専門家ではありませんが
いままで「桜の定点観察」を長く続けていたこともあり、桜については「ちょっと」こだわりがあります。
キレイな写真は撮れませんが
多くの桜の花を、これでもか!ってくらい眺めて来たので
そう簡単には驚くこともありません。
しかし・・・
「あ! まじか・・・」
そんな衝撃的なニュースが舞い込んできました。
2023年3月30日付の下野新聞。
「ソメイヨシノ 枝先がピンクに」(3月30日 下野新聞掲載)
桜を観察していた者としては
こういう写真はやはり撮りたい・・・ですよね。
でもね、
すぐに冷静になると・・・
「え? ピンクって珍しいこと?」ってなるんです。
言い訳になりますけど、いままで多くのソメイヨシノを観てきましたけど
白とピンクのソメイヨシノの花びらって・・・普通じゃない?って思ってました。
だから、そういう機会に触れていても、それを珍しいと思って写真に撮ったことがなかったのです。
「そもそも、ソメイヨシノってピンクじゃね?」って。
・・・・・
皆さんが満開の時に愛でるソメイヨシノは「ほぼ白」ですよね?
そう、桜を絵で描くときはみな「ピンク色」で桜の花びらは表現するのに
実際、目にするソメイヨシノの花びらは「白」。
これはいったいどういうことなのか・・・
簡単に説明できるのです。
【ソメイヨシノが開花するまではピンクが濃い】
3月26日、大田原市で撮影したソメイヨシノ。
開花した花びらは白いですが
つぼみはピンクであることがわかります。
もともと、ソメイヨシノは淡いピンク色なのです。
しかし、開花するとともに
太陽の光を浴びるほど、紅い色素が分解され、だんだん白くなってゆくのです。
逆にいうと、曇りの日や雨が降った日にソメイヨシノを眺めると、花びらがピンクっぽく見えることもあります。
青空の、晴れた太陽の陽ざしを多く浴びる時は
ソメイヨシノに秘められた「淡いピンク色」が色とびを起こし、白く見えてしまいます。
花びらが全開しなる前、花びらに「しわ」があるときは
淡いピンクがよくわかります。
・・・なので
ソメイヨシノがピンクに見えることは・・・決して珍しいことではないのですが・・・
問題は「白と、ピンクが混在している」ということ。
私が特に興味を持っているのは
ピンクのソメイヨシノ・・・ではなく「なぜ、ピンクのままなのか」ってこと。
そりゃ、新聞で知ってしまった以上は
「この目で確かめて、その謎を解き明かしたい」って思うわけですよ。
・・・ということで
2023年4月2日。
栃木県さくら市
ゆうゆうパークのすぐ近く「氏家水再生センター」近くの
「枝先がピンクのソメイヨシノの樹」を実際に観てきました。
どの木であるかは、事前にグーグルマップ・ストリートビューで特定済み。
彼女も「私の桜バカ」は十分知っているので
一緒についてきてくれました。
ゆうゆうパークから南下したとき
その木をクルマから観てはいたのですが・・・
「あれ? 色の違いが無い!」
いったん通り過ぎまして
今度は北へ戻るように木を眺めていると・・・
助手席に座る彼女が
「あ、あれじゃない?」って。
なるほど、時期は過ぎていましたが
南側から見ると、明らかに「一部だけ色が異なる枝」がありました。
安全な場所にクルマを停めまして
いざ、木の元へ。。。
わかりますか?
ほら
ちょっと濃い部分ありますよね?
左上の先端・・・
ここ!
この角度だと、もっとわかりやすいかな
ここね!
あ・・・ピンクだ
でも、白も混在している。
これが通常の「白」
ソメイヨシノであることは確認。
左上、緑の樹の手前に
わかりますよね?
