私にとって、それは生涯、失せることなきエメラルドである」
皆さんこんにちは、長浜奈津子です。
2月5日(土)に、おとがたりの朗読ライヴをおこないます。
このライヴでは、極北の詩人・吉田一穂の詩と短歌を上演させて頂きます。
「望郷は珠の如きものだ。私にとって、それは生涯、失せることなきエメラルドである」
冒頭でご紹介した言葉は、一穂の言葉です。
生涯を詩作に生きた一穂が、創造の原点としたのは心の中にある、ふるさとの、あのエメラルドの海。
吉田一穂はあの海を創造の理想郷として心におき、白鳥古丹(カムイコタン)と呼びました。
数回にわたって、吉田一穂の作品をご紹介してきましたが、
吉田一穂が10年の歳月をかけて完成させた詩『白鳥』を最後にご紹介させて頂きます。
極限まで研ぎ澄まされた多くの言葉たちは結晶になり、水晶の輝きを放ちながら、詩となりました。
詩は白鳥となり、大きな翼をひらいて大空へと飛翔します。
皆さんどうぞ、この言葉たちを手に取って触れてみて下さい。
ひとつひとつの言葉、フレーズからたくさんのイメージを感じてみて下さい。
もしも気にいった言葉や、はっきりと心に映し出されたイメージがありましたら、
その言葉は、あなたの生涯の宝物になるかもしれません。
白鳥 吉田一穂 [詩篇 II]
1
掌に消える北斗の印。
……然れども開かねばならない、この内部の花は。
背後で漏砂 (すなどけい) が零れる。
2
燈 (ラムプ) を点ける、竟 (つひ) には己へ還るしかない孤独に。
野鴨が渡る。
水上は未だ凍つてゐた。
3
薪を割る。
雑草の村落は眠つてゐる。
砂洲 (デルタ) が拡きく形成されつゝあつた。
4
石臼の下の蟋蟀。
約翰 (ヨハネ) 伝第二章・一粒の干葡萄。
落日。
5
耕地は歩いて測った、古の種を握って。
野の花花、謡ふ童女は孤り。
茜。
6
蘆の史前……
水鳥の卵を手に莞爾(にっこり)、萱疵 (かやきず) なめながら、須佐之男のこの童子 (こ)。
産土 (うぶすな) で剣を鍛(う) つ。
7
碧落を湛へて地下の清冽と噴きつらなる一滴の湖。
湖心に鉤 (はり) を投げる。
白鳥は来るであらう、火環島弧の古の道を。
8
白い円の仮説。
硝子の子午線。
四次元落体。
9
波が喚いてゐる。
無始の汀線に鴉の問がつゞく。
砂の浸蝕……
10
無燈の船が入港る、北十字 (キグヌス) を捜りながら。
磁極三十度射角の新しい座標系に、古代緑地の巨像が現れてくる。
粉したサンタ・マリヤ号の古い設計図。
11
未知から白鳥は来る。
日月や星が波くゞる真珠海市 (かひやぐら)。
何処へ、我れてふ自明の眩暈……
12
時の鐘が蒼白い大気を顫 (ふる) わせる。
誰も彼も還らない……
屋上に鳥の巣が壊れかゝつている。
13
灯を消す、燐を放って夢のみが己を支へる。
枯蘆 (かれあし) が騒めいてゐる。
もう冬の星座がきてゐた。
14
ユークリッド星座。
同心円をめぐる人・獣・神の、我の垂直に、氷蝕輪廻が軋んでゆく。
終夜、漂石が崩れる。
15
地に砂鉄あり、不断の泉湧く。
また白鳥は発つ!
雲は騰り、塩こゞり成る、さわけ山河。
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吉田一穂の詩と童話を2022年9月に、小樽市文学館で上演させて頂きました。
今回は2回目となりますが、初演の頃よりも、作品イメージと作家への理解が深まっていると思います。
あと少し、お席のご用意ができますのでよろしければぜひお越し下さいませ。
<関連ブログ おとがたり朗読公演の詳細>
2月5日(土) おとがたり朗読公演 『よだかの星』宮澤賢治と『白鳥古丹 カムイコタン 』吉田一穂 - 銀の河 ~ 長浜奈津子のブログ ~
皆さんこんにちは、長浜奈津子です🌸おとがたり朗読公演を、2月5日(土)に代々木の松本弦楽器さんでおこないます。今回は、おとがたり初演として...
2月5日(土) おとがたり朗読公演 『よだかの星』宮澤賢治と『白鳥古丹 カムイコタン 』吉田一穂 - 銀の河 ~ 長浜奈津子のブログ ~
<関連ブログ2/2022年01月26日>
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白鳥古丹 ~カムイコタン~ 未知から白鳥は来る /吉田一穂
最後までお読み頂きましてありがとうございました。
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