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百合若神社 その2

2009年02月03日 21時41分07秒 | 神社
百合若は魚をとり、海草・木の実を集め、何とか生き延びていました。
朝が来るたび、島の浜辺に立ち、海に向かって妻の名を叫ぶのでした。
「春日姫、必ず帰る。しばらく待っていてくれ。」


さて、あろうことか、かっては百合若の腹心の部下でありながら、主(あるじ)を孤島に置き去りにした別府兄弟は、部下を引き連れ勝ち軍さの帰路についたのでした。
そして、百合若の鎧と兜を携え春日姫を訪れ、うそ八百を語るのでした。
兄曰く、
「信じられないこととは存じますが、悲しい知らせをお伝えしなければなりません。われらが主(あるじ)百合若様は、敵の首領に射られ、海に消えました。お命を守れなかったこと、お詫びの言葉もありません。」と嘆き悲しみ、そら涙を流すのでした。
「亡きご主人の鎧と兜です。形見としてお納め下さい。」弟が手渡す。


まもなく、二人はまんまと新しい国司(国司の中で守(かみ)は国守とも言われ、国司の長、介(すけ)は守の下の役)に任ぜられたのでした。百合若に取って代わって国司の任に就くのが二人の長年の願いでしたから、うまくやったとほくそえんだのでした。
春日姫は、夫が亡くなったとは信じられません。姫の所には、夫がたいそう可愛がっていた鷹が三十二羽、犬が12頭いて、ずっと面倒を見ていました。このまま飼っていれば、夫はきっと喜ぶと思っていましたから。夫の留守中、鷹や犬が無事だったとわかって、満足げな夫の顔を、あれこれ思い浮かべてみるのでした。来る日も来る日も夫を待ち続けました。風の便りにもすがりたい気持ちでした。もちろん夫のことを語ってくれるものはおりません。姫は悲しみで次第に食欲もなくなり、どんどん痩せ細って行きました。


二年の歳月(さいげつ)が流れました。何の知らせもありません。姫は、鷹と犬を放してやることにしました。まもなく犬はどこかへ行き、鷹は空高く飛び立って行きました。しかし「緑丸」と言う鷹だけは、おりから出る様子はありません。えさをやっても食べません。しかし、おむすびを与えると、くちばしにくわえ、飛び去りました。


話は変わって、百合若も痩せ細ってしまいました。見かけもすっかり変わってしまいましたから、誰かが会いに行ったとしても気がつく者はいないでしょう。食べ物はわずかの魚と海草。そんなでしたから、骨と皮ばかりになったのでした。着物はぼろぼろ、髪はもじゃもじゃ、あごひげが長くのびていました。
ある日のことです。何かが百合若の方へ飛んできました。そして肩に止まりました。緑丸です。おむすびをくわえているのです!何という鷹でしょう!主人を見つけたのです。
「何と、お前か、緑丸。わしがわかったのか。お前が話せて、妻にわしのことを知らせてくれたらのう。わしがまだ生きていることを知らせてくれたらのう・・・待てよ。何か手立てがあるに違いない。」
百合若は何か書くものを探すと、葉を一枚拾いあげました。そして小刀で指を切り、自らの血で葉に「百合若」と書きました。そして鷹の脚に縛り付け、飛び放ちました。
三日後、鷹はおりに舞い戻りました。春日姫は鷹に気づき、こう言いました。
「自由にしてやったのに、どうしてまた戻ってきたの。」それでも心の中では鷹が戻ってきたのを嬉しく思っていました。そして、すぐに何かが脚に結んであるのに気がつきました。
「おや、葉っぱですね。何か書いてあるようですが・・・しかも血で・・・百合若!百合若ですって!まぎれもなく夫の筆跡です。生きておられるのですね。」
春日姫は喜びの声をあげましたが、そのことは誰にも話しませんでした。
春日姫は夫への手紙を書くと、手紙を鷹の脚に結びました。そして放してやりました。鷹にとって島の行きかえりだけでも大変な距離でした。まして休む間もなく再び島に飛び立ったのですから。可哀想な緑丸!もう飛ぶ力は残っていません。どんどん下降していき・・・死んでしまいました。緑丸は波の上に漂っています。

つづく