ストレングスコーチの個人的なトレーニング日誌&読書感想文

トレーニングについて感じたこと、また定期的に読んでいる専門誌の記事についてのコメントなども書いていこうと思います。

ウォームアップ

2007年05月02日 | Weblog
Acute Effects of Different Warm-Up Protocols with and without a weighted vest on jumping performance in athletic woman

Thompsen, A. G., Kackley, T., Palumbo, M. A., Faigenbaum, A. D., National Strength and Conditioning Research, 2007, 21(1) 52-56

前書き

多くのスポーツ現場において、従来からウォームアップを行う際にはストレッチングを多く行ってきた。これはストレッチングがけがを予防するといわれ続けたからである。しかし、近年ストレッチング、特にスタティックストレッチングがパフォーマンスに与えるネガティブな影響が注目されている。筋肉は引っ張ること、すなわち張力を得ることで力を発揮する。従ってストレッチングを行うことによって張力が失われ、パフォーマンスが低下するという点が着目されてきたのである。実際に多くの研究において、ストレッチング後には比較的パワー発揮がしにくいという研究結果も得られている。さらに、この逆に、事前に筋肉により大きな負荷をかけておくことにより、パフォーマンスの向上を図ることができるのではないか?(Post activation potentiation)といった、観点での研究もされている。今回の実験ではこの2つをうまく絡めて、どの方法がもっとも効果的なウォームアップになるのかを考察したものである。



要約(Abstract意訳)

この実験の目的は3種類の違ったウォームアップのプロトコル(低強度の運動+スタティックストレッチ、比較的高強度ダイナミックな運動、比較的高強度でダイナミックな運動を重り入りベストを着て行う)でその後の垂直跳びと、立ち幅跳びのパフォーマンスを比較するものである。被験者は16人の日常的に運動を行っている女性で、それぞれのテストを連続でない日にランダムに行った。ウォームアップとして被験者は10分間のバイクと4部位のスタティックストレッチを行うグループ(SS)、12種類のダイナミックなエクササイズを行うグループ(DY)、そしてダイナミックなエクササイズを重り入りベストを着て行うグループ(DYV)に分けられた。実験の結果、垂直跳びにおいてDYおよびDYVグループはSSグループに比べ明らかに高いパフォーマンスを示した。立ち幅跳びにおいては明らかにDYV>DY>SSという結果に終わった。この結果から考察すると、日常的に運動をしている女性(アスリート)はにおいてはダイナミックなウォームアップがパフォーマンスの向上につながると考えられる。また、特に立ち幅跳びにおいては重り入りベストを用いたダイナミックなエクササイズはパフォーマンス向上に有効なウォームアップであるといえる。



感想(後書き)

近年のトレンドの通り、ここでもやはりスタティックストレッチがパフォーマンス向上に対してネガティブな影響を与えるという結果になった。このあたりで、この原因についてもう少し深く掘り下げることはできないであろうか?多くの研究においては、筋肉レベルでの張力の変化、すなわち弾性力が失われる点に着目している。スタティックストレッチによりROM(可動域)は向上するが、弾性力は失われるというわけである。しかし、本当にこれらローカルな理由だけなのであろうか?たとえばスタティックストレッチを行うことにより過度なリラックス状態になり、副交感神経が優位になり、結果としてパフォーマンスが落ちることは無いだろうか?実は2つの全く違った指導者がリラックスすることについて似たようなことを言っている。一つ目は又聞きであるので正確では無いが、ロシアのグレコローマンのレスリングコーチは練習開始後は足の裏と手のひら以外が地面につくのを許さないそうである。これはやはり、リラックス状態をつくり出してしまうからだそうだ。もう一つは京都大学のアメフト部、水の監督のお言葉で、”シマウマがライオンに襲いかかられたらストレッチしてから逃げるか?すぐに逃げるだろ?”とおっしゃっていました。まさに緊張感をもって、すなわち交感神経を高ぶらせておくことが必要なわけです。これら、神経のパターンを研究の中で調べることができればより効果的に事実が見えてくる気がします。