こはる日和.

こはる日和.へようこそにゃ。
こはるの爆笑的日常を堪能してにゃ。

その名は……

2005-05-18 09:15:06 | 爆笑ねころぐ
 「谷村さん、今デスクから聞いたんですが、夏の特別号の表紙、ミニチュアダックスから雑種の猫に変えるって、いったいどういう事なんですか!」
 息せき切って自分に抗議するカメラマンの岩下を眺めながら、自称敏腕編集者、谷村はタバコの煙と共に深い吐息を吐きだした。
 デスクをようやく口説き落としたばかりだっていうのに、なんでおまえにまでいちいち説明しなきゃならねぇんだよ。ったくぅ…。心の中でそうぼやきながら、谷村は薄汚れた壁に背中を預けた。
 開け放した廊下の小窓からは、ビルの間をぬうように柔らかな日差しが差し込んでいる。
 徹夜明けの谷村は眩しげに目を細め、窓の外を垣間見た。

 「雑種じゃねぇよ、アメリカンショートヘアーと日本猫のハーフだ」
 だるそうに訂正する谷村。
 「そういうのを雑種って言うんですよ」そんなコトも知らないで、よくこの仕事ができますよね、と付け加えたいのをグッと堪える岩下。
 そんな岩下の心中を推し量るのも面倒だといわんばかりに谷村は、小さな封筒を無造作に差し出した。
 「なんですか、これ?」  
 封筒を訝しげにみつめ、岩下が口調をさらに尖らせた。
 「夏の表紙を飾る猫ちゃんだ」
 「僕は反対です! 雑種の猫だなんて、それじゃわざわざこの時期に特別号を出す意味もなくなっちゃうじゃないですか!」
 「そういうセリフはこれを見てから言うんだな。俺はこの子ならいけると思っているんだ。だから、あとはカメラマンのおまえの腕にかかっているというワケだ」
 「カメラマンの腕だけ良くったって、モデルが悪いんじゃぁ、どうしょうもないんですよっ!」
 「だから、そういうセリフはこの写真を見てから、言えっていってんだろっ!」
 眉間に深い皺を刻む谷村の迫力に気圧されたように、岩下は不承々封筒を受け取ると中に入っているLサイズの写真を取りだした。



              

 「……かぁ……かわいい……」
 写真を食い入るように見つめていた岩下の第一声がそれだった。
 「だろ」
 満足げに相づちをうつ谷村が口の端を持ち上げる。
 「いけますよ、この子、めちゃめちゃカワイイじゃないですか!」
 「あとはおまえの腕しだいだ。頑張れよ、岩下」
 「はい」
 満面の笑顔で返事をした岩下が思い出したように言葉を繋ぐ。
 「ところで、谷村さん、この子の名前はなんて言うんですか? アメショーとのハーフですから、名前もかわいくミニーとかいうんですか?」
 「あ? 名前? その子の名前は、こはるだ」
 「……こ…こは…る」
 そのあまりにも日本的すぎるネーミングに、茫然と立ちつくす岩下がいた。


 最後まで読んで下さった方へ
              
 尚、このブログ「その名は……」に書かれている内容は全てフィクションです。あしからず。