濃く紅い部分。
あ・・・なるほどね。
下から見上げると、逆光でわからない
・・・と、その時
一緒にいた、彼女が「落ちた花びら」を拾っていました。
これ通常の白。
ちょっとピンク
そして・・・
「これ、ピンクの花びらじゃない?」って見つけてくれたのがこれ。
あ・・・なるほど・・・
左の通常の白と
今回、珍しいと思われる、ピンクの花びら。
違い、わかります?
【ピンクの花びら】の特徴
① がく(中央の紅い星型)が異常に紅い
② 花びらが全開していない
中央のがくは通常、開花時は黄色っぽく見えます。
開花が続くと、がく筒にある果実がだんだん熟してくるので
「もう花びらはお役御免」というタイミングが近づくと
がく、は黄色から濃いピンク色となり
やがて散ってゆくのです。
ピンクの枝先あたりをズームで眺めると
白い通常の花びらは全開ですが
濃いピンクの花びらはやはり開き方が中途半端。
しかも、その周囲では「花びらが散って、紅いがくだけが残っているもの」が多く見られます。
今の時点で考えられる見解
① 生育不良説
ピンクの花の特徴は「全開しない花びら」にあります。
完全に開いていないため、太陽の光によって紅い色素の分解が進まず、そのまま、花びらが散ってしまっているようです。
周りの枝が「全開」の花びらなのに、ピンクのソメイヨシノの枝だけが「花びらが散ったがくが多い」ということは・・・
この枝だけが先に開花したにもかかわらず、なんらかの要因で「花びらが全開にならない異常」が起きた、ということ。
ソメイヨシノは病気に弱い品種です。
特定の枝の異常は、病原菌が影響している可能性もあります。
しかしながら、定点観察ナシに結論は出せません。
あくまでも「今の時点での見解」です。
これは、来年、冬芽の段階からの観察が必要になるかと思います。
② 枝変わり説。
発見者がさくら市役所に問い合わせをして、県立博物館の方に見解を求めた。
その記事には「枝変わり説」の可能性に言及しています。
確かに、落ちていた花を見たところ、「がく片」の形がややソメイヨシノと異なるのが気になりました。
そもそもソメイヨシノは自身の「種」から花は育ちません。
「接ぎ木」という方法で、ほかの桜の枝に接ぎ木して育てます。
この時点で、ソメイヨシノには「化ける」可能性を秘めているのです。
ソメイヨシノ同士では交配ができない。
その助けを借りる品種の接ぎ木によっては
いろんな変化が起きる可能性があります。
それが気象条件、生育場所によって「突然変異」があってもおかしくはありません。
このことも、来年、観察をしなければ、いまの時点では断言ができません。
ただ、はっきり言えることは・・・
【ソメイヨシノがピンクの花を咲かせることは珍しいことではない】
ということです。
もともと、紅い色素を持っている以上、ソメイヨシノの花びらは「淡いピンク」であるものと思ってください。
たいていは分解されてしまうので、白の花びらになって見えますが
ピンクの花びらのまま、全開することももちろん稀にですがあります。
発見者の撮影日は3月27日。
私が訪問したのは4月2日。
もう1週間のズレがあります。
惜しいねぇ、もっと早く、ピンクの状態を観たかったです。
この日は風が強く、雨も降りましたので
早々、現地を後にしました。
ゆうゆうパークの駐車場の向かい、ちょうど白い車が出てくるところを入ってゆくと
その木があります。
とにかく来年、定点観察しないと、答えは出ません。
長い1年になりますが
ちょっとした宿題ができて、
桜との向き合い方が、ちょっと変わってゆく気がします。
今年のように「開花が早くなる」ことは良いことではありません。
いずれはソメイヨシノが咲かなくなることを意味します。
もっとも、老齢化が進んだソメイヨシノは伐採が進んで、増えることはもうないですから
次世代の主流となる「ジンダイアケボノ」などに引き継ぐことになりますが。
ともあれ、ソメイヨシノの珍しく見える現象はこれから多くみられることでしょう。
その原因を少しでも早く導かなければ
春の桜は見られなくなるかもしれません。
このリポートは来年に続きます。