる。
ルソンに妻子のいるオットーが、羨ましがって
「ミゲルよ、鯛さんといつも一緒で二人は、恋人みたいだなぁ」
と、からかうと、鯛は頬をあからめるが、ミゲルは嬉しそうに笑っている。
鯛のおっかぁさんも
「若い娘と男が、いつも一緒じゃ、村の者たちに噂が立つからよう気をつけろよ
と、心配しているのだが、二人はますます仲が良くなった。
鯛が磯で栄螺を獲ろうとして深みに手を伸ばしたとき、急に大波が寄せて来た。
「よう、助けてぇ」
と、叫んで、鯛の姿は見えなくなった。
ミゲルは、その時、蟹を獲ろうとしていた。
鯛の声を聞きつけて、走り寄り、海に飛び込んだ。腕を伸ばして鯛の着物をつかんだが、引き波にミゲルも一緒に大浪に引き寄せられてしまった。
二人の頭は、水面に浮きつ沈みつ、必死で岩にしがみついた。
そこへこの前、鯛に悪口を言った若者が三人通りかかって、助けてくれた。
「有難うね。あぶねぇところだったよう」
「皆様の~お蔭様でぇ~助かりましたよ~。ほんとに~ありがたく~思います。」
「だかん、言うことじゃねぇよ。いつも二人だけだかん危ねぇ目に合うだぞ。気をつけろよ」
と、言うと、大声で話しながらすたすたと帰って行った。
閑話休題
敬愛する知人・詩人の吉野弘さんがご逝去なされて、心に空洞が出来ていたのですが、ニュースで松戸市出身のおぼかたさん(女性・30歳)が、従来の発想を覆す歴史的な研究を発表なさったので、小生も老骨に鞭打って、文芸の道をひたすらに歩もうと言う意欲が湧いてきました。チャーミングな彼女の意欲に学ぼうと考えております。font